NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.317


 
ハロ~諸君! お部屋の全体の風通しをよくするために、つい先日に今のアパートに入居後初めて模様替えをしたんじゃ。 タイの賃貸アパートは、通常ダブルベッド、クローゼット、鏡台が備え付けであり、更にアパートによって別の付帯家具がある。 わしのアパートはデスク&チェアがサービスされておる。 まあこれらの家具の位置を変えたわけじゃが、模様替えをやっていてもイマイチおもしろくないんじゃな。

 何故おもしろくないんじゃろう。 やがて理由が分かった。 CD(レコード)も書籍も、それらを収納するラックも、ポスターや置物なんかの装飾品もまったくないからじゃ。
 たくさんのThe-Kingファッションのコレクションだけは日本の実家に預け、2014年に人生二度目の断捨離をして日本を出国した。 今は大型スーツケースとショルダーバッグ1個に詰める物しか所持品がないもんな。 なんか急激にレコードや書籍に溢れていたかつての自分の部屋がなつかしくなった! 模様替えなんざテキトーに済ませて、その後は酒タイムにスイッチが入った!!(笑)

 それにしても、なんで30~40年前はあんなに気が狂ったように欲しいレコードを探し続けていたのじゃろう。 レコード・コレクターへのスイッチは、どこでどうやって入ってしまったのじゃろう。 遠い記憶を辿っていったところ、わしをその道に引きずり込んだ決定的なブツ2つを思い出した! そのブツってのを、今回諸君に紹介してみたい。


七鉄少年をレコード・コレクターに豹変させた忘れ難きバイブル2冊
「ロッキンF~ロック・ファイル」「Rock Family Trees」


■ 「ロッキンF~ロック・ファイル」について その1 ■ 

 時は今から丁度40年前の1979年。 日本は洋楽雑誌全盛時代を迎えておった。 「ミュージック・ライフ」「ロッキン・オン」「音楽専科」「The Music」「Jam」「Fool's Mate」「レコード・コレクターズ」「ミュージック・マガジン」等々。 「週刊FM」「FMファン」「FMレコパル」のFM雑誌も洋楽記事がメインじゃった。
 わしは可能な限り全ての雑誌を本屋で立ち読みしながらむさぼるように情報を集めておったが、毎月必ず購入していた雑誌があった。 そのひとつは「ロッキンF(エフ)」。
 「F」とは弦楽器のF字ホールから引用じゃと思うけど、どちらかというと楽器の専門紙的内容であり、楽器がほとんど弾けなかったわしには無用の代物のはずじゃ。 しかし「ロッキンF」には毎月わしをくぎ付けにして、ページ数わずか10ページ程度なのに手元に置いておきたくなるような連載コーナーがあったのじゃ。 それは「ロック・ファイル」。

 「ロック・ファイル」は、ひとつの有名バンド、各メンバー、全デスクグラフィーが素晴らしい筆力をもつ解説陣によって紹介される。 最初に取り上げられたバンドは確かディープ・パープルだった。 ディープ・パープルにはあまり興味のなかったわしが思わず読んでしまうほどの解説力じゃったからよく覚えておる。
 しかし、わしがこの連載に本当に興味を持ち始めたのは第2回目以降。 そこから何が始まったかというと、ディープ・パープルに参加した全メンバーについて、各人がパープル加入以前、脱退以降に製作したり、セッション参加した全てのアルバムが紹介されていくのじゃ。
 例えばこの連載によって、ギタリストのリッチー・ブラックモア個人のディスクグラフィーを知ることが出来るのじゃ。 たとえリッチーが1曲だけセッション参加したアルバムさえも、その概要を知ることが出来るのである。 これは今にして思えば、日本の洋楽雑誌史上で画期的な連載じゃった!

 やがて「キング・クリムゾン」というプログレ・バンドの連載が始まった。 キング・クリムゾンはアルバム毎に参加メンバーの出入りが激しいだけに、参加メンバーがクリムゾン以外で残してきたアルバムの紹介は多岐に渡る。 クリムゾン自体はプログレじゃが、メンバーが関わってきた経歴は、ジャズありブルースありロックンロールありなので、「クリムゾンとこのバンドが繋がるのか!」って予想もしないアルバムが登場してきたりする! わしゃ~もう夢中になって読んだもんじゃ。 ロックマニアに成る為にはこれ以上ない資料だったんじゃよ!
 一例を挙げると、クリムゾンのアルバム「アイランズ」のベース兼ボーカルはボズ・バレルという方で、クリムゾン脱退後は70年代中期から80年代にかけて大活躍したロックンロールバンドのバッド・カンパニーに参加する。 つまりプログレのクリムゾンの記事から畑違いのバッドカンパニーの記事を突然読むことになる!
 またボズ・バレルはクリムゾン参加以前、脱退以降にジャズ系アーティストのアルバムにセッション参加していているから、存在すら知らなかったそのジャズ系アルバムの内容も知ることが出来たりするのじゃ。
 更にレコード解説には、可能な限りセッション参加したメンバーまで丁寧に表記されているので、その中で「コイツ、こんなアルバムに参加してたんだ!」って驚いたりする。 この意外性の連続がタマラナカッタ!


