NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.185

 昨年の大晦日に飲んだくれてしまい、今年の正月を台無しにしてしまったのは何度か書いたが、結局クールとは言い切れない一年を過ごしてしまった。 でも2013年の最後の最後でボスがわし好みの新作ナッソーたちを鮮やかにキメてくれたのでホント救われたわい! 「終わり良ければ全て良し」じゃ!
 わしもなんかキメてみたいが、ボスとは根本的な「ロック・センスのレベル」が違う・・・。 せめてファッション以外でもロック関連のスバラシー作品に出会いたいなあ〜と願っておったところ、神様はわしを見離しておらんかった。 実にエエ映画にめぐり会えたぞ!
 
 12月14日に日本で封切られた映画「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」。 この作品は、ビッグ・ミュージシャンのバックコーラスを担当していた女性シンガー(コーラス隊)に光を当てたドキュメンタリー・タッチの映画じゃ。
 決してスターではないが、ビッグ・ミュージシャンの演奏を盛りたてるためには不可欠な存在じゃった彼女たち。 スターはほんの数メートル先、すぐにでも手の届きそうな所におるのに、自分はそこには立てない。 その夢と絶望との間で激しい葛藤、忍耐、修練を強いられる人生模様が詳らかにされていくちょっとマニアックな音楽映画じゃ。 先日観てきて、久しぶりに音楽関連映画でゾクッとしたわい!
 2011年にロック殿堂入りを果たしたダーレン・ラブ(エルヴィスやシナトラのバックを務めていた!)、メリー・クレイトン(ローリング・ストーンズと共演)、クラウディア・リニア(ストーンズやデヴィッド・ボウイの曲のモデル)、ジュディス・ヒル(マイケル・ジャクソンのバック)ら、ロックサイド(ポップ・サイド)でほんの一時期大きな光を浴びた女性へのインタビューを中心にしながら映画は展開していくのじゃ。

 映画を観終わってクールダウンした後、映画では紹介されたなかったものの、ロックのレコードを通して知る事が出来た、ロック界では“知る人ぞ知る ”女性バックコーラリストたちの名前をわしは次から次へと思い出しておった!
 あんまりにも名前がスラスラ出て来たのには我ながら驚いたが、ビッグミュージシャンたちを強力にサポートしていた事実により、彼女たちもまたロック史を形成した忘れ難き存在としてわしの心の中にしっかりと刻み込まれておったんじゃよ! だからこれを機会にわしの手で彼女たちに光を当ててみようと思う。 彼女達のコーラスによって曲のロックとしての特性、グレードがスケールアップした七鉄オススメのナンバー集じゃ!
 クリスマスソング集、ニューイヤーソング集は出来なかったが、ロックファンとしてこっちを断然聞くべし!ってなナンバーをご紹介致す!


ニューイヤーソング集の代わりにお届けする
「バックコーラスの歌姫」が“あげまん”したロックナンバー・セレクション


♪〜TUNE-1〜Tin Soldier / Small Faces with P.P.Arnold

 “純然たるロック・ミュージック”の中で、わしが最初に女性コーラスを強く意識した忘れ難き1曲じゃ
 スモール・フェイセスは、ザ・フーとともに60年代後半のモッズ・ブームのシンボル・バンドであり、後のフェイセスの前身にもなったバンドじゃ。 この曲で力強いコーラスを披露しておるP.Pアーノルドは、実はアイク&ティナ・ターナーが1950年代末期から長期に渡って断続的に運営しておる女性コーラス・バンドのアイケッツに1965年から参加しておる実力派。 1967年にローリング・ストーンズのツアーをサポートしてから、その歌唱力とキュートなルックスがミック・ジャガーを魅了し、ミックの口効きでソロ・アルバムまで制作しておる。

 この曲は、黒っぽいヴォーカルでブリティッシュ・ロック史上に名高いスティーブ・マリオットが、P.P.アーノルドの為に書いた曲と言われておるが、曲の出来栄えをスティーブがいたく気に入ってしまい、彼女との共演という形でバンドのシングルとして録音しておる。

♪TUNE-2〜You're So Good for Me/Humble Pie with Doris Troy & Madeline Bell

 スティーブ・マリオット絡みのもう1曲。 スモール・フェイセスの後に結成された、スティーブのリーダース・バンド、ハンブル・パイも独自のブルース路線を追求したバンドじゃったが、アルバム「スモーキン」はあまりにも“黒くやり過ぎ”ており、聴いておる方が肩がこってしまう様な楽曲が多く、エディ・コクランのカヴァー「カモン・エヴリボディ」も曲特有の疾走感が台無し。 でもこの曲だけは2人の黒人女性シンガーのコーラスによって、未曾有のスローブルースロックに仕上がっておる。

