NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.221

30年前/1985年のロック
  前回のこのコーナーで「東南アジアのロック・バー/カフェ」をレポートしたが、早速何人かの旧友からレスポンスがあって、「引き続き調査せよ。 特に50s系を探してくれ」とのお達しじゃ。 分かっとるわい。 そのためにThe-Kingファッション持参で旅を続けておるのじゃ! 「ローマは一日にして成らず」。 諸君もしばしお待ちを。 The-Kingのプロモーションのためにも、猛暑にめげることなくやりますぞ!

 今回はその調査の間隙をぬって、「七鉄流“ロック温故知古シリーズ”」2015年度版最終テイク、「30年前/1985年のロック」をやらせて頂くぞ。 わしはこの年、2月から約二ヶ月間アメリカ放浪をして帰国の後、人生で初めてネクタイしてスーツを着たサラリーマンをやったんで、30年前とはいえたくさんの記憶がいまだに強烈に残っておる忘れ難き一年なのじゃ。 今にしてみれば当たり前の結果じゃが、ガラにもないこと(サラリーマン)をやってしまった為に、もうやることなすこと悪いことばかりで、秋頃には完全に“自分が壊れてしまった”。 あのまま、アメリカ放浪をやっとりゃよかったんじゃ!と今でも思うておる。
 まあそんな事はどうでもいいが、社会人として日々土俵際まで追い詰められるような体験をしておったわしを他所に、世間では「阪神タイガース・フィーバー」! 後にも先にも、プロ野球チームの優勝に世間があれほど熱狂した時はないが、阪神だろうが巨人だろうが、わしはそれどころじゃなかったわい。
 じゃあ、ロックは何を聞いておったかと記憶の糸をたぐり寄せると、意外や意外、ベテラン連中よりも新しいロッカーを積極的に聞いておったことが判明した! 珍しくほとんど統一性のない聞き方をした一年だったんで、ひっちゃかめっちゃか(ある意味、バランスのとれている!?)のセレクションになったが、隠すことなく紹介しておきたい!!


30年前1985年のロック
MTV最優先時代に立ち向かっていた、
新旧多士済々なロッカーたち



 川は幾重に蛇行しても、やがて海へと流れ込む!
ディス・イズ・ザ・シー/ウォーター・ボーイズ■
 ストリート・ミュージシャンのひたむきさ、吟遊詩人の繊細さを剥き出しにしたままメジャーデビューを果たしたロッカー。 それがウォーター・ボーイズの“顔”マイク・スコットじゃ。 そんなヤツは昔はゴロゴロおったが、この時代特有のMTV路線の華やかなビジュアル性に背を向けながら、「真実一路」を掲げた久しぶりのロッカーじゃったな。 このジャケでは見えんが、相手の胸を射抜く燃えるような瞳もロッカーそのものじゃった。
 ブリティッシュ・フォークとケルト・ミュージックを明確なベースにしながら、あくまでも仕上げはポップなロックンロール。 かつてのB・スプリングスティーンの衝撃には及ばないものの、荒野を渡る風のような激しい魂の流れと匂いをサウンドから感じさせてくれたものじゃ。
 「レコードを100万枚売るよりも、死ぬまで聞いてもらえるサウンドを作り続けたい」とライナーに書かれておった記憶があるが、その信念と情熱がアルバム全編に溢れていた忘れがたき1枚じゃ。
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 コレはハードロックじゃ!     早々と使い果たしたソウル
■パワー・ステーション/パワー・ステーション■     ■シークレットオブアソシエイション/ポール・ヤング■
 この時代のダンス・ミュージック界の旗手シックの名ドラマーでありプロデューサーであったナイル・ロジャース、それに人気No.1バンドのデュラン・デュランの2人、更にブリティッシュ・ソウル界の実力者ロバート・パーマーの4人で結成された企画物のバンドの唯一のアルバム。

 「七鉄がダンス・ミュージックだって?」と笑われるかもしれんが、どっこい本作はハードロック的ダンス・ミュージックじゃ!? 叩きつけるようなドラムビートとギターの硬質なリフが作り出すグルーブ感は、(語弊はあるが)ちょっとツェペリン的でもあり、「こーいうリズムならわしでもダンスできるわい!」ってなったもんじゃ。 その力強くて変幻自在なサウンドの適材適所に絡んでくるロバートのボーカルも素晴らしいテクじゃった。
 いわば、70年代ロックのスムーズな80年代的展開にも聞こえて、その見事なプロデュースに、あらためてナイル・ロジャースのセンスっちゅうもんに脱帽した。 でも他には誰もやらんかったなあ〜。 いや、演れんかったんじゃろう。 企画物ではもったいなさ過ぎる、まさに幻の名作じゃ。
You Tube full-album(←)ヒット曲“サム・ライク・ホット・イット”●

   “若きソウル・シンガー”“ブリティッシュAORの立役者”等、歌唱力の高さと若さに似合わぬソウル的センスが絶賛されておったシンガー。 どういうわけか日本ではアイドル的人気が高くて、わしは職場で隣席じゃったオネーサマに推められて聞いた覚えがある。
 サウンドが作り込み過ぎておったものの、ソウルとポップの領域を往来出来る多彩な歌唱力は確かに一級品であり、その実力を確かめたくて、翌年の武道館公演に行ったほどじゃ。 結果は文句なしじゃった!

