NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.345

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第12回:ビッグな出品物にまつわるオモシロイ・エピソード!エルヴィス・プレスリー着用衣装&ブライアン・ジョーンズ使用ギター編

 「日本でロック貴重品のオークションがある」
 この新しいビジネスはマスコミに恰好の話題を提供することになった。それにも増して海外の業界への反響も大きく、海外のコレクターからの出品依頼も殺到した。
 海外のコレクターは資金が豊富で、コレクションの規模がケタハズレに大きい場合が多い。またロックアーティストが実際に使用した衣装や楽器などの基本的に値段が付けられない様な超高額なアイテムを所持している場合も多い。KEIBUYでは出品手数料がかからないシステムだったので、半ば当方の承諾無しに一方的に高額なアイテムが送られてくる場合も少なくなかった。保険料と日本への郵送料、また落札されなかった場合の当方からの返却郵送料も加えられて、最低落札希望金額はハンパなく高かったものだ。
 いかにビッグアーティスト使用のアイテムとはいえ、ロックオークションがスタートしてからまだ時期の浅い日本において、果たしてこの金額に食いついてくる方がいるものだろうかとクビをかしげたくなるような金額設定がほとんどだった。
 それでもマスコミへの話題提供、ギャラリー来場者を増やすために、片っ端から出品依頼を受けたものだが、今回はそんなスケールの大きい海外出品物が招いた、ギャラリー来場者との忘れられない邂逅をご紹介してみたい。
(※当ページで使用している写真は、必ずしも記述内容と一致するものではありません。あくまでもイメージです。)


■エルヴィス・プレスリー着用衣装編/ステキなエルヴィス・マダムへの特別サービス■

「エルヴィス・プレスリー・ミュージアム」代表から出品

 エルヴィスは永遠の“キング・オブ・ロックンロール”。いつの時代もロックファンに絶大なる感動と影響を及ぼしている。その反面、存在のあまりの大きさ故に、ロックファンにとってはもっと遠い次元にいるロック・アーティストでもある。よって偉大なるキングが使用したアイテムは本場メンフィスの「エルヴィス・プレスリー・ミュージアム」に出向く以外にお目にかかる機会などあるはずもない!ところが、あるはずもないことがKEIBUY JAPANで二度だけ起こったのである。

 一度はエルヴィスが所有していたホワイトのキャデラック、もう一度は今回ご紹介する「エルヴィス・プレスリー・ミュージアム」直送のエルヴィス着用の衣装である。当時「エルヴィス・プレスリー・ミュージアム」の代表の座にあったジミー・ベルベット氏からの「ラブミーテンダー」を介しての出品であった!
 ジミー氏自身も元々はシンガー。60年代からシングル10枚とアルバム数枚を発表しおり、エルヴィスの親しい友人としても名が知られていた。やがて友人関係が高じて!?エルヴィスの大コレクターとなり、エルヴィスの死後20年に渡って「エルヴィス・プレスリー・ミュージアム」の代表であった人物だ。

 ジミー氏はわざわざ出品物持参で来日し、「ラブ―ミーテンダー」の正木店長が接待役を務めた。ジミー氏が出品したエルヴィスの衣装は約10点ほどで、さすがにナッソージャケットやジャンプスーツの様な“超大物”は無かったが、プライベートでエルヴィスが着用していたオーバーコートやジャケット類はビジュアル的に豪華絢爛であった。ミュージアムで実際に展示されていたかどうかの説明はなかったが、ミュージアムから発行されたジミー氏直筆サイン入りの鑑定書がすべてのアイテムに添付されていた。
 その豪華な生地や見たこともないような豪快なデザインはもとより、衣装自体が「オレはキングオブロックンロール愛用の衣装なのだ!」といった“生きた”プライドが漂っていて、おいそれと「じゃあ、ちょっと俺様が着てみちゃおっかな~」なんてチャラいアクションを拒絶するようなド迫力があったものだ。KEIBUYギャラリー内には大型のショウケースがあり、俺はその中に出品された衣装のすべて展示したが、その際に「ギャラリーの中には他に何も飾るな!」って命令されているようだった(笑)

 ショウケース内をエルヴィスの衣装オンリーにはしたが、ギャラリー内に他のアーティストの貴重品をディスプレイしないわけにはいかないので、ギャラリー開館当時の「ビートルズ」の絵以来、もっともギャラリー内のディスプレイに神経を使った。「ラブテン」の正木店長のアドバイスによって、横長のショウケース自体の配置を変えることによって、周囲の壁に何もディスプレイしないような工夫をしたものだ。

