NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.357

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第20回:夢のあとさき~ギミーシェルター

ロックンロールバブル時代の残務処理

 1992年年末から年内いっぱいにかけて、A社の大量在庫を売りさばくためのカタログ雑誌「The Rock'X」を2冊作り上げた。日本中に散らばっている各専門店の会員さんに発送した「The Rock'X」の反響がいかほどのものだったかは、俺は知らない。店舗のバックル眠っているアーティストのロゴ入りボールペン1本、消しゴム1個まで漏らすことなく「The Rock'X」に掲載するだけで俺はもう疲労困憊だった。

 おもしろい商品としては、安価の物ではアマチュアバンドマンたちにウケルだろう!と代表が進言した名刺作成サービスも「The Rock'X」で宣伝した。要するに「山田太郎」という氏名の上にギタリストとかのポジションやバンドの名前を刷り込んだ名刺である。
 高価な物としてはどこかの業者と提携して売り出した「自宅に置ける小スタジオ~音無し君」なんてのもあった。
 概してガンズン・ローゼス、メタリカ関連の商品だけは売り上げ好調という話は聞いた。

 「The Rock'X」はクリスマス/お正月用商戦用のロック総合商品カタログではあったが、エルヴィス、ビートルズ、ストーンズらのマニアックで専門的な情報を求めている会員さんたちにまで「The Rock'X」を送りつけて何の意味があるのだろう?」「下手な鉄砲商法だ」と揶揄する社員もいた。しかし俺はKEIBUY JAPANが潰れた後だけに、これで少しは会社のお役に立てたのではないかという気持ちにはなったものだ。

 三年間死ぬ気で発行を続けてきた「KEIBUYカタログ」に比べれば「The Rock’X」への愛着は希薄だが、それでも社内の若手社員たちにかなり協力を要請したこともあり、彼らの持っている文章やデザインの隠れたセンスを見つけ出すことが出来たことは大いに収穫だった。
 KEIBUY時代は「俺がやらねば」の気持ちが強過ぎて、結局若手スタッフは誰も長くは付いてきてはくれなかった。ヘルプをしてくれた彼らへのねぎらいの思いも少なかった。結局社員全員はKEIBUYで奮闘する俺を遠巻きに見るしかなかったのだろう。
 KEIBUYが潰れてしまったのは様々な原因があるが、そのひとつは俺のこうした孤高の業務姿勢でもあったのだ。それを教えられただけでも「The Rock'X」は俺には価値があった仕事だった。


「ギミーシェルター」に行ってはみたものの・・・

  「The Rock'X」を作り終えた後、俺はローリング・ストーンズ専門店「ギミーシェルター」へ正式に転属となった。
 どうやって「ギミーシェルター」を立て直すか、その名案などはまだ無い。とにかく現状を把握することだ。前任者とのきちんとした引き継ぎ業務が出来ていれば多少は良いスタートが切れたのかもしれないが、なにせ前任者は「石もて追われる」がごとく辞めていってしまったので、在庫数確認から丹念にやらなければいけない。
 目の前に積まれた在庫は、 ひと言で言えば1990年のストーンズ初来日ブームに浮かれて何でもかんでも仕入れてしまったという印象だ。ストーンズは活動歴の長い現役ロッカーだ。魅力は様々であるだけに、売り出し方も様々。ひとつイメージ戦略を外してしまえばファンに見向きもされない可能性のある危険なロッカーでもある。それを「今は何でも売れるだろう」とアイドル扱いしてしまったということだろう。


女性客の思い出~あられちゃんやぶっ飛びネエチャン

 在庫をくまなくチェックすることと、更に俺は来店するお客の層もチェックしていた。予想していよりも遥かに若い女性ファンが多かった。60~70年代の若きストーンズは、うら若き彼女たちにとって現在のアイドルだったのである。特に故ブライアン・ジョーンズとキース・リチャーズ、更にブライアン存命時にストーンズを取り巻いていた華やかな女性陣が彼女たちに人気が高かった。要するに「スゥインギング・ロンドン」の幻を彼女たちは追いかけていたのである!

