NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.361

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第24回:もう原宿は卒業だ。俺は地方で暴れてやる!~「ロックンロール・バザール記」②

T部長の退職でロックンロールバザール部隊隊長を決意

 成功と失敗をほぼ交互に繰り返しながら「ロックンロール・バザール」は東関東、東北から北海道へ開催地を移そうとしていた。ツアースタートから既に二ヶ月が経過していた。「ロックンロール・バザール」を継続、成功させるための課題は2つ。責任者がツアーに随行すること。各店舗から気持ちよくスタッフが参加してくれること。

 俺は自分が参加した会津、山形らが売上げが良かったこともあり、「ロックンロール・バザール」成功の手応えを掴んでいた。このまま責任者として名乗りを上げてみようかという気分になりかかっていた時、予期せぬ事態が原宿の本社で起こって俺の背中を押した。
 それは山形のホテルのチェックアウト当日だった。バザール部隊専用の携帯電話が鳴り、出てみると相手はT部長だった。俺はT部長とA社の面接試験で初めてお会いし、採用して頂いた。オークション事業部の業務において俺を自由に働かせて下さり、カタログ作りの基本的なノウハウを伝授して下さり、またオークション事業に対する上層部の一部からの非難を一手に引き受けて俺を守って下さった非常に恩のある上司だ。各店舗の取扱いアーティストに対して個人的な拘りを捨てて、経営を軌道に乗せる名人でもあり、会社への貢献度は絶大だった。

 俺は一度T部長の給料明細を偶然に見てしまったことがある。俺の給料の約3倍であり、羨ましいことこの上ない金額だった。しかし嫉妬心はわかなかった。金額に見合うだけの仕事をされていると素直に思えたからだ。そのT部長が退職することになったというから、俺は声を失った。
 T部長は退職の理由を一切言わなかった。
「まあ理由は色々あるんだけどさ、もうどうでもいいよ。君にだけは直接報告しておこうと思ってさ」
 「もうどうでもいい」という言葉が、俺には「本当は納得はできないけれど」に聞こえた。それを伝えようとした時に不意に涙が溢れて来てしまい、後は嗚咽で会話にならなかった。

 電話を切った後も涙が止まらなかった。ひとしきり涙を流した後、何処にも持って行きようがない感情が沸き上がり、俺は腹を決めた。
「T部長も辞めてしまった。もう原宿には戻らず、ロックンロール・バザール隊長になって地方でやりたいようにやろう!」


ドサ周り、香具師、テキヤ、何とでも言ってくれ!それが俺は大好きなんだ

 結局T部長の退職が、俺にロックンロールバザールの責任者になることを決意させることになった。ギミーシェルターの業務は中途半端で退くことになるが、腐ってもギミーシェルターだ。俺の代わりをやりたいヤツは社内社外問わず、いくらでもいるだろう。
 喉から手が出るほどロックンロールバザール部隊の責任者を必要としていた代表は、ギミーシェルターの店長に立候補した時と同様に、俺のバザール部隊隊長の申し出を即決してくれた。いみじくも、代表の考えも同じだった。
「ギミーシェルターをやりたいヤツは探せばいくらでもいるしな」
そんな言葉よりも、「ロックンロールバザールをやるってヤツは誰もいないから大いに助かるよ」と言ってもらいたかったものだ。

 俺のバザール部隊隊長就任は、各店舗からも喜ばれた。要するに、これで店長クラスの者がバザールに頻繁に参加する必要がなくなった。部隊内で最低一人はスタッフが決まっているので、自分に声がかかる確率が低くなった。ただそれだけの理由ではあるが。
 彼らはそれでも不思議そうに尋ねてきた。
「どうしてドサ周りの旅みたいな仕事を引き受けたのですか」

 理由は単純明快だった。
「俺は元々旅が大好きで、しかも売り上げがいい(時が多い)。旅をしながら仕事をして、行く先々で現地のロックファンに喜んで頂ける」
 それに、昔のロックスターたちにとってコンサート・ツアーは最大のプロモーションであり、エルヴィスでもビートルズでもストーンズでも、誰でも駆け出しの頃はツアーに明け暮れていた。そうやって彼らはミュージシャン、エンターテイナーとして本物になっていき、スターになったのだ。彼らと同じような下積み生活をすることが楽しかったこともある!


