NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.347

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第14回:向かうところ敵なし(?)のJ社とKEIBUYに警告をもたらした(!?)2人の招かざる訪問者

 掘っ立て小屋の渋谷「ロックンロールパーク」
 ガード下の飲み屋風情の「ガンズ・ショップ」
 住宅街の片隅でひっそりと開店した「フェイマスフェイス」
 「ロックと名が付きゃ(インディーズ・アーティスト)何でも売ってしまえ」ってな「レボリューション」

 暴走、迷走を始めたJ社だが、それでも原宿の既存店たちは売り上げ好調を維持し続けていた。我が「KEIBUY JAPAN」も然り。しかし何かと頼りにしていた上司T部長はKEIBUYでの業績を買われ、社長命令により新規店舗展開に飲み込まれてKEIBUY事業からは手を引き始めた。

 俺は相変わらず毎月のカタログ締切地獄。救いは世界中から出品依頼(委託出品依頼)が殺到して、毎月のオークション出品物のラインナップを揃えることにまったく苦労しないことぐらい。J社もKEIBUYも、もはや誰にも止められない「驚異の暴走列車」状態だ。

 俺は暴走列車の操縦に必死で、止めることも飛び降りることもできない。また暴走列車に飛び乗ろうとするヤツ(出品依頼者)も後を絶たないから、お付き合いしないわけにはいかない!
 そんな異様な業務状態の中で、ある日突然KEIBUYに現れた2人の招かざる客を紹介してみたい。このお二人は、傍目には絶好調だったJ社とKEIBUYの盲点をわざわざ告げる為に現れたような人物だった。彼らの出現に対して、俺は“何か”を察知して事業内容を見つめ直すべきだったが、暴走列車の操縦士だった当時の俺はそんな事に気が付くゆとりがあるはずもなかった。

(※当ページで使用している写真は、必ずしも記述内容と一致するものではありません。あくまでもイメージです。)


■このギャラリー、“とり憑りつかれて”いますよ■

過剰を極めれば新しい知の塔に至る


 KEIBUYで出品物が好調に売れ続けることで、各専門店でも貴重品アイテムに対する認識が大きく変わってきていた。海外買い付けに出向いた各店長さんたちは、店舗内のディスプレイ用に、また“いざという時”のための大口アイテムとして積極的に貴重品を購入するようになった。
「店で売れなかったら、いい解説文をバッチリ書いてKEIBUYで売って下さい」
そんな図々しい要請を受けたものだ!
 KEIBUYで売って差し上げた場合、出品依頼者となる各店へのマージンの支払いが何パーセントだったかなんて忘れた(笑)彼らからの依頼自体が俺は嬉しかったのだ。

 入社当時はサラリーマン上がりゆえに社内で小馬鹿にされていた俺も、短期間で随分と出世して丸くなったもんだ!
「テメエさあ、俺の入社当時は随分とナメタ口をきいてくれたよな。今更忘れたなんて言わせねえぞ」
そんな憎まれ口を吐いても許されたかもしれないが、J社を取り巻く当時の状況は戦場そのもの!各店の店長さんたち、スタッフたちは俺にとってまさに戦友だった。つまらない過去の個人的遺恨なんてドーデモヨカッタのである。

 寝ても覚めて仕事、仕事だった当時、時々「俺たちは暴走列車に乗っている」と気が付かされることはなきにしもあらず。
 でもその恐怖、不安は依然として続く高い売上額によってかき消されていったようなものだ。俺自身も、学生時代から好きだった西洋の格言を信じて暴走列車の操縦を止める気はなかった。
「過剰を極めれば新しい知の塔に至る」

ロックアーティストの霊と一緒にお仕事!?

 「ストーンズとポールの初来日公演が終わってから半年ぐらい経ってからか。ロックアーティストの直筆サインや使用アイテムで溢れかえっていたKEBUYギャラリーに、各店のスタッフや来場者たちからおかしな噂が持ち上がってきた。

「夜にギャラリーに行くと“何か”変な霊気を感じる」
「ギャラリーには亡くなったロッカーたちの霊が集まっている」

 そんな事は当たり前だ!俺は毎月の利益を適度にプールしながら、つねにエルヴィス、ジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックス、ブライアン・ジョーンズ、ジム・モリソンら、既に故人となったロッカーたちがこの世に残した高額なアイテムの収集/購入を密かに試みていた。相応の数のアイテムが集まれば、「今は亡きロッカー特集オークション」も企画した。KEIBUYギャラリーに亡くなったロッカーたちの霊が集まるのは当然であり、それは俺にとっては名誉なことなのだ!まあこれは俺が霊感の弱い人間であるから無邪気にそんな事が言えるのかもしれないが、そうじゃない者にとってはチョット怖いらしい。

