NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.363

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第26回:喜びも悲しみも幾歳月~現地の方々のご厚意で突き進めた日本縦断ツアー~ロックンロールバザール記④

街ですれ違った人たちが振り返るファッションで来てくれ!

 ロックンロールバザール成功の第一歩は、会場での品揃えやディスプレイ以前に、いかにして会場まで現地の若者たちに来てもらうかである。その為に開催一週間前に現地入りして、月曜日から金曜日までプロモーションに奔走するのである。

 まず現地のテレビ局やラジオ局を片っ端から周り、どこかの番組内での「ロックンロールバザール」の紹介を飛び込みで依頼する。何としてでも番組取扱いを承諾してもらう為に、まず第一印象が大切!とばかりに、俺をはじめとしてバザール部隊はロックスターばりのファッションで局本部へ飛び込んだものだ。
 俺もカールしたロン毛、それを助長するようなベルベットのハンチング、ブレスレッドやネックレスはジャラジャラ状態、スリムパンツにカウボーイブーツ等で全身を固めた!原宿から派遣されてくる若いメンバーたちにも、「地方の街を歩いていたら、すれ違う人に絶対に振り返ってもらえるような派手な格好をしてきてくれ!」って事前にお願いしたりした。そうしてど派手な格好をした2~3人組が取扱い商品の中でもっとも高値のアイテムを数点持参してマスコミ本部へアピールした!


DJさんの特別計らい


 思い返してみると、マスコミへのアピール依頼を断られたことはほとんど無かった。ただしイベント当日まで長くて数日しかなかった為、既にゴールデンタイムの番組内のプログラムは決められているのでその中に割り込むことは難しかった。多くは早朝のニュース番組や夜のバラエティ的番組の枠の中に入り込ませてもらったものだ。

 例外は高知の某ラジオ局に押しかけた時だ。たまたまDJさんがいらして「今夜の僕の番組でやってあげるよ!」と即決して下さり、俺が番組に生出演して約5分間喋りまくったこともあった。
 そのDJさんはローリングストーンズの大ファンであり、自分のコレクションであるストーンズのライブCDの中から「ジャンピングジャックフラッシュ」を俺のベシャリのBGMに使ってくれた。

 地方のテレビやラジオ局はとても親切であり、放送された番組(もしくはこちらが出演した部分)を録画、録音したテープを、放送日翌日か翌々日には逗留先のホテルまで届けてくれたものだ。(当時、東京のマスメディアではあまりそういうご厚意を受けたことはなかった~笑)イベントが終わった後に現地を離れる前、必ず親切にして頂いたマスコミを再度訪問して担当者に御礼を伝えることも重要な仕事だった。


失恋もあった!?

 名古屋のケーブルTVに出演した際は、撮影部隊の中でもっとも協力的でロック好きの女性スタッフが撮影直後にぶっ倒れたことがあった。「二日酔いなだけです」を連呼する彼女に、俺はたまたま持参していた胃薬を差し上げた。
 後日、俺が出演した番組の録画テープをホテルまで届けに来たのは当の彼女であり、なかなかの美人さんだったのですかさず住所交換(笑)俺はバザールの行き先々から彼女に絵ハガキを速達で送った。(当然宿泊先の住所を書いて!)半年近く経ってから一度だけ彼女から返信が来たことがあった。確か徳島滞在中だったはずだ。

「たくさん絵葉書を送って下さってありがとうございます。日本中を飛び回っていて大変ですね。私、近々結婚することになったので退社します」

葉書の文面でブルーになってしまった俺は、原宿からサポートに来てくれていた後輩S君に慰められたものだ。

S君:見かけによらずナイーブなんですね
俺 :ナイーブだから、ロックが好きなのかもしれないな
S君:だから(あなたに)付いていこうとする者もいるんですよ
俺 :ありがとう・・・さあ、捨て看板貼りに行こう!
S君:今夜もですか!?

以降、彼女に絵葉書を送るのを止めた(笑)


お得意様からの接待

 高知では、KEIBUY時代からのお得意様がバザール終了後に一席設けてくれた。その方は高知でミュージックショップを経営されており、KEIBUYで落札したたくさんのアイテムを店内に展示されていた有難いお客様だった。高知名物の海産物のお刺身を振舞われながら頂いた言葉は今も忘れられない。

 「本当に高知まで来てくれるなんて思わなかったよ。イベント当日まで信じられなかったんだ。原宿のロックアーティスト専門店がね、2トントラックに商品を積んでここまで来てくれたってことが俺たちは嬉しいんだよ!」

 その方は、ご友人であるフランス文学とロックにのめり込んでいる方をわざわざ酒宴に呼び寄せてくれたので、彼とも意気投合した俺は翌日松山への出発を控えているにもかかわらず久しぶりに飲みまくったものだ。

 高知では、更に印象深い出来事があった。イベント当日用に雇った現地アルバイト員が、イベント開始直前に俺に要請を出してきた。
「アルバイト料は要りません。その代わり、バイト料分の商品をお客さんが会場に入る前に買わせて下さい」
 勿論俺は彼の要請をソッコーでOKしたが、その直後に物凄い勢いでお目当てのTシャツをピックアップし始めた彼の姿に涙が出そうになった。その彼は、こう言っては失礼だが肥満気味の自閉症的な雰囲気であり、ロックが唯一の友達といった少年だったからだ。例えたった一日とはいえ、彼はロックンロールバザールの一員として働くこと、またお客として商品を買うことをどれだけ楽しみにしていたかがダイレクトに伝わってきたのである。行く先々で地方のロックファンに喜んで頂けた中で、この高知のアルバイト員の姿は強烈だった。
「俺は、少なくとも一人の少年を救うことが出来た仕事をしているのだ」


どうして“あなたのソレ”を売らないのですか?

