NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN VOL.142

 来月14日、2012年度の「ロック殿堂入りアーティスト」の受賞記念式典が開催されるな。 わしんとこにも招待状が届いたんで、さっそくThe-Kingに特別あつらえのナッソーをオーダーしたところじゃ! ってのはジョークつうか、今後の夢じゃが、今回の人選はわしも思うところがあるので、今回はこの話題でいくぞ!
 アメリカって国は、とにかく殿堂/博物館好きでな。 様々なジャンルで殿堂が設立されていて、その数は100近くもあるという。 それぞれの世界で長年功績のあった人物を高らかに讃えるって習慣は大変よろしいが、生きている者まで殿堂という名の博物館に入れてしまおうってんだから、日本ならば「人間国宝」に近い感じなんじゃろうか。
 でもな〜ロッカーが人間国宝ってのも、なんだか本末転倒というか、どうもよお分からん。 それにだ。 「殿堂入り」するための条件ってのが、デビュー25年以上という以外には、これといって明らかにされておらん。 グラミー賞やビルボード・アワード、アメリカン・ミュージック・アワードとは異なって、アルバムやシングルの売り上げ枚数やヒットチャートの順位、またゴールドディスクやプラチナディスクを何枚以上とかいう目安となる数字の規定もない。 さらにロックとは言い難いジャンルで活躍した方も選出されるから、「ロックの殿堂」の価値、意義ってもんが我々日本人にとってはどうにも不明瞭じゃ〜。 

 まあ細かいことはさておき、今年度の殿堂入りメンバーは既に発表されておるな。 パフォーマンス部門においては、まずガンズン・ローゼスにレッド・ホット・チリペッパーズ。 「ぇえっ!あの坊やたちもうそんなお歳だったのか?」 更にスモール・フェイセス/フェイセスにフレディ・キング。 「ほぉ、まだ入っとらんかったんじゃのお」って感じじゃな。 そして次の2名の選出には久しぶりに驚いた。 イギリス人男性フォーク・シンガーのドノヴァンと、アメリカ人女性ソウルシンガーのローラ・ニーロじゃ。

 ドノヴァンにローラ・ニーロ。 フィフティーズ・サウンド・フリークの諸君は、名前すら知らん方も多いじゃろうな。 そういう時こそ、このわしの出番じゃな! ではわしが教えてしんぜよう、ドノヴァン君とローラ嬢を!
 偶然にもお二人ともデビューは60年代の後半。 さらに共にロックンロールの王道路線とは趣を異にするフィールドで、しかもマニアック的な評価、人気に留まっていた方じゃ。 にもかかわらず、これからはエルヴィス、コクラン、ビンセントらと同じ博物館の中に入ることになったんじゃぞ。 このわしがお二人のミュージシャンとしての個性的なポイントを伝授しておくので、以後どうかお見しりおきを。 


祝!2012年ロック殿堂入り
60年代後半にデビューした好対照のシンガー
 〜「時代の語り部」ドノヴァンと、「超個性派ミューズ」ローラ・ニーロ


■ ドノヴァン〜時代の幻想嗜好を奏でた吟遊詩人 ■

 このお方、大ざっぱなジャンル分けをするとフォーク・シンガーじゃ。 66〜7年頃から「イギリスのボブ・ディラン」と評されておったが、歌唱法も曲もルックスもディランほどアクが強くなく、気さくで穏やかなフツーのフォークシンガーじゃった。
 彼の名が俄然クローズアップされるようになったのは、当時イギリス随一の仕掛け屋プロデューサー、ミッキー・モストの元で再デビューを果たしてからじゃ。 良質のドラッグで心地よくトリップしておるようなサウンドになってな。 中途半端にサイケでポップで、流行のフラワーパワー(平和主義)やインド思想(&インド的サウンド)も適度にちらつかせ、実体はよくわかんねーんだけど、なんか独特のほんわか感のあるアレンジ若干厚めのフォーク・サウンドに変身したのじゃ。
 アメリカ人が方法論的にこれをやると、ヒゲ生やしてムサイ恰好して主義主張をがなり立てるやかましーワカゾーになって、わしなんかすぐに引っ叩きたくなったもんじゃが、ドノヴァン君は「ほほぉ〜キミイ〜時代を楽しんどるな〜」って頭なでなでしたくなるタイプじゃった。 もともと王子様ルックスってことも相まって、グッドトリップしながらあくまでもソフトにおだやか〜に当時の若者の幻想を歌っておるような感じ。 そして付いたニックネームが吟遊詩人じゃった。 時代の語り部として、何かとシーンの最前線にいるような取り上げられ方をしておった。

