NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.218


 「5月5日は子供の日だけど、大人だって遊んじゃいましょ〜」
 先日ボスがトップページのウインドウでそうツブヤイテおったが、ロックの魅力のひとつはまさにソレ! いい大人も目一杯エネルギーを炸裂させられるのがロックなのじゃって、思わず膝を叩いてナットク。 開放Dayにいらした方々は、さぞかし満足され、充分過ぎるほど目の保養もされたに違いない。
 行けなかった方も落ち込む事なかれ。 The-Kingのロックスピリットは年中無休なので、自ら訪問の機会を作ってThe-Kingにアタックしてくれ!

 「大人になってもロックを真剣に楽しむ!」さしずめ、そいつを長年にわたって自ら体現していたバンドが、今年デビュー50周年を迎えたザ・フーじゃ。 “意義のある反抗”“成果のある新しい試み”を実行してきた彼等こそ、ロック小僧のまま成人、そして老成した「生涯ロッカー」そのものなのじゃ。 前回に引き続き、ザ・フー「デビュー50周年に寄せて」をやらせて頂くので、よろしくな!
 ザ・フーというバンドの歴史には、「ロック界初、唯一」という要素が実に多くて、それは時々の音楽業界の通例、常識を覆す「真の反抗/反逆」である!っつうことを前回力説したが、まだまだ「反抗/反逆の続き」があるので更にブチカマシテみよう!
 日本ではビートルズやローリング・ストーンズの存在の陰に隠れてしまっておるザ・フーじゃが、より長い目、広い領域でザ・フーの歴史を見渡せば、後世のロックバンドへの影響力は彼等が“ロック史上最大”と言っても過言ではないのじゃ!



ザ・フー・デビュー50周年に寄せてA
流行迎合と予定調和を拒否し続けた、
ザ・フー「真の反逆性」を辿る!(後編)


■ロック・バンドとしては異例の“対位法”を貫く!■
 ザ・フーのメンバー4人全員が強烈な個性の持ち主であり、ボーカリスト(もしくはリーダー)のみが目立つ従来のバンドとは異なった集合体であることは前回ご紹介済みじゃ。 そして4人の個性のぶつかり合いは、その演奏にも見事に反映されていた。 彼らの演奏は終始一貫して「歌と演奏」ではなかったのじゃ。 ヴォーカル+ギター+ベース+ドラムでガッチリとスクラムを組んだ演奏の迫力は60年代にデビューしたバンドではザ・フーが最強じゃ!
 この演奏スタイルは、リーダーのピートに言わせると「クラシック音楽の対位法」というヤツらしい。 難しい音楽理論は避けるが(分からんし!)、ウィキペディアの説明を引用すると次の通り。

「どのパートが主役かということは不明瞭で、それぞれのパートが対等であり、それぞれが独立性を持った旋律を奏でる。 このように独立性を持ったパートを声部と言う。 ポリフォニー音楽(対位法)においても複数の旋律が同時に演奏されるので必然的に和声が形成されるが、ポリフォニー音楽では和声よりも各声部のメロディの流れにより重きを置く」

っつうこっちゃ!? ロックのプレイにこの対位法的方法論を導入したのは、60年代末期のジェフ・ベック・グループ、もしくはレッド・ツェッペリンと言われておるが、正確にはザ・フーなのじゃ。 さしものビートルズやストーンズも、生演奏の迫力ではザ・フーの敵ではなかったのは、実はこの対位法演奏によるものじゃ。 もちろん対位法が成立するだけのメンバー4人のプレイヤーとしての力量が凄かったということじゃ。


■シンセサイザー・サウンドの先駆者■
 「ザ・フーは実はプログレッシブ・バンドでもあった」と、これまた前回書いた事じゃが、そう言い切れる所以は彼らがいち早くシンセサイザーを導入したこともあるのじゃ。
 シンセと言えば、キング・クリムゾンやEL&Pといった生粋のプログレバンドの専売特許のように思われておるが、ザ・フーはリード&リズム楽器としてシンセを採用し、後にヨーロッパを中心に一大ブームになるコンピューター・サウンドのベースとなるスタイルを70年代の初頭にやり遂げてしまった。 それは名盤『フーズ・ネクスト』収録の2曲「ババオライリィ」「無法の世界」でしっかりと聴ける!
 ただしザ・フーはあくまでもロックンロール・バンドであるので、シンセの“ピコピコ”が耳障りにならずに“遊びながら鍵盤をブッ叩いている”様に聞かせてみせたのが見事じゃった! ザ・フーが披露した“シンセで遊ぶ”フィーリング、スタイルこそがシンセサイザー全盛時代の幕開けを呼んだのじゃ!



