NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.327

 わしが初めて東南アジアを旅した約20年前、どこの国でも欧米人が大勢集まるバービアに出演する現地のロックバンドのレベルはおっそろしく低かった(笑) 楽器もろくすっぽ弾けないし、ボーカルだってダイナマイトシャウトオンリーのわしが評価するのもチト気が引けるが、下手なもんは下手!
 当然彼らはロックのコピーバンドじゃが、レパートリーも決まり切っておって「おめーらも“その曲”かよ」って感じ。 極端に言えば、「ロックをやると女の子にモテル」って理由でバンドを始めた昔の日本の学園祭に出てくる連中レベルじゃったよ。

 それが20年経ったら随分と上達しておったし、コピーするレパートリーも豊富になった。 相変わらず「ホテル・カリフォルニアをやれば欧米人客は喜ぶだろう」という勘違いはあるけどな!
 でもわしのようなマニアにしてみれば、やっぱり意外性のない選曲であり、原曲に忠実過ぎるアレンジで迫力がなくて全然オモシロクない!

 21世紀になってからは、欧米の若いロックバンドたちはコピーというかカバーをどんどん発表するようになったが、聞き直してみるとこれまた完全コピーの焼き直しってレベルのものが多い。 それが21世紀のリスナーに求められているという判断の元での発表なんじゃろうけど、どうせコピー/カバーするなら度肝を抜かれるようなスタイルでやってくれんかな~ってのがわしの本音。 上手にはなったタイのコピーバンドを聞きながら、そんなフラストレーションに駆られてしまった七鉄、今回は好き嫌いは別としてロックファンと唖然とさせた衝撃(笑劇)的カバーソングを集めてみた!
(写真上/レイ・デイビス&デヴィッド・ボウイ)
(写真右/ロッド・スチュワート&ロバート・プラント)


“ふんどし借りる”なら、ここまでやっちまえ!度肝を抜かれたロック名(迷)カバーソング30選(前編)


♪tune1~You Really Got Me/Van Halen
 ロッククラシック最大の衝撃的カバーと言えばコレじゃろう。 確かに、間違いなく、逆立ちして聞いてもカバーなんじゃけど、実質新曲ととらえてもいいほどの完璧なハードロックバージョン!
 作曲者のレイ・デイビスも「もうヴァン・ヘイレンの曲って言っていいんじゃないか」と兜を脱いだほどのトンデモナイ出来栄えじゃった。 超頑固なわしもあきれ返ったというか、古い曲に新しい生命を吹き込むってのはこういうことなんだなって理解するまでにそれほど時間はかからなかったわい。

♪tune2~ Waterloo Sunset/David Bowie
 キンクスの名カバーをもう1曲。 原曲はタイトルの通りウォータールーという美しい街のサンセットを歌った控えめな情緒が横溢するバラードなんじゃが、カバー名人のデヴィッド・ボウイが2003年に突然アグレッシブでアップテンポなアレンジをかまして発表!
 ボウイはかつて発表したカバーアルバム『ピンナップス』の中でもキンクスの「グッドタイムゴーン」を原曲の味わいを損なわないようにやっておるが、こっちではクラシックカーに現代エンジンを積んで走らせたような豪快なる出来っぷりじゃあ~。

♪tune3~Hey Joe/Band of Joy
 ロックファンの中でこの曲はジミ・ヘンドリックスのカバーがもっとも有名じゃろうが、あれはわしはよぉ分からんな。 アルバムを聴く時でもトバシテしまったりする。
 そこで、レッド・ツェッペリンのヴォーカルであるロバート・プラントがツェッペリン結成前に在籍していたバンド・オブ・ジョイで残したカバーテイクをかまそう! オリジナルのウィルソン・ピケットのすさまじい声量でさえ超越してしまう、若きロバートのものすごいヴォーカルが聞ける!
 今回紹介するのは、ロバートのソロ・ベスト盤に収録されておったデモ・テイクの方。 こっちは正規テイクよりも更にヒートアップしておる! ちなみにドラムはジョン・ボーナムらしい。

♪tune4~ Summertime Blues / The Who
 これは衝撃と笑劇のダブルパンチを食らったロック史上に残る迷カバー! 最初に聞いた時は「there ain’t no cure for the summertime blues」ってトコにくるまで何の曲じゃか分らんかったわい。
 麗しのエディ・コクラン・ナンバーを、ここまでズタズタに分解してワイルドに組み立て直すなんて到底考えられない、いや許されない時代(60年代末期)じゃっただけにぶっ飛んだわい。 でもしばらくはコレを聞くたびに笑い転げたくなったもんじゃ。 まあこの曲の構成の源流を辿れば笑い転げてもいいじゃろう(笑) そういう意味でもスゴイカバーじゃ。

