NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.172

新連載!? 男性ファッション史で語り継がれる「ダンディと呼ばれし男たち
 The-Kingブランドのファンはもとより、自他共に認める「洒落男」にとって一番うれしい褒め言葉とは何じゃろう? それは「ダンディ」ではないじゃろうか?

 考えてみれば、エルヴィス、エディ・コクラン、ジェームス・ディーン、アンソニー・パーキンスら、1950年代に光輝いていたスターたちを賞賛する表現は数限りないが、彼らは果たして「ダンディ」って言われていたじゃろうか。 答えは「?」じゃな。 それほど「ダンディ」とは世の男性にとってクリアすることが困難な、とてつもなく高いハードルなんじゃ。
 そこでこれから男性ファッション史上で今も語り続けられる「ダンディと呼ばれし男たち」を断続的に紹介していこうと思うに至った! 一見「ロックンロール・ファッション」とは似ても似つかぬ装いの男たちが登場するが、どうか諸君の目指す独自の「ロックンロール・ダンディズム」の参考にして頂きたいぞ。 エルヴィスやジェームス・ディーンすら到達できたかどうか分からん「ダンディ」って、それは一体何なのか? その答え、パターンを見つける興味を持ちながら読んで頂きたい。


「ダンディと呼ばれし男たち」第1回~ジョージ・ブライアン・ブランメル(前編)
19世紀のヨーロッパ社交界を圧巻した
永遠に語り継がれるダンディズムの権化“Beau Brummell”


ナポレオンになるよりも、ブランメルになりたい!

■プロフィール
 ジョージ・ブライアン・ブランメル(George Bryan Brummell, 1778年6月7日~1840年3月30日)は、Beau Brummell(洒落者ブランメル)の異名で知られた、摂政時代のイギリスにおけるファッションの権威である。 摂政皇太子(後のジョージ4世)の友人でもあった。(以上「ウィキペディア」より)


 何はともあれ、「ダンディ・シリーズ」となればこの人物からスタートしなければならんほど、ダンディズムの権化、権威、本家本元じゃ。 「ダンディ」という言葉の発祥は意外と新しく19世紀になってからだという。 そして新しく生まれた「ダンディ」という言葉の最初のモデルがこのジョージ・ブランメルなのじゃ。 
 しかしプロフィール見て「あれ?」っと思ったじゃろう。 そう、このお方、著名な侯爵/伯爵でもなく、政治家でも実業家でもなく、まして芸術家でもない。 19世紀初頭から中期のイギリスの社交界に入り浸っていた一介の平民だったのじゃ。 それにもかかわらず、ヨーロッパ中の大貴族、政財界人どもを圧倒した“ダンディぶり”で、その名をファッション史に永遠に刻しておるのじゃ。
 ブランメルを賞賛するあまりにも有名な言葉がある。 侯爵にして詩人であり、しかも美男の誉れ高き当時の社交界のトップ・スター、バイロン卿のお言葉、それが
「ナポレオンになるよりも、ブランメルになりたい!」
なのじゃ。

 ロック・ファンの諸君に少しでも興味深く読んで頂くために、ひとつのエピソードをご紹介しておこう。 一介の平民が、どうして社交界のトップにまで成り上がれたのか? それは当時のイギリスの皇太子ジョージ4世が深く関与しておる。 このジョージ4世こそ、「オシャレ王子」の異名を誇った当代きってのオシャレ・セレブであり、あの“テディ・ボーイ”エドワード7世のご先祖様、3代前のイギリス国王なのじゃ。 そのジョージ4世が外遊の際に偶然ティーン・エイジャーのブランメルと出会い、その優雅な物腰と自信に満ち溢れた言動に衝撃を受けて、その後長きに渡って友人、パトロン、そしてライバルとなることで平民ブランメルは社交界にデビューする好運をゲットしたのじゃ。


