暑中お見舞い申し上げます。
今年の夏も日本は各地で大変な猛暑に見舞われておるらしいな。「ロッカーたるもん、“暑くて死にそう”なんて口走るでない！情けねえぞ」とは言わんぞ。40度前後なんて人間が活動出来る気温ではないもんな。わしらの少年時代、青春時代にも夏はあったが（当たり前じゃ！）、夏の暑さ自体が問題視されたことはなかったし、熱中症なんて言葉すらなかった。しかしあの頃と現代の暑さは気温差もさることながら、暑さの質が違うらしい。日本在住の知人が言っておった。「もうね、風鈴とかスイカとか冷ソーメンとか蝉時雨とか、夏の風物詩なんて存在出来ないというか、邪魔でしかないような、もうどうしようもない暑さ」らしいのお。
猛暑に苦しむ日本の諸君に何もして差し上げることが無いが、ひとつ古典的な暑さ対策である「怪談（幽霊ばなし）」をかましてしんぜようか。以下お暇な方は読んで下せえ！
わしはおよそ霊感っつうもんが薄い人間であり、幽霊さんに出くわしたことも、寝ている間に金縛りにあったり怖い夢にうなされたこともない。天下泰平、お気楽極楽人間なんじゃが、たった一度だけ例外があったのじゃ。

あれはわしが9歳、小学校3年生の時の9月じゃった。当時親父は海外赴任中。姉貴も大学通学のために東京都内に下宿中じゃった。お袋とわしは横浜市内で2人暮らしをしておったが、お袋が交通事故に遭って入院することになった。急遽九州から祖母が呼び寄せられることになったが、お袋の入院から祖母の到着まで確か4～5日のタイムラグがあり、その間はわしは一人で家に寝泊まりする事態になった。生まれて初めての“早過ぎる”一人暮らしじゃ。下校途中に病院へ立ち寄ると、わしを不憫に思った看護婦さんたちが入院患者用の食事を分けて下さったり、院長先生がお菓子を下さったりした。それを平らげてから一人で家に帰り、翌朝学校に行っておった。
祖母が到着する前夜だったと思うが、居間でテレビを見ながらいつの間にか寝落ちしてしまった。深夜何かの気配を感じて目が覚めた瞬間、目の前から白い女性の足がすぅ～と消えていった。薄桃色の肌じゅばんの様な着物の裾も見えた。わしは「あれ？姉ちゃんが帰ってきてたのかな？」と思って起き上がったが、家の中にはわし一人じゃった。眠気が覚めてから驚いたのは、居間で寝落ちしたはずなのに、目が覚めた場所が自分の部屋だったことじゃ。居間に戻ってみるとテレビはつけっぱなし、居間や廊下の電灯もつけっぱなしじゃった。一体どなたさんが居間で眠ってしまったわしを部屋まで運んだんじゃろう・・・。あれから半世紀以上の時が経ったが、女性の白い足が目の前で消えたいった光景を今でも総天然色ではっきりと覚えておる。
翌日の放課後に病院へ行って、前夜に体験した不思議な出来事の始終をお袋に話してみた。最初は「お前、寝ぼけていただけじゃないの？」と入院してから初めてお袋は笑ったが、やがて「母さんの生霊（いきりょう）が現れたのかもしれない」「お前の事が心配で心配で、その気持ちが生霊になったに違いない」と。生霊とは、生きている人間が居るはずがない場所に現れる姿である。もちろん、生霊と言う言葉はその時に初めて知ったのは言うまでもない。まあ怪談というよりも、海より深い母の愛から生じた超自然現象のお話でありました。

どうです？少しは涼しくなったかのう？いや～披露したわしの方が寒気を覚えて鳥肌が立ってしまったわい（苦笑）このハナシを成人してから姉貴に話したところ、「それって、家に帰らなかったアタシが薄情だったって言いたいわけ？」って不機嫌にさせてしまい、その予想外の反応に弱ってしもうた(笑)それでは皆様の無病息災を心より願っておりますので、どうかご自愛下さいませ！お買い物もよろぴく！