♪tune5~ C'mon Everybody / UFO
 UFOってのは、後にマイケル・シェンカーが加入しなかったらブレイクはなかったと思われるが、このカバーはマイケル加入以前に録音されておる。 当時の様々な雑誌のレコード評ではごぞって「コクランを冒涜するようなヒドイカバー」って書かれておった。 エディ・コクラン独特の魔法のような色彩感溢れるパフォーマンスからすれば、暗闇の中でぶつくさホザイテおる様なカバーじゃから袋叩きに遭っておったんじゃろう。
 時が経ってみて「カモン・エブリバディ!」ってスピリットの裏側ってのは、野郎によってはこんな心情もあるんではないか、と思わせてくれるダーク&サイレントなカバーで悪くねえ。 まあ生粋のフィフティーズロックファンなら、やっぱり「ふざねんじゃねー」じゃろうけど。

♪tune6~Love Hurts/ Nazareth
 評判の悪かったカバーをもうひとつ。 この曲のオリジナルはエヴァリーブラザースで、後に夭折した名フォークロックシンガー、グラム・パーソンズの名唱でロックファンにも有名。 そしてグラム・パーソンズの次にカバーしたのが、70年代のB級ハードロックバンドのナザレス。
 まあ品が無いと申しましょうか何と申しましょうか、原曲はハードロックワールドとは別世界にあるんで到底無理のあるこの出来もショーガネーってところか。 70年代特有のモロにシングルヒットを狙った甘ったるいアレンジがキモチワルイが、原曲の良さは辛うじて残されており、ナザレスを通してエヴァリーブラザースやグラム・パーソンズに興味を持った人もわしのまわりに何人かおった。

♪tune7~Still I'm Sad/ Rainbow ヤードバーズのオリジナルはロック版葬送行進曲みたいなくら~いノリ。 ホント、ヤードバーズって一般的イメージとは裏腹にいろんなタイプの曲をやってしまうそのバラエティさはビートルズと同等じゃろうな。
 今聞いても異色のロックというかポップスじゃけど、メロディ自体の美しさに着目したのか、ディープ・パープルを脱退したレインボウを結成したリッチー・ブラックモアがインストとして、更に俄然スピードアップさせてほとんど別の曲に仕立て上げてしまった! ライブではこのスピードのままヴォーカルをぶち込んでハイライトとしてセットしておった。 80年代のFEN放送のエンディングテーマに使われておったのが懐かしい。

♪tune8~Lucille/Deep Purple
 ディープ・パープルがリトル・リチャードだって!?って意外な方も多いじゃろうが、イアン・ギランが在籍しておった第二期でのステージのアンコールはこの曲じゃった! さしもの自信家のリトル・リチャードも、イアンのシャウトには敵わないって思ったかどうだか。 
 ライブ映像をチェックすると、普段は気難しいツラをしているパープルのメンバーが結構ノリノリじゃな。 ハードロックの王者パープルとはいえ、彼らの心の故郷もまた、ロックンロールだったのじゃ。

♪tune9~You're No Good / Van Halen
 はい、ここで再びヴァン・ヘイレン。 「You Realy~」の成功で味をしめたか、彼らは今度はワケノワカンナイカバーをやった。 オリジナルはソウルシンガーのディーディー・ワーウィック、大ヒットさせたのはご存知リンダ・ロンシュタッドじゃけど、このカバーはまさに奇妙奇天烈で「なんじゃ、こりゃ?」。
 一応ハードロック的アレンジなんじゃけど、もはや原曲の体を成してないし何だか心筋梗塞になりそうな聞き心地の悪さ!?「悪いあなた」というよりも「悪い冗談」じゃよ、コレ。

♪tune10~My way/Sid Vicious
 前曲が「悪い冗談」ならば、こいつは史上最強のロックンロール・ジョーク! 音楽や文化の伝統、偉人たちへの敬意も感謝も全く感じさせない胸糞の悪さとお笑いが奇跡的に合体したパンクロックの傑作!? 
 セックス・ピストルズ解散後に発表されておるが、ピストルズの仕掛人マルコム・マクラーレンの提案によって実現した希代の迷パフォーマンスであり、無一文寸前だったシドは、この曲のギャラで食いつなげたらしいが、と同時にヘロを入手した挙句に死去。 音楽の神様からの罰を受けたのかもしれん。 人間は自由じゃが、“やっていい事と悪い事がある”という典型じゃったのか。 

