NANATETSU ROCK FIREBALL COLUME Vol.308



40年前/1979年のロック
 ハロ〜諸君。 ここんとこ「昭和/平成のロックを懐かしむシリーズ」を4回も続けたんで、そろそろ年初恒例の「云十年前のロック」をやることにする。 しかしいざアルバムをセレクトする段階になって、50年前の1969年、45年前の1974年は過去にやっておることに気が付いたんで、この度は「40年前/1979年」をやってみたい。

 1979年のロックシーンの流れといえば、セックス・ピストルズが前年のアメリカツアー中に空中分解の末に解散し、79年2月に人気者だったシド・ヴィシャスが死亡。 ファンもパンクに飽きてきた時期になった。 
 「ったく、散々オールドロックをバカにして、俺たちの時代だ!」なんて叫んでいたくせに、もう止めちゃったのかよ!ざけんな根性入っておらんぞテメーラ!と言いたいところじゃったが、所詮ほとんどがアマチュア君バンドだったパンクに大きな未来はなかったってことじゃ。 代わって登場してきたのが、音楽的に優れていた連中をひっくるめて「ニューウェーブ」っつうジャンルじゃ。 まあこんなんが世の常ってことで、パンクに対してちょっと距離を置いていたわしも、再びロックシーンの最前線に注目するようになった。

 一方、パンク・ブームの影響で息を潜めておったオールドロッカーたちも次々とシーンに復帰。 「さあ、オジサンたちはパンク小僧が去った後は何をやろうとするのじゃろう」と見守っておったが、わしは概して良質のアルバムが多かったと記憶しとる。 やっぱりガキんちょがギャースカ騒いでおるだけではなく、ベテランがきちっとした仕事をしてこそシーン全体が底上げされていくわけであり、「これなら80年代のロックも期待できるな」と胸をなでおろしたもんじゃ。  傑作、駄作(好き嫌い)の判断はともかく、パンク/ニューウェイブのガキんちょどもに刺激されてベテラン勢は新境地を切り開こうと躍起になった作品が多かったのも特徴であり、ロックに新しい潮流が確かに出来つつあった。 そんな1979年のロックを振り返ってみたい。


2019年ロック回想録@ 40年前/1979年のロック
パンクの嵐が去って、実力派が残りベテランも復帰。80年代に向けてロックの新しいうねりが始まった!



1 サザンロック的なバドカンもイケル!
2 アイルランドの英雄から
世界のシンリジーへ
ディソレーション・エンジェル
         /バッド・カンパニ
  ■ブラックローズ/シン・リジー■
 既に古豪の名が相応しかった“バドカン”が、当時のベテラン勢の中でもっともスムーズにサウンドのイメチェンをキメテみせたのは実に意外じゃった。
 ブリティッシュ・ブルースロックの理想的アメリカンナイズと言うか、あまりにもサザンロック的アプローチが“キマリ過ぎ”であり、しかもセルフ・プロデュースだからもう驚くしかなかった!
 発表当初はリズムセクションのノリが軽過ぎ、ギターサウンドが乾き過ぎで、何だか若いサザンロック・バンドみたいであり、ポール・ロジャースの声も変に若過ぎ!? 一発録りが相応しいロックの原初的ダイナミズムが真骨頂だったバドカンサウンドがスタジオで相当加工されてとるだけに少々戸惑ったファンも多かったはずじゃ。

 しかしシングル「ロックンロール・ロール・ファンタジー」(名曲!)の大ヒットによって、本作への違和感がやんわりと払拭されていく幸運も手伝い、73年のデビュー作とともにロック史上に残る名作としてバンドに素晴らしい箔を付ける作品となった!
 かつてサザンロックの雄レーナード・スキナードが初期のバドカン的アプローチを成功させたが、本作はバドカンからのサザンロックへのアンサー・アルバムとも言えるじゃろう。
 アルバムも売れまくり、アメリカンツアーも大成功させた彼らに80年代の大活躍への死角は無いも同然と思われたが、この後は本作のアウトテイク集みたいなクオリティのアルバムを1枚だけ発表した後に解散。 後にポールは「本作とツアーでバンドにピークが訪れたんだ。 それ以上の進歩はなかった」と語っておる。


