NANATETSU ROCK FIREBALL COLUME Vol.309


  う~ん、日本では未だに映画「ボヘミアン・ラプソディー」に端を発したクイーン・リバイバルブームが続いておるようじゃな。 わしのおるバンコクのゲストハウスでも、日本から来た若者君や中年さんの口から「ボヘミアン・ラプソディが~」「クイーンが~」って言葉が発せられとるから驚いてしまう。
 はっきり言って人によっては「クイーンが~」なんて話されると、「どこの国の女王様でっか?」なんて返してしまいそうな風貌の方もおる!(笑) 若い女の子が「ボヘミアン・ラプソディ~」なんて言ってると「葛城ユキの“ボヘミアン”の事でも話してんのかな~」なんてなる! まあ本当のブームってのは、一見何のカンケーもなさそうな人まで巻き込んでしまうものであり、どうやらクイーンのリバイバル・ブームってモノホンの様じゃのお。

 駄菓子菓子! ちゃんと聞いたことがある曲が「ママア~ドゥユリメンバア~」じゃなくて(それはジョー山中の「人間の証明」じゃバカモノ!)、「ママア~ウ~ウウウ~」ばっかりじゃねえ・・・他に「ウィーウィーウィーウィール・ロックユー!」だけじゃねえ・・・。 こういう事態に対しては元来ケツがムズムズしてきて何とかしたくなるのがわしの性分なんでクイーンの優れた楽曲をご紹介したくなる。
 でもフツーにやったってしょーがない。クイーンにはたくさんのベスト盤が製作されていて、しかもどのベスト盤も選曲はシングル曲中心であんまり変わり映えがせんので、「どれでもいいから、1枚全曲聞きなさい」で終わりじゃ!

 それでもシツコク考えた末、「ベスト盤に収録されていない楽曲」で七鉄オススメのクイーン・ナンバーをセレクトしてみることにした。 でも恐れることなかれ。 
クイーンはプログレじゃないから、基本的には3分クッキングじゃなくて3分間ポップスが多い。 
クイーンは世界中でレコードを売りまくったバンドだから、基本的にはメロディーラインがキレイで口ずさめる曲が多い。 
4人のメンバー全員が違ったタイプのソングライターなので、曲がバラエティに富んでおる。
なんで、「ベスト盤モレ」の曲とはいえ、これからご紹介する曲を安心して聞いてみてくれ。 なお、「この曲は〇〇国独自販売、〇〇年限定生産のベスト盤に入っているぞ!」というマニアックな指摘はせんようにな!


ベスト盤に収録されないクイーンの名曲/佳曲15選

♪tune1~グレイト・キング・ラット
♪tune2~マイ・フェアリー・キング

  デビューアルバム『戦慄の王女』収録。 イギリスのプレス連中から叩かれまくったアルバムだったが、反クイーン派の評論家連中は果たしてこの2曲を聴いたのだろうか? オペラチックなコーラス、静と動との展開がめまぐるしくも美しい楽曲構成、あらゆるアレンジにも対応できる多彩性のあるリズム・セクション、そして何より通常のロックやポップスでは聞けない、本格的なバロック調、オリエンタル調、スパニッシュ調の強力なメロディ。 決してシングル向きの曲ではないが、後に“クイーンをクイーンたらしめる”様々な要素が凝縮されており、少なくとも当時(1973年)のロックシーンの若手で、クイーンほどの瑞々しい個性と、それがやがて大衆性を獲得する可能性をも感じさせるバンドがいたじゃろうか!と言い切れるほどの隠れた名曲じゃ。
 『戦慄の王女』には“誰もシンセサイザーを使っていない”というクレジットがあるが、確かに名人以外では安っぽく聞こえるプレイしか出来ないシンセの音が入っていないこともまた、楽曲に純粋な生命力を与えている!