 もっとも来場者の注目を集めた衣装は「空手着」だったと記憶している。エルヴィスはキングであるという名声やプレッシャー、煩わしい人間関係から逃れるために70年代の一時期に空手の習得に熱心だったことはファンの間では有名。ステージアクションでも空手の型を導入していた。(名曲「サスピシャスマインド」を熱唱する時だったか)ロック関連の貴重品でいっぱいのギャラリー内に空手着がディスプレイされているので、エルヴィス・ファンでなくても「これは一体何だ?」となる!
 アイテム紹介用の小さなポップボードの文面だけで物足りず、何度も「プレスリーって、空手をやっていたんですか?」と来場者から聞かれたものだ。その他の衣装について詳しい説明を求められた際には、「ラブミーテンダー」に連絡をして、正木店長か、正木店長の腹心の部下S氏にヘルプを要請した。


ラブテン・正木店長の真心が生んだお客様への特別なおもてなし

 衣装の全てが超貴重品なので、手に触れることすら禁止としていた。しかし、もう“時効”だから(笑)、俺が館内案内係を担当していた時の例外を披露してしまおう!
 展示期間内に「ラブミーテンダー」のセール期間と重なった。正木店長はエルヴィス・マダム(熱狂的エルヴィス・ファンのオバサマ)をたくさんギャラリーに案内してくれたものだが、俺は正木店長が案内してきたマダムの内の2人を例外とさせて頂いた記憶がある。(他にもあったかもしれない!?)
 お一人はわざわざ大阪から駆けつけてくれたマダム。この方は俺も参加した大阪の物販イベント(各ショップの商品を一堂に集めた出張販売会)でお目にかかった方だ。イベント開催の一日は運悪く大雨となり、来場者がほとんど無い悲惨な状況の中で、「正木、あなたがいなけりゃ来ないわよ!」と強烈な発言とともに来場して下さった方だった。
 エルヴィス着用のオーバーコートを凝視している際のマダムの後ろ姿が感動で震えている様に見えたので(ひょっとしたら感動でフリーズしていたかも!?)、正木店長の「ケースから出してもらってもいい?」というリクエストに対して、大阪イベント時の御恩もあるのでソッコーでOK!さらに羽織って頂き、正木店長との記念撮影まで承諾してしまった!

 もうおひと方は、一見ロックやエルヴィスとは無縁の人生を送っているような(笑)品の良いマダム。ロック貴重品ギャラリーではなくて、銀座辺りの高級絵画ギャラリーの方がお似合いだから、正木店長がギャラリーに案内してきた際には少々びっくり(笑)この方は「空手着」をご覧になりたかったご様子だ。マダムの優雅な佇まいにうっとりしてしまった俺は、正木店長を押しのけてマダムに「空手着」のご説明(笑)マダムが発した短いお言葉にちょっと胸が濡れた。

「(エルヴィスは)すごいプレッシャーの毎日だったのね、きっと。これを着て、スターであることを忘れたかったのね」

 ふと正木店長を見ると、小さな仕草で「ショウケースから早く出さんかい!」と無言の合図(笑)おふた方目の特別サービス開始命令が下ったのだ!

 さすがはマダム!と感心したのは、俺がそぉ~と空手着をマダムにお渡しすると、まるで超高級な反物をお腹の位置辺りで両手で支えて鑑賞するような、生まれたての赤ちゃんをすくい上げるような優雅な扱い方が自然と出来るのである。決して「これねー!きゃ~パー子かんげきい~!!」って両肩部分をつまんで高々とかざして見たりはしない。記念撮影の際は、得も言われぬうっとりした優しいお顔をファインダー越しに見せて頂いた。

 通常のアートギャラリーならば、こんな特別サービスを実践してたらソッコーでクビ!下手をしたらとんでもない賠償金額を出品者や展示会主催者から請求されるかもしれない!
 しかしここはロック・ギャラリーだ。ラブミーテンダーの大切なお客様ならば、これぐらいのサービスをして差し上げても許されるだろう!ロックンロールは当たり前の土壌、文化からは決して生まれてはこない音楽である。その音楽の魅力を様々なスタイルでファンに届ける側が、当たり前の規則を頑なに守っていたら良いサービスが出来るわけもない!(笑)
 エルビスのコートを羽織り、またエルヴィスの空手着を手に持ち、キングの魂が宿ったアイテムの存在を肌で感じることによってその方が豊かな一日を送ることが出来れば、ロックンロール・エンタープライズの一員としての仕事をしたといえるだろう。

 きっと天国のキングも「グッドジョブ!」と言ってくれただろう。少なくとも正木店長にはキングのその声が聞こえたはずだ!


■ブライアン・ジョーンズ使用ギター編/鮎川誠氏登場!突然現れて「弾いてもいい?」■

客を見らんで、自分の音を見とる!