“ベルばらファッション”狂騒時代を終わらせた社交界の風雲児

 ギブランメルやジョージ4世が社交界にデビューする以前のセレブたちのファッションじゃが、それは18世紀後半のフランス貴族社会が舞台の「ベルサイユのバラ」でもお分かりのように、現代風にいえば男も女も「コッテコテのコスプレ大会」。 光り輝くキンキラ色。 目もくらむド派手な原色。 そこに過度に散りばめられた装飾品の数々。 これが基本のスタイルであり、あとは如何にして「これこそオンリーワン!」ってな奇妙キテレツな組み合わせをしてみせるか!ってなファッション競争、いや狂騒状態じゃ。

 ブランメルのファッション・スタイルとは、この「コスプレ大会」を「何もわかっちゃいないガキの戯れだ」とあざ笑うかのような!超どシンプルの静粛路線じゃ。 黒、濃紺のフロックコートに白のネッククロス、タイツに近い超スリムなパンツ、ロングブーツ、装飾品は懐中時計のチェーンのみ。
 「はあ? 現代の男性のオフィシャル・ファッションみたいなもんじゃねえか!」って笑うなかれ! その現代まで続く男性のオフィシャル・ファッションのベーシック・モデルこそ、このブランメルが発案者であり、最初の実践者なのじゃ。
 
 しかし社交界の誰もが我先にと「コスプレ大会」に没頭しとる最中に、単なる超反対路線が登場してきても誰が振り向くものか! 社交界とは超一流セレブの交遊会、というか、見栄の張り合いパーティーじゃ。 似合う似合わないは別として、いかにファッションに金をかけているか、が勝負。 金の勝負に存在する数式は「足し算」のみ! ファッションがどんどんぶ厚くゴテゴテと膨れ上がっていくのは当然じゃ。 まあ相当のイケメンがシンプル・ファッションで臨もうが、鼻であしらわれるか、ウエイターと間違われるかってのがオチじゃろう。 じゃあブランメルはいかにして社交界から「コスプレ大会」の炎を消し去り、自らの存在を際立たせることに成功したのじゃろうか? 


「街を歩いていて、人からじろじろと見られているときは、君の服装は凝りすぎている(失敗している)のだ」

 社交界デビューに当たり、ブランメル青年は考えに考えた。 彼には社交界を征服するためには絶対的に必要である潤沢な資金が無かったからじゃ。 ジョージ4世の肝入りとはいえ、所詮元々は平民じゃ。 運よく複数のパトロンをゲットしようが、大富豪相手では勝負は見えている。 そこでブランメルは、当時は誰も考えつかなかった意外な戦法に出るのじゃ。 それはファッションの「フィット感」と「清潔感」じゃった! まるで怪獣の着ぐるみみたい!?に膨れ上がっていた当時のセレブ・ファッションには皆無だったからじゃよ。

 ブランメルには金は無かったが、抜群のプロポーションがあった。 こいつを極限まで活かし切るファッション、パーフェクトなフィット感をシンプルなモデルのフロックコート、シャツ、パンツにほどこしたのじゃ。 こればかりは、夜ごと美食と美酒に溺れて肥満への道を避けられない超セレブたちには絶対に手に入れられない!と踏んだんじゃろう。 だから装飾を一切捨て去り、ハイクオリティな服地と独特の仕立てにのみ大金を投じたんじゃよ。 頭と金は使いようじゃな! ブランメルのパンツは、時には履いたまま座ることができないほどの驚くべきフィット感があったという伝説が残されておるほどじゃ。

 次に清潔感の追求じゃが、これはネッククロスへの拘りに発揮された。 「ネッククロス」とはネクタイの前身と言われる、首に巻く薄手の細長いマフラーと想像してよかろう。 ブランメルはネッククロスは白一色とし、セレブの目をくぎ付けにするべく徹底したクリーニングをした。 わざわざ田舎の洗濯屋さんに依頼しておったそうじゃ。 「ロンドンの水は汚いから」ってのが理由らしい。 そして純白のネッククロスを軽く糊付けして、2時間かけて「輝く白」を強調する独特の巻きに取り組んでおったそうな。