 ドリス・トロイとマデリン・ベルのお二人は、1960年代のアメリカン・ソウル界で有名シンガーのバックを務めて成功を収めており、特にドリス・トロイは作曲能力にも長け、通のファンの間では「ママ・ソウル」の愛称で呼ばれておった方じゃ。 (この辺は八鉄センセーのテリトリーと思われるので、より詳しい情報はセンセーにお頼みするように!) 後にリンダ・ロンシュタッドやブライアン・フェリーらロックサイドのシンガーたちも彼女の曲をカヴァーしておる。
 ドリスの才能を高く評価していたのは、実はビートルズ! 彼ら自身のアップル・レコードと契約を結ばせてソロアルバムをリリースしておる。 プロデューサーはジョージ・ハリスンじゃった。 なんか“違う”様な気もするけど、音楽センス、ジャンルの違いを越えた崇高なレベルでドリスが評価されていたってことじゃろうな。

♪TUNE-3〜Don't Let Me Down / Bad Company with Sue & Sunny

 スロー・ブルース・ロックの名曲でもう1曲いこう! スティーブ・マリオットと並ぶ、70年代のブリティッシュ・ロック・シーンを代表する白人R&B系シンガー、ポール・ロジャースが結成したバッド・カンパニーのデビューアルバムに収録された1曲。 バッド・カンパニーのベスト盤は今日まで何枚か編集、発売されておるが、何故かこの曲はいつも外されておってどうにも納得いかん! 白人シンガーと女性コーラスの名共演曲じゃぞ! (you tube の再生回数25,000回って嬉し過ぎるぞ!)

 プロデュースのされ方もあるじゃろうが、名うてのシンガー、ポール・ロジャースの名唱も、女性コーラス隊スー&サニーの迫力にちょっと押され気味じゃ!? あっ! バッド・カンパニーのセルフ・プロデュースじゃったな。 スー&サニーの力量をそれだけ認めていたということじゃろうな。
 スー&サニーとは姉妹さん。 歌声はどう聴いても黒人じゃが、その昔懸命に調べたら実はインド人じゃった! インド人、じゃなくてナナテツがビックリ!

♪TUNE-4〜With A Little Help From My Friend / Joe Cocker with Sue & Sunny

 スー&サニーの名前がロックのレコードのクレジットされたのは、こっちの方が先じゃった。 
 「ロック・シンガーにならなかったら人殺しになっていただろう」なんてオッソロシー“迷言”が有名な、超飲んだくれ(わしの事ではない!)の激唱猛獣シンガー!のジョー・コッカーとガップリと組んでキメたコーラスはロック史上に語り継がれるべきじゃよ。
 しかしこの曲、元々はビートルズの曲であり、大作「サージェント・ペパーズ〜」の中に収録された、リンゴ・スターがとぼけた声でほのぼのと歌う小品だったんじゃが、ジョー・コッカーの喉によってまったく異次元、いや別の曲に仕上がっておる。 歌う者や取扱いのスタンスが激しく異なることによって劇的に変化してしまった典型的なヴァージョンじゃ。
 

♪TUNE-5〜Isn't It Time / Babys
   
with Lisa Freeman-Roberts, Myrna Matthews and Pat Hendersons

 べイビーズという、ロックバンドとしてはなんともナサケナイ名前のバンドは、70年代中期にイギリスでちょっとしたブームになった「アイドル系ポップロック」の中で現れたな。 このブームはサウンド的には「パワー・ポップ」と呼ばれておったが、ベイビーズはヴォーカルのジョン・ウエイトが80年代に入ってもアメリカでスマッシュ・ヒットを飛ばしたこともあって、今では“パワー・ポップ・バンド”の中では一目置かれた存在になっておる。

 この曲は3人の黒人女性コーラスによって、曲のメリハリが見事に強調されており、シンセやオーケストレーションを越えたナチュラルな大仰さに好感が持てた記憶がある。 黒人コーラス隊のサポートがあってこそ出来あがったヒット曲じゃし、映像を観るとバンドの存在感が彼女たちに比べたら何ともオコチャマじゃわな!


♪TUNE-6〜That Smell / Lynyrd Skynyrd
  
with JoJo Billingsley, Cassie Gaines, Leslie Hawkins

 大物ロッカーがこぞって大規模な全米ツアー、ワールド・ツアーを敢行するようになったのは1970年代から。 その中でバンド専属のバックコーラス隊をツアーに随行させたのは、アメリカのレイナード・スキナードが恐らく最初じゃろう。 だからジョジョ、キャシー(ギタリスト、スティーブの実姉)、レスリーのトリオは、列記としたバンドメンバーとしてファンに認知されておったもんじゃ。 彼女達3人は「Honkettes」の別名でも呼ばれながらレイナードのファンに愛され、1976年のバンドの来日公演の際にも、もちろんステージに立った!