 いつの時代も、若き実力者は周囲の口出し、余計なおせっかいに振り回されるものじゃが、ポール・ヤングもその一人になってしまい、本作で早すぎるピークを迎えた後に失速してしまったのが残念じゃった。 
 手っ取り早く彼の歌唱力を知りたい方は、バンド・エイドの「ドゥ・ゼイ・ノー・イッツ・クリスマス」を聞いてみるといい。 U2のボノ、デュラン・デュランのサイモン・ル・ボン、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージら、当時の若手ロックシーンを代表するシンガーが交代交代でヴォーカルをとるが、中でもポール・ヤングのパートの味わいはピカイチじゃ。
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 ’70と’90との華麗な橋渡し    清廉
■シャウト/ティアーズ・フォー・フィアーズ■
  ■ドリーム・アカデミー/ドリーム・アカデミー■
 ディペッシュ・モード、ニュー・オーダーとともに、80年代のブリティッシュ・エレクトロニック・ポップを代表するバンド(デュオ)のセカンド。 エレクトロニック・ポップというと、ニュー・ウエイブの流れを汲む若干軽薄なイメージを受けやすいが、わしは80年代の“ニュー・プログレッシブ・ロック”として聞いておった。 口の悪い古いロックファンは、「ボウイやピンク・フロイドの出来損ない」と揶揄しておったが、それを言っちゃあ歴史に進歩ってもんがない!

 彼らは70年代のプログレほど凝りまくった難解な構成ではないが、エレクトロニック・ポップの中でも、芸術性と大衆性、半社会性と保守性との折り合いをみつけたクレバーなバンドじゃった。
 ヒットした“シャウト”“ルール・ザ・ワールド”“マザーズ・トーク”は、別個のリズムとメロディをもった優れたチューンであり、ギミックなしの楽曲で勝負できる若手であることを証明したトリプル・パンチ。 過激なパンク/ニューウエイブ時代とデカダンなグランジ時代との中間で花開いたベスト・ポップ・デュオじゃ。


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 ドリカムじゃねーぞ!(それも悪くはないけど)ドリーム・アカデミーじゃ。 フォーク系のバンドにとってはお手本みたいな多彩なアレンジがお見事。 ドラマチックな構成、透明感重視のもたれないコーラス、キレイな発音の英語(笑)、でしゃばり過ぎないオーケストラ。 さすがは、ピンク・フロイドのデイブ・ギルモアのプロデュースだけあって、理想的な方法論が散りばめられおる。 モーニング・ミュージックとして、アラームセットをしておくと、快適な目覚めが約束されそうな美しいアルバムじゃ。

 この手のサウンド・ブーム、ブリティッシュ・フォーク・ブームってのは70年代初頭にあったが、どういうわけか、みんなプログレ系かトラッド系に走ってしまって跡形もなく消えてしまったが、ドリーム・アカデミーのようなもっとポップよりのサウンドワールドにして、清廉さを追求すりゃよかったのに、別に難しいことでもないんじゃけどな〜ってわしが反省してどーする! 
You Tube full-album(←)ヒット曲“ライフ・イン・ア・ノーザン・タウン”● 
 

 オレを料理してみろ!     さらば、若きエアロスミス
■フラッシュ/ジェフ・ベック■ ■ドーン・ウィズ・ザ・ミラーズ/エアロスミス■
 ギター・インスト路線で名作を発表し続けていたジェフ・ベックの、約5年ぶりの新作は“歌もの”じゃった。 綿密なセール・プランを立てずに、その都度やってみたいことをやっちまうのがジェフ本来のクセなんじゃが、“歌もの”をやりたいというよりも、当時の売れっ子プロデューサーであるナイル・ロジャースとアーサー・ベイカーを起用してみたいというのが本音だったかも!? だから“歌もの”になったのはその結果じゃろう。

