NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.365

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第28回:ささやかな退職祝いに、ロックアーティスト専門店の明日を見た!

ミックやポールでも抗えなかった世代交代の波

 前年から顕著だった洋楽シーンの世代交代についてもう少し記述しておこう。
 「もうビートルズもストーンズもツェッペリンもシーンのメインストリームではない」ことを我々も痛感していたが、「ロックンロール・バザール」部隊としては、売上現場においてよりリアルに世代交代を実感した。
 1993年には、ストーンズの新しいベスト盤とミック・ジャガーの3枚目のソロアルバムが発表された。またポール・マッカートニーからも3年ぶりのニューアルバムと更に最新のライブアルバムが発表された。1990年の初来日騒動より3年、やっと両巨頭がシーンの前線に戻ってきたのだが、日本ではそれほど話題にもならず、ニューグッズも少なかった。バザールの会場では一時期これらの新作を大音量で流していたが、ストーンズやポール関連のグッズの売り上げは一向に伸びない。原宿で働いていた頃から、常々「ニューアルバムが出さえすれば!」と安直に期待していたものだが、それでもダメだったのである。

 その原因は
「新作が駄作」
「ミック単体ではなくて、ストーンズじゃなきゃダメ」
「英米でも売れて無いから日本では話題性が低い」
ということでは必ずしもなかったと思う。

 当時のロックシーン全体をざっくりと見渡し場合、やはり若い新興勢力の力が圧倒的だったのである。ヘヴィメタルから派生したグランジロックという新しいジャンルもシーンの中で市民権を得て、優秀なバンドも続々と登場した。
  これでは、元ビートルズ、ローリング・ストーンズのメンバーとはいえ、思い出した様に何年か一度に新作を出してツアーをやったって新興勢力には到底叶わない時代が本当にやってきたのだった。

 世代交代ということでは、ポール・マッカートニー自身も認めていたに違いない。2枚のアルバムがチャートで不発に終わった結果を受けて、翌1994年からソロ活動を停止して、ビートルズのビッグ・リバイバルブームを目論んだ「ビートルズ・アンソロジー・プロジェクト」をスタートさせることになるのだ。当時のロックシーンにおいて、新興勢力に対抗できるのは本格的なビートルズの復活劇しかないと踏んだのであろう!


大健闘していた有難いストレイキャッツ


 当時の日本の洋楽シーンの話題、および原宿のロックアーティスト専門店やロックンロール・バザールの売上において、意外と健闘していたのが、80年代にネオ・ロカビリー・ブームを巻き起こしたストレイ・キャッツだった。
 1993年当時は再結成後の勢いも停滞気味だったが、1990年、1992年に来日公演を行い、日本独自企画のアルバムを発表するなど、決して大規模ではないが、確実にファンを獲得していく誠実な活動の成果が我々の様な立場の者には手に取る様に分った。富山、福井、仙台のロックンロールバザールではロカビリー関連のグッズの売り上げが好調であり、もちろんその主流はストレイ・キャッツだった。
 来日公演は、東京ドームや日本武道館の様なデカイキャパの会場ではなく、中野サンプラザ・レベルの中型ホールばかりであったが、彼らのライブのダイナミズムは必ず来場者をノックアウトし続けていたに違いない。だからこそファンの増加が途切れることがなかったのだ。
 またストレイ・キャッツは、サウンドの特質上、エルヴィス、エディ・コクラン、ジーン・ヴィンセントら伝説のロカビリアンたちへの敬意の念が若いファンにも明確に伝わるからなのか、ファンは“神ロカビリアン”たちへの好奇心も強くて、ラブミーテンダーの商品全般を贔屓にしてくれた。


近鉄バファローズ・野茂投手とロックンロールバザール!?

 1993年の年初からスタートした全国33都市物販ツアー「ロックンロール・バザール」は、同年10月17日(日)神戸での開催にて全日程を終了した。
 札幌から福岡までをほぼ直線で結ぶと約2,000キロであり、「ロックンロール・バザール」は優に2往復しているので、移動距離は約8,000キロである。8,000キロとは太平洋横断距離とほぼ同じであり、驚異的な移動距離である!全移動行程の70%は俺が2トントラックを運転しているので、その運転距離も5,000キロ以上にも及んだわけだ。
 駆け出しのロックンロールバンドの長期間ツアー顔負けの毎日、それはトラック運転、現地プロモーション、会場のセッティングと撤収、これらの繰り返しだったので、ロックンロールバンドというよりも、バンドのロードマネージャー、ローディーみたいなものだ!

 余談ではあるが、イベント最終日の日付まで正確に記すことが出来たのはちょっとした理由がアリマス!この日の朝、宿泊先のビジネスホテルからイベント会場に出かける際にフロントの男性がこんな語り掛けをしてきた。

「オニイサンたち、関東の人だね?今年の関西の野球は全然ダメでねえ。ヤクルトと西武に優勝されちゃったから、最後の最後に野茂(当時近鉄)に4年連続最多勝のタイトルでも獲ってもらわないとねえ~」

 そして当日、近鉄がシーズン最終戦に勝利して野茂投手がタイトルに輝く力投をした記憶が野球好きの俺の中でずっと残っていたのだ。この度調べてみたら10月17日だったのである。
 野茂投手は翌年怪我に苦しんでシーズンの半分を療養に当て、翌々年には海を渡ってメジャーリーガーになった。この日はいわば野茂投手の日本最後の輝かしい力投が披露されたのだ。そんな日に「ロックンロールバザール」ラストデーが重なったことは、俺の薄れゆく「ロックンロールバザール」の記憶に小さな記録性を与えてくれている。そして「ロックンロールバザール」部隊は、野茂投手よりも一足先に太平洋横断(と同じ距離の走破)を無事に完了したといいたい(笑)