 更なる清潔感の追求は、身体に一切香水を付けないこと。 欧米人ってのは、今も昔も、日本人が想像できないぐらい風呂嫌いが多い。 だから体臭をカモフラージュすべく香水が発達したわけじゃが、ブランメルはこの当たり前の習慣を覆すべく、身を清めることにも労苦をいとわなかった。 鼻をつくどぎつい香水に対して無臭をアピールしたのじゃ。
 そして下着やロングブーツの清潔感にも拘っった。 下着は白一色。 人目につかぬとはいえ、清潔感を重んじる者として一点の汚れもない下着を身につける事は身支度に欠かす事の出来ない儀式だったんじゃろう。 そしてブーツは、完ぺきに磨き上げるために、何と高級シャンパンを使ったらしいぞ。
(右上写真は、イギリスのブランメル博物館のフィギア。 左写真は、ブランメルのネッククロス風にマフラーを巻いたデヴィッド・ボウィ)



 “必殺の一言”のタイミングを外さない、社交界きっての毒舌家!?

宴会主催者 : ブランメル様、今日のシャンパンはいかが?
ブランメル  : おいウエイター、このサイダーもう1杯!

宴会主催者 : 当地では、どこがお気に召しましたでしょうか?
ブランメル  : えーと、君(召使い)、俺はどこが良いって言ってたか?
召使い    : 確か○○とおっしゃってました。
ブランメル  : そういうことらしい。 それでいいか?

 ブランメルはそれまでの真逆のファッション・センスで社交界に殴りこみをかけてきたわけじゃが、さらに社交界の常識を打ち破る戦略をとった。 社交界では会話術や趣味(教養)の広さもまた、自らの顔を売るために求められる絶対的要素じゃ。 相手を気持ちよくさせながら自分の存在をアピールする話術があるか。 人が羨むような達人の域に達した趣味をたくさん持っているか、ってことじゃ。
 ところがブランメルはこの習慣も一切無視した! 上記の有名な会話でも分かるように、徹底した上から目線で、相手が誰であろうと“寸鉄人を刺すような”無礼すれすれのブラックジョークをブチかまして相手の度胆を抜く会話スタイルじゃ。 これについては資料が少ないので説明が難しいが、現代で言えば「エレガントな北野武風受け答え」ってとこか!?

 さらに「私は趣味は持たない。 スポーツも嫌いだ」と言い放った。 趣味の達人になるのは「我を忘れて没頭する」事であり、「我を忘れるなんて猿じゃあるまいし、人間ならば耐えがたいことだ」と言って、周囲を凍り付かせていたらしい。 またスポーツに関しては「衣服が乱れる」「必死になっている顔が醜い」と、こちらも一刀両断に切り捨てておったのじゃ。

「オホホホ~♪ まあなんて高尚な趣味をお持ちなんでしょう」
「この前の競技のスコアはお見事でしたな~グァハハハ!」

なんてオベンチャラな会話は下種のやることである、といった態度を貫いたんじゃ~。 まるで「世の中にはびこっている事、お前らが夢中になっている事は、すべてくだらん事なのだ」といった究極の虚無主義、ニヒリズムを装い、相手が国王であろうが、大侯爵様であろうが、絶世の美女であろうが、ブランメル調会話はブレなかったのじゃ。

 まったく新しいファッション感覚と、絶妙の毒舌調話術で社交界の新しい風雲児となったブランメル。 社交界に出入りする者は誰しもなんとかブランメルに取り入ろうと躍起になり、その評判はイギリスだけに留まらず、ヨーロッパ全土の社交界に轟き渡ったという。 やがて、お坊ちゃまもお嬢様も老若男女みんなが、ブランメルに対してよりプライベートなお付き合いを望むほどの社交界のキングにまで上り詰めたのじゃ。 ブランメルが参加しているか、否かで、パーティーの質が云々されたってんだから、その人気と評価は絶大じゃった。
 ということは、本当は貴族たちの愛する芸術に関しては素晴らしい素養と知識があったのじゃ。 じゃが「能ある鷹は爪を隠す」戦法で、寡黙を演じながら必殺の一言をブチかます抜群のタイミングを心得ておったということじゃ。 人々の印象に長く残るのは、喜ばせることよりも驚かせる事ってことじゃな!
 

