NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.272

 2017年度のわしの放浪も、やはりベトナム・ホーチミンに立ち寄った。 滞在ではなく“立ち寄った”と書くのは、ベトナムはノービザ滞在期間は二週間であり、あちこちを周遊するとなると、どうしても行動が慌ただしくなってしまうからじゃ。それでも近隣諸国まで来た場合はどうしてもベトナムに入国してしまうのじゃ。その理由は、

・高級な「ジャコウネコ珈琲」が安価で買えること。
・総体的に食べ物が美味しいこと。
・タバコとビールが安いこと。
・近隣諸国の中では、もっとも英語が通じやすいこと。
・日本語会話が恋しくなったら、ホーチミンにある日本人宿(しかも、大浴場付き!)へ行けばいいこと。

 まだまだ外国人特別料金(というかボッタクリ!)が存在するとはいえ、これだけの好条件が揃っておれば、放浪者としてはどうしても立ち寄りたくなるものじゃ。
今回のベトナム訪問は、結局ノービザ滞在期限である二週間いっぱい、ずっとホーチミンにおった。 というのも、明らかに2年前に訪問した時と街全体のエネルギーが違うのじゃ。現地のベトナム人の活気も以前よりパワーアップしておる。 良きにつけ悪しきにつけ、ホーチミン全体が“浮かれている”感じなのじゃ。 その正体、実態、原因を知りたくて、立ち寄りでは満足できずにホーチミンに滞在し続けたのじゃ。 この二週間の間に体験、見聞した、様々なホーチミンの身近な息遣いみたいなリアルな姿を諸君にお届けしたいと思う。



七鉄のロック回り道紀行~Vol.15 2017年ベトナム雑記/ホーチミン編
バブル期へ驀進するホーチミン“街角の息遣い”


■ ホーチミンを根底から揺るがすバブル期に突入!■

 既に見慣れたホーチミン市内の光景、昼夜変わらぬご盛況ぶり。でも何かが明らかに変わった感じなのじゃ。 モーニング珈琲、ランチビール、ナイトビール、ミッドナイト・ウイスキー(笑)、いつどこに居て何を観ていても、街の上昇するエネルギーを感じるのじゃ。
 地元民の笑顔が増えた。 街の細部が整備された。敷居の高い飲食店が増えた。客引きがえげつなくなったetc 途上国都市の成長過程では当たり前の光景なんじゃろうが、当地の深部で大きな改正が実施されたことを感じさせるのじゃ。

 そこでベトナムの事情通に伺ったところ、ここ最近ベトナム政府の外資優遇の傾向が著しく、欧米人就業者が激増し、それを“狙って”田舎のベトナム人が大量にホーチミンに流れ込んできたらしいのじゃ。だからホーチミンは俄然「バブル」へのギアが上がっとるんだそうじゃ。
 道理で一人で飲んでいると、「何日滞在?」の前に「仕事?旅行?」と聞かれる場合が増えたわけじゃ?! 「仕事」と答えておけば、リピーターになる可能性大ってことでサービスが良くなるのかもしれないんで、勿論「仕事じゃ」と答えておったわい! すかさず「お仕事は何?」って返ってくるんで、「アイム・ロックンローラー」ってキメ台詞で応戦しとるわい!
 「バブル」だって、ロックンロールは必要じゃろう!でもお相手はそういう返しに慣れておらんのかキョトンとしておる。 そんな時は、羽織っとるThe-Kingのイタリアンカラーシャツを誇示することにしとるぞ!(笑)

 では、ホーチミンのバブルの象徴、超高層マンションの一室、地上28階から見た風景の写真をどーぞ!現地事情通Y氏のお部屋であり、この日はY氏のベトナム人の彼女さんが実家に帰省中じゃったので、ちゃっかり泊めて頂きやした。バブリーな気分の一日でありました!




