NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.258

 諸君、2017年明けましておめでとう諸君。
 この「超頑固七鉄コーナー」も連載11年目を越えてしまい、やっとる本人が一体いつまでやるべきなのじゃろう?と考えてしまうことも少なくないが、まず、今年は「エルヴィス没後40周年」なんで、その記念すべき年度だけは少なくともきちんと連載をこなそうと思っております。 何卒よろしゅーな! The-Kingは「超銀河系ナッソー」を新年一発目から世に送り出してきたんで、わしも気合だけは充分ですぞ。

 わしの方の新年一発目は、やはり新年に相応しい新しいロック・ネタ、21世紀現役バリバリのビッグ・ロックバンド2組を紹介することで、昨年から続けておる「世紀末から新世紀に咲いたオルタナティブ・ロックを見直そう!」シリーズをとりあえず〆たい。
 死ぬまで青春時代に夢中になったロックばかり聴き続けるのも悪くはないが、最新のヒットチャートや音楽メディアのニュースを見ても、さっぱり「知らん、分からん」ばっかりってのも何だか虚しいのお〜と感じて久しかったが、ここ2〜3年は意識して新しめのロックを聞き込んできたわけであり、いわばその途中経過を諸君に報告しとるようなもんじゃな。
 「今回もロカバンドがねえぞ!」「キサマ、結局50sっぽいの21世紀には要らねえってことなのかよ!!」というおしかりはごもっともじゃけど、そっち系のバンドは今のところ「懐古趣味」で「未来が見えない」バンドしか知らんので紹介には至らずってことでどうかご了承頂きたい。 わしのアンテナ不足、理解力不足なんじゃろうが、 やはりバンドの視点が懐古趣味だけでは大きなブームを作り出すことができず、それなら結局は昔のバンドを聞いておった方がええじゃろう(笑)

 今回ご紹介するミューズとヴィンテージ・トラブルは既に名声を勝ち得ておるバンドなんで、ひょっとした諸君の方が遥かに聞き込んでおるかもしれん。 まあ脳みそにカビが生えてくるのを必死に拒絶しようと新しいロックに挑戦してきた「オールドロックフリーク」の感想を受けて止め、参考して頂けたら幸いであります! (上写真=ミューズ、右写真=ヴィンテージ・トラブル)



欲ボケしたオールド・ロックスターはもうご免だ!
世紀末から新世紀に咲いたオルタナティブ・ロックを見直そう! Volume 3


★★★ ミューズ Muse ★★★ 

 音楽・舞踏・学術・文芸などを司る女神の名を冠するこのバンド、まったく知らない方に紹介するのがチョー簡単なようでなかなか分かってもらえそうもない!? ビートルズ出現以降の約50年のロックシーンに花開いた多彩なスタイルのロックがスーパー・ハイブリットになった巨大な音楽性を炸裂させ続けるバンドがミューズじゃ。
 もしくは、ブルース、ロカビリー以外、ブリティッシュ・ロック、ハード・ロック、プログレッシブ・ロック(シンフォニック・ロック)、グラム・ロック、パンク・ロック、グランジ・ロック、これら全てがミューズの音楽性にガッツリと息づいておる、とかより具体的に言い放ってみたところで果たして信用してもらえるかどうか。 でもこれがミューズの真実なのじゃ。
 ロックミュージックの白も黒も、光も影も、上も下も左も右も、ぜ〜んぶひっくるめてミューズって半ばヤケ起こして強調しまくるしか紹介のしようがない!
 彼らのアルバ厶デビューは1999年であり、ロックン・ロール・ミュージックが誕生し成長を続けてきた20世紀という時代の終わり当たり、まさに音楽の女神ミューズがこの世に送り込んだと言ってしまいたいようなモンスター・バンドなのじゃ。
 実は“ハイブリット・ロック”という視点からすれば、1990年代初頭から活動を続けておるレディオ・ヘッドという超大物バンドがおり、ミューズの先輩格としてよく引き合いに出されておるようじゃが、レディオヘッドをよりアリーナ的にモダンにスケールアップさせたバンドがミューズじゃろうか。