■反逆性と遊び心がミックスされたジャケット・アート■

 次にザ・フーのアルバム・ジャケットにも触れておこう。 先述の『フーズ・ネクスト』のジャケットこそが彼らの反逆性の象徴じゃ! (左斜め上)ジャケット写真をよく見てほしい。 真ん中のコンクリートの物体は体制の象徴であり、外壁には四ヶ所のシミがある。 それはメンバーがかけた“おしっこ”なのじゃ!
 メンバーの仕草を見ると、みんな用を足した直後の様な仕草をしとるじゃろう。 これこそが遊び心満載のザ・フーの反逆性なのじゃ。 何とも愉快ではないか! 革命の旗を振ったり、大衆を先導するような“これ見よがし”の反逆的なデザインではなくて、“アイツ等(体制)気に食わねーから、チョックラからかってやっか!”ってセンスがタマラン!

 またプロフェッショナル・ロッカーの敵であるブートレッグを意識した『ライブ・アット・リーズ』『ザ・フー・バイ・ナンバース』のジャケも痛快! これは手抜きではなくて立派なロック・アートじゃよ!
 『セル・アウト』のコミック性も微笑ましくていいではないか! ロック・スターは“あくまでもカッコよく”なんてクソくらえ!ってな自虐的ユーモアをかましたのも、ザ・フーが最初! 大上段に振りかぶった“〇〇イズム”をジャケット・カバーに採用せず、ちょいとヒネッタ変化球でキメてみせるセンスも、ザ・フーはロック界最強じゃ!!

■バンド全盛期間中にメンバー全員がソロアルバムを発表!■
 何から何までやりたい放題の自由奔放路線で突っ走っておったザ・フーじゃったが、70年代前半の一時期、彼らは諸般の事情によりメンバー間の関係が悪化。 普通のバンドなら「やれ、誰それ脱退か」「やれ、解散か」とか周囲は色めき立つもんじゃが、ザ・フーの場合は実にクール。 「仲が悪けりゃ、バンドを休ませときゃいい!」とあっさり活動休止宣言をして、その代わりに4人のメンバー全員がソロ・アルバムを発表! こんな事例も当時のロック界では前代未聞じゃった。
 セールス的にはバンドのアルバムには及ばなかったものの、制作費の赤字は潔く自腹を切ったりするなど、各メンバーは精力的にソロアルバムの制作を続けた。 1983年に最初の解散時までに発表されたソロ・アルバムは次の通り。

 ・ロジャー・ダルトリー〜Daltrey (1973年) Ride a Rock Horse (75) One of the Boys (77) McVicar (80) Parting Should Be Painless (84)
 ・ピート・タウンゼント〜Who Came First (72) Rough Mix (77)  Empty Glass (80) All the Best Cowboys Have Chinese Eyes (82) Scoop (83)
 ・ジョン・エントウィッスル〜Smash Your Head Against the Wall (71)  Whistle Rymes (72) Rigor Mortis Sets in (73) Mad Dog (1975) Too Late the Hero (81)
 ・キース・ムーン〜Two Size of the Moon (75)

 豪華客演あり、重厚な文学的作品あり、正統的ロック・サウンドありの多彩なラインナップなので、機会をあらためてわしのオキニをご紹介することにする。


■「英国王立空軍のラウンデル」「ユニオンジャック」をまとい続けたロック・バンド■
 ザ・フーのメモラビリア、アート作品、キャラクターズ・グッズの多くは、「英国王立空軍のラウンデル」(円形ロゴマーク)「ユニオンジャック」(英国国旗)があしらわれておる。 反体制的ロック・バンドの代表であったザ・フーがイギリスの古色蒼然とした王制に忠誠を尽くしておるようで、わしも若い時分は大いに理解に苦しんだもんじゃ。 もっとも「英国王立空軍のラウンデル」は、ザ・フーを最初にリーダーに祭り上げた「モッズ」のシンボル・マークでもあったし、モッズがこいつを掲げた頃から、どうにも腑に落ちなかった。
 ザ・フーほど大英帝国そのものにこだわったバンドはいなかった。 彼等の活動ドキュメント番組『キッズ・アー・オールライト』のサントラ盤のジャケットにおいては、ついにユニオンジャックのフラッグで自らを包み込んでおるのじゃ! ロックバンドとしては、誠に不可解であり、これまた前代未聞のアクションじゃ。

