NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.362

原宿ロックンロールドリーム
       ~ロックアーティスト専門店激闘記
 

時代が狂っていたのか、俺たちが狂っていたのか!?
バブル狂騒時代に原宿に咲き乱れたロック・アーティスト専門ショップたち!
「Love Me Tender」「Get Back」「Gimmie Shelter」「Yardbirds/World Tour」
「Gun's Shop」「Keibuy Gallery」etc

遅刻したって残業すりゃ文句ねえだろう!
血を吐くまで酒飲んだこともないヤツなんて信用できるか!
バックルームで居眠りしてようが、酒飲もうが、売上げ良けりゃ問題ねえ!
俺たちはメンフィス・マフィア直系だ、アップルレコードの社員だ、ストーンズファミリーだ!俺たちの情熱こそが会社の理念だ!!

青春の残り火を激しく燃やし尽くした、愛すべきスタッフたちのあの異常な熱量は何だったのか。


第25回:地方のロックファンが導いてくれた新境地~「ロックンロール・バザール記」③

プリンセス・プリンセスにもプロモート!

 1993年7月、日本全国縦断ツアー中の「ロックンロールバザール部隊」は北海道に上陸した。会津、山形、新潟、仙台、岩手、青森で開催したバザールの売上はどこも好調。俺は勇んで北海道へと乗り込んだ。青森県の埠頭から津軽海峡を渡るフェリーに2トントラックを積み込んだ後、ちょっと贅沢をして個室で約4時間の船旅をのんびりと楽しんだりした。

 ロックンロールバザール部隊の隊長を引き受けてから、俺は久しぶりに解放感に浸って仕事に励むことができた。売上は毎回ほぼノルマをクリアしており、全て自分の手で自由に現地プロモーションを行うことが出来る。

 問題はスケジュールが非常にタイトであること。上記の東北ツアー中に二度帰京して、本社での報告会議出席とギミーシェルターの業務を行い、そいつが終わればすぐに次のバザール開催地へ飛行機で飛ぶ。「ギミーシェルター」の後任店長がまだ決まらないようで、バザールのプロモーション期間中に時々帰京してギミーシェルターの面倒を見ていたのだ。フェリーで函館までトラックを移動させた後も、先に東京から現地入りして函館で待っているスタッフにトラックを渡してから帰京。5日後には札幌へ向けてあらためて北海道入りだ。

 その札幌への出発日当日、羽田空港の国内線出発ロビーでプリンセス・プリンセスご一行様と出くわすハプニングもあった。彼女たちの存在にめざとく気づいた俺は、図々しくも「札幌に行くんですか?」と確認した後にバザールのチラシを渡してイベント当日に来てくれるように頼んだりもした!(もちろん、来てくれなかったが~笑)
 彼女たちに負けず劣らずロックスターファッションでキメテイタ俺に、彼女たちは目を白黒!やがてプロモーターみたいな方が見えて笑える指示を出した。
「関係者の方はこれから別室に移動して下さい。あっそこのキミも(俺のこと)早く!」
サポートのバンドマンかなんかと間違われたのだろう!!

Goodtimes、Badtimes


 函館、札幌も売り上げは上々。しかしその後の小樽、室蘭は悲惨なことになった。時期的に学校の夏休みに入っており、地元の教育施設の周囲に貼りまくるプロモーション用の捨て看板がまったく効果を発揮しなかったことが要因だった。北海道や東北の教育施設の夏休みは7月に入ってからすぐにスタートすることに、関東育ちの俺も本社側も気が付いていなかったのである。

 さらに札幌でのバザール終了後に南西沖地震が発生し、北海道全土が外出自粛ムードに包まれてしまったことも大きく影響した。
 しかも現地の会場は街の中心地から遠く離れた僻地にあり、当日の来場者もまばら。慌てて繁華街まで行ってチラシを配ろうとしたものの、人通りも少なくてなしのつぶて状態だった。
 室蘭からはフェリーで青森県・八戸までトラックで移動しなければならないが、室蘭港出発の午後8時、真っ暗な海がまさに暗夜行路の様に見えたものだ。

 翌朝八戸港に到着した後、突発的に八戸から原宿までの約700キロの距離を絶対に8時間以内で2トントラックで走破しようと決意した。2トントラックは時速100キロ前後しかスピードが出せないので、アクセルは終始全開、休憩は2回が限度!そんなクダラナイ目標をクリアしてまで気分をスッキリさせたかったのだ。
 同行していたサポートメンバーのI君は、こちらの気持ちを慮ってか、「俺の命、お預けしましたよ!」と笑顔で俺の無謀な目標に賛同してくれた(笑)。