 「ブリティッシュ・ロックにハード・ロックにプログレにヘヴィメタにって、そんなサウンドあり得るのか?」
「アルバム毎に音楽性が違うってことなんじゃねえのか?」
って疑う方がいてもしょうがない。 かつて我々オールドロックファンは、デヴィッド・ボウイがアルバム2枚毎に音楽性を変貌させることを偉業として恐れおののいておったからのお。 しかしミューズは、紛れもなくアルバム毎にロックの歴史のほとんどをぶち込んでおるんじゃ。 しかも同じ音楽的方法論で既に7枚ものスタジオアルバムを世に送り出しておるのじゃ。 まさかまさか、こんなバンドが現れるなんて夢想だにしなかったわい。

 更に驚くべき点がもうひとつ。 ミューズというバンドは、作詞作曲、ボーカル、ギター、ピアノを担当しておるマシュー・ベラミーというロッカーのワンマンバンドなのである! ロック史上最大の驚愕なるマルチプレイヤーなのじゃ。 ビッグなバンドには必ず突出したボーカリストやギタリストがおる。もしくは複数のメンバーが曲が書けて歌が歌えるといったバンドとしての優れた総合力があるが、ミューズの魅力とはただただマシュー・ベラミーの超マルチな才能が全てなのじゃ。
 超マルチ・プレイヤーといえばポール・マッカートニーが有名じゃけど、音楽的バックボーンの巨大さにおいてはマシューの前ではさすがのポールも比較の対象にはならないほどじゃ。 いつ頃だったか、ミューズのコンサートを観たポールが唖然としてコメントに窮してしまい、苦し紛れにベーシストを褒めていたことがあったな!ちなみにベーシストのクリス・ウォルステンホルムも相当のテクニシャンらしいのじゃが。

 基本的なメロディーラインにおいては、ポップスとクラシックの中間というか、メジャー進行でもマイナー進行でも一緒に歌えるような歌えないような(笑)。 その世俗性と超俗性との間を自在に交遊する展開に自然に引き込まれていくうちに、ドラマチックに“持っていかれたり”、逆に突然“落とし込まれたり”と、長らくブルースやオールドロックンロールの単純明快なノリに安住しておったわしは、最初はミューズのアルバム1枚を聞き終えると得体の知れない疲労感に襲われたもんじゃ。 と、最初は疲労感と思ったが、それは新しい充実感であった!
 確かにプログレッシブ・ロック的ではあるものの、従来のプログレの計算され尽くした壮大な構成とは異なり、東欧やロシア系の現代音楽に顕著な資本主義的音楽の予定調和性とは趣を異にする展開が多く、聞き慣れないうちはソイツが少々厄介じゃ。 しかし長尺な楽曲はなく、千手観音のような凄まじいあの手この手のアレンジで各楽曲を続けざまに聴かせてしまうのじゃ。 短編映画を何本も休憩無しに立て続けに観ていくようなスリルと快感の連続がアルバム1枚に凝縮されておる! アルバムによっては短編映画ではなくて、膨大な報道写真をスライド形式で延々と鑑賞していきながら饒舌なナレーションを聞くような、よりスピーディーでエネルギッシュな内容もあるのじゃ。