 ついでに、Y氏が「観光客なんか、まず行かない所に連れて行ってあげます!」と案内された、サイゴン・デルタから出た南シナ海の様子も! 一応、当地訪問時にマーキングしておいたGoogle Mapのスクリーンショットも載せておきますわい。
 日没時にディーゼル可動の粗末なボートで海へ出たんじゃが、まさに大海の上の小さな木の葉って感じであり、海は穏やかだったにもかかわらず、あっさりと波に飲み込まれそうで、正直恐ろしかったわい。とてもとても「海は広いな、大きいな~」なんて呑気ではいられんかった。
 ちなみにお隣のメコン・デルタの方ばかりに観光客が集中してしまい、この周辺は寂れる一方であり、海辺の小さな漁村も廃村寸前らしい。 「こんな原始的でダイナミックな場所が忘れ去られていくなんて、寂しい限りです」とはY氏の談。




少々はったり気味な写真の威力を拝借するのはここまでとして、バブル期を迎えたホーチミンの細部におけるわしの雑感をこれからご紹介していこう。

■ 客入りの良し悪しを決める、とある絶対法則?! ■

 既に4度目の訪問となったホーチミンには、三ヵ所ほどいきつけ、好みのビアバーがあるんじゃ。 店内は狭いから、店の外にテーブルとイスをたくさん出して客を集めとる小さなバーじゃけど、いずれも大通りから通り1、2本通りを挟んだそこそこ静かな場所にあり、ビールも大通りに面した店よりかは安くて、実にくつろぎやすい。いつ訪れても白人客でいっぱいであり(左写真)、店員も愛想がよくて英語も話せる。
 おもしろいことに、この三件の店の真向かいとか隣には同じようなビアバーがあるんじゃけど、そっちはいつもガラガラなんじゃ(右下写真)。 真向かいにあるバーは、ビール代はもっと安く設定してあるのにその効果はまるで無し。 わしは大体一人でビールを飲みに行っておるので、なあ~んとなく不入りの店の様子を伺うことにもなるんじゃけど、原因は一向に分からんな。 たまに宿で一緒になった旅行者を連れていくこともあるが、彼らも「不思議ですねえ~」じゃ。
 
 ホーチミン滞在中はほぼ毎日通っていた三件なので、ある時仲良くなった女性店員に訊いてみた。 「なんで、こっちばっかりお客さんが入るんじゃろう?」って。
 彼女の答えは明白じゃった。 
「あちらさんはお客さんがいない時、(店員たちが)座っちゃってるからよ。 通りを歩いている人に声をかける時だって、店の中から声かけてるでしょう。 え~と、それから、多分オーナーかなんかの母国の文字の看板とかあるでしょう。 全部ダメね!」
 座るってことは、「私たちヒマ・モード」のアピールになってしまい、店の中からの声かけは消極性の表れであり、白人客にとって読めない文字は集客性を自ら制限してしまっておるってことじゃろう。 小さなビアバーの店員さんでさえ、繁盛に浮つくことなく、他店を見据えながらしっかりとその原因を把握しとる姿に、商売の激戦区を勝ち抜く為の基本的な姿勢っちゅうもんを教えられた気がしたもんじゃ。
 その店員さんのいる店は大通りから路地を数メートル入った場所にあるんじゃけど、ある晩わしがその大通りを歩いておると周囲の喧噪を突き破って「ハア~イ・マイフレンド・ジャパニーズ!」の大きな声が。
 思わず声の主を探してみると、その店員さんが一生懸命わしにむかって手を振っておった。 その時初めてわしはその店に通じる路地の入口付近にいたことに気が付いた。 いやあ~なんという熱心な業務姿勢! 胸を打たれたわしは、またまたその店で飲んでしまったわい(笑)


■ 安価でそこそこ美味しい外国料理の調理法 ■

 ホーチミンやハノイといったベトナムの大都市における食事事情の特色のひとつは、ベトナム料理以外、つまり外国料理のほとんどが“そこそこ食べられる”レベルにあることじゃ。 和食でも洋食でも中華でも、“文句のつけようがない”ではなくて“まあ文句言いたくなるほど不味くはない”じゃな(笑) もっとも超高級な食事処ではなく、バックパッカー・レベルの連中が行けるお店のオハナシじゃ。
 「文句言いたくなるほど不味くはない」ってレベル、実は諸外国においてこれは非常に有難いのじゃ。 東南アジアの場合、例えば和食を食べると「作ったヤツ呼んで来い!」ってわめきたくなるレベルがいまだに少なくない。 ひと昔前までは、味噌ラーメンとか言っちゃって、味噌汁を薄めたスープにインスタント麺をぶっこんだヤツとか、おにぎりを頬張った瞬間に海苔が破れてご飯がボロボロなんてヒデーのに結構当たった。
 最近はそこまでのなんちゃって和食にはでくわさなくなったが、ベトナムの場合、なんちゃってレベルを越えて、日本人が作った本物レベルに適度に近づいてきておる。 というか、設定された値段レベル内(予算内)で一生懸命本物に近づこうとした努力を感じるお味じゃ。 正直なところ、わしなんかは貧乏旅行者として「たいへんよくできました」の判子を押してあげたいレベルにまでなっておる。 このコストパフォーマンスは、東南アジア随一と言ってよいじゃろうな。 そりゃあ高いお金をだせば、日本で食べるのと遜色ない和食を味わえるが、わしらバックパッカーは安い予算の中でいかにうまい物を食べるかを追求しとるんで、ベトナムの外国食事情は誠にありがたい!