思わぬ歓迎の輪

 八戸、原宿間怒涛の8時間ぶっ放し運転を終えて本社に飛び込むと、待っていたのは若手社員たちからの「お帰りなさい」の労いだった。中にはバザールで一緒に働いたヤツラもいる。ほんの一ヶ月前まではバザール参加を毛嫌いしていた者も、笑顔で俺を労ってくれている。女子社員の中からは「私もバザールに連れてってください!」と立候補する者も出た!みんなのバザール部隊への意識がようやく変わってきてくれたことを実感したものだ。

 やがて俺を中心にして若手社員たちの輪が出来上がっていた。みんな仕事の手を止めて、バザールでのプロモ―ション中のハプニングや印象の強い来場者さんたちの話題で談笑し合った。本当に有難く、気持ちの良い光景だと思った。八戸からトラックをぶっ放して早々と帰京した甲斐があった!


突然俺なりのフィナーレがやって来た

 一週間の休憩を挟み、ロックンロールバザールは、甲府、松本を経て、北陸へと開催を続けた。
 松本から福井への移動は、標高1,500~2,000メートル級の飛騨高山の山岳地帯を走る国道158号線を使ったが、延々と曲がりくねる山道での2トントラックの運転は細心の注意が必要であり、スリル満点のドライブを体験したものだ。

 そして飛騨高山の懸河のドライブを終えて福井に到着し、福井のバザールでも好調な数字を残せた後、俺の中で何かが変った。
 あらためて地方のロックファンたちが喜んでいる姿に接することが出来て、「俺は今、人様に喜んで頂いているのだ!」という得も言われぬ快感が一段と新鮮に感じられたのだ。
 「ロックンロールバザール」を率いる前の俺は物書きバカ、メディア編集バカであり、自分のやりたいことを発信する喜びだけに浸っており、お相手がどう感じているかなんかは二の次、三の次だった。そんな自分の愚かさを、地方の純粋なロックファンたちが気が付かせてくれたのだ。また自分がどんなに楽しんで、喜んで仕事をしていようが、周囲の人間は必ずしも同じではない、場合によっては迷惑がられているという当たり前の事にも気が付かされた。
 そこまで考えが及んだ時、何だか社会人として自分がひとつ脱皮したことを実感したし、それと同時にロックンロールに対する愛情の在り方が大きく変わってきた。
 「ロックンロールは俺の人生を変えてくれた。コイツがあれば人生怖いものはない」と純粋ではあるがオコチャマ的情熱を爆発させながら仕事をこなしていたが、「ロックンロールバザール」での様々な体験によって、ロックンロールと自分の人生とをある程度切り離して考えることの出来る、いちロックファンに戻るべきであることを悟った。まあ大人になったってことだろう。原宿で夢見た「ロックンロール・ドリーム」への情熱の残り火だけを頼りにロックンロール・バザールを遂行していたが、バザール終了とともに退職を決意するに至った。

 なお、福井でのバザールは、元ラブミーテンダー店員で福井の実家に戻っていたT君が現地採用のアルバイトとして大いにプロモーションに協力してくれたお陰で大盛況となった!
 「福井でもロックグッズが売れるってこと、どうやったら売れるかってことが分かりました。自分でやってみようと思います」と言ったT君は、2年後に本当に福井市内でロカビリーと映画のグッズを取り扱う店舗「グッドフェローズ」をオープンさせ、見事に経営を軌道に乗せた。

 また四国のバザールにおいては、それまでバザールに参加したことのなかった通販担当のE君が、徳島県と高知県のプロモーションに参加してくれるというサプライズもあった。
 E君は見かけはヘヴィメタル青年そのものだが物静かでぶっ飛んだところがなく、ある意味で他の若手社員とは相容れないキャラクター。しかし非常に礼儀正しくて業務に生真面目であることから代表のお気に入りだった。
 E君は将来の新たなるイベントツアー開催の為の研修としてバザール部隊の体験を自ら申し込んだのかもしれないし、そうした前向きな発想の出来る人物だった。そして売上促進の為のプロモーション活動に大いに貢献してくれた。(つづく)


■原宿ロックンロールドリーム第24回■
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■原宿ロックンロールドリーム第23回■
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原点に返れ!ミュージックソフトの再強化とロックンロール・バザール
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