♪tune3~オウガ・バトルフェアリー・フェラーの神技ネヴァー・モア

 セカンドアルバム『クイーンII 』収録。 B面の(実質)メドレーのスタート3曲であり、キング・クリムゾン~イエス~ビートルズといった風情(笑) それも各先輩バンドよりも遥かに饒舌でメロディアスで上品にキメているので文句のつけようがない!
 デビュー当時のクイーンの不運とは、シングルカットされたナンバーのクオリティが非シングル曲よりもはるかに低い事!(だと思うぞ、わしは)「炎のロックンロール」「ライアー」「輝ける七つの海」のデビュー当時のシングル3曲よりも、この「オウガ・バトル」から続く3曲の方がメロディも明確で展開もスリル! いかんせんいずれも小曲の部類なのでシングルにならなかったんじゃろうな。いっそこのメドレー3曲をまるごとシングルにすりゃよかったのじゃ!


♪tune4~マーチ・オブ・ザ・ブラック・クイーン
 前述のメドレー「~ネヴァー・モア」に続く、『クイーンII・B面メドレー 』のハイライト的ナンバー。 デビューアルバムで試みた本格的なクラシカル・コーラス、多彩なメロディー、静と動(長調と短調)との対比といった当時のクイーンが目指した理想的なサウンドがこのナンバーで結実している!
 『アビイロード』の「メドレー」という絶対的なお手本があったとはいえ、自分たちの音楽的美学で「その上を行ってしまえ!」という過剰な自信がプラスに転じて完成したまさに傑作曲。 わしにとってのクイーンとは、「ボヘミアン・ラプソディ」でも「ウィ・ウィル・ロックユー」でもなくこの曲じゃ! まあクイーンはデビュー2作で早くも音楽的頂点に達してしまったわけであり、残る課題はそれをいかにポップスに転化するか、ただこの一点だったに違いない。


♪tune5~神々の業ストーン・コールド・クレイジー ~ディア・フレンズミスファイアーリロイ・ブラウンシー・メイクス・ミー神々の業

 『クイーンII 』でアナログ盤片面全部を費やすメロディーを完成させたクイーンじゃったが、次作『シア・ハート・アタック』でも再びB面全てをメドレーで埋め尽くした! 『クイーンII ・メドレー』と比較すると、こちらはメドレーというよりは、一曲一曲がより独立した魅力を発揮していて、全体として協奏曲組曲形式に近いじゃろう。 クラシックの組曲は、協奏曲でもソナタでも大概は3楽章じゃが、さしずめこの『シア・ハート・アタック』は7楽章というトンデモナイ組曲形式!
 いやこれはジョークではなくて、クイーンはマジで7楽章協奏曲をやっておるのじゃ! 7曲が完全に別個の楽曲であるのに不思議とつながりを持って展開されて行くそのアイディアとセンスは凄まじい! クイーンはプログレではないから歌詞において統一性は追求されておらんけど、サウンドのみでコンセプトアルバム的展開をやってのけたのだから、ある意味プログレ・バンドよりもスゴイ!
 メドレー中の全7曲のうち6曲がフレディーのボーカル。 フレディーの声域は4オクターブと言われておるが、そいつが駆使されて更にブライアンやロジャーのボーカルも加わるから、クイーンってボーカリストが何人いるんだ!って呆れてしまうような多彩な歌唱劇が圧倒的じゃ!


♪tune6~ アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー
 “第4作『オペラ座の夜』収録。 当初「ボヘミアン・ラプソディ」ではなくて、この曲が最初のシングルになる予定だったとか。 ロジャーが作曲した最高のハードロックナンバーであり、レースカーのエンジン音を意識したような、ロッド・スチュワートばりのロジャーのハスキーボイスが炸裂! もしシングルになっていたら、その後のクイーンの軌跡も随分と変わっていたに違いない。 こうしたナンバーだけはさしもの名ボーカリストのフレディでも歌えない、ロジャーだけに許された彼の特権的な曲じゃ。


♪tune7~預言者の歌


『オペラ座の夜』に収録された、曲の大半がフレディ、ブライアン、ロジャー3人によるコーラス。タイトルからも想像できる通り、古い宗教音楽的なトーンで彩られており、3人のコーラスワークの素晴らしさが多重録音の効果だけではなく、彼らが本物のコーラス隊であることを知らしめる荘厳なナンバーじゃ。
 ここまでコーラスがフューチャーされた曲はロック史上稀であり、わしはおもしろがって大学の有名コーラス部に在籍していた親戚のオネーサンに聞かせてあげたことがあるんじゃ。 そん時のオネーサンの感想は「この人たち、ロックバンドなの?」「個人個人で相当に練習していないと、こんな風に歌えないわよ」と唖然としておった!