 またヴォーカルのロニーの歌唱力がどの曲でも割りと一本調子だった事もあって(それが“質実剛健”という評価もあったが)、彼女達のコーラスはライブやレコーディングにおいて、“バックの域を超えた”重要なパートを担っておったもんじゃ。 さしずめその象徴的なナンバーがコレじゃ。 コーラスというよりも、ロニーとの掛け合いにも聞こえる豪快な歌いっぷりじゃ!


♪TUNE-7〜The Battle of Evermore / Led Zeppelin with Sundy Denny

 先日ブリティッシュ・フォーク界の伝説的ギタリスト、故バート・ヤンシュの追悼公演がツェッペリンのロバート・プラントが中心となってコンサート会場の聖地ロイヤル・アルバート・ホールで開催されたんじゃ。 ロバートもといツェッペリンとブリティッシュ・フォークってのは一見水と油じゃが、ロバートもジミー・ペイジも音楽的バックボーンは黒人ブルースと同等にブリティッシュ・フォークがあるのじゃよ。

 一般的には話題にもならんが、ツェッペリンのサードのレコードB面はほとんどフォークだし、名盤「4」にも“モロ・フォーク”のこのナンバーがある!
 当時のフォーク界のNo.1歌姫サンディ・デニーとロバートがほぼ対等なな掛け合いを演じており、ツェッペリンのフォーク嗜好ってものが本物だった事を見事に証明する1曲じゃった。 レコードにおけるこの曲の配列は名曲「天国への階段」の前じゃが、その美しく神秘的なアコースティック・サウンドは「天国への階段」のいわば第一楽章の様にも聞こえる隠れた名曲じゃ。 別名「天国へのプロローグ(序章)」ってトコじゃ。


♪TUNE-8〜Games without Frontiers/Peter Gabriel with Kate Bush

“毛色の違う”曲をおひとつ。 元ジェネシスのリーダーであり、ソロとしてはいわゆるシニカルな“社会派”ポップスを聞かせるピーター・ゲイブリエルの1979年のヒット曲じゃ。 “最前線(の兵士)の気持ちなんざ知らないヤツラが戦争を指揮しているんだ!”といった強烈な反戦ソングじゃが、バック・コーラスは当時売出し中の超才媛シンガー、ケイト・ブッシュ。         
 ちょっと少女チックなケイトの声質を、スルド過ぎる曲のメッセージの緩和に繋げる意図でもあんのかと想像したが、事実はまったく逆じゃった。 彼女のコーラス「♪〜Jeux〜Sans〜Fronteires〜♪」ってのは、曲のタイトルをフランス語にしただけ! スゲーアイディじゃな。 ピーターとケイトはこのセッションで意気投合したらしく、後にデュエット曲「Don't Give Up」をヒットさせておる。

 サンディ・デニーとケイト・ブッシュは、決してマイナーなシンガーではないが、サンディは「ブリティッシュ・フォーク」のブームが跡形もなく消え去っていた1978年に31歳の若さで夭折しておる。 またケイトはデビュー当時こそロック・サイドでの紹介も頻繁じゃったが、アルバムを重ねる毎にアバンギャルド路線が激しくなって、ヒットチャートとも無縁になり、一時期は「キ○ガイになって隠遁した」とも噂された。 忘れられた女神像の埃を取り除き、ロックシーンへの貢献を再確認するべく今回のラインナップに加えさせて頂いた。

 いかがだったかの、今回のセレクトは。 わしとしては、一般的には無名の方が多く、年末において影の功労者を讃えておるようでとても気分が宜しいわい(笑) 歳末慈善原稿かのお〜♪ 我々が愛するロック・ナンバーは数多くあるが、その各曲の裏側には様々な人間が携わっており、諸君がその尊さ、楽しさ、複雑さ(?)を垣間見た気がしてくれたら、なおさら嬉しいぞ!

 2013年もわしの拙文にお付き合い下さって、心から御礼申し上げます。 諸君とのお付き合いも、もう185回、年数にして7年と8ケ月あまり。 来年の夏には節目の連載200回も控えておるので、「アンタ、そろそろ潮時なんじゃないの?」なんておっしゃらずに、これからも辛抱強く!?この頑固ロック・オヤジの尻を蹴っ飛ばしての叱咤激励を頂きたい!
 わしはThe-Kingの「バックコーラス」の域にも達しておらん存在であることは承知しとるが、いざ!となったら強烈な「バックドロップ(起死回生の反撃)」ぐらいかませる事が出来る様に!?来年も精進します。 



七鉄の酔眼雑記 〜レコード(CD)ジャケットには魔法が潜んでおる!
 