♪tune11~ Gimmie Gimmie Gimmie/Yngwei Malmsteen
 21世紀になってから、一時期メタル系バンドが手あたり次第かつての名曲やヒット曲をカバーするようになったが、そのハシリはコレか?
 ロック界の超ワガママ・ナルシストなギタリスト、イングヴェイが珍しく謙虚に「スゥエーデンの偉大なる先輩アバに捧げる」とかなんとか言っちゃって、アバの大ヒット曲をゴリゴリのメタルサウンドでカバー。 オリジナルのクラシック・スコアのギターインストアルバムを製作したり、まあ「俺様に出来ないことはない」っつうゴビョウキがもっとも激しかった頃の一曲じゃ。

♪tune12~With A Little Help From My Friends/Joe Cocker
 ビートルズのリンゴスターがトボケタお声でほのぼのと歌っておったけど、それをこともあろうに「シンガーにならなかったら人殺しになっていただろう」なんてブッソーな迷言で話題を呼んだこともあるパワーソウルシンガーのジョー・コッカーがカバー。
 スローカントリー風の原曲の根底にあるソウル・スピリットをジョーが察知して引っ張り出したともいえる激唱であり、ウッドストックでのエアギター・アクションを交えて歌ったパフォーマンスも有名じゃ。 リンゴはもとより、作曲者のポール・マッカートニーもビックリ仰天したに違いない!
 これは余談じゃが、ウッドストックでのジョーのパフォーマンスをパロディにしてセンセーションを巻き起こしたのはジョン・ベルーシ! ポールはベルーシのパロディをいたく気に入って、一時期毎年のクリスマスパーティーに必ずベルーシに招待状を出したとか!?

♪tune13~Every Little Thing / Yes プログレバンドってカバーはやらんって印象が強いが、1曲思い出したわい。 カバーっつっても、オリジナルのビートルズ通りにちょこっとやったりしながら?得意のインプロビゼーションをぶち込むってな具合で方法論としてはなかなかオモシロイし、これもまたプログレッシブ!自分たちの得意技の序章みたいにビートルズを扱っておるわけじゃ。
 じゃあなんでこの曲なのかっつうのはわしもわからんし、イエス自身の言及も見当たらないから、イエス独自の勘ってことにしておこう。 プログレでもハードロックでも長いインプロビゼーションの中にちょこっと昔の名曲の名フレーズを挟み込むのは後に流行ったけど、案外その源流?いや、違うか!?

♪tune14~You Shock Me / Led Zeppelin
 初期のツェッペリンの楽曲の大半は実質ブルースのカバー(リメイク)と言われておるが、こいつはジェフベックグループが先にカバーしたテイクを更に改編したカバーというパターンじゃ。 ロッド・スチュワートとロバートプラントと、どっちが正味ブルースシンガーか?なんて論争したのが懐かしい。
 この2人の優劣よりも、何度も聞いておるとジェフとジミーのそれぞれのブルースへのスタンスの違いが分かってくる。 それにどっちが商売センスがあるかってのも!(笑) またツェッペリン・バージョンは、ブルースを土台にして如何にニューハードロックをやるかっつう理念の骨格が明確に聞こえてきたんで恐れ入ったもんじゃ。

♪tune15~Pipeline Stevie Ray Vaughan
 前編ラストは胸のすく様なカバーを。 ご存知ベンチャーズの有名曲じゃが、SRVの神業的ギターにかかるとオリジナルも形無しじゃな! わしはエルヴィス~ビートルズ/ストーンズ~ドアーズという軌跡でロックにのめりこんでいったパターンなので、こういうヤツはベンチャーズとは無縁なんじゃけど、このカバーでベンチャーズの良さの入口くらいは覗かせて頂いたかのお。
 まあクラプトンは興味ねーじゃろうし、ジェフ・ベックはそもそも聞いてないじゃろうし、ジミー・ペイジじゃ弾き切れないじゃろうし(笑)、ロックギタリストには縁の無さそうな曲じゃけど、SRVは見事に自分のトーンでやっておる!


 昔のロッカーってのは、図々しいというか、身勝手というか、度胸があるというか、メッチャクチャやってますな。 偉大なる名曲をキサマラ何と心得とるんじゃバカモノ!とは言わんぞ、わしは。 ロッカーってのはこれでええ。 他人がやった曲だろうが何だろうが、オレ様にかかればもっとスゲー曲になるんだ!っつう狂気にもにた気概をわしは大いに買っておるのじゃ。 ロッカーなんつうのは、皆んなそうやって大きくなっていったのじゃ!

 ってことで前編はこれでオシマイ。後編がネタ切れの迫力不足にならんよう、すぐにでもセレクトに取り掛かりますんで、次回もヨロシュー!




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