NANATETSU ROCK FIREBALL COLUM VOL.205



「ストーンズもポール・マッカートニーも、日本公演なんざ行かん!」
「ロックの懐メロ大会なんてわしは嫌いだ!」

っつって聞き分けのないジジイの戯言をカマしてからそろそろ1年じゃ。 諸君には「しょーもねえジジイだなあ」って笑われていたのは想像に難くないが、旧知のロック仲間からもあの時ほど感心された(呆れられた)事もなかったな。
「オメエの(くだらない)ロックへの頑固なコダワリのが分かったよ」
とかなんとか。 「てやんでえー!今頃分かったかヤロウども!!」ってなもんで超然としながら酒の場で飲んでおったが、仲間の嬉しそうなコンサート談話にそぉ〜と聞き耳を立てながら「やっぱり行っときゃ・・・」と心が激しく揺れておったのも事実じゃ(笑) つっこみスルドイ仲間が「おいおい無理するな。 折角シャレこんでキメてるジャケット(ナッソー)も、背中が泣いているぜ!」ってやかましーわい! The-Kingのナッソージャケットを着る者に悲壮感なんて似合わないんじゃ! この度ナッソーの新作が発表されたんで、景気のいいハナシといこう!


 ストーンズもポールもいつ引退するか分からん年齢じゃが、このまま偉大なるロッカーを拒絶し続けるのもどうしたもんかな〜とちいとばかし胸を痛めておったが、ポール・マッカートニーに関する久々のグッドニュースが届いた。
 新旧のビッグロッカーたちが集結した大カヴァー大会の「ポール・マッカートニー・トリビュート・アルバム(ザ・アート・オブ・マッカートニー)」が来月発表されるのじゃ。 もちろんポール自身は参加しておらんが、ポールのナンバーを歌うメンバーがとにかくスゴイ! よくこんだけの連中が参加したなあ〜って感動を通り越して唖然としたわい。 それだけロック界におけるポールの影響力がとてつもないってことじゃろう。
 選曲もヒット曲、有名曲だけではなく、マニアックでわしの大好きな隠れた名曲がいっぱいじゃ!まだ現物が手元にないが、わしイチオシの参加メンバー及び収録曲をご紹介しておくんで、これを機会にポール・マッカートニーの巨大な才能にあらためて注目してほしい。



ロック界の大御所から、ハードロック野郎、ロカビリークイーンまで!
空前絶後の豪華メンバーが集結したポール・マッカートニー・トリビュート・アルバム登場!




七鉄にやり!の隠れた名曲たち

(※以下カッコ内の数字はアルバム収録の順番。B_の表示はボーナストラック盤の収録の順番)

(1) Billy Joel /“Maybe I’m Amazed”
(10) Jeff Lynne/“Junk”
(12) Jamie Cullum /“Every Night”


 まずポールのファーストソロ「マッカートニー」(1970年発表)から3曲。 ビートルズ解散直前に発表されただけに、愛するバンドの崩壊を嘆くポールの心情がそこはかとなく漂っておるプライベートアルバムでわしは大好き。
 (1)は今でもライブで演奏される、ポールのドラマチックなピアノ・プレイが光る人気曲。 ピアノマンと呼ばれたビリー・ジョエルなら見事に歌いこなすであろう! 「マッカートニー」発表時は「恋することのもどかしさ」、78年のライブ・ヴァージョンがシングル化された時は「ハートのささやき」、それ以降は原題通りと、3回も邦題が変わっとる曲でもあるんで混同せんようにな(笑)

 (10)はか細いアコギだけの演奏でポールが泣きそうな声で日常を憂う?1分強の小品。 ジェフ・リンとは、70〜80年代に大所帯のオーケストラバンド、エレクトリック・ライト・オーケストラのリーダーであり、大のビートルズ・フリーク。 ジョージ・ハリスンとの親交も厚く、また20世紀末期に元ビートルたちが集まって録音された「フリー・アズ・バード」「リアル・ラブ」の2曲をプロデュースした人物。 大げさな演奏、緻密なプロデュースが持ち味のジェフが、この美しき小品をどう歌ってみせるのか!