 わしが足しげく通う大手レンタルショップの洋楽CDコーナーには「若者よ、洋楽を聴け」っつうデッカイ手書きのポップが長らく掲げてある。 心の中で拍手をしながら、「その通りじゃ!」ってその横にコッソリ落書きをしたくなる! 
 そこまでアピールするだけにその店の洋楽の品ぞろえは都内随一じゃろう。 大物ロッカーの来日が決まると、そのロッカーの品揃えが俄然充実してきて、日本盤が発売されていない作品は、輸入盤で補っておる。 「素晴らしい」の一言じゃ! 店長を呼んで、酒でもおごってあげたくなる!

 このお店の熱意が実り、時々20歳そこいらの若いお客さんが、洋楽ガイドを片手にカゴの中に大量にCDを放り込んでおる光景にも出くわす。 カゴの中をさっと盗み見して「おっ!ワケーの、ええセンスしとるな。 それならこれもレンタルせえ!」ってアドバイスしたくなる衝動を抑えられない時もある(笑) まあ「迷惑なオジサン」扱いされるのがオチじゃろうからそんな事は今のところはしておらんが、その代わりに(?)彼らの若い背中にむけて無言のメッセージを送っておるんじゃよ。

 「ジャケットを隅々までチェックせえよ!」

 本編の方で取り上げた女性バックコーラスの方々のお名前は、若かりし日の「ジャケット・チェック」のお蔭で今日まで覚えておったのじゃ。 当時の日本盤レコードの解説書はただの感想文みたいなもんも結構あり、安い輸入盤にはガイド的なもんはなんも付いてない。 だから、ジャケットや紙製のインナースリーブに印刷された文字の全てがそのレコードの情報じゃった。 一字も漏らすことなくチェックしたもんじゃ。
 あれは20年ぐらい前、いわゆる業界ってヤツにおって、わしの次の熱狂的なロック世代に当たり、同じ業界内に身を置くヤングたちと公私に渡ってロック談義をさく裂させていた頃じゃ。 とにかく彼らは基本的な知識が足りなかった。 「あの曲は○○がバックコーラスじゃ」「○○に捧げられとる」「ゲストのリズムギタリストは○○のバンドのヤツじゃ」 「歌詞は○○からインスパイアされとる」なんて話をするとみんなびっくりした! 「そうなんですか! さすがはよく知ってますね〜」って言われたが、ちっとも嬉しくない。 「そんな事、ジャケットに記載されとるじゃないか!」ってなもんじゃ。

 わしは洋書の情報誌からブ厚いガイドブックまで読破せよ!とは言っておらん。 ジャケットやインナースリーブをチェックするだけで、そのロッカーに関する未知の情報や世界が分かって楽しいのに、なんでソイツを読まんのかな〜って不思議じゃったよ。 それによって、別のレコードも聴いてみたくなる事も数多くあるってのに。 ジャケットやインナースリーブのチェックは、ロックの知識を広げていくためには不可欠なアクションだったんじゃよ。 何よりも、「その1曲」の価値の底上げになったもんじゃ! またそうした知識が、いつ、どこで役に立つか分からんもんじゃ。 わしだって、そのお蔭で今回の原稿のネタが閃いたしな!

 お休みの日の前夜は徹夜でYOU TUBE鑑賞をやってしまうことが多いが、「ジャケット・チェック」のクセが抜けておらんせいか、画面の下に表示される、世界中から寄せられたコメントもぜ〜んぶ読んでしまう! 大半は私的な感想文じゃが、それでも中には知らなかった情報が書かれてあったりするから止められん。 その時刻は大体“一杯やっとる”が、酒が入るとと英文の読解力がアップするクセもぜ〜ぜん変わっておらんから、どんどん楽しくなって、やはり止められん!
 音楽の聴き方は自由だし、わしなんかに四の五の言われる筋合いもないじゃろうが、やっぱり知識は多いほど感銘は長続きするし、また予想もしなかった頃に突然感動が蘇ってくることもある。 そうやっているうちに、あなたにとっての名曲が、本当に“あなただけ”の名曲になるんじゃなかろうか? それは「ジャケット・チェック」なんて些細な行為によって成される事を、特に若いロックファンに伝えておきたいものじゃ。



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