 ところで、あえてミューズのサウンドにケチを付けるとすれば、それは超個性的なボーカル、コーラス、ギターやリズム・セクションを聞くことが出来ないこと。 じゃがそんな当たり前のロックの聞き方すらも嘲笑うようにマシュー・ベラミーの巨大な才能が全てのアルバ厶で暴れまくっておるのじゃ。
 ミューズに魅了されてから、ある時ふと考えてみた。 ロック史にこんなアルバムを作っていたバンドの前例が果たしてあったかと。強いて挙げれば、活動後期のビートルズかのお。 多彩な楽曲、多彩なアレンジ、多彩な演奏、過去の音楽郡の交錯による新しいエクスタシーとカタルシス。 アルバム製作の方法論が近いと仮定すると、我々は恐ろしい事実にもう一度気が付いてしまう。 それはビートルズは4人だったが、ミューズは実質マシュー1人、しかも既に7枚もアルバムを作っておることじゃ。
 バンドの中で孤軍奮闘していた異才極まるロッカーならば、過去に2人いたな。 ピンク・フロイドのシド・バレットとビーチボーイズのブライアン・ウイルソン。 シドもブライアンも豊か過ぎる才能に潰されてしまって精神異常に陥ってしまい、シドに至っては死ぬまで“戻ってくること”が出来なかった。 シドやブライアンと同じ轍を踏まぬことをマシューに切に望むと同時に、マシュー・ベラミーというロックンロール・モンスターに「もっともっと光を」!

 なお、7枚のスタジオアルバムの内オススメは次の3枚。 セカンド『オリジン・オブ・シンメトリー』、サード『アブソリューション』、最新アルバム『ドローンズ』。 他の4枚も完成度という点ではまったく引けを取らない!


★★★ ヴィンテージ・トラブル Vintage Trouble ★★★

 まず彼らのツラ構えに注目。 左のジャケ写はファーストアルバム『ボム・シェルター・セッションズ』のショットじゃが、わしゃあこのツラを見ただけで「間違いない」と確信した!(笑) 全員、ロックバンドやってなきゃロクなもんじゃねえってツラじゃないか! まあフォトセッション用の芝居をこいとるのかもしれんが、本気で「酒と女とロックンロールしか興味ねえ」って目つきは信用に値した! わしのこういう予想は外れたことがなく、期待にたがわぬ申し分のないブルース・ロックバンドじゃった。
 本当は“ソウル・ロック・バンド”って言い方が相応しいが“ソウル・ロック”ってジャンル分け用語は無いみたいなんで、ブルース・ロックと言ったまでじゃが、どっちでもええか!

 黒人ヴォーカルのタイ・テーラー、ヤツには黒人ソウルシンガーのしなやかさと白人ロックシンガーの強引な荒々しさがある。3人の白人バックバンドには、ライブサーキットで鍛え上げられたバンドだけが持ち得る独特のグルーブとラウドさがある。 この両者が融合して屈強のロックンロールになっとる!ってのがヴィンテージ・トラブルというバンドの揺るがぬ図式じゃ。
 おかしな言い方かもしれんが、彼らには70年代に登場してきてほしかった! 現代のルーツミュージック復権時代よりも、本物のロックが時代を作っていた時に現れて然るべきじゃった。 彼らの活躍に触発されたロックシーンでは黒人と白人との音楽的交流がもっと盛んになって、必ず新しいロックの流れ(例えばソウル・ロック)が出来上がったに違いない!
 その手の流れは、ソウルの巨人オーティス・レディングがローリング・ストーンズの「サティスファクション」を歌ってみせた60年代末期に始まったものの、オーティスの飛行機事故死によって断ち切られたままじゃったんで、タイ・テイラーならその継続を・・・なんて架空のロック史にまで思いが及んでしもうたわい!

 2012年に先述のデビューアルバムを発表して以降は、セカンドアルバムとライブテイクが含まれたミニアルバムしか発表しておらん新人の部類に入るバンドじゃが、楽曲によって演奏テンションのバラツキ(楽曲の出来不出来ではない)が激しく、それがまた本物のロックンロールバンドらしい!価値判断の基準がオールドロックンロールのパターンになってしまうんじゃな(笑) ブルースを「せえの!」で短時間の内に強引にロックへ変換したようなレッド・ツェッペリンや第一期ジェフ・ベック・グループのファーストなんかに共通した、 激しい凸凹感に彩られたアルバムの全体像がサイコーじゃ!
 本人たちは極めて真面目に全曲をプレイしとるんじゃろうけれど、本物のロックだけに許される“不完全凸凹テンションの素晴らしさ”を久しぶりに体現させて頂けるアルバムを作ったバンドじゃ! まあタイ・テイラーという未曾有のヴォ−カリストがいるからこそ成立する特殊な個性なんじゃけど、それもまたオールド・ロックンロールバンド的魅力そのものじゃ。

