NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.364

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第27回:世代交代を遂げたロックとロックファン~1993年当時の日本ロック事情

ギミーシェルターへの悔恨

 ロックンロールバザール全国33都市縦断中の1993年、その当時の日本のロック(洋楽)事情を少し書き記しておきたい。これは原宿のアーティスト専門店やバザールの売上状況からの傾向だが、3年前に初来日を果たして日本に未曾有のロックブームをもたらしたローリングストーンズの人気は既に下火になっていた。それはとりもなおさずストーンズが来日前に発表したアルバム「スティール・ホイールス」以降に新作が登場しなかったことが要因でもある。
 未発表曲2曲を追加したライブ盤は発表されたが、それでもブームの再燃には結びつかなかった。やはりロックには、ニューアルバム、それに先駆けたニューシングル曲、そしてツアーという三連打が時代の上層を駆け抜けるための必須条件だったのだ。「1年にニューアルバム1作」が人気を維持するための最低条件、まだまだそんな時代だったのである。しかしストーンズは3年間もニューアルバムが発表されなかったので、移り気な日本のロックファンの興味が薄れてしまっても仕方がない状況ではあった。それがストーンズ専門店「ギミーシェルター」の停滞に直結してしまった。
 
 在籍期間が短かかったとはいえ、ストーンズがいかなる状況であろうとも売り上げを上げてみせるのが専門店の店長としての責務だが、結果として俺はそれが出来なかったのだ。
 理屈では充分に分かっていた。
「アーティスト側が派手に動かなければ専門店は何も出来ないって、それではあまりにもナサケネー!」

 今にして思えば、「アイツ、アタマおかしいんじゃねえのか?」って呆れられる様なぶっ飛んだ企画でもブチかましておけばよかった!例えば、若手の超人気バンドであるガンズン・ローゼスの専門店「ガンズ・ショップ」、もう一方の雄メタリカをフューチャーした「ロックンロール・パーク」と提携しながら、「デンジャラス・ロックンロールの原点ローリングストーンズと、ガンズ&メタリカがタイアップ」とかなんとかハッタリをかまして若いロックファンにアピールしてもよかった。
 またオールド・ロックに拘るならば、「ゲットバック」や竹下通りに数多あったロック系ファッション・ショップと手を組むなどして、原宿で「栄光の60’sスゥインギング・ロンドンのリバイバル」とブチ上げながら架空のブームを作り上げてマスコミの注目を集める極端な手法も考えられないことはない。ストーンズブームが下火だった時期とはいえ、まだまだそんな企画がまかり通ったに違いないからだ。もっともっと自分の頭脳を弾けさせ、「ストーンズで、もう一度世間を騒がせてみせる!」といった気概を持つべきだったのだ。

 俺はロックンロール・アーティスト、ロックンロール・ナンバーの魅力を声高に叫ぶことに対してはKEIBUY時代から徹底していたが、ロックンロールから派生した時代毎の文化や風潮にももっと拘っていたら新しいアイディアが湧いてきただろうし、他社とタイアップするなどして少なくとも会社に新しい事業の風を吹かせることが出来たかもしれない。
 しかし残念ながら俺は熱狂的ロックファンではあったが、優秀なロックビジネスの頭脳は持ち合せていなかったのだ。これが原宿ロックンロール・エンタープライス社であるA社の社員としての俺の限界だったのだ。今となっては定かではないが、当時も既に自分の限界そのものを薄々感じ取っていたのかもしれない。それが原宿を離れて、ロックンロールバザールへの全面参画に繋がったに違いない。


ガンズン・ローゼス、メタリカ、モトリークルーの時代


 原宿のロックアーティスト専門店には、それまでには無かった新しい傾向が顕著だった。それは新しいハードロック・バンド、特にガンズン・ローゼス&メタリカの商品が売り上げ好調だったことだ。その他、時のロック界を彩っていたニルバーナ、モトリー・クルー、レッド・ホット・チリペッパーズらの商品も然り。オールド・バンドの中ではビートルズだけが例外。一種特殊なレコードマニアたちの存在もあって専門店「ゲットバック」の表面上の売上が大きく落ち込むことはなかったと記憶している。

 ガンズン・ローゼスとメタリカの売上が好調であることは、ロックンロールバザールでも同様だった。地方のファンは、ある意味で都会のファンよりも流行に敏感だ。彼らの購買嗜好にこそ、ロックンロールエンタープライズ社の進むべき道が明確に示されていたのである。
 ロックンロールバザール用の商品には既にポスコードが貼り付けられていたので、イベント終了後には売上の詳細が正確な数字として把握出来た。エルヴィス、ビートルズ、ローリングストーンズというこれまでの3本柱に代わり、新しいロックバンドを第一にフューチャーするべきであることの列記とした証明だったのだ。
 ポスコードの明示するデータを見た俺は、「ロックンロール・エンタープライズ社の新しい暁を見た!」と骨身に染みたならば良かったのだが、俺は「時代が変わったのだ。ロックは完全に世代交代を果たしてしまった」という一種の諦めの境地に陥ってしまったものだった。自分が心から愛するものが、時代の流れに押しやられてしまったような虚しさ、寂しさに襲われたものだ。
 ガンズン・ローゼスであれメタリカあれモトリークルーであれ、その商品を満面の笑顔で買って行く地方のロックファンたちの姿に感動し、「俺は今、人様に喜んで頂けているのだ」という充足感を得ていたにもかかわらず、いざ自分自身の業務ポリシーを完全にチェンジする決心には至らなかったのである。

 「あまりにも強過ぎる拘りは、仕事の視野を狭くする」(by 野村克也)という言葉がある。ロック界にエルヴィス、ビートルズ、ストーンズに代わる新しいビッグヒーローが求められていることを理解は出来ても、個人的に同調することは別問題だった。個人的に同調出来なければ、商材がロックである以上はもはや仕事として成立させることは不可能だ。当時の俺は、そんな思考回路の人間でありロックファンだったのである。


若き店長候補たちが登場!