 1989年冬、世の中は翌年2月のローリングストーンズ初来日公演の話題でもちきりだった。KEIBUYカタログも「ローリングストーンズ・アイテム特集」と銘打ち、ギャラリーのストックルームはストーンズ関連のアイテムで溢れかえっていた。俺たちは「ギミーシェルター」のスタッフ同様に、「ストーンズ極東スポークスマン部隊」みたいな気分で仕事をしていたものだ。目玉アイテムはブライアン・ジョーンズが使用したギターである。

 「ローリングストーンズ特集」のオークションがスタートする日、俺が早朝出勤をして、シャッターを半開き状態にしたままギャラリー内のディスプレイに従事していた時だ。大体のディスプレイが終了してフロアをモップ掛けしていると、見たこともない柄の悪いロック野郎が挨拶も無しに半開きのシャッターを潜り抜けてギャラリー内に入り込むや否や、いきなりブライアンのギターのネックを掴んで抱え込もう(弾き出そう)としたので仰天した。
 その若造のふざけた態度に俺はカッとなってギターを取り返そうと若造につかみかかったその時、更に意外な事が起こった。半開きのシャッターを潜り抜けてもう一人、大男が入って来たのである。その大男は、ロックファンなら誰でも知っている顔だ。シーナ&ロケッツの鮎川誠氏だったのである!

 鮎川氏は若造につかみかかっている俺に向かって言った。
「それが、ブライアンのギター?」
「そうですが」と返答すると、その大きな顔を近づけてきてニヤリと笑うと更にひと言。
「弾いてもいい?」

 鮎川氏は業界でも有名な超ローリングストーンズ・フリークだ。「ロン・ウッドが抜けたら俺が入る。もう決めとる!」と雑誌のインタビューで強烈なジョークをかますほどのギタリストである。失礼極まりない若造の仕業と突然の鮎川氏の訪問とお願い。頭ン中がちょっとしたパニックを起こしそうだった。
 若造にはギターのネックを掴まれただけでまだ弾かれてはいない。だから「この若造に弾かせるわけにはいかないが、鮎川氏に弾かれるならブライアンのギターも許してくれるだろう」とは思った(笑)

「分かりました。どうぞ」
と言い終わらない内に鮎川氏はブライアンのギターを掴み上げるとフロアに片膝を付いてチューニングを始めた。
「おぉ~いかにも60年代半ばの音だ」
「コレでどの曲を弾いたか、君(俺の事)知らん?」
とかブツブツ言いながらギター弦を慈しむように爪弾いている。

 生半可なギタリストなら、いい気になってストーンズナンバーでも弾き始めるだろうが、鮎川氏はそうではなかった。いくつかの簡単なブルースコードを繰り返しているだけ。その姿がメッチャ格好いいので見惚れてしまった(笑)「昔のミュージシャンは客を見らんで、自分の音を見とる」とは、以前観たTV番組出演時の鮎川氏のコメントだったが、その言葉を実践しているようなお姿だ。

ストーンズに入ったら買う!

 時間にして僅か10分間くらいだっただろうか。鮎川氏はブライアン・ジョーンズが己のギターに込めたブルース・スピリットを全身で味わい、確かめるように爪弾いた後に、丁寧な動作でギタースタンドにギターをセットし直すと、俺と僅かな会話の時間を作ってくれた。

鮎川氏:「ありがとう。変なヤツに売らんといて!」
俺   :「鮎川さん、落札して下さい」
鮎川氏:「ストーンズに入ったら買う!(笑)」
俺   :「ロン・ウッドが辞めたら俺が入るって雑誌で言ってましたね」
鮎川氏:「この前ミックにも言うて来た!」
俺   :「鮎川さんがストーンズに入ったら、コレで60年代の曲を必ずやって下さい」
鮎川氏:「任しといて(爆笑)また来る!」

 背がデカクて顔が大きくて(笑)存在感抜群だが、笑顔を絶やさないこの日の鮎川氏に威圧感はなかった。お陰で挨拶無しでいきなり入ってきてギターを掴んだ若造に対する怒りは消え失せていた。コイツは取り巻きの一人で「虎の威を借るなんちゃら」ヤロウなんだろうな。鮎川氏の突然の訪問は、ギャラリーに静かな嵐が吹き抜けていったような出来事だった。

 それにしても、どうして鮎川氏はKEIBUYギャラリーにブライアンのギターがある事を知っていたのだろうか。実は「ローリングストーンズ特集」のカタログの刷り上がりと発送が遅れてしまい、カタログ発送希望者への到着がオークション開始日(出品物展示開始日)に間に合わなかったのだ。確認したわけではないが、俺が想像するに「ギミーシェルター」~「ストーンズ・ファンクラブ」~鮎川氏という経路で伝わったに違いない。
 この事実は、出品物のインパクトが強烈であればあっという間に業界全体に知れ渡るという情報の早さを物語っていると俺は判断した。同時に社内の各店舗と業界との繋がりの強さも再認識した。
 鮎川氏の訪問は、紛れもなく俺が業界の一員であることを教えてくれたとも言えるだろう。どうやら俺は完全に企業サラリーマンから脱皮出来たのだという喜びがこみあげて来たものだった。(つづく)


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