 さあ、ここまで読んで頂いた方の中で、「ジョージ・ブランメルがダンディ」と感じた方がどれぐらいいるか!? じゃが、これが「ダンディズムの権化」と言われた男の真実の一端であることをお忘れなきよう!
 ちなみに、1924年の無声映画時代に1回、1954年に大女優エリザベス・テーラーをヒロインに迎えて1回、ブランメルの生涯はアメリカで映画化されとる。 また2006年には、イギリス国営放送BBCで「ディス・チャーミング・マン」のサブタイトルでテレビドラマにもなっておる。 わしはまだどれも観ておらんが、少なくともアメリカの映画2本は、観る気をなくす様なポスターじゃな~。 いかん。 わしも実態が定かでないブランメル伝説、神話に完全にとりつかれておるのかもしれんな(笑)

 ジョージ・ブランメルのライフスタイル全体を振り返ると、「ダンディ」とは、ファッションとか趣味とか仕事とか、何かに心血を注ぐ毎日を遙かに超越した次元に存在する「現実を突き抜けた男性美」のようじゃな。 いかにエルヴィスだろうが、ジェームス・ディーンだろうが、ましてやわしなんぞは死んでも覗くことすら許されない「男の聖域」に思えるてくるな。 
 「ダンディ」への道なんか、元々存在していないのかもしれん。  じゃが、わしは諦めんぞ! 道が無いなら、諸君とともに作ったるわい! The-Kingファッションと、そこに宿るスピリットを携えておれば可能であるに違いない。 そう信じて、これからもThe-Kingブランド、並びにフリークである諸君と関わっていく所存なんで、どーぞヨロシク! 


七鉄の酔眼雑記 ~ダンディ、ダンディ、あぁダンディ・・・
 
 正直なところ、今回の紹介文は、ジョージ・ブランメルのダンディぶりを諸君に納得させる出来にはほど遠いと思う。 その最大の理由は、写真は皆無、肖像画すらほとんど残っていないからブランメルのイメージを想起してもらえる一番の手助けが出来ないからじゃ。 (まあ、わしの文章力の決定的欠如が第一じゃが) ブランメルが生きた時代は、写真技術は登場しておらんが、絵画の世界では肖像画を描くことが流行であり、「写実主義絶対時代」じゃった。 それなのにブランメルの肖像画はほとんどないんじゃよ。 この度掲載した肖像画(の写真)も、デッサンの域を出ていない、いわば未完成品であり、しかも一方は風刺画じゃからどうにもならん。 だからこそ、ジョージ・ブランメルの神秘性は永遠に高まっていくばかりなのじゃ。

「ダンディ」ねえ。 遠い、遠~い世界に思えてくる。 お洒落男の褒め言葉は他にいくつかあるな。でも、
「おしゃれですね」ってのは、どこか「テキトーなお世辞」が感じられる。
「セクシーですね」ってのは、「女の目を気にし過ぎだぞ」ってからかい半分な気もする。
「ハードボイルドしてますね」ってのは、「自己満足野郎」の裏返しのようだし。
 う~ん、どれもこれも滅多に言われないんだからもっと素直に喜べ!?ってそりゃそうなんじゃが、ほんなら
「クールですね」ってが嬉しいぞ!
 
 でもなあ、「クール」ってのは、The-Kingファッションの愛好者オンリーに許される褒め言葉であり、いざ言われると「そんな事は当たり前じゃ!」って、エラソーに更なる褒め言葉を求めてしまう!(って、実は言われた事ない・・・涙)
 ふーむ。 どうやら、やはり「ダンディ」に勝る褒め言葉はないってトコに落ち着きそうじゃ。 というのも、「ダンディ」という表現には男性の容姿、教養、知性、性格、ファッション、生き様とかのパーツ毎の賛辞が集約され、更にそこを超越した、いわば男性の存在そのもに対する究極の褒め言葉っつうイメージが非常に強い。 お世辞でもいいから死ぬ前に一度は言われてみたいもんじゃ! よし、The-Kingファッションで「ダンディ」と呼ばれることを夢見て余生を生きるか!

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