 そこで先述の現地情報通のY氏に伺ったところ、ベトナムの安価の外国食レストランってのは、旅行者と並行して現地人にも食べてもらえる味になっておるということじゃ。 現地駐在者の舌を満足させることはできないが、通りすがりの旅行者とベトナム人との両方の味覚が追求されとるということ。
 当然対象が旅行者オンリーだと経営が成立しないという商売理念があるものの、異なる二つの味覚の接点の追求が結果として日本人に“決して文句は言えない”レベルの味を生み出したってわけじゃ。
 それもこれも、元々美味しい料理を作るためには苦労を厭わないベトナム人気質の現れなんじゃろうし、世界的に注目を集める和食をベトナムに根付かせたいというベトナムの料理人の熱心さが編み出したお味なのじゃ。 決して本物ではない。 しかし、日本で流行りの“俺の〇〇を食ってみろ”的な俺様和食よりは、わしはベトナム流和食の方を推すわい! 
 

■ 贋作ギャラリーの真意 ■

 贋作ギャラリーとは、特にホーチミンの白人旅行者でごった返すホーチミンのブイビエン通りに数多く点在する、有名画家の贋作、模写ばかりを展示してあるギャラリーじゃ。 ピカソ、ダリ、ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ゴッホ、エル・グレコ、クリムト、はたまたウォーホール、ホック二ー、ヘリングetc...もうなんでもござれ。 中には、エルヴィス、ジミ・ヘンドリック、ビートルズ、ボブ・マーリーの有名な肖像写真の模写まである。
 一時期はこの贋作ギャラリーは激減したものの、この度ブイビエン通りや交差しておるデタム通りには再び数多く出現し始めておる。 これは一体どういうことなんじゃろうか?

 左の写真は、デヴィッド・ボウイの写真の模写と、それを手掛けるペインターの作業をとらえたもんじゃが、このギャラリーの隣のホテルに泊まっていたこともあっていつしか店員さんと顔見知りになった?! その店員さんも模写を描くそうなんで、ある時、思い切って真意を聞いてみた。

わし :「何故模写ばかり描き続けているのですか?」
店員:「ベトナム人だって、西洋文化を理解出来るというアピールです」
わし :「それなら、模写じゃなくたっていいんじゃない?」
店員:「だって、デヴィッド・ボウイもビートルズもストーンズも、ベトナムには来ていませんから」
わし :(こりゃだめだ、視点、論点がかみ合いそうもないと思いながら)
   「ストレートに伺いますが、売れるのですか?」
店員:「今のところ、外国人にはあんまり(笑) でもベトナム人、特に外国人相手の商売をしているベトナム人には売れ 
    ます。  あなたはベトナムで仕事をしているのですか?お仕事は何ですか?」
わし :「アイム・ロックンローラー!」(と言った直後に、しまった!と気が付いた)
店員:「まあ!それなら1枚いかがでしょう。奥にジミ・ヘンドリックスやミック・ジャガーもありますよ。どうぞ奥へ!」
わし :「いや、その、モデルになっているオリジナル写真を持ってますから、模写は要らないです」(汗)

と言って足早に逃げてきたが、「西洋文化を理解出来るというアピール」を模写で表現して、しかも模写を売り物にしてしまう! そして西洋人在住者が増え始めたこのバブル期に商魂を炸裂させる!! このドギツイ発想こそがベトナム人なのかもしれない。

 わしの母上は絵描きであり、模写もよくやっておったが、こうも言っておった。 「模写というのは画家の卵にとってあくまでも努力、自己研鑽に過ぎず、人様にお見せする代物ではない」 わしは母上のこの言い分を正論であると信じておるが、何故だかベトナム人画家のロジックも分からんことは無い気もする(笑)
 アーティストとして自分が成長するどんな段階でも、その作業や作品を人目に晒すならばそこには商品性が成立するってことなんじゃろう。 そして贋作、模写を続けるベトナム人画家にとって、ギャラリーにおけるそのアクションは、アートというよりも、声帯/形態模写と同じパフォーマンスなのかもしれない。 まあプライドの高いベトナム人じゃから、「要するにモノマネ芸をみせているんですね」なんて言ったらドツカレルかもしれんがな!