 ロック界が世代交代をすれば、ロックンロール・エンタープライス社であるA社にも世代交代の波はやってくる。「ガンズショップ」はS君、「ロックンロールパーク」はT君という、若くてイキのいいメンバーが店長候補として仕切るようになっていた。彼らに任せておけば両店は順調に回る、傍から見ていてそう言えるほど彼らは熱い情熱をもって仕事に取り組んでいた。
 かつて「ラブミーテンダーなら正木店長」「ギミーシェルターならM店長」と評されていたことと同様に、彼らはお客さんから愛され、頼りにされるような店長さんに成長する期待を持たせるに充分な存在だった。世のバブル景気もロックンロール・バブルも終わり、ロック界も世代交代を果たした当時、S君やT君はロックの神様が新たにA社に遣わした救世主だったのかもしれない。

 俺がオールドロックの知識があり、ニューロックブームにも一定の理解を示していたからなのか、彼らは表面上は俺に友好的な態度をとってくれていた。お陰で彼らから随分とニューロックヒーローたちの知識を吸収させてもらったものだ。唯一彼らに対して解せなかったのは、「ロックンロールバザール」での日々、旅から旅の毎日を彼らはあまり好まなかったことだ。あくまでも店舗にデン!と構えて、大好きなロックアーティストのグッズたちに囲まれながら新しいアイディアを紡ぎ出す毎日を彼らは求めていたのである。彼らの欲する仕事のスタイルは、そのまま新しいロックファンのライフスタイルとも言えるかもしれない。

 俺たちオールドロックファンにとって、若き日のロックグッズと言えばレコードとポスターとブロマイドぐらい。だからレコードが擦り切れるほど聞きまくり、レコードジャケットの印刷文字を一言一句まで、デザインの細部までをチェックし、対訳シートが日本盤レコードに付いていればそれこそ暗記するほど読み耽り、あとは好きなロックアーティストの様な思考回路をもって言動を起こすことがカッコイイと思っていた。だから「ロックンロールバザール」も、ロックバンドの長期ライブツアーみたいなものに置き換えて位置付けすることもできた。

 しかしS君やT君と話をすればするほど、俺たちと新しい世代のファンたちとのロックンロールライフスタイルの違いを痛感した。今やロックグッズは溢れかえり、極論を言えば生活道具全てにアーティストのロゴが貼り付けられる時代だ。自分の生活空間の視界をロック色で塗りつぶすことが可能であり、それこそが新しい世代のロックファンが求める絶対的な快感だったのである。俺たちオールドロックファンにとっての生活必需品は「大好きなアルバム」であったことに対して、新しいロックファンにとっての必需品は「大好きなロックアーティストのロゴマーク」だったとも言えよう。


俺はもう老兵、去り行くべきなのか・・・

 「ロックンロールバザール」部隊から短期間だけ離れて帰京した際、S君とT君、更にF君というロックンロールパークの若手スタッフと4人で飲みに行ったことがあった。俺以外の若手3人は全身を各々が大好きなロックスターのファッションそのもので着飾っている。ガンズン・ローゼスの2枚同時発売された最新アルバム「ユーズ・ユア・イリュージョンI&II」関連のグッズが爆発的に売れている時期であり、話題は当然「ユーズ・ユア・イリュージョン」になった。

S君:そう言えば2枚とも「ガンズショップ」で買って頂いてありがとうございます!
俺 :いいアルバムだよね、2枚とも。
T君:俺は「ソー・ファイン」って曲がサイコーっす!
俺 :あの曲は、ジョニー・サンダースに捧げられたらしいね
T君:はぁ?まじっすか??
俺 :F君が大好きなマイケル・モンローがコーラスとハーモニカで参加している曲もあるよね。
F君:ぇえっ!ど、ど、どの曲ですか?
俺 :「バッド・オブセッション」だよ
全員:・・・
俺 :・・・なんで知らないの?
S君 :っていうか、なんでそんな事知っているんですか?
俺 :だって、歌詞が記載されている中ジャケットにクレジットされているじゃないか。
S君:そんなトコまで見てなかったですよ。F君知ってた?
F君:全然知らなかった!明日さっそく買います!!

 先輩風を吹かせない様に慎重に話をしたつもりだが(苦笑)、同じロックファンといえども、この時の会話ほど世代間ギャップを痛感したことはなかった。しかしながら、アルバムの詳細等は気にもせずに「ロックスターに成りたい願望」一色で全身を固めているS君、T君、F君こそ、新しい世代のロックファンの真の姿なのだ。

 俺たちオールドロックにとってロックヒーローは遠い存在だったが、新しい世代のファンにとってはどんどん身近な存在になった。憧れの存在への距離が近づいてくれば、専門ショップが求められるものは必然的に変わって来る。S君、T君、F君のロックへのスタンスと嗜好こそ、今後のロックビジネスを好調に展開していく上での基本だった。新しいファン、若いファンを獲得していくためには、俺のロックへの拘り方は時代遅れだった。(つづく)


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