 (12)は(1)同様にいつの時代もライブで演奏され続けてきた曲。 「毎晩キミがいないと僕ちんは〜」って単純な歌詞とメロディが繰り返されるだけじゃが、ポールの持って生まれた稀代の音楽センスはこういう単純な曲で明らかになる!
 ジェイミー・カルムってのは、イギリスの新進のジャズ・シンガー。 日本でも一時期トヨタの車のCMに彼の曲が使われておった。 60年代ポップスとスタンダード・ジャズを融合させたいわゆる“今風のオシャレ”サウンドでイギリスでは大人気じゃ。


ロック大御所たちの咆哮!

(2)Bob Dylan/“Things We Said Today”
(7)Brian Wilson /“Wanderlust”
(14)Paul Rodgers /“Let Me Roll It”
(15)Roger Daltrey /“Helter Skelter”


 (2)「ディランがポールを歌うのか!」ってオドロキモモノキ!の方も多いじゃろうが、実はディランは大のビートルズ好き。 ビートルズ解散の報に対して「アメリカにビートルズの銅像を建てよう」と発言したほどじゃ。 ディランをエレクトリックに走らせたのもビートルズなんじゃ。
 この曲はビートルズのサード「ア・ハード・デイズ・ナイト」に収録されておった。 全編にわたってジョン・レノンの歌と作品が炸裂する中で埋もれてしまいそうなポジションの曲じゃったが、ビートルズのライブの中ではなかなかの人気曲。 現在は廃盤の「ビートルズ・ライブ・アット・ハリウッドボウル」にも収録されていて、演奏と歓声とのバランス(笑)が恐ろしくデキアガッテおった。 ディランはライブ会場にいたんじゃないか!

 (7)これも一見意外なメンバー。 ブライアン・ウイルソンってビーチボーイズのリーダーじゃよ。 同名異人じゃないよなあ? ただし選曲からすると分からんこともない。
 誰もがうっとりする美しいメロディーを別次元からいじくったアレンジで単なる名曲で終わらせないのもポールの十八番じゃが、この曲は80年代発表曲の中ではその類のトップに位置しとる。 大衆路線と象徴主義(シュールレアリズム)との融合に凝りまくっていたブライアンならではの選曲ともいえるな!

 (14)のポール・ロジャースは、もう何度も紹介しとるブリティッシュ・ブルースロック界を代表する稀代の名シンガー。 ブルースロックのみならず、歌はなんでもござれ!のお方であり、ポール・マッカートニーを歌ったって何ら不思議はない。 かつてオペラチックなクイーンのヴォーカルをやってしまったぐらいじゃからな。
 今回はロジャースにとっては無難な選曲じゃろう。 歌と演奏が終始綱引きをしとるようなスローテンポなロックであり、ロジャースの歌いっぷりが楽しみ!

 (15)ビートルズ唯一無比の強烈なハードロック・ナンバーじゃ。 かつて凶悪殺人犯が愛聴していたと発言して物議を醸した曲でもあったが、そいつをザ・フーのロジャーが歌う!ってサイコーに楽しみな一曲じゃ。 ロジャーの歌唱力がまったく衰えておらんのは、わしはこの耳で数年前に確認しとるので大丈夫!(だと思う) 既にインターネットでも話題になっとる“大企画”じゃ。


アタシのポール・マッカートニー

(3)Heart /“Band on the Run”
(19)Chrissie Hynde /“Let It Be”
B_(3) Ronnie Spector /“P.S. I Love You”

 さあ〜て、お次は女性陣の登場じゃ。 (3)はかつて“女ロバート・プラント”と称されたほどの圧倒的な歌唱力をもつアン・ウイルソン率いるハートのカバー。 アンはポール好きを公言しておったから聞く前から品質は保証済!この曲は70年代のポールを代表する既に聴き慣れ過ぎた名曲じゃが、アンがどんな新しい息吹でもってこの曲を現代に蘇らせるのか!

 “女ロバート・プラント”のお次は、(19)の“”女キース・リチャーズ”クリッシー姉御!女だてらに(もう死語じゃな)テレキャス、擦り切れたジーンズをトレードマークにして野郎ども3人を率いてプリテンダースとして活躍しておっな。 女番長のイメージが強かったが、意外にも男に捧げるバラードをしっとりと歌うのも得意であり、この選曲も納得じゃ。
 「苦しみ悩んでいる時、聖母マリア様がやって来て“なすがままにと〜”」って曲じゃが、クリッシーは聖母マリア様のごとく歌うんじゃろうか。 一刻も早く聞きたい!