 しかしやっぱり歌なんてどーでもよろしいわい。 2人のプロデューサー特有のアレンジを嘲笑うようなジェフの唸りまくる、“歌い”まくるギターが痛快じゃ。 「どうだい? 俺様のギターをかき消してみろよ!」って感じで、プロデューサがスタジオで苦労しておるのが目に見えてくる! まあ、ロック界の一匹狼ジェフ・ベックのアルバムならでは!の楽しみ方が出来る。
 例外は、ロッド・スチュワートが客演した名曲“ピープル・ゲット・ア・レディ”。 かつてロッドと組んだ第一期ジェフ・ベック・グループで果たせなかった完成度の高い共演がようやく実現したといってええじゃろう。
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   エアロスミスのディスコグラフィーの中ではもっとも影の薄い1枚らしいが、本作は長い低迷から脱した復帰第一弾として、またそれ以上に実質的なエアロサウンドの復活盤として、わしの心に残っておる。 彼等の80年代中期の復活の起爆剤になったのは、ラップバンドのランDMCが「ウォーク・ディス・ウエイ」をリバイバルさせたことじゃが、本作で彼等本来のロックンロールを取り戻し、彼等自体の魂が蘇ったことなのじゃ!

 プロデューサーは、ドゥービー・ブラザースやヴァン・ヘイレンのサウンドを磨き上げたテッド・テンプルマン。 テッドの言葉によると「余計な事はせず、エアロスミス本来の演奏をさせることを優先した」らしいが、その結果、まるで70年代前半のデビュー当時のような荒削りで強引にグルーブ感を炸裂させるプレイが再現されており、全然80年代的じゃない。 でも、だからカッコイイ!
 以降エアロスミスはMTV時代に上手に迎合しながら大人のポップ・ロック・バンドとして第二期黄金時代を迎えるが、本作によって、綺麗さっぱり過去のスタイルに別れを告げたからこそ、新しい時代が彼等にやってきたのじゃ。

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 ロックンロール・ヒーリング
■ブラザース・イン・アームス/ダイアー・ストレイツ■
 ダイアー・ストレイツってのは、日本人にはその魅力が伝わりにくい、サウンドもイメージもジミ〜なバンドじゃったが、本作収録の“マネー・フォー・ナッシング”の大ヒットで一躍メジャーな存在になったな。
 それはさておき、本作の魅力は、小川の流れのように、たおやかにブルージーなサウンドがアルバムに横溢しており、BGMとして聞き流してもええし、腰を据えて聞いてもええ。 ただただ、静かにそこに彼等のサウンドが流れていく感じに、「ロックにも新しい領域が出来たもんじゃのお〜」とうなずくばかりじゃった(笑)  「流れる水は二度踏むことは出来ない」っつう諸行無常の悟りを越えて、このサウンドの流れに身を任せてどこまでも流れていきたいと願う、わしにとっては最上の「ヒーリング・ミュージック」じゃった。 

 詳しいことはヨーワカランけど、何度もサウンドの向上が試みられて、今では3、4種類の企画盤が世に出回っておるらしい。 ネットでは「どれが一番高音質か?」なんて喧々諤々やっとるようじゃが、高音域がどうしたとか、シンバルの音がどうしたとか、そんな事よりも、この小川の流れのような優しいメランコリックなトーンそのものに、もう一度注目してもらいたい。
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頑張れジミー!    10 ダイヤモンド・デイブ!
■ザ・ファーム/ザ・ファーム■
   ■クレイジー・フロム・ザ・ヒート
               /デヴィッド・リー・ロス■
 ツェッペリン解散後は、どうにも冴えない活動しかしておらんかったジミー・ペイジが、80年代に残した唯一まともなソロ・アクションが、元バッド・カンパニーのポール・ロジャースと組んだバンド、ザ・ファームのファースト・アルバムじゃろうな。
 当時のジミーは色んなフェスティバルなんかで客演をしておったが、ブクブク太ってまともにギターを弾けない状態をさらけ出してファンを落胆させ続けておったから、このアルバムの発表は回復報告みたいなものじゃった。 1曲目のギターリフを聞いて「先生、ちゃんと弾いているよ!」ってファンは安心したに違いない!

 もっともわしはポール・ロジャース信者なんで、ポールのヴォーカルが聞ければあとはどーでもいい派!?なんじゃが、そのロジャースの調子がいまひとつ・・・。 っつうか、ジミー・ペイジ救済企画って割り切っとるように一歩引いちゃっておるのじゃ。
 上出来じゃったのが、エルヴィスも歌っておったライチャス・ブラザーズの“ふられた気持ち/ You've Lost That Lovin' Feelin'”。 ロジャースの名曲カバーのセンスを知らしめた1曲ともいえ、彼の新しい魅力を知るに至った!
You Tube full-album(←)ヒット曲“レディオ・アクティブ”● 
   当時飛ぶ鳥落とす勢いじゃった全米ナンバーワン・バンド、ヴァン・ヘイレンのヴォーカリストの4曲入りミニ・アルバム。
 シナトラの“ジャスト・ア・ジゴロ”、ルイ・プリマの“ノーバディ ”(この2曲はメドレー)、ビーチ・ボーイズの“カリフォルニア・ガールズ”、エドガー・ウインター・グループの“イージー・ストリート”、そしてラヴィン・スプーンフルの“ココナツ・グローヴ”と、毛色のまったく違う曲のカバー集ではあるが、全曲見事にデイブ色、80年代色に染め直されおる。 それまで“ノーテンキなハードロック・バカ”を演じていたデイブの底知れぬ音楽センスに激しく驚いたものじゃ。