■ 「ロッキンF~ロック・ファイル」について その2 ■
 この「ロックファイル」の部分だけ切り取って、随分と長い間ファイリングしておったんじゃけど、今は何処にいっちゃったのか(笑) ネットの画像検索で探してみたんじゃど、今のところ見つからない。 だからわしが自分の記憶を頼りにして、「ロックファイル」の概要を作成してみたのでご覧頂きたい。



 まずバンドのディスクグラフィーから始まって、次に各メンバーのバンド参加以前、以降に関わった全アルバムが紹介されていく。 アルバム名/バンド名、ジャケ写、曲目、参加メンバー、レコード解説をまとめたレイアウトもスッキリしていて実に読みやすかった。

 「ロック・ファイル」のスゴイところは、もうひとつあった。 それはレコード会社との契約条件の縛りが厳しかった当時は、特に有名ロッカーは別のレコード会社に所属するロッカーのアルバムにセッション参加した場合、匿名か別名でのクレジットがほとんどじゃった。 だからその手の匿名情報がファンに正確に伝わることは稀だったんじゃけど、「ロック・ファイル」にはきちんと紹介されておった! これもまた最大級の意外性をもたらしてくれたのじゃ!
 「ロッキンF」はどうやってその手の匿名情報を正確に把握できたのか謎だったんじゃが、「ロッキンF」は1976年の創刊当時はイギリスの音楽雑誌「メロディーメーカー」の日本語版として発行されていた経緯があり、恐らくイギリスの音楽業界に強いコネクションがあったが故に匿名情報を入手出来たのではないじゃろうか?

 所謂日本のロック・レコード・マニアってヤツを数多く生み出し、また育て始めたのは「ロッキンF/ロック・ファイル」なんじゃないかと思う。 その他の洋楽雑誌の新作のみ紹介するレコードレビューなんか、てんで物足りなくなっちまった。 「ロッキンF/ロック・ファイル」によって超濃密でマニアックな情報を入手したら、やるべき事は決まっておる。
「現物を見てみたい!」って輸入盤屋さんに走る!
「ロック・ファイル」に掲載されているどれかが見つかるまで輸入盤屋さんを周り続ける!!
運良く見つかったら、メシを抜いてでも、女の子とのデートを我慢してでも買う!!!
曲なんか一曲も聞いてなくても、「ロックファイル」の素晴らしいレコード解説を信じ切っているから買う!!!!
輸入盤屋さんのレコードラックで探し求めていた1枚に巡り合った時って、いい女と〇ックスした時よりも感動した!!!!!
たとえそのレコードを聴いて好きになれなくても、既に「巡り合うことが出来たんだ!」って感動しているから全然問題ない!!!!!!
ハッキリ言ってアホじゃ、ビョーキじゃ、ドーシヨーモネーわい(笑) こうして七鉄はレコード・コレクターの道に入り込んでしまったわけでアリマス。

 なお「ロックファイル」の業界への反響は激しく、「ロッキンオン」等のほんの一部を除いて続々と同じ企画が踏襲し始められた。 しかし「ロックファイル」のレベルにはどの雑誌も到達出来なかったと記憶しておる。 また「ロックファイル」の出現によって、本来そっち系の雑誌である「レコード・コレクターズ」の内容の充実化が図られていったはずじゃ。


■ 「Rock Family Trees」について その1 ■

 「ロッキンF」から切り取ってファイリングした「ロックファイル」を肌身離さず持参していたわしは、さらに衝撃的な書籍に出会った。 1980年代の初頭に初めてイギリス・ロンドンに行った時のこと。 名目は「英語研修」じゃけど、実状は「レコード探し」(笑)のロンドン滞在中、大手レコード店の書籍コーナーで見つけた「Rock Family Trees」じゃ!
 この書籍の原本は、完全手書きであり、ひと言で言うならば、有名バンドの家系図みたいなもの。 レコードやメンバー解説は付録であり、ただひたすら有名バンドに参加したメンバーの歴史をバンド名、アルバム名に絞って延々と家系図的に辿っていくやり方。

 前述した「ロックファイル」が、例えば「キング・クリムゾン、もしくは正式メンバーとして参加した者」という枠内でのアルバム紹介に留められておったことに対して、「Rock Family Trees」は「正式メンバーとして参加した者」の関わったアルバムから、更にそのアルバムに参加した別のメンバーの経歴までを追っておるのじゃ
 もっと簡単に言うと、クリムゾンのアルバム「A」に参加したメンバー「B」が、その昔に在籍した「C」というバンドのアルバム「D」に参加した他のメンバー「E」や「F」の経歴までも手書きによる丁寧なレイアウトによって、実に見やすく読みやすく一覧表にしてあるのじゃ! もう書いていてワケワカンナクなってきたので(笑)、写真をみてくれ!