 B_(3)は、お〜ロニー・スペクター!「ビー・マ〜イ・ビーマーベイベ〜」のロニー嬢! この方は絶対に60年代から出てはいかん!永遠のシックスティーズ・アイドルじゃあ〜なんて思っておったが、ええ選曲じゃ。 ビートルズのデビューシングル「ラブ・ミー・ドゥ」のB面に収録されておった曲であり、瑞々しいビートルズのかわいらしさが横溢しとるし、ロニーにはピッタリ! 御年70を越えておると思われるが、妙な“年の功”なんざ入れないで、そのままの「P.Sアイラブユー」、あのままのロニーでやってほしい。


アメリカン・ハードロック野郎の素顔!?

(13)Kiss /“Venus and Mars”/”Rock Show”
(16)Def Leppard /“Helen Wheels”
(31) Alice Cooper /“Eleanor Rigby”
(34)Sammy Hagar /“Birthday”

 まさかハードロッカーまでポールをやるとはなあ〜。 まず(13)のキッス。 彼らはケバケバのメイクやファッションとは裏腹に、曲は結構ポップスなもんが多かったから、案外ヒット曲の研究材料としてポールを聞いておったのかもしれん。 この曲は70年代中期のポールのコンサートのオープニング組曲。 かつてロック版デズニーランドとしてエンターテイメント・ショウの限りを尽くしたキッスなので、うってつけの選曲かもしれん。 本来ならアルバム1曲目に配置されて然るべき曲じゃが、まあ他に大御所がいっぱいいるんでキッスは遠慮したのかな?

 (31)のアリスクーパーは、いわばキッスの先輩であり、ケバくてオカルトチックなステージが身上じゃったロッカー。 中年になってもかつてのイメージから抜け出せずに苦労しておったようじゃが、ついにポール・マッカートニーを歌う心境になったか!?
 しかし曲は、教会の前で米を拾っているような貧民が歌われておるんじゃ。 真に迫った歌いっぷりだったら、逆に怖いのお〜。 明日は我が身・・・じゃもんな!?

 (34)は、元モントローズ、ヴァン・ヘイレンのヴォーカリスト。 重くない爽快なアメリカン・ハードロックを歌う典型的な存在。 高音域における節回しが得意なヤロウなんで、イケイケ・スピード・ロックのこのナンバーを歌うにはピッタリ。
 ただしこの曲、元々はポールとジョン・レノンの別個のパートを繋げて1曲に仕上げたアイディ曲なんで、サミー・ヘイガーともう一人のカップリングにしてほしかったのお。


アメイジング!で予測不可能?な布陣

(28)Dr. John / “Let ‘Em In”
(32)Toots Hibbert with Sly & Robbie /“Come and Get It”
(33)B.B. King / “On the Way”
B_(7) Wanda Jackson /“Run Devil Run”


 
スライ&ロビーってレゲエ界の重鎮じゃねえか! B.B.キングに至っては泣く子も黙るブルース界のキングじゃ! それにドクター・ジョンはニューオリンズ・サウンドの名ピアニストではないか! 彼らも実はポールのファンだったのか!? 単なるメンツ集めに賛同して参加するほどお調子者じゃないと思うが・・・。
 それにワンダ・ジャクソン! これってアリか?っつか、まだお元気でいらしたんですねえ〜ワンダ嬢。 永遠のロカビリークイーンとうたわれておるが、慌ててプロフィールを調べてみたら、御年77歳! 数年前にエルヴィスのカヴァーアルバムを出して、歌唱力とスピリットがまったく衰えておらん健在ぶりを示してくれたから、まだまだイケマスワ!ってとこじゃろう。

 スライ&ロビー、B.B.キング、ドクター・ジョンが一般的なイメージ・キャラと真逆の選曲をしているが、ワンダ嬢の方は実に彼女らしい選曲(7)であり、ポールが90年代にオールドロックンロールに思いっきり回帰したアルバムのタイトル・ソングじゃ。 回帰といっても、ポールはほぼ全曲オリジナル曲でやったんで、わしはノックアウトされたもんじゃが、やはりワンダ嬢がポールを歌うならばそのアルバム収録曲がもっとも相応しいな。 変わらぬ爆発ヴォーカルを聞かせて頂きたいものじゃ!


