NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.359

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第22回:原点に返れ!?ミュージックソフトの再強化とロックンロール・バザール

ミュージックソフト販売再強化

 俺がローリングストーンズ専門店「ギミーシェルター」の担当になったと同時に、会社に二つの新しい事業展開の機運が高まって来た。新しいとはいっても正確には俺の入社以前に社の売上の一部を支えていた業務、事業の再認識と復活である。それは、CDやビデオといった正規のミュージックソフトの販売の再強化であり、同時にハーフオフィシャル盤も取扱いも決定。更に地方都市での物販イベントの復活である。
 
 当時の各専門店が正規盤のCDやビデオの販売を疎かにしていたわけではなかったが、妙にマニアックに成り過ぎていた傾向はあり、ツアーグッズに気を取られ過ぎていたこともあったので、この原点に帰るべき方針は大賛成だった。
 また同時に取扱うことになった「ハーフオフィシャル盤」だが、これは正規盤ではないがブートレッグ(海賊盤)でもない、ライブ盤やオムニバス盤である。概して綺麗なCDジャケットが付けられていて、正規盤と比べても何ら遜色のない出来栄えの製品である。
 この「ハーフオフィシャル盤」に関しては、オフィシャルレコード会社やアーティストの権利管理側も、半ば「この作品完成度ならば販売されても仕方がない」といった態度で存在を容認していたのだ。
 確かに「これが純オフィシャル盤ではないのか!」と驚くほど音質の良い「ハーフオフィシャル盤」も少なくなかった。ここまでのクオリティなら、「ブートレッグの酷い音質で、アーティスト側の名誉を傷つける」といったオフィシャル側の言い分は通らなくなったのだ。
 まあ遠からず「著作権」とか小難しい法律が持ち出されて販売を差し止められる可能性は無きにしも非ずではあるが、製造と販売が許可されている期間中は扱うべきであろう。とりあえず「ギミーシェルター」でも「ゲットバック」でも約20~30種類を取り扱うようになったはずだ。お客からの評判も上々だった。


負けることを知らない代表

 ハーフオフィシャル盤の取り扱いの決定とほぼ同時期に、地方イベントの再開も決定された。以前は札幌、名古屋、大阪、福岡といった大都市のみ不定期に開催されていたが、不定期ゆえにそれなりにインパクトがあり、売上も上々だったと聞いている。
 しかしイベント当日前後のスケジュールは非常にタイトであり、参加者には出張手当が出されることもない(と聞いていた)この業務に社員たちは及び腰であり、半ば休止状態になっていた。

 再開に当たり、全国33都市を縦断するという大規模な物販イベントツアーとして社員の前で代表は計画をぶち上げた!ハーフオフィシャル盤に対しては個人的に興味の強い者が多かったこともあって反対意見は表面化しなかったが、このイベントツアーに関しては誰もが露骨に嫌な顔した。それを見た代表は激怒した!
「俺も参加するから、もう一度イベントをやるぞ!」

 俺は会社の経営状態の詳細は分からないが、常に決して諦めることなく、次々と新しい事業計画を捻り出す代表のポジティブ思考には正直なところ舌を巻いていた。俺が命を懸けたKEIBUY JAPANを閉鎖した後の約半年間だけでも、物販カタログ「Rock X」の発行、ロックンロールミュージアムの開館、更に今回のミュージックソフト再強化と物販イベントの再開だ。
 いちいち社員にどう思われているかなどと気に病んでいたら代表業は務まらない。代表はどこまでも孤独に耐えられなければならない。その孤独を癒すことが出来るのは家族、そして会社の業績だけなのである。「俺は絶対に代表になれるキャラではないな」とA社の代表から充分過ぎるほど学んだことも確かである。


日本全国33都道府県縦断ツアー「ロックンロール・バザール」

 全国33都市縦断ツアー業務。店舗の商品を積み込んだ2トントラックを社員が運転し、週末の土日に地方都市で会場を借りて物販イベントを開催。その一週間前に現地入りして、街中にイベント告知用の紙製捨て看板を貼りまくる。イベント終了翌日の月曜日には次の開催地へ向かい、その日の夜からイベント開催日前日の金曜日までまた同じプロモーションを33都市でやり続けることである!商品の補充はイベント当日に各店舗から送られてくる段取りだ。これを基本的に33週間繰り返すのである。単純に計算して200日以上のロングツアーだ。
 ロックンロール・ミュージアムが開館した時、俺は我々の会社の原点、得意技は「イベント業」ではないか?と強く意識したが、偶然にもミュージアム開館から日が浅い内に「ロックンロール・バザール」が決議されたのだ。

「誰が指揮するんだよ」「そんな激務、俺は絶対に嫌だよ」
「折角上京してきたのに、なんで地方に行かなきゃならないんだ」
「原宿の店は誰が面倒みるんだよ」
等など、イベント再開決定が発表された会議の後、誰もが口々に不満を口にしていたものだ。

 物販イベントツアー自体は、俺は悪くないアイディアだとは思った。東京の店舗では売れないアイテムが、ひょっとしたら地方では売れるかもしれない。ロングツアーともなれば、こちら側の本気度が現地の人に伝わって新しい販路の起爆剤になるかもしれない。

 問題は、たった1日での超長距離移動が含まれたりするスケジュール。それに会場が周囲の下調べもなされずに使用料の安さだけで予約されてしまっていたことだ。
 しかしスタートの日は遠からずやってくるので、とにかく俺は積極的にこのツアーに参加することに決めた。イベント名は、以前の「ロックンロール・サーカス」では分かりづらいということで「ロックンロール・バザール」に改名された。(つづく)


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