♪tune8~ユー・アンド・アイ

 第5作『華麗なるレース』収録。 ベーシストのジョン・ディーコンの作品。 クイーンの楽曲の中でほとんど話題になった記憶がないほど光が当たっておらんが、『華麗なるレース』収録曲の中でもベスト3に入る名曲のはずじゃ! 少なくとも同じくジョンの作品でヒット・シングルになった「マイ・ベスト・フレンド」よりええじゃろう!
 ほどよくメリハリのきいた美しいメロディー、華麗に跳ね回るブライアン・メイのリード・ギター、パワフルなロジャー・テイラーのドラム、当時イギリスで流行っていたパワーポップの代表曲みたいじゃ! フレディが珍しくオクターブを下げて低音で歌い切っており、その点で派手さに欠けておるから大衆人気に繋がらなかったんじゃろうかのお。


♪tune9~イッツ・レイト
 第6作『世界に捧ぐ』に収録された、クイーンの代表的ヘビィロック。 ヘヴィといってもリズムがヘヴィなだけで、メロディもコーラスも美しいから最初聞いたら「変なロック」かも!? この時期のクイーンは多重録音から一発録りに近いサウンド・フィーリングが追求されており、この曲もスタジオライブ的で迫力満点!
 それにしてもメンバー4人のヘヴィロックの演奏が上手過ぎ! 特にロジャー・テイラーのドラムソロも含まれた生音感覚が凄まじい。 クイーンを歪んだ目で見ていたバリバリの硬派なロックファンも、これを聞いたらぐうの音も出ないじゃろう。


♪tune10~マイ・メランコリー・ブルース
 『世界に捧ぐ』のラストナンバー。 アルバム全編にわたってエネルギッシュに歌いまくっていたフレディが、最後の最後に美しいラウンジ・ジャズの調べのようにしっとりとしなやかに歌い上げる。
 その控えめながらもあまりにも見事な歌いっぷりに、「どうかぶ厚いコーラスが出てこんでくれ~」と願ってしまう! コンサート、映画、演劇、または宴の終わりに絶対的にフィットするようなトーンじゃ。 ホント、フレディってロックンロール・シンガーなんじゃろうか!


♪tune11~去りがたき家

 第7作『ジャズ』収録。 ギタリスト・ブライアン・メイの作品でボーカルもブライアン。 ヘヴィロック・ナンバーの作曲を得意とするブライアンだが、その一方で儚いペシミスティックなナンバーも数多く作曲しており、どこか“伝えたいことを伝えきれない”様な線の細いボーカルも見事にフィット! この曲はその代表例と言えるじゃろう。 ブライアンのこの手の曲はほとんど話題にならないが、女性シンガーにカバーさせたら一気に名曲扱いされるようなダイヤモンドの原石が多いと思うんじゃがな。


♪tune12~ジェラシー

 『ジャズ』収録のフレディー作曲ナンバー。 フレディのメロディーメイカー&シンガーとしての才能の根幹をほんの少しだけ披露してまとめた小曲といった控え目なトーンがなんとも魅力的。 ドラマチックには展開しない、大仰に歌い上げない、フレディにとっては案外ストレスの溜まる様な曲かもしれないが(笑)、リスナーにしてみれば、一曲一曲「これでもか!」とばかりに巨大な才能をフレディに見せつけられてきた感があるので、こうした抑制されたフレディ・ナンバーの方が却って心地よく感じる時も少なくない。


♪tune13~スゥイート・シスター

 第8作『ザ・ゲーム』収録。 ロカビリー調の大ヒット曲「愛という名の欲望」によってアメリカでもっとも売れたアルバムじゃが、この曲はブライアンお得意の“せつない泣き節”で構成されたいかにもブリティッシュ風味のシンプルなマイナー・バラード。 ボーカルもブライアンであり、これをフレディが歌ってしまったら恐らくクラシック歌曲みたいになっちゃったじゃろうな。
 それでもよかったかもしれんが、アメリカンナイズされていくクイーンから少しづつ離れて行ったファンは、クイーン本来のサイドライン的魅力に溢れたこの曲を聞いて安心したのではないじゃろうか。 なお、ガンズン・ローゼスのボーカルであるアクセル・ローズのお気に入りでもあり、ガンズンの最大のヒット曲「スイート・チャイル・オブ・マイン」のライブでの前奏曲として、この曲のさわりをカマシテおった。


