NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.360

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第23回:「全国33都市縦断ツアー/ロックンロール・バザール」苦難の船出

いざ、全国33都市へ!
 「ロックンロール・バザール」
 それは原宿ロックンロール・エンタープライズのA社にとって、1993年度最大規模の企画だった。
 それまでA社は不定期で地方の大都市のみ物販イベントを開催していたので、大凡の売上予想は立つだろう。それでもあらためて「ロックンロール・バザール」をツアーとして行うことは、単なる物販ツアー・イベントではなく、新しい移動型店舗経営事業部として位置付けられていたのだろう。

 またツアーメンバーの宿泊費、会場レンタル代、トラックのガソリン代といった諸経費を考えれば大きな利益は望めない。それでも代表が「ロックンロール・バザール」決行指令を出したのは、ロックンロール・バブルという上っ面の風潮に惑わされることなく、もう一度日本全国のロックファンを掘り起こす全国事業展開の礎的業務が「ロックンロール・バザール」の価値付けになっていたのかもしれない。恐るべき代表のチャレンジ精神である!

 もともと「ロックンロール・バザール」に対しては社員たちの反対意見が多かったが、そいつを封じ込めたのは代表と上層部の一人もツアーメンバーとして参加するという社員に対する口約束でもあった。

 担当スタッフは、一都市につき各店からセレクトした二人の参加の一週間交代制による、社員全員の持ち回り制となった。また地方から上京してA社で働いていたスタッフは、自分の地元で「ロックンロール・バザール」が開催される場合は無条件でその都市の担当者となった。


スタートはいまひとつ

 「ロックンロール・バザール」第一弾は大阪、岡山、広島、福岡の西日本からスタートした。告知は以前と同じく、各店舗の会員へのダイレクトメールによるお知らせ。それから月曜日から金曜日まで、現地繁華街での紙製の告知ポスター貼りとビラ捲き。代表と上層部の一人は口約通り、最初の頃はスタッフとともに現地入りをしてビラ捲きをやっていた。俺は三都市目の広島で初めて担当になったが、代表は間違いなく我々と一緒に働いたが、途中で急用が出来たとのことで帰京(笑)代わって次の開催都市福岡まで上層部者がやってきた。
 代表自らのビラ捲きの姿勢は、道行く人々にとっては少々威圧的だった!ビラ1枚1枚に命をかけて配っているようで恐れ入ったが、やはりビラ捲きは笑顔でやらないと!(笑)

 「ロックンロールバザール」のスタートは結果はいまひとつ芳しくなかった。品物が売れないのではない。客が会場に期待していたほど来ないのである。あきらかにプロモーション不足だった。「地方都市は情報伝達スピードが早いから、ビラを捲いておけば自然と口コミでイベントの噂が広まっていくだろう」というヨミの甘さがアダとなったようだ。
 「ロックンロール・バザール」計画を社員に推進していた上層部者もさすがにショックだったようで、悪天候も重なって悲惨な売り上げとなった福岡の開催日夜、中洲の屋台街でやけ酒に付き合わされる羽目になった。
「オマエはいいよ。所詮ギミーシェルターの人間だからな。俺は会社の上層部の人間だし、気が滅入るよ、まったく」

 西日本ツアーが終わり、商品を詰め込んだバンと2トントラックを一度東京へ戻すために「ロックンロール・バザール」は二週間の途中休憩期間に入った。
 このスケジュール自体も俺は解せなかった。どうせ九州まで来たならば何故そのままずっと南下しないのか?東京まで一気にワゴン車とトラックを戻すだけでガソリン代もかさむ。
 この疑問は素直に上層部者にぶつけたが、「大分とか宮崎とか鹿児島は各店の会員が少ない」とか何とか良く分からない返答だった。ツアースケジュールには後に東北各県も含まれており、九州南部よりも東北の方が会員が多いというデータを本当にとっているのか?そもそも会員だけを相手にした物販ツアーではないはずだ。


ロックンロールバザール売上アップ対策

 約二週間の休憩期間中、「ロックンロール・バザール」売上アップ対策会議が何度か開かれた。とにもかくにもいかにしてプロモートするか、現地のロックファンに物販イベント開催を知らせるかだ。決定が下された新しいプロモーション方法は下記の通り。

①開催県内全ての中学校以上の教育設備の周囲に紙製ポスター(捨て看板)を貼りまくる。
②捨て看板にはビラを貼り付けておいて、看板を目にした者がビラを持ち帰れるようにすること。
③地元のTV局、ラジオ局全てに飛び込み、番組の中で「ロックンロール・バザール」開催の告知を依頼する。
④捨て看板、ビラはよりシンプルで分かりやすいデザインに変更する。
⑤イベント当日少しでもスピーディーに商品を会場にセッティングするために、バンやトラックに積み込んだ商品を段ボールではなくプラスチック製の透明ケースに入れて保管する。

 ①のポスターに関しては、降雨により役目を果たさない場合もあるので、印刷納品の際にロウ引き加工を施してもらい(熱で溶かしたロウを紙に染み込ませる)、雨水に濡れても萎れないようにする。
④に関しては、アーティストや商品の写真は使わず、「東京・原宿、渋谷のロックアーティスト専門店がやってくる!」なる文字をポスター横幅いっぱいに配置し、あとは星型の枠の中に専門店の名前のみ記載。これは全て俺がソッコーでレイアウトした。
また捨て看板は、貼り付け用として上部二ヵ所に空けて紐を通す穴を下部二ヵ所にも空けて、上下両方からしっかりと電信柱にくくりつけられるようにする。もちろん、少しでも剥がされにくいようにするためだ。街中や学校周囲の景観を損ねてしまうことは明白だが、こちらとしてはそうも言ってはいられない!