 まだパソコンやレイアウト・アプリなんか無い時代じゃ。 自らのレイアウトセンスだけを頼り、よくもまあ凄まじい情報量をここまで読みやすく美しくまとめたものだと感動を通り越してひれ伏したくなったもんじゃ! と時に、さすがはロック本場のマニアは「レベルが違うな!」と素直に自分の大したことのないマニアック嗜好を猛省したもんじゃ。

■「Rock Family Trees」について その2

 「Rock Family Trees」に出会った翌年、わしは再びロンドンへ飛んだ。 そして「Rock Family Trees」のバージョン・アップ版を目にした! 何というかな、既に取り上げていた「A」というロッカーのレコーディング履歴を、更に200%追求しておるってテンションじゃった。 著者の留まることを知らない恐るべきロック・マニアック・スピリット! 「負けてなるものか!」ってわしのコレクター・スピリットに火が付いた!!

レコードコレクターにも色んなタイプがいらっしゃる。
①「オリジナル盤(正真正銘の発売当初の盤)に拘るタイプ」
②「様々な理由により幻となった(発売中止)盤に拘るタイプ」
③「期間限定仕様に拘るタイプ」
④「好きなロッカーの全ての音源が欲しいタイプ」等々。

わしは典型的な④のタイプになっておった。

  駄菓子菓子!
 人生ってなかなか複雑なもんじゃ。 自分自身はレコードコレクター願望一直線、まして当時のわしは若かったから純度1000%の情熱だったはずじゃが、その一方で神様ってのは正反対のシナリオを用意するものなのじゃ。
 なまじ二度目の渡英で「わしの英語力は問題ない」って思い込んでいたが、現地で高いゼニ払って申し込んだ個人レッスンではまったくの落第ヤロウ。 マニアックな博物館や美術館(ロック系ではない)の展示品解説係の英語もまったく理解出来ないし、気に入っていたコーヒーハウスの馴染みのウエイトレスにデートを申し込んだら、「私、アジア人嫌い」って相手にされんかった(涙)。
 おまけに安宿で金は盗まれるは、好きだったバンドのコンサートではチケット売り場で二度請求されるは、もう踏んだり蹴ったり。 焚きつけられかけた「レコードコレクター願望」は一時棚上げされざるをえない毎日になってしもうた。
 まるで「人生、レコード集めばっかりやってりゃいいってもんじゃないぞ」とロックの本場でなにがしかの神様から告げられたようなもんじゃ。 「Rock Family Trees」のバージョン・アップ版は箪笥、じゃなくて机上の肥やしになってしもうた。

 結局、わしは英語のおべんきょうに専念して毎日真面目に~ってなったわけねーじゃろう! 語学スクールにも籍を置いてはおったが、「どうせ通ったって何やってんだかわかんねーんだから」ってきれいさっぱり諦めて周辺諸国への放浪の旅へ! フランス、ベルギー、ルクセンブルグ、イタリアとかをブラブラしておったが、行く所と言えば、やっぱり「Rock Family Trees」を片手にレコード・ショップ!
 そこでその国独自の編集盤とかジャケ違い盤、さらにイギリスでは見つからなかった(既に廃盤になっていた場合も多し)ヤツが見つかったりと、そりゃもう大騒ぎ! 結局は渡英直後のコレクター嗜好者に逆戻り、元のさやに納まったってわけでアリマシタ!


 現在はネット上で情報が氾濫しておるから、「ロックファイル」や「Rock Family Trees」に掲載されておった程度の情報はあっさり見つかるのかもしれない。 もっともっと詳しい情報の開示が当たり前の時代なのかもしれない。 当時のわしレベルのコレクターなんざ今ではごまんといるんじゃろう。 
 コレクター同士で「どっちが上か下か」なんて知識論争は愚の骨頂じゃけど、多分自分の頭の中に刻み込まれておる情報量は、ひょっとしてわしらの時代の連中の方が(笑) だって、知りたい事、調べたい事があったら、いつでもどこでもスマホでスイスイ!だったら頭の中に蓄積されていかんもんな。 わしらは「ロックファイル」や「Rock Family Trees」をまさにバイブルのごとく持ち歩き、事あるごとに限りなく熟読しておったからバイブル本の内容が血肉化しておったもんな!
 
 20世紀の終わり頃からビッグバンドの活動の集大成ともいうべきボックス・セットが続々と発表され、今ではアルバム1枚毎にリミックスされた音源や発売当時の未発表テイクも続々と出現! 40年前のコレクターにとっては、(ちょっと遅すぎじゃけど)至れり尽くせりの時代にはなった。 でも、アルバム中1曲だけ参加したセッションメンバーの軌跡とかはまだまだまとめられおらん(笑) 果たしてそこまでの追求と開示がいまさら必要なのかどうか!? でも40年も前にそこまでやろうとしていた「ロックファイル」や「Rock Family Trees」の編集姿勢に、あらためて感服じゃ! 

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