 ブライアン・ジョーンズ、ブライアンとキースの女だったアニタ・パレンバーグやミック・ジャガーの女マリアンヌ・フェイスフルなど、俺は随分と彼女たちから質問を受けて答えたものだ。彼女たちのかわいらしいところというか、お客として有難いことは、話を聞かせてあげると、ほとんどの確率でその話に関連するCDや書籍を買って行ってくれることだ。

 ある時、常連となっていた一人の女の子が「プレゼントがあります!」と俺に紙袋を渡してきた。彼女は会社の休みをとって、ブライアン・ジョーンズのお墓参りを始めとしたイギリス旅行をしたらしい。プレゼントとは、彼女が旅行中にストーンズゆかりの地を撮影した数々の写真だった。
 俺は彼女に丁重に御礼を言って、写真の何枚かを額の中にディスプレイして店内に飾った。彼女は漫画のあられちゃんみたいな容姿だったが、この時は天使に見えたものだ(笑)

 またある時は若い女性の声で店に電話があり、1969年のブライアン・ジョーンズ追悼コンサートの際にミック・ジャガーがオープニングで朗読した詩の内容を教えて欲しいというリクエストがあった。
 俺はたまたまその詩が蔵書の中の詩集に書かれてあって知っていたのだが、あえてその場では答えずに「お店に来て頂ければお話しますよ」と返した。彼女は翌日「ギミーシェルター」にやってきたが、明らかに目がぶっ飛んでいてちょっとヒイタ(笑)しかし詩集の中の一節を読んであげると、彼女は一転して涼しい目になり、やがて「ブライアンって天才だったんですよね」と言い残して店を去って行った。

男性客の思い出~ここで酒飲んでいいっすか?

 男性客も若い方が多く、見てくれはロッカー風やバイカー風だが、彼らもまたストーンズの深い知識に飢えていた。「ギミーシェルター」の店員と話をして、自分が聞いたことのないストーンズのエピソードを仕入れられることを待っていた。しかし野郎どもの財布の口は堅かった(笑)まあこれは俺の接客術の拙さが原因かもしれない!?「どうしてTシャツしか置いてねえんだよ!」とノッケから喧嘩腰のヤロウもいたが、グッと堪えて相手をしているといいヤツだったりもした(笑)

 俺が「ギミーシェルター」勤務を始めてからたいして日数が経過していなかったと記憶しているが、キース・リチャーズのセカンド・ソロアルバム「メイン・オフェンダー」が発売となった。もちろん「ギミーシェルター」では先行予約を募ったが、応募者は男性がほとんど!60~70年代のキースが好き!と熱弁をふるっていた女性ファンからの応募は殆どなし。オッサンになったキースにはお嬢さんたちは興味はないのだ(笑)

 「メイン・オフェンダー」が店頭に並んでからは随分男性客の相手をしたものだが、どうして男性のストーンズ・ファンはこうもガラが悪いのか!って呆れるばかり(笑)。
 当然店内では「メインオフェンダー」のCDを流し続けていたが、「ここにくりゃ聞けるってことだよな!今度酒持って来ていいっすか?」なんてフザケタヤロウもいたが、他店ではなく「ギミーシェルター」で予約することにステイタスを感じてくれているのだから到底むげには出来ない!
 そこから酒談義に話をもっていき、キースの好きな酒の種類の話になり、「レベルイエールっていう最近製造中止になったバーボンがキースは大好きなんですよ」と教えてあげたら、ヤロウ目を輝かせていた!
 さらに映画「レッツ・スペンド・ナイト・トゥギャザー」の中でキースがレベル・イエールをラッパ飲みするシーンがあることも教えてあげると、映画のビデオを買ってくれた(笑)やっぱりいいヤツだった!

 彼女ら、彼らと話をしていたある時、「かつてのギミーシェルターはこうやってお客さんを掴んでいったに違いない」と直感したものだ。ストーンズの話をしながら彼らが欲しがっている商品の傾向を探って商品構成を作り上げていくしか「ギミーシェルター」を立て直す方法は俺には考えられなかった。発売される新譜に合わせたセールだけでは、ストーンズ・ファンの心をつかむことは出来ないのだ。しかしこのやり方で成功するにはある程度の時間がかかってしまうだろう。

 代表との議論をシュミレートしてみたが、「そんな悠長なやり方じゃダメだ」と却下される事しか予測出来なかった。でも俺は、俺たちが大好きだった「ギミーシェルター」「ゲットバック」「ラブミーテンダー」を取り戻したい気持ちが強かったのだ。(つづく)


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