 そして①と③を実行することで、「ロックンロール・バザール」部隊は日夜休みなく働かざるをえないことになった。捨て看板貼りは深夜真夜中であり、レンタカーで毎晩県内の学校を探し当てては一ヵ所最低でも10枚は貼る。捨て看板貼りが終わり、朝方ホテルに戻って睡眠をとった後、昼前後から現地のマスコミ各局を周り、相手にされようがされまいが、片っ端から訪れて番組内での取り扱いをお願いする。少しでもマスコミの興味を惹く為に(度肝を抜く為に)、ロックスター紛いの恰好をしてマスコミ各局を訪れること。
 夕食を終えた後、深夜の捨て看板張りの時間までは、街中のレコードショップ、書籍店、ファッションショップなど、若者が訪れそうな店舗全てに捨て看板の掲示とビラの設置をお願いする。ここまで徹底出来れば、会場までやって来るお客は確実に増えるに違いない。
 インターネットの無い時代とはいえ、よくもまあここまでアナログ・プロモーションを考え付いたとは思う。昔のイベントのプロモーションって、多かれ少なかれこんな感じだったのだ。

 問題はただひとつ。このすさまじいプロモ・アクションをどこまで徹底出来るか。誰が部隊を管理して徹底させるかだ。「ロックンロール・バザール」第二弾からは、代表と上層部者のツアー参加は少なくなるだろうし(笑)、昼も夜も動きっぱなしなんて、誰でもサボりがちになることぐらい明白だ。
 そこでイベント当日の売上によって、当地の参加メンバーに特別ボーナスを支給することで部隊の士気を高めることも決定された。


ロックンロールバザール反対論

 「ロックンロール・バザール」第二弾は、浦和からスタートし、その後水戸、会津、仙台、山形と日本列島を北上することになった。俺は会津と仙台に参加したが、売上は上々。会津は目標額は軽く突破した。仙台は予想を大きく上回売り上げで大盛況。二週間の休憩期間で討議された対策が功を奏したといえるだろう。
 しかし浦和、水戸の売上は芳しくはなかった。原因は明白だった。県内プロモーション期間中、参加メンバーのアクションを管理する上司的存在、また俺のような先輩格の者がツアーに帯同していなかったからだ。業務日誌ノートも、ほとんど何も書かれていない日が多かった。討議された対策があまり実践されていなかったのである。

 業務日誌がほとんど毎日白紙だった水戸の一週間を担当した若いスタッフ2人に、プロモーションが疎かになった理由をそれとなく聞いてみた。
「夜、見回りの警察官に職務質問されて怖くなり、外出出来なくなった」
「暴力団みたいな人から捨て看板貼りを咎められた」
ありそうでなさそうな、なさそうでありそうな理由だった。彼らを責めても仕方がない。責任者を付けていない会社側の責任である。至急「ロックンロール・バザール」部隊を指揮し、管理する責任者をツアーに帯同させる必要性に迫られることになったのである。

 俺が会津のイベント終了翌日に、ギミーシェルターの業務上の理由で一旦原宿の店舗へに戻った時のこと。2日後には次のイベント地仙台へ出発するまでの僅かな時間だったが、各店舗のスタッフたちから口々に「ロックンロールバザール」への不満を聞かされた。俺は「ロックンロールバザール」への参加頻度がもっとも高かったので、まるで責任者代理の様に彼らは思っていたのかもしれない。俺が原宿に一時帰還するのを待っていた様に、彼らはまくしたてた。

 言い分は大体次の通り。
「昼も夜も働きっぱなしの出張なんかもう止めてくれ。あなたが積極的に参加するから、こっちも参加せざるをえない雰囲気になっているんだ」
「若いスタッフたちは、夢を持って上京してきたのに、なんでまた地方に行かなくちゃならないんだ」
「会社からロックンロールバザールの為に良い商品を大量に出せと命令されている。店での売り方を考えているのに、バザールにその品を横取りされている」
「バザールだって同じでしょうが、店に店長がいなければスタッフはどうしても手抜きをするし、バザールから帰ってくると店の中がぐちゃぐちゃになっている」

 振り返ってみれば、俺はたかだか入社5年目に入ったばかりだが今やA社の中で中堅の部類だ。俺より業務歴の長い前店長さんたちは、ラブミーテンダーの正木前店長をはじめとして全員退社しているのだ。
 しかし俺は中堅だが上層部ではない。だから会社への不満は全て俺にぶつけられても仕方がない立場になっていたのだ。
 オークション事業部は潰れてしまい、ギミーシェルターの低空飛行状態の改善もできていないし、何かを会社で成し遂げたという達成感はない。それなのに中堅的立場としての役割を求められる。
 ロックンロール・エンタープライズの社員として、狂ったようにロックンロール・ドリームを追い求めていたのに、何だかただの会社員になったような気分だ。ただの会社員になるならば、前職を辞める必要なんかなかったのだ。

 俺は入社以来今まで、会社に対して、先輩に対して、「あーしてくれ、こーしてくれ」と業務のシステムや待遇の改善を強く求めたことはなかった。それは得体のしれないロックンロール・ドリームという到達目標があったからだ。しかし要求をしてこなかった自分が、他者から要求を申し込まれる立場になってしまったのだ。もう若くはないんだな。つくづくそう思ったものだ。(つづく)


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