ロックンロールバザール当日の実態

 ロックンロールバザール開催当日だが、大体開始時刻の3時間前(午前9時)に会場に入り、在庫をすべて会場に搬入して商品をセッティングする。この作業を、俺と本社から来ているスタッフたち、プラス現地で募ったアルバイト君たちのたった3~4人でやるのだ。
 ここで活きたのが、かつて「ロックンロール・サーカス」時代にラブミーテンダー前店長の正木君から教えてもらった「会場にあるデスク、ボード、布など、使えるものは何でも使ってアイテムはより立体的にディスプレイすること」だ。
 しかし会場に運び込んだ在庫プラス、本社から郵送されてきた新しい商品を、ロックアーティスト専門店別に7つのブースを作って3時間内にディスプレイしなければならないので、まさに時間との闘いだった。

 そしてヘトヘトになって迎える正午のイベント開場時間。この時点で会場前にどれだけの人が列を成しているかで売り上げの大半が決定する。大勢の方々が開場を待っていれば、成功は間違いなしであり、気分的にゆとりをもってお客様方を迎えられる。 逆に少なかったら、開催時間内の的を得た接客方法が求められる。
 月曜日から金曜日までのイベント告知期間、土曜日と日曜日のイベント開催期間、まさに息を抜く暇もないほどだったが、「自分が死ぬほど好きなロック、その関連商品を、東京直送の商品を心待ちにしておる地方のロックファンに届ける。こんな幸せな仕事があるのだろうか!」と、売り上げが良かろうが悪かろうが充実感に包まれた日々を送ることが出来たものだ。

 また非常に有難かったのは、社内の大量在庫を、店舗別ではなくてごちゃまぜにして「ロック福袋」と称して大袋に入れて、一袋1,000円で売り出したところ、何処でも売り切れが続出したこと!
 もちろん各袋の中身は別物なので、グループで来場した方々はそれぞれ自分の買った福袋の中身を見せ合いながら談笑している!原宿の店舗を悩まし続ける在庫が、地方では喜んでもらえている!これだけでも地方都市でロックンロールバザールを開催した意義があったと思えたものだ。


知恵を絞った若手スタッフの参加意識向上

 俺がロックンロール・バザール隊長となっても、もうひとつの重要な課題が残されていた。ツアーに出ずっぱりの俺に対して、本社から送られてくるサポートメンバーが最初からやる気をみせてくれないことだ。到底俺一人で出来る仕事ではなく、彼らに積極的になってもらわなければならない。
 
 仙台でのイベントの告知期間中では、本社から来たK君というサポートメンバーに不満を突き付けられた。K君は実家が仙台近郊だったので、渋々ツアーに参加したらしい。
「日本全国を周るなんて、○○さん(俺)以外誰もやりたくないですよ。僕は毎日だって東京にいる結婚予定の彼女に会いたいし」

 正直なところ、「ナサケネー野郎だ」とアタマに来たが、ぐっと堪えてK君の大好きなバンドの下積み時代のハナシをしてやった。
「キミが好きなバンド〇〇は、アメリカ全土を決死の覚悟でツアーをしてから人気が出たんだよ」
「ロック・バンドにツアーは付き物じゃないか! エルヴィスだって、ビートルズだって、ストーンズだって、みんな同じなんだよ」
「地元のテレビやラジオに出られるかもしれないぜ。 地元にいるご両親や友達に自慢出来るじゃないか」
とか何とか、飯と酒を奢りながら一生懸命説得したものだ。
 K君は割と物分かりのよい若者であり、実際に地元のテレビ局のイベント告知コーナーに出演できたので大喜び!イベント開催当日はご両親やご親戚もやって来て、お父様からは「せがれをよろしくお願いいたします」とアタマ下げられた!(笑) 
 この仙台のロックンロールバザールは、サンプル用に壁に貼り付けたポスターまで「売ってほしい」と頼まれるほど最後は会場から商品がほとんど無くなるほどの大盛況だっただけに、K君をはじめとした参加したサポートスタッフの気分は上々。それがそのまま原宿や渋谷の若手スタッフに伝わることとなり、お陰で、仙台以降は馬力ある若手メンバーが積極的に参加してくれるようになっていった。(つづく)

★文中の写真は、ロックンロールバザール中、2トントラックでの都市間の移動や、レンタカーで深夜に捨て看板を貼り周る際に車内で大音量で流していたCD。日頃ヘッドフォン無しで音楽を大音量で聞けない為、車内の音楽鑑賞はロックンロールバザールならではの楽しみだった!

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