 そんな噂を聞いた俺の部下たちは夜の残業を嫌うようになった。だからカタログ作りは、何人部下を増やそうがまったく楽にならない(苦笑)俺は覚悟を決めた。「夜中にロッカーたちの魂と一人で会話しながら仕事をやってやる!」もっともロッカーたちの霊を感じたことなんて、少なくとも俺には一度もなかったが(笑)

そんなある日、ギャラリー接客員だったKさんがおかしな事を言い出した。つい先日、いかにも風体が不気味な男がギャラリーに現れたという。
「ここにはジョン・レノンがいる。マーク・ボランがいる。シド・ビシャスがいる。ほら、そこにもあそこにも」
彼はそう言いながらギャラリー内のあちこちを指差し始めたらしい。帰り際には「一度、御祓いをしてもらった方がいいですよ」と言い残したという。
 風体が悪いって、一体どんな格好をしていたのかとKさんに問い正したところ、黒の帽子に黒のサングラスに黒のセーターだったとか。背丈は170センチくらいで死人みたいな顔色だったという。俺は咄嗟に、“神童”モーツァルトが生前最後に書き残した名作「レクイエム」の作曲依頼をしたとされる気味の悪い謎の男を思い出した。
 しかし心霊現象なんかに付き合っているゆとりもなかったし、モーツァルトは神童だが俺はボンクラだからカンケーネー!なんてワケワカンナイ意気込みで、気味の悪い噂と予感を一蹴した、というか笑い飛ばしていた。

 この際だから書いてしまうが、実は一度だけ故人のロッカーの霊を“結果として”認めざるを得ない不思議な現象に出くわしたことがあった。それはギャラリー内ではなく、事務所のデスクで締切前夜の原稿書きに追われていた時だ。残りあともう1アイテムの解説文がどうしても書き切れずに悩み抜いている内に眠りに落ちてシマッタ!
 すっかり明るくなった外の景色に驚き、慌ててワープロに向かったところ、驚くことに納得のいく原稿が出来上がっていたのである!亡くなったロッカーの霊が俺に降りてきて、原稿を書いてくれたんだ!と信じたくなった希少な体験であった。

 その後のJ社とKEIBUYの顚末を思えば、噂話と謎の男の忠告を真面目に受け止めるべきだったのではないかと今にして思う。


■ ポール・マッカートニーが獄中で描いた直筆サインが出品された! ■


“お縄のポールさんはお隣さんだったんだ”

 
ある日ギャラリー接客員Kさんが半べそをかいている様な声で事務所にいた俺に電話をかけてきた。
「お願いです!今すぐにギャラリーに来て下さい。ポールと一緒に牢屋に入っていたっていう人が来ていて、牢屋の中で貰ったっていうサインを出品したいそうなんです」
ポール・マッカートニーは1980年1月、初の日本公演の為に成田空港までやって来たが、空港税関で麻薬所持が発覚。その場でお縄となり、約一週間拘置所に入れられた後に強制送還となった前科があった。その拘置所内で書かれたサインの様だった。

 その時の俺の正直な心象としては、まず「Kさんは何をビビッているんだ?」そして「色んな人がギャラリーに来るもんだなあ~」なんて呑気なものだった。だが丁度隣りの席にいた上司のT部長は判断を戸惑っていた。
「もし本当に“その時”のサインだとしても、買う人がいると思う?オークションに出品して、カタログに載せてしまったらKEIBUYの品位が疑われるんじゃないの?]