 「英国王立空軍のラウンデル」や「ユニオンジャック」というのは、いわばかつて世界を制覇していた本当の意味での「大英帝国」のシンボルじゃ。(「ラウンデル」は「ユニオンジャック」を円形に変形させたもの) モッズのスローガンやザ・フーの活動理念の奥底には、過去の栄光にしがみつき、怒れるヤングを生み出さざるを得ない衰弱したイギリス国家の現状に対するアンチテーゼであり、翻って言えば、真に強い大英帝国の復活への願いがあるのじゃ。
 だからザ・フーは「ラウンデル」と「ユニオンジャック」に最後の最後まで拘ったのじゃ。 ラストライブ『フーズ・ラスト』のジャケット“燃えるユニオンジャック”は、“再び燃え上がれイギリス”と“古き栄光なんざ一度燃え尽きてしまえ”のダブルミーニングじゃろうな。


 現在ザ・フーは「50周年記念ツアー」をアメリカで行っており、来たる5月20日には「マジソン・スクエア・ガーデン」と並ぶニューヨークの“音楽の殿堂”である「ナッソー・コロシアム」が会場としてブッキングされておる。 もしエルヴィスが生きていたならば、命日の6日後にコンサートが行われておった場所じゃ。 ザ・フーはまだまだアメリカのアリーナを満杯に出来るだけの巨大な人気を誇る現役バンドなのじゃ。 “リード・ベース”のジョン・エントウイッスル、“リード・ドラム”のキース・ムーンは既に鬼籍に入っておるものの、フロントマンのロジャー・ダルトリーとリーダーのピート・タウンシェンドの2人でシーンを突っ走ろうとしておるのじゃ。 

 ピートは「このツアーが終わったら、もう解散サ」「いい年して、ロックなんてやってらんねーよ」なんて言っておるけど、過去に何度も聞かされてきたご挨拶みたいな文句なんで、ファンは誰一人として信じてはおらんじゃろうな!(笑)
 永遠の怒れるヤング、永遠のロックンロール・バンドは、例えロジャーとピートまでこの世にオサラバしてしまっても現役であり続けるに違いない! カッコイイおやじ、カッコイイじじい、そしていつの日かカッコイイ仏!? ザ・フーが死んでしまうことは絶対にない!



七鉄の酔眼雑記 〜ザ・フーのオススメ盤について

 本編ラストでザ・フーのオススメ盤を取り上げようと思うたが、前編で申し上げた通り、アルバム毎に内容がまったく異なるのでなかなか難しいわい。 オリジナル・アルバム各々が別バンドのアルバムと言ってもいいくらいじゃからな。
 現在継続中のわしのコラム「云十年前のロック」の中で『ロック・オペラ・トミー』と『ライブ・アット・リーズ』を紹介しておるので、この2枚に関してはそのコラムVol .188Vol.211を読んでくれまえ。 まあこの2枚と『フーズ・ネクスト』はテッパン!
 『フーズ・ネクスト』は、メロディアスなサウンドが多く、ザ・フーの情緒的側面がもっとも露わになったアルバムであり、ビギナーは聴きやすいアルバムではあるが、ラストの「無法の世界」はラフでルーズなロックンロールの大曲。 長らくライブのラストナンバーとして定番になっておった。

 『トミー』と双璧を成すコンセプト・アルバムの名盤『四重人格』は、映画『さらば青春の光』のサントラ的内容で、やはり『トミー』同様に物語性が強いので、映画を先に観ておかないと魅力が半減するかもしれなので要注意。 また正式な同名サントラ盤があるのでお間違えのないように。 正式サントラ盤の方は多少演出過剰なアレンジなので、作品『四重人格』の音楽を純粋に楽しみたいのであれば、このサントラは後回しにした方がいいと思う。
 音質の良いライブ・アルバムなら、83年のラストツアーが収録された『フーズ・ラスト』。(Vol.193参照)すさまじく荒削りなハードロック・ライブ『ライブ・アット・リーズ』から10余年、成熟したロックンロール・バンドとしてのザ・フーの丁寧な演奏が満喫できるぞ。
 
 『トミー』発表前の、若くてハツラツとしたザ・フーを手っ取り早く聞きたいのであれば、68年発売のベスト盤『ダイレクト・ヒッツ』か、71年の『ミーティ・ビーティ・ビッグ・アンド・バウンシー/Meaty Beaty Big And Bouncy』。 それに『ファースト・アルバム』を忘れずに! 90年代以降に発売された他のベスト盤は、バンドの全キャリアを網羅したアンソロジー的ベスト盤なので、注意されたし。



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