■ 俄然えげつなくなった女性最古の商売 ■

 真昼間だろうが草木も眠る丑三つ時だろうが、もっとも驚いたのが、“その手”の客引きの多さと誘い文句のえげつなさ。  酔い覚ましに涼みに行った公園にもわんさかおる! 公園で声掛けされるのもうんざりしてきたので、イヤホンで音楽を聞いておるフリをしたところ、今度は客引きよりもセクシーな“たちんぼ嬢”が次々と登場する羽目に。 横にピッタリと寄り添って離れなくなるからもうウンザリ。
 ある時、海外放浪者としての長年の勘が働き、横に座ってしなだれかかってきた女性を注視すると、彼女の手がわしのウエストポーチのファスナーにかかっておった! すかさずその手を振り払って盗難は逃れたが、まあ夜のホーチミンは危険がいっぱいになったわい!

 この度出くわしたホーチミンの数多くの客引きやたちんぼ嬢の特徴は、とにかくあっけらかんとしていて、一目も気にせず大胆に迫ってくることじゃ。 しかもみんな笑顔! 今まで笑顔の少ないベトナム人が多かっただけに、わしには非常に不気味であり不愉快な笑顔ばかりじゃ。 完全に外国人をナメキッテおるように見えるのじゃ。 そんなフザケタ態度で外国人客を釣ろうとするのは東南アジアではベトナム人だけなんで、ある意味で「大したもんだ」とは思うがな?! 

 よお~く考えれば、ヒジョーに変!なハナシじゃ。 国や都市が豊かになっていくということは、様々な業種における雇用が増え、“その手の商売”は減ってくるもんじゃ。 風営法も厳しくなって、街全体の健全化が図られるものじゃ。 タイのバンコクやミャンマーのヤンゴンやカンボジアのプノンペン然り。
 しかし、ホーチミンに関しては真逆なんじゃな。 店舗形態で堂々とやってのけるパターンも俄然増えているようじゃから恐れ入る。外貨獲得は途上国にとって最強の手段じゃが、その為には同時に商売におけるモラルも求められるとされてきたものの、ベトナムにおいては「外貨獲得に手段は選ばず!」なのか?!


 これまでアセアン諸国の中で旅行者に人気ナンバーワンの国はタイじゃった。 しかし恐らく近い内にその座はベトナムにとって変わられるに違いない。 物価はタイよりも安く(タイが値上がりし過ぎ!)、激辛料理が少なくて日本人の口に合いやすい料理が多く、観光のパターンも多彩。 さらに夜の誘惑も遠慮知らず!になってきたベトナム。 気軽に行ける外国をあっさりとタイからベトナムにチェンジしたくなる魅力はいっぱいじゃ。
 でもベトナムという国やベトナム人を決して侮ってはならんぞ! ベトナム戦争でアメリカに勝利したという輝かしい歴史に裏打ちされた民族の誇りは強固であり、経済大国からのお客様とはいえ決して媚びへつらわずに向かってくる彼らを、温暖な気候の中でのんびりムードに浸っておる他の東南アジア人と同じスタンスで接してしまったら、必ず何かしら痛い目に遭いそうじゃ!

 アセアン諸国関連の色んな文献を読むと、ベトナム人がもっとも狡猾であり、ビジネスパートナーとしても友達としても付き合うのが難しいと書かれておる場合が多い。 今までわしはその忠告じみた内容を何となく感覚的に理解していたつもりじゃったが、この度の滞在で明確に実体を伴った観点から納得出来た気がするわい。 文献におけるベトナム人像が、「忠告」から「警告」になったようじゃ。
 それでいて、どうにも断ちがたい魅力に溢れておるのがベトナムという国なのじゃってことで〆させて頂きたい!

(右写真~若者向けイベントのある夜に出くわした路上のバイクによる大渋滞。 男は皆彼女さんを乗っけていざイベント会場へ。 ホーチミンの熱さを物語る光景じゃ!)

GO TO TOP