 俺たちは決してブローカーではないので、どんなオイシイ儲け話でも、携わる人間としてどこかで倫理的な線引きをしてかからなければならない。それは分っているものの、俺は出品依頼者に対する興味が湧いた。牢屋に入っていたって、どんな人物なのか逢ってみたかったのである。

 ギャラリーに駆け付けてみると唖然としてしまった。原宿、ロック、ポール・マッカートニー、そんなことには到底縁の無さそうな初老の方が、ギャラリー内を落ち着きなくウロウロしている。しかもくわえタバコを吹かしまくり、身なりはかなりみすぼらしい。こう言っては失礼だが、一般人とかけ離れた負のオーラ―が全身を覆っている。明らかに「前科〇犯」といった怪しさ満点な人物である。アル中なのかヤク中なのか、タバコを持つ手は震えており、視点も焦点が定まっていない様子だ。Kさんがビビッても無理はない。
 その人物は日本中どこにでもいるありきたりの苗字「S」と名乗り(本名ではないだろう)、ポールから直接貰った直筆サインを最低落札価格30~40万円で出品したいと申し出て来た。大至急お金の工面が必要なようで、次回のマンスリーオークションのスタート日や入札締め切り日の説明など、まるっきり聞いちゃいない。
「(自分にお金が振り込まれるのは)そんな先なの!待てないよ!!お金の出入りが忙しくってさあ~。なあマネージャー頼むよ。君のポケットマネーで買ってくれよ」
怪しい出品者S氏は媚びへつらうような精一杯の作り笑顔で俺に懇願するのだった。


話題性は充分だと判断したが・・・

 その場のサインの買い取りにはもちろん応じることは出来ず、一応は来月のオークションに出品することだけは受付けることにして、サインの入手状況について話を聞いてあげた。

 S氏の話によるとポールからサインをもらった経緯は次の通り。
 ポールが拘留されていた拘置所の部屋の隣にS氏は拘留されていたそうだ。看守さんから「隣の人は世界的に有名な音楽家だ」と説明を受けたらしく、S氏は自分が所持していた赤いスゥエットにサインをしてくれるように頼んだという。

「ポールさんはさあ~喜んでサインしてくれてさあ~」と説明しながら、その赤いスゥエットを取り出して見せてくれた。黒マジックで大きな筆跡でしっかりと書かれたサインはKEIBUYで何度も出品してきたポールの筆跡と同じであり、業務上の勘から間違いなくホンモノであることが分った。しかし拘置所で書いてもらったという事実は紹介しづらいと伝えたところ、S氏は意外にもまともな返答をしてきた。
「おたくは貴重品売ってんでしょう?ポールさんから牢屋ん中で書いてもらったサインなんか世界に無いよ。100万ぐらいで売ってよ。お願いしますよマネージャー!」

 サイン入手の「貴重な事実」を明確にするとしても、もうひとつ問題があった。それはこのサインが拘置所の中で書かれたという事実を証明できるか、どうか。この点に関してもS氏はそれなりに用意周到だった。

 実はS氏がサインをもらった赤いスゥエットは、拘置所から出所する時に何故か別物にすり替えられていたそう。手元に戻ってきたスゥエット自体が同じ赤色でも別物だと気が付いたS氏は、出所後にその事実をスポーツ紙にネタとして売ったらしい。紆余曲折の後、サインの入ったS氏のスゥエットは戻ってきたが、「ポールのサイン入りスゥエットが盗まれた!」という見出しのスポーツ紙をS氏は証拠品として当日持参していたのである。
 そのスポーツ紙が証拠になるのかならないのか、よく分からなかったが、俺に対して懸命に低姿勢を貫くS氏の物腰と、良い悪いは別として物語性の強いサインであるという事実に俺は出品を承諾した。

 ポールが日本の拘置所の中で書いた直筆サイン入りスゥエット。最低落札価希望価格は確か¥250,000だったはずだ。話題性と物語性は充分なのだが、「記念すべき初来日公演」が終わってポール・ブームが冷めやらぬ状況下での出品だっただけに、カタログの表紙を飾ったり、大きなスペースを割くことはさすがにはばかられた。
 当初ギャラリー内のショーケースの中に新聞と一緒にスゥエットをディスプレイしていたが、Kさんがいつの間にか撤去した。
「ポールが拘留されていた時のアイテムを飾るなんて、やっぱり“縁起でもない”ですよ。カタログには掲載されてあるから、希望者が申し出てきたらお見せする様にします。本当は触るのも嫌なんですけど」
賢明な判断だったと思う。

 結局このアイテムには入札者はゼロ。あえなくS氏へ返却となった。ポール・マッカートニーの直筆サインで入札者がゼロという結果は初めてだった。「天下のポール・マッカートニーの暗黒の経歴を、白日のもとにさらす気か!」といったクレームを受けたことはなかったが、入札者ゼロという事実に「やってはいけない事をやってしまったのかもしれない」という後悔が強く残ったものだった。


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