♪tune14~ライフ・イズ・リアル

 9作目『ホット・スペース』に収録された、ジョン・レノンの死を追悼するナンバー。 久しぶりに仕掛けや厚いアレンジが多い同作の中では異色の、ピアノの調べにヘヴィなドラムが絡むシンプルなミディアム・テンポのロック。
 “ライフ・イズ・リアル”というフレーズがジョン・レノンの人生そのものなのか、凶弾に倒れた死に様の事なのか、わしは未だに判然としないから、多分両方を重ねた表現なんじゃろう。 また「レノンは天才だ」とフレディが歌うフレーズもあるが、フレディにしてはありきたりの表現と思えるが、何故かこのフレーズを聞くたびに、ジョン・レノンというロッカーが他のロッカーたちとは別次元で作品を発表していたことをフレディが非常に分かっており、羨望していたんじゃないかと感じるのじゃ。


♪tune15~レット・ミー・リブ

 フレディの生前にレコーディングされながら、発表はフレディの逝去後になったオリジナル・ラストアルバム『メイド・イン・ヘブン』収録。 フレディ、ロジャー、ブライアンの3人のボーカルがリレー形式で聴けるクイーン唯一のナンバー。 21世紀になってから編集されたベストアルバムには収録されとるようじゃが、デビューから時代順にシングル曲を集めた多くのベスト盤には収録されておらんので紹介しておこう!
 リードボーカルもコーラスも楽器のプレイも超一流で個性的、しかも大衆を熱狂させるロックでありポップスであり続けたクイーンのあらゆる魅力がこの1曲の中に凝縮されたような美しくもハードなナンバー。 メンバー全員が『メイド・イン・ヘブン』がラストアルバムになることを意識し、中でもこの曲は全員が消えゆくバンドへの惜別ナンバーとしてプレイしておるようじゃ。 クイーンというバンドの偉大な歴史のクロージング・テーマとして位置づけされて然るべき名曲じゃ。



  実は更に10曲ほどピックアップして原稿も書いておったんじゃけど、つい先日2014年に発表された『クイーン・フォーエバー』という2枚組ベスト盤の存在に気が付き、しかも結構マニアックな選曲がなされてあったので、そいつに収録されておった曲はほとんど今回のセレクトから外した次第。
 また1997年にはロック色の強い曲を集めた『クイーン・ロックス』ってのも発売されており(知らなかった!)、その中には今回ごセレクトした2曲が含まれておった。 まあこちらはマニアックなファン向けの編集盤だからベスト盤とは扱わなかったので、その2曲は外すことなく紹介しておる。

 おいおい、なんだかんだ言って七鉄の野郎はクイーンをそこそこ知ってるじゃないか!って思われた方もおるじゃろうが、この程度じゃ本当に“そこそこ”レベル。 ほとんどの曲のメロディーが明快で覚えやすく口ずさめるから、アルバム1枚聞くのが苦じゃなかっただけのことじゃが、まあそれは「好き」ってことなのかもしれんな!
 でも「クイーン・ファンでした」とは堂々と言い切れん。 当シリーズの300回記念連載で「好きなプレイヤー」をパート別にやってみたが、誰もベスト20に入らなかった。 わしにとって誠に不思議なバンド、クイーン。
 不思議と言えば、70年代にわしのまわりにはいっぱいクイーンファンの女の子がいたけど、成人して中年になって中高年になって、「アタシ、クイーンが大好きでした」っつうオバサマには一度も出会ったことがない! ビートルズ、ストーンズ、ガンズン・ローゼスなんかのファンだったっつうオバサンにはたくさん出会っただけに、コレ一体どういうことなんじゃろうか? 日本におって、映画「ボヘミアン・ラプソディ」を劇場で観たりしておったら簡単に出会ったのかもしれんけどな。

 え~と、どうやって〆たらええか分らなくなってきたが、「結局、頑固七鉄はクイーンのファンでした」ってことで、それではサイナラ~♪



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