 その他、Steve Miller、Willie Nelson、Barry Gibb、Cheap Trick、Smokey Robinson、Ian McCulloch、 The Cureら、これでもか!というぐらいのビッグネームたちが、ボーナストラック盤を含めると全42曲という単独アーティストへのトリビュート・アルバムとしては空前のボリュームのアルバムを作り上げておる。
 なんだか、ビッグアーティスト全員でポール・マッカートニーを胴上げして、彼の活動歴にひとつのピリオドを打ったような企画じゃな。 「ここまでやってもらえれば、もう本望だよ」って、ポールの現役引退へのスピードが加速するか? それとも「俺の才能は、まだまだこんなもんじゃないぜ!」って新作に益々に精を出すようになるか? わしとしては、絶対に後者であると願いたい! 体力には限界があるが、才能には限界がない。 ポールのような宇宙的な規模の才能を持った者は尚更じゃ! これを機に、ポール・マッカートニーが大いに再生されることを!
 しかし才能があるってえのは羨ましいのお〜。 自分は休んでおっても、優秀な仲間や後輩たちが盛り上げてくれるんじゃからな。 わしなんか、この歳になっても自分で自分を鼓舞するしか再生の道はないからなあ・・・。 ポールのようにファンが才能とセンスを活性化してくれるThe-Kingブランドの為に働き続けるのがやはりよろしいようじゃ!



七鉄の酔眼雑記 〜エルヴィスの名曲、ポールの名曲 

 ビッグロッカーの「トリビュート・アルバム」が作られるようになったのは、いつ頃からじゃろうか。 正直なところ、わしはあんまり好きな企画ではないんじゃ。 理由なんて決まっとる! オリジナルの方が全然良く聞こえるからじゃ。
 でもわしも年をとって、多少は世の中のイロハが分かるようになり(笑)、ひとつの曲には聞いた人の数だけ解釈の仕方があるということを認めることが出来るようになってからは、トリビュート・アルバムに素直に向き合えるようにはなった。

 好きなトリビュート・アルバムは、実はエルヴィスに捧げられた2枚。 94年10月8日メンフィスで行なわれたエルヴィス・トリビュート・ライブの収録盤。 それから90年に発表された「THE LAST TEMPTATION OF ELVIS 」。 前者はライブ特有の熱気を借りて(?)エルヴィスの名曲の数々が披露される。 後者はエルヴィスが歌ったサウンドトラックばかりのカヴァー。 どちらもエルヴィスのオリジナル曲に真正面から取り組んだとはいえない。 「エルヴィスの前に、そして後ろにエルヴィス無し!」という不滅の定義に対する、後輩たちの「エルヴィス愛」が詰まった精一杯のリスペクト企画じゃった。 つまり、エルヴィスとは、そういう存在なのあ〜る! 曲自体の素晴らしさもさることながら、エルヴィスが歌ったから不滅の名曲になったわけで、カヴァーするには誰もが及び腰になってしまうのじゃ。

 一方ポール・マッカートニーじゃが、彼の名曲はエルヴィスの名曲とは別次元にある。 曲の完成度そのものが絶対なんじゃな。 異論はあるかもしれんが、ポールが書いた名曲は、ポールではなくても、優れたシンガーが歌えば大概は新しい名曲になるんじゃな。 ここがエルヴィスの名曲とポールの名曲との種類の違いなんじゃないか、と思う。

 エルヴィスのトリビュート・アルバムは、エルヴィスの死語に発表されたのでエルヴィスからのコメントは無い。 でもポールはまだご健在じゃ。 ポールは「ザ・アート・オブ・マッカートニー」に対してどんなコメントを発するのだろうか? 願わくば、第二、第三の「ザ・アート・オブ・マッカートニー」が制作されるような、後輩たちのマッカートニー愛を称える態度を示してほしいものじゃ。



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