ポール・ロジャースの熱唱に労わられた夜

 ロックンロール・バザールが最後の周回地域である関西へ向かう前、俺は社用で一旦原宿に戻っており、単身関西へ移動する日に中野サンプラザにてポール・ロジャースの日本公演に出かけた。
 ポール・ロジャースは、エルヴィスやジョン・レノンとともに俺の中のロックシンガー・ビッグ3の一人であり、この年に発表されたソロアルバム「マディ・ウォーターズ・ブルース」が大ヒットになったことで実現した、ポール自身として18年ぶりの日本公演だった。 更にバッグバンドのギタリストは、80年代のロックシーンの中でスーパーギタリストと称された元ジャーニーのニール・ショーン。にもかかわらず残念ながら中野サンプラザの座席は半分も埋まっていないガラガラの状態だった。

 しかし60年代末期から活動を続けているポールのベストセレクションみたいな選曲により、俺は一人で勝手に盛り上がって上機嫌で会場を後にした。ロックンロールバザールも残り約一ヶ月、バザール終了後には辞職も決めていて退職届も提出している。何だかポール・ロジャースが俺のロックンロール・エンタープライズ社での激務を労い、俺だけのためにベストソングを熱唱してくれているような快感に浸ることができた。

 社内で一人だけポール・ロジャースの存在を知っているSという名の女性スタッフがいた。Sさんは希望する店舗の業務に就くことが出来ていなかったが、原宿から発送されるロックンロールバザール用の商品のピックアップから荷造りまでを男性スタッフよりも積極的にやってくれていたので、俺はSさんにコンサートのチケットをプレゼントして一緒にコンサートを鑑賞したのだが、開始から終了までまったく彼女の存在を忘れていた(笑)
 コンサート終了後に新幹線の最終列車で大阪へ移動する予定だったので、Sさんを飯に誘うことも無く別れた(笑)因みに退職後に一度Sさんとお会いしたことがある。

「ポールのコンサートに感動していたのかもしれないけど、新宿駅でお別れした時の姿がとても活き活きしてましたよ。本当に楽しんで仕事しているんだなあ~って!」


受け継がれたロックアーティスト専門店のスピリット

 ロックンロールバザールが完了し、原宿に戻って残務整理をした後に俺は退職した。まだバザールを無事に終えることが出来たという安堵感だけに包まれていて、5年間務めた会社を辞めることに対する感慨は何も湧いてこなかった。若手スタッフが居酒屋で送別会を開いてくれたが、とても嬉しい品物も頂いた。

 来月11月にガンズン・ローゼスのニューアルバム「スパゲッティ・インシデント」が発表される話題で送別会は包まれていたのだが、「ガンズ・ショップ」の店長候補S君がお手製のミュージック・テープを俺にプレゼントしてくれた。熱狂的なガンズのファンであるだけに、S君は早々と何処かの輸入専門店でガンズの新作を入手して俺の為に録音してくれたのかと思ったが、それは見当違いだった!
 ガンズの新作は全曲パンクロック曲のカバーであり、S君は収録されたカバーテイクのオリジナル曲すべてを入手して、それを録音してくれたという。
「いやあ~、〇〇さん(俺の事)だったら全部聞いたことがあるとは思いますけど、俺の気持ちですよ!」

 「スパゲッティ・インシデント」の収録曲は全部で12曲。ということは12のオリジナル曲を入手するためだけに12枚のアルバムを買ったということだ。ガンズ・ファンとして素晴らしいアクションである!
 そしてこのテープはダビングした後、ガンズ・ショップで新作を予約したお客様全てに無料でプレゼントする予定だという!ガンズ・ショップとして素晴らしいサービスである!!
 こうした専門店しか出来ないユニークなサービスの数々こそが、「ラブミーテンダー」「ギミーシェルター」「ゲットバック」を支えて来たのである。ロックアーティスト専門店のスピリットが新しいスタッフにしっかりと受け継がれていること、それを退職間際に実感出来たことが嬉しかった。
 なお「スパゲッティ・インシデント」には、最後にノンクレジットによるシークレットナンバーが1曲追加されているという。コイツを調べるのにS君は苦労したらしいが、最終的には正体が判明したという。あっぱれだ!(つづく)


■原宿ロックンロールドリーム第27回
世代交代を遂げたロックとロックファン~1993年当時の日本ロック事情
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喜びも悲しみも幾歳月~現地の方々のご厚意で突き進めた日本縦断ツアー~ロックンロールバザール記④
■原宿ロックンロールドリーム第25回
地方のロックファンが導いてくれた新境地~「ロックンロール・バザール記」③
■原宿ロックンロールドリーム第24回■
もう原宿は卒業だ。俺は地方で暴れてやる!~「ロックンロール・バザール記」②
■原宿ロックンロールドリーム第23回■
第23回:「全国33都市縦断ツアー/ロックンロール・バザール」苦難の船出

■原宿ロックンロールドリーム第22回
原点に返れ!ミュージックソフトの再強化とロックンロール・バザール
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■原宿ロックンロールドリーム第2回 
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