     アイルランドの国民的英雄バンドが、世界へ向けて突然“大化け”した作品。 クレイジー・ギターのゲイリー・ムーアの参加により、彼らのイメージでもあったユニークなツインギターの絡みや牧歌的な味わいが一掃され、全編にわたりメロディを重視した情緒的ハードロックが暴れまくっておる。
 グラムロックの数々の名作を生み出したプロデューサーじゃったトニー・ヴィスコンティとしては異例の作品でもあり、シン・リジーがヨーロッパのローカルエリアで長年溜め込んでいたエネルギーを一気に炸裂させたといえる名盤じゃ。

 70年代中期から彼らのライブパフォーマンスの評価は高く、スタジオ盤とは別バンドと思えるようなエネルギッシュなプレイを収録したライブ盤のセールスも好調じゃった。 本作はそんな絶好調ライブの超ハイテンションが見事にスタジオ録音に反映された典型じゃろう。 当時はハードロック/ヘヴィ・メタルの復権が顕著だったが、並みいる新人バンドを嘲笑うかのような豪快な完成度を誇っておる。
 因みにタイトルソングはアイルランドの民謡をロックにアレンジした名曲であり、通常のロックやブルースロックでは決して聞くことのない彼ら特有のメロディセンスと、ゲイリームーアの天衣無縫の超絶ギターテクは聞き応え十分! “ブラックローズ”とは、その昔イギリスに国土を占拠されたアイルランド人は自国の国名を口に出すことが許されず、隠語として「ブラックローズ」という表現を使っていたとのこと。一種のイギリスへの戦闘意欲が伺えるタイトルじゃが、時代が体制否定が賞賛されたパンク一色だったからこそ引用されたに違いない。



3 新しいプログレのあり方!?
  4 廃墟のララバイ
■ザ・ウォール/ピンク・フロイド■    ■ブロークン・イングリッシュ
   /マリアンヌ・フェイスフル■
 プログレブームが完全に終結していた当時、プログレ界の雄ピンク・フロイドの動向そのものが注目されておったが、彼らはものの見事に期待を裏切って大ヒットアルバムを発表してしまった!(笑)
 堅苦しいイメージと陰鬱なテーマを貫きながらもアメリカでも長尺なコンセプトアルバムを売り続けてきたピンク・フロイドじゃったが、本作においても基本的なスタイルは従来通り。 しかしテーマをリスナーたちの人生や実生活により近いエリアでセレクトして親近感を喚起させ、サウンドも重厚で深遠なトーンに沈み込ませる70年代スタイルをすっぱりと捨てたカタルシス追求型にシフトチェンジ。
 日本では一時期村上春樹の大ベストセラー小説「ノルウェーの森」の単行本と同様に、中身は分かっとらんでもLPジャケットを持ち歩いておるだけでオシャレで“ナウい”なんて言われておったわい。

 ストーリーをざっくり言えば、「幸せとは言えない幼年期を送って来た青年がロックスターになり、やがてドラッグやらなんやらで自閉症へと落ちていく過程と様々なトラウマが描かれており、その青年をもっとも人間らしい感性の持ち主と仮定したならば、社会というものは壁ばかり。 人間の歴史も虚栄と怨嗟が背中合わせ」ってなところか。 このストーリーが豪快かつ繊細にロックオペラのスタイルで展開されていくのじゃ。
 従来のアルバムと比較すると展開が早くてメロディラインが明確なパートが多くて聞きやすいが、それでもプログレ臭はプンプンであり、これを新しい世代のロックファンにまで売りまくったんだからお見事と言うしかないな!  結局ピンク・フロイドの表現の原動力ってのは、常に世の中の不条理な制約と、美しいものを汚す不届き者が形成している社会の「壁」であり、本作はいわば彼らの集大成的な作品じゃ。 ベテランが己の集大成をモダンスタイルでやってしまうって、ほとんど奇跡に近い偉業じゃ。

     ズバリ言って、白人女性シンガーのベスト・オリジナルブルース・アルバム!
 60年代は聖少女シンガー、お姫様シンガーとしてもてはやされたマリアンヌ嬢。 ローリング・ストーンズと関わってからは堕ちるは堕ちるは、清楚な美貌はボロボロ、憂いを湛えたアルト・ボイスは濁りしわがれ、70年代には廃人同然になったとも聞いたもんじゃ。 シーンからすっかり忘れ去られた79年、突如とてつもない変貌を遂げて本作でカムバックを果たして古くからのロックファンを仰天させたのじゃ。

 濡れているのか乾いているのか判別出来ない不気味な女性の怨嗟のトーンが唸りまくっており、今も昔もこんなアルバムはロックサイドでは聞いたことがない。 扱っている音楽ジャンルでもなく、歌唱スタイルでもなく、あくまでも生身から滲み出ているブルース・フィーリングが圧倒的であり、ジャニス・ジョプリンとローラ・ニーロ以来、久方ぶりに身の毛もよだつ凄まじい女性ボーカルを聞いた!
 マリアンヌを袖にしたと言われるミック・ジャガーも、本作を聞いてぶったまげたに違いない。 ミックのブルース・フィーリングはミック自身の鍛錬の賜物じゃが、マリアンヌのそれは自然に培われてきたもんじゃからコクとキレが違う(笑)
 「ロックがなによ、ストーンズがなによ。 お酒やクスリが一体何だっていうの! アタシは簡単には死ぬもんですか!」本作を名作に仕立てているのはもちろんマリアンヌの圧倒的な存在感じゃが、プロデューサーを初めとしたバックアップしている連中のセンスが素晴らしい。 ただの女の恨み節に終わらせない選曲、アレンジ、プレイはロックありブルースありフォークあり流行りのホワイトレゲエあり、そしてジョン・レノンのカバーありで秀逸じゃ!
 とんがりパンク小僧たちなんか、コレ聞いたら恐れおののいて逃げ出すだろう。 マリアンヌに生意気な態度をとったら奈落の底にひきずりこまれそうじゃ!

5 インテリジェンス・パンク 6 ちょっと野暮だが、カッチョイイ!
アウトランドス・ダムール/ポリス■    破壊/トム・ペティ&ハートブレイカーズ■
ポリスのデビュー・アルバム。 パンクと呼ぶには音楽を知っとるし、ニューウェイブと呼ぶには熟練しとるし、よく考えてみると恐ろしくレベルの高い新人バンドだった!
 その他大勢の新人たちと同列で流行の枠の中で語ろうとしたプレスは大間違いじゃった。 なんでもかんでも若い新人の感性ばかりが取り沙汰されておったから、アンディー(ギター)やスチュワート(ドラム)の一流のキャリアはほとんど封印されたまんまじゃった。

 当時のポリスと言えば真っ先に「ホワイト・レゲエ」じゃが、元来ロックとレゲエとは水と油としか思えないわしはレゲエはダメじゃったが、名曲「ロクサーヌ」で認識をあらためさせられ、ポリスサウンド独特の“隙間のあるリズム”のマジックに引きづり込まれていった記憶がある。 リズムの隙間から絶妙のタイミングでスティングのリリシズムが顔を出す、ちょっと前衛的なお芝居を観ておる様な独特の覚醒感があった。 「こりゃひょっとして、ゼップやピンク・フロイドの時代は終わるかもしれない」といった畏怖の念すら感じたもんじゃ。 だからこそ簡単には認めたくない気持ちもあったわけでありまして(笑)
 当時ゲイリー・ニューマンという若きエレクトロニック・ポップスの鬼才も現れ、セックス・ピストルズの次はゲイリーが時代を席捲するといった報道が多かったが、わしはゲイリーが相手なら絶対にポリスの勝利なると密かに予想したもんじゃ。 それほどまでに大きな可能性を感じたデビューアルバムってもんを久しぶりに聞いたってわけじゃ。
 ただしこの時点では、当時のイギリスの社会背景を考慮したのか、イメージはモノクロームでトラジェディ。 明るい未来を描くことが良しとされない時期じゃったので、あえてその辺の事情を飲み込んだようなトーンでまとめてあって実にクレバー! 中堅バンドだと思って聞いた方が馴染みやすいじゃろう。
     “ベテラン勢の復活が多かった中で、一人の生きのいいヤングロッカーがシーンに殴り込みをかけてきた。 その名はトム・ペティ!
 スプリングスティーンやボブ・シーガーらとともに白人労働者の心情を歌う「ハートランド・ロッカー」なんて言われていたが、トムは中でももっともシンプルで説教臭くなくてムサクナイのがヨカッタ!
 本作はトムと彼のバンドの3作目にして出世作であり、頭の2曲「逃亡者」「ヒア・カムス・マイ・ガール」だけでカウント・セブンぐらいのダウンを奪われたな! このカウント・セブンの衝撃ってのがタマランのじゃ。 カウント「テン」だとノックアウトされたわけだから病的にハマってしまう。 「エイト」だと「テン」になるのを期待して変に聞きまくる!? 「セブン」だと酔いはしないけど常に気になってしょうがない程よい衝撃なんじゃ!

 トム・ペティのメッセージってのは、「〇〇なんだってな。だったら△△してみなよ」みたいな手ほどきはしないが、日常生活の中で何気に通り過ぎてしまった体験、場所、人たちの中に苦悩を和らげるヒントがある!ってトコじゃな。 カントリーやライト・ロックンロールのトーンだから、風が吹き抜けていくフィーリングで聞くことが出来る。
 オープニング2曲が名曲と前述したが、2曲を合体させてテーマを総括すれば「何があったというだ。 そんな逃亡者みたいに生きることはないんだぜ。 俺にもそんな時はあったかもしれないが、ほら見てみよろ! 俺の彼女がやって来るぜ。 彼女に任せているんだ。すべてうまくいくぜ!」じゃ。 いい加減でテキトーなメッセージなクセに言い得て妙。 70年代ロック特有のヘヴィな説得力に耐えられなくなった老いた少年にとっては人生再生の起爆剤になったじゃろう。


7 “神”マイケル・シェンカーが
舞い上がる!
    8 日本公演フルアルバム隠れ名盤
■UFOライブ/UFO■  ■ナイト・アフター・ナイト/U.K.
 超絶ギターテクのマイケル・シェンカー、口ずさめるポップなメロディー、程よい重量感と疾走感、UFOはロック史上に残る名ハード・ポップ・ロックバンドじゃ。 彼らのライブの魅力が存分に収録されておるのが本作であり、まず録音状態、演奏状態が恐ろしくいい。「スタジオ・ライブに歓声をオーバーダブした疑似ライブ盤では?」との疑惑が持ち上がったほど音質がクリアじゃ。
 そして何よりもマイケル・シェンカーが絶好調! 「ロックボトム」「ドクタードクター」「ライツ・アウト」等の名曲を、マイケルはスタジオテイクの何倍ものエモーションとダイナミズムで弾きまくっており、ファンにサイコーのカタルシスを与えたに違いない!

 リズムセクションはサウンドのボトムを正確無比にキメまくり、またキーボードとサイドギター(恐らく、これはスタジオでのオーバーダブ)が程よくバンドアンサンブルの隙間を埋め、マイケルのギターを頂点とした綺麗な三角形に形成されたサウンド構成じゃ。 当時、こんなに美しく立体的なハードロックのライブ盤が存在したじゃろうか!
 プロデューサーは80年代後半になって名声を得ることになるロン・ネヴィソン。 彼が作り上げたクリア、アップライト&ゴージャスな80年代的サウンドがもっとも早い時期お目見えした作品でもあるじゃろうな。
 ロン・ネヴィソンのプロデュースに関しては、概念的なサウンドの起伏を削り過ぎるとの声も多かったものの、そうしたネガティブな評価を最終的には封じ込めてしまったマイケルのギターパフォーマンスは凄過ぎる。 まさに神業! 本作の発表によってマイケルのギターヒーローとしての評価と人気は決定的となり、2年後に実現した自らの名を冠するパーソナル・バンド(MSG)の結成へと繋がっていくこととなる。
     日本公演がフルアルバムで収録されたライブ盤では、ディープ・パープル、シカゴ、チープトリックが名盤を発表しておるが、本作も隠れた名盤じゃ!
 UKとは、プログレ界のスーパーバンドであり、プログレの復権の為に結成されたというキャッチコピーで登場したものの、既に本国イギリスやアメリカではプログレ自体は完全に下火であり、彼らは日本でのみ需要が高かった。 そうした希少な?日本のファンに向けて残してくれた中野サンプラザ、日本青年館で披露された名演の数々がバッチリのクオリティで収録されておる。

 リーダーのジョン・ウェットンは後に結成したメガヒットバンドのエイジアの楽曲で、UK時代を「僕たちは歌われない唄を歌おうとした」と振り返っておったが、本作はプログレというよりも高度なテクニックによるプログレ風キーボードロックであり、そのサウンドの感触や構成は驚くなかれ80年代の産業ロックの原型みたいじゃ!
 トト、スティクス、ジャー二―といった80年代に大人気を博したアメリカンバンドは、楽器の達人メンバーが多かったために「70年代のブリティッシュ・プログレへの返答」と言われておったが、その煌びやかで綿密なサウンドのモデルは案外本作なんじゃないか?と思わせるほど70年代のプログレを忘却の彼方へ押しやってしまうようなモダンでポップなトーンで統一されておる。
 前述の通り、80年代に入ってジョン・ウェットンはエイジアを大成功させ、ドラマーのテリー・ボジオは今も活躍するドラムヒーローへと駆け上がったが、本作の主役であるエディ・ジョブソン(キーボード&バイオリン)は以降はほぼスタジオミュージシャン系のお仕事へ移行してしまった。 70年代中期は「天才少年」ともてはやされたスタープレーヤーじゃったが、まさか本作が表舞台での最後の雄姿となるとは誰も予想出来なかった。


9 未だ賛否両論飛び交う
ゼップのラスト・アルバム
    10  もうひとつのテイクイットイージー
■イン・スルー・ジ・アウトドア/レッド・ツェッペリン■  ■ロングラン/イーグルス■
 本作発表後ほどなくしてジョン・ボーナムが亡くなったことで自動的にラスト・オリジナル・アルバムとなったが、残念ながら今もってゼップ史上最悪の作品と言われておる。
 う〜ん果たしてそんなにヒドイじゃろうか? 3年前に発表された『プレゼンス』に酔い続けていた音楽評論家たちの悪口の度が過ぎていただけなんじゃないか?って思うわい。 少なくともオープニングの「イン・ジ・イブニング」、クロージングの「アイム・ゴナ・クロール」は立派に80年代的ロックで結構エエ曲なんじゃけどな。

 オールドウェイブ・ロックの牙城を守るべく、全編にわたってアメリカンナイズ、アラビアンナイズ、フィフティーズナイズ等ゼップは果敢に新しいアプローチを展開しており、ジョン・ボーナムのヘヴィドラムが健在なだけに何をやっても最後はゼップ・サウンドとして完成させておるから、わしはスゴイ作品じゃと思うておる。
 もしゼップが80年代に活動を続けていたならば、必ず本作のアプローチのどれかが磨き上げられていっただろうし、それが如何なるアプローチものであってもファンは歓迎したに違いない。 ロバート・プラントやジミー・ペイジのソロアルバムの方で期待したアプローチもあったが、結局はほとんど進展はされず。
 結果としてゼップがチラ見させた幻の80年代サウンドの原型の収録が本作最大のセールスポイントじゃろう。 1982年発表された編集盤『コーダ』には本作のアウトテイク・ナンバーが3曲あり、特に「ウェアリング・アンド・ティアリング」は収録モレが理解し難い名曲じゃ。 こいつがラインナップに加わっていたならば本作の評価はかなり違ったはずじゃったろう。
   
     名盤『ホテル・カリフォルニア』の発表から三年余りの空白を経て発表されたイーグルスのラストアルバム。 ジャケはブラック、中ジャケに見られるメンバーの写真も暗闇の中でひっそりと佇んでいる様。 この先バンドに将来がないことを暗示させたデザインなんじゃろう。
 『ホテル・カリフォルニア』の評判が凄まじかった故にバンドが激しいプレッシャーに苛まれていたことは想像に難くなく、仕方なく出来る事だけをやったという疲労感が蔓延しておるものの、個人的にはこうしたアフターピークのアルバムは大好き!
 プレッシャーを克服しようとする過剰な力みや、ファンのデカ過ぎる要望を果たそうとする悲壮な使命感もなく、メジャーバンドによくある名盤後の原点回帰的なスタイルもなく、あくまでも大人の開き直り感にした様な穏便な演奏が美しい。

 とりもなおさず「タイトルソング」「ハートエイク・ナイト」「言い出せなくて」に代表されるシンプルで美しいメロディラインが目白押しの作品であり、『ホテル・カリフォルニア』の存在を一切忘れて聞くべきじゃろうな。 イーグルスの本質的な魅力は『ホテル・カリフォルニア』ではなくて本作の方にあるのかもしれん。
 あえて深読みをすれば、イーグルスが本作で包み隠さず醸し出した疲労感とは、目まぐるしく昇華と退化を繰り返してきた70年代のロックシーンを生き抜いた末の代償であり、時代のトップに立つことの出来た者だけの個性でもあり、そいつをストレートに表現することは一種の特権行為じゃろう。 それに彼ら自身が気が付いた時に、本作の収録曲の多くはスムーズに生まれてきたに違いない。 まさにバンド自体、そして時代への鎮魂歌じゃ。
ecify
 なお、上記ベスト10から泣く泣く外さざるをえなかったのが、『浪漫/リッキー・リー・ジョーンズ』じゃ。 これは病的に好きなアルバムなんじゃけど、「発表当時から評価していた」という事実をセレクトの基準にすると、『浪漫』にはどうしてもゴメンナサイするしかなかった。 リッキーの魅力が分かるには、当時のわしはまだ若過ぎたってことじゃ。
 それから編集盤においては『キッズ・ア・オールライト/ザ・フー』という愛聴盤もあった。 これはザ・フーの歴史を綴ったTV番組に使用された楽曲のテイクをコレクトしたベスト盤なので、「オリジナル・アルバムからセレクト」というこのシリーズの基準外なので紹介を見送った次第であります。
 まあこの2枚を外さざるを得なかったということは、上記10枚をいかに発表当時に聞きまくっていたかってことで、一般論を無視したピュアな七鉄論によるベスト10ってことでありますわい。 その他、惜しくも選モレしたアルバムは下記の通り。

『ロジャー(間借り人)/デヴィッド・ボウイ』『ミック・テイラー・ソロアルバム』
『ダウン・トゥ・アース/レインボウ』
『プリズナー/シェール』
『クワイエット・ライフ/ジャパン』

『慈愛の輝き/ジョージ・ハリスン』
『チープ・トリック・イン武道館』
『マニフェスト/ロキシー・ミュージック』
『ラスト・ネバ―・スリープ/ニール・ヤング&クレイジーホース』
『ザ・レイブン/ストラングラーズ』

『四重人格(サウンドトラック)/ザ・フー』
『白いレガッタ/ポリス』
『ロンドン・コーリング/クラッシュ』

また日本のイエローマジックオーケストラのセカンドアルバム『ソリッド・ステイト・サバイバー』がアメリカで発表され、テクノポップ・ブームの火付け役になったことを最後に記しておくぞ。(上写真はバッド・カンパニー)




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