 ところで、わしにとってのドノヴァン君の最大の魅力を話そう。 今でもドノヴァン君の音楽をかけるとだな、あっという間に部屋中に60年代後半の雰囲気が、まるで芳香剤のように広がっていくのじゃ。 その当時の個人的な思い出とか社会現象とかではなくて、ただただあの時代特有の空気そのものが蘇るんじゃよ。 これが本当の意味でのトリップ・ミュージックというのかもしれんなあ〜。 そいつを味わいたければ、最大のヒット曲「サンシャイン・スーパーマン」が入った同名のアルバムか、ベストアルバム「グレイテスト・ヒッツ」の2枚がよかろう。 
 
 なお、70年代前半に流行したグラム・ロック、特に大スターじゃったマーク・ボラン&T.レックスのサウンドの底辺には、ドノヴァン的ソフトトリップ・サウンドが流れておることはあまり指摘されとらん。 “ハイ”でもなく“ロウ”でもない、不思議なサウンド空間の中を昇降し続ける浮揚感は、マーク・ボランの専売特許みたいに言われとるが、あれの先駆者こそドノヴァン君じゃと思うとる。 全盛期は60年代で終わってしまったが、もうひと踏ん張りしておれば、案外グラム・ロッカーとしてもう一花咲かせることができたかもしれん!

 またドノヴァン君はビートルズへの影響力もあったと噂されておる。 ジョージ・ハリスンをインドの世界へと誘ったのはドノヴァン君じゃったらしく、実際に何度も一緒にインドへ行っておる。 またビートルズに3フィンガーズ・ピッキングを教えたのも彼とか。 ジョージ・ハリスンもポール・マッカートニーも、覚えたてのその奏法を「ホワイト・アルバム」の中で多用しとるそうじゃ。
 まあドノヴァン君を「殿堂入り」させるに至った決定的な要素はわしもよお分からんが、ビートルズやグラムロックへの隠れた影響力みたいなものが他にもあるかもしれん。 そこら辺が詳しく分析されて今回の栄誉に繋がったのかもしれんな。 「殿堂入り」のセレモニーでは、本人のスピーチと演奏ばかりが話題になるが、通好みの方が選出された場合には、ぜひとも殿堂側からその理由を詳らかにする発表があってもええじゃろう。 それがご本人にとっての本当の栄誉になると思うぞ。



■ ローラ・ニーロ〜誰も手を加えることが出来なかった、終生孤高のソウルシンガー ■


 “ロォラァ〜! 君はぁ〜何故にぃ〜♪”って西条秀樹をやっとる場合ではないぞ! ローラ・ニーロというシンガーは、その生涯を通して「恵まれない女性アーティスト」の典型みたいな存在じゃったな〜。 ついに大きな光を浴びることなく、1997年49歳の若さで亡くなっておる。 歌唱法も作詞作曲能力も、前例がないと言えるほど超個性的ながら、最後までメジャーな存在には成らず、かといってカルトヒロインってワケでもなく、フォロワーさえもいまだに皆無じゃろう。 何だか、いつの時代も音楽業界に己の居場所が見付からないような感じだったんじゃ。
 そんなローラ嬢にとって「ロックの殿堂入り」というのは、死後14年経っているものの、その実力に相応しい音楽業界からの初めてのご褒美のようじゃ。 わしは一瞬本当にジワッときたわい! そして、わしの手で更にもうちょっとだけローラ嬢に光を当ててあげたくなっていたところじゃ。

 彼女の叔母さんはジャズ界の名シンガー、ヘレン・メリルじゃ。 あの不滅の名曲「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」を有名にしたお方じゃ。 ニューヨークの下町ブロンクスで生まれ育ったローラ嬢は、ドゥーワップ、ジャズ、ゴスペルが当たり前のように存在するこの街の中で育った。 ストリート・ミュージシャンをやりながら才能を育んだ後、女性、いや人生の難題に