 恐らく、バンド結成当時の目標は音楽的にはクリアしたはずなんで、問題はこれからじゃ。先に引き合いに出したツェッペリンやジェフ・ベック・グループは、セカンドアルバム以降は多岐に渡っていた好みのルーツミュージックの探求へと舵を切ったもんじゃけど、ヴィンテージ・トラブルはどうなっていくのじゃろうか。
 わしの希望としては、純然たるルーツミュージック回帰はずっと先送りして、まずは従来の方針をアコースティック系統なり、シンフォニック系統なり、純粋にアレンジ部分において新しいダイナミズムを目指して頂きたい。 彼らの中にはまだまだファンの知らないサウンド・ダイナマイトがあることをわしは確信しておるんでな。 不敵なツラ構えに似合わない!?新しいロックンロール・インテリジェンスってヤツを大いに追求していってもらいたいものじゃ。
 その為には例え駄作と評されようが、長いインターバルを置かずに定期的にアルバムを出し続けること。 それに伴うライブツアーも絶やさないこと。 彼らのような個性とかイメージが単一的なバンドには至難の技かもしれんが、活動を継続することで新しい境地が開けてくることも稀にあるものじゃ。 そんな稀有な幸運を引き寄せることが可能な果てしなき力量をもったバンドであることは間違いない。決して小さくまとまるでないぞ、ヴィンテージ・トラブルよ!

 ついでにメンバー写真をあしらったジャケット・デザインも継続してほしい! 最近のロックバンド、ロッカーってのは一度メジャーになると妙に抽象的な絵画やイラストでジャケットを飾りたがる傾向が強いが、ロックが生まれ成長していった時期おいては、ジャケット・デザインの主役はメンバー写真じゃった。 新しいジャケットに写るメンバーを見ることでファンは新しいミュージック・ストーリーに期待を高めながらレコードに針を落としたものじゃ。
そんな音楽作品への総合的で原初的な楽しみもヴィンテージ・トラブルに期待したい!


 マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、クーラ・シェーカー、リーフ、キングス・オブ・レオン、ヴェルヴェット・クラッシュ、パニック・アット・ザ・ディスコ、そしてミューズとヴィンテージ・トラブル。 3回にわたり計8バンドを紹介してきたこのシリーズ、とりあえず今回で一旦〆させて頂きますんで、また紹介できるニュー・バンドのラインナップが固まり次第再開することにいたしやす。 オールド・ロック・ファンが、新しいバンドについてずっと語り続けるってのはあんまりヨロシクない気がするんでな(笑) 年をとったら何事もやり過ぎずに控えめで謙虚になること。 それが年寄りが新しい時代に生きていくための第一条件ではあるまいか?(笑) その割には、結構言いたいこと言わせてもらった気もするけどな!
 しっかしこの8バンドからなるラインナップ、一貫性に著しく欠ける支離滅裂な様相じゃな〜。 でもこれらをひっくるめて「ロックン・ロール・ミュージック」って大枠で括ることのできる音楽ジャンルって何と素晴らしいのじゃろう!
 クラシックにもジャズにも色んな歴史、流派があるものの、その多彩さにおいてはロックン・ロールほどじゃない。 ロックン・ロール・ミュージック全体の魅力とは、やはり多種多様な音楽の融合性、そして21世紀からはミューズを筆頭したハイブリッド性にあるのじゃ。 その音楽としての最大の個性が、実は今でも継続されておったことに気付くことが出来ただけでも、わしはこれらのバンド・サウンドにチャレンジした甲斐があったというものじゃ。
 2017年はエルヴィス没後40周年であり、新しいロックの潮流を生み出すことのできるバンド、アルバムの出現を大いに期待したいところじゃ。


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