 札幌のアルバイト員からはささやかな提案があった。イベントが終了してアルバイト料を払った直後の彼との問答は少々予想外だった。

彼:今(あなたが)履いているパンツやブーツはどうしてバザールの品揃えに入っていないんですか。僕はそれが欲しいです
俺:ごめんね。これは原宿の竹下通りに出店している名も無い出店で買ったものなんだ
彼:どうして原宿のロック専門店で売らないのですか
俺:ありがとう。原宿に戻ったらお店に提案してみるよ

 俺が身に付けていたパンツやブーツには我らがロックアーティスト専門店やアーティストのロゴは入っていない。しかし彼はそれがカッコイイと思ったようだ。もっと拡大解釈すれば、当日俺が着ていたストーンズのTシャツやアクセサリーを引きたてるに充分な効果がパンツやブーツにあったのだ。
 ここにストーンズ専門店ギミーシェルターを再び雄々しく飛翔させる小さなヒントのひとつがある!と感じて、帰京したらさっそくギミーシェルターのスタッフに提案するつもりだったが、実行したかどうかは今となっては定かではない(笑)


嬉しきは小樽を訪ねたことよ 行き交う人々の声の温かさよ

 バザールの売上は散々だったが、小樽での滞在も忘れられない。小樽到着当日、宿泊先の海沿いのホテルの駐車場に商品を詰め込んだ2トントラックを停め、ホテルのフロントへ向かおうとした時のこと。俺の頭上で夥しい奇声が聞こえた。思わず見上げてみると、たくさん海鳥たちが円を描くように乱舞しながら鳴き声を上げている。これは、こんな所までやって来てくれてありがとう!なのか、オマエってホント馬鹿だな、のどちらなのか分からなかった(笑)

 ホテルの部屋に入ってみると、ベッド脇のサイドテーブルにうすっぺらい地元の情報紙が置かれてあった。
何気にめくってみると、最初のページに石川啄木の詩が載っていた。

かなしきは小樽の街よ
歌うことなき人々の
声の荒さよ

 更にページをめくると、戦時中の一時期小樽に疎開していたという当時の美人女優、園井恵子の写真が目に入った。美しい写真だった。写真の解説には、何の因果か園井恵子は終戦を待たずに地元の広島に戻ってしまって被爆死した事実まで記載されていた。

 石川啄木の詩、園井恵子の記事、いずれも情報紙の読者をハッピーにさせるものではない。しかし、失敗に終わった小樽バザールの会場責任者に失敗を慰められた時、俺は啄木の詩と園井恵子の記事の話をして、個人的には小樽に来た甲斐があったという思いを伝えた。
 会場責任者は静かに語った。
「啄木の詩や名も無い地元情報紙の記事に反応してくれた方に会場を借りて頂いて、心から感謝します」

 俺は小樽での出来事を親父に話した。実は俺の親父が大の酒好きだったので、地元のマスコミの担当者にバザールを取り上げて頂いた御礼に赴いた際、地元の地酒の名店を教えてもらい、地酒を買っては帰京してから親父に届けに行っていたのだ。ロックスター張りの俺の奇抜なファッションに親父は絶句していたが、地酒を届ける度に「好きなことをやってんなら、それはそれでいい」と精一杯の労いの言葉をかけてくれたものだ。

 しかし小樽、札幌の地酒を届けた時の親父はチョット反応が違った。小樽は、昭和20年代後半から30年代前半に新婚間もない親父とお袋が住んでいた街であり、そこを倅が仕事で訪れていたことが親父は嬉しかったようだ。
 
「オマエから啄木とか園井恵子とか、そんな話を聞くとは思わなかった。ちったあマトモな生活をしているんだな」
苦笑しながら美味しそうに届けた地酒をあおっていた今は亡き親父の姿は今も鮮明だ。


雄々しき怠慢!?

 月またぎで4~5週間ぶりに帰京してアパートへ戻ると、大家さんから入口を強制施錠されていたこともあった。電気や水道を止められていたこともあった。当時は料金の口座振り込みが一般的ではなく、家賃は大家さんへ直々、公共料金は集金人へ支払うことが当たり前だったので、 要するにロックンロールバザールの仕事に没頭するあまり、料金未納をしばしばやらかしていたのである。

 部屋に入れないならば、翌朝大家さんに家賃を払うまでの時間潰しとして、一晩中地元の飲み屋で飲み続けたこともあった。二三度、そんな事態が続いた後にまた同じことをやってしまった時は、居間のガラス戸の鍵周辺部分だけを割って解錠して入室したこともあった。
 電気も水道も止められた時は、銭湯で身を清め、緊急事態用に常備していた蝋燭に火を灯しながら酒を飲み続けて夜が明けるのを待ったこともあった。まあ総じて、帰京後の私生活は滅茶苦茶だったが、当時は嫁も恋人もいなかったので自分のだらしなさを自覚することもなく、応急処置で切り抜けていたものだ。ただただ若かった。でも怖い者知らずだった!いつも次のバザール開催地のことで頭がいっぱいだった。(つづく)


■原宿ロックンロールドリーム第25回
地方のロックファンが導いてくれた新境地~「ロックンロール・バザール記」③
■原宿ロックンロールドリーム第24回■
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第23回:「全国33都市縦断ツアー/ロックンロール・バザール」苦難の船出

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原点に返れ!ミュージックソフトの再強化とロックンロール・バザール
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