 デイブはテクニカルなシンガーではなく、いわゆる自己のセンスとその場のノリでキメテみせるタイプじゃが、クラシックな楽曲まで“自分の歌”にしてしまう愛すべき図々しさには唖然、呆然を通り越してもう大笑いしてしまった! 数々のロックスターのパロディを演じてみせた「ジャスト・ア・ジゴロ〜ノーバディ」のプロモ・クリップもクレイジーでサイコー! わずか4曲(実質5曲)しか収録されておらんのがなんとも物足りなく感じてしまい、正式なソロ・アルバムが待ち遠しくなってしまったものじゃ。


 こう言っちゃ何だが、ベテランありニューフェイスあり、ロックあり、ブルースあり、AORあり、ダンスミュージックあり!?で、わしらしくもなく多彩なジャンルをバランスよくピックアップした聞き方をしておったんじゃな。 自分自身が激しく壊れておったのに、まったくもって不思議なもんじゃ。 出勤前に、早朝の皇居のお堀周辺で、ウォークマンでコレラを聞きながら一日を耐え抜くパワーを充電しておったもんじゃよ。
 あの頃の早朝の皇居は、まだジョギングをする者などおらず、実に静謐な場所じゃった。 ウォークマンを大音量にしながら缶コーヒーとポカリスエットを1本づつ飲み干してから戦場(職場)に向かったのじゃ! アメリカ放浪に戻りたくて、時々涙を流したりしたもんじゃが、「まともな仕事で3年耐えろ。 石の上にも3年だ」と亡き親父殿に怒られ、諭され・・・って、もうええわな、そんなこと!
 しかしある意味で親父殿のアドバイスは当たったな。 3年半耐え抜いて転職したら、わしの人生にとって大きな大きな出会いが待っておった。 それがThe-Kingのボスだったのじゃ〜! まあ目の前のサラリーマン生活は暗闇みたいなものでも、ロックに関しては自由な旅を始めておったんじゃな。 その旅のひとつの到着地点が、ボスとの出会いだったのじゃ!ってことで今回は締めさせて頂きます!


七鉄の酔眼雑記 〜ロックン・ロール・フォーエバー!

 先述の通り、1985年はわしが人生で“もっとも壊れた1年”だったんじゃが、その強烈なストレスゆえにロッカーの新旧関係なく闇雲にロックのCDを買いまくって現実逃避を図っておった1年だったってことが、この度思い出されたもんじゃった。
 しかしながら、買いまくったCDにも決定的にイラつかせる事があった。 特にアナログディスクからCDに買い換えた旧譜作品において顕著じゃったが、アナログ盤におけるA面とB面が繋がっておるということ! ヨースルニダ、A面が終わってB面へひっくり返す“間”が全くないということ。
 これには参ったもんじゃ。 聴き慣れたアルバムの印象が、たったこれだけのことで随分と変わったからじゃよ。 もちろん、アナログ盤のジャケットをそのまま縮小コピーしたCDジャケットにも激しい違和感があったもんじゃ。 旧譜のCD鑑賞においては、予定調和がやってこなかったということじゃよ。 これに慣れるまでに何年かかったかのお〜(笑) 自分が壊れてしまっていた要因のひとつは、案外このアナログ盤鑑賞時代の後遺症もあったのかもしれんな。 

 あれから30年って、ちょっと信じ難いものじゃが、でもやっぱりロックはエエもんじゃ。 ピックアップした上記のアルバムはI-PodとYou Tubeでチェックしたが、マジ辛かった1985年の思い出やアナログ盤からCDで聴き直した時のイラツキが蘇ることはなくて、曲(アルバム)そのものの感動が時を越えて再現されたもんじゃ。
 よく“ロック・マジック”って言われ方をされるが、わしの場合の“ロック・マジック”とは、初めて感動した時の自分の精神状態や生活状況ではなくて、曲の本質がいつまでもストレートで突き刺さってくることじゃな。 だからいつまで経ってもロックを止められないワケであります! かつて聞いたロックを久しぶりに来てみて、昔の思い出が蘇ってばかりになったら、その時は「生涯ロック・フリーク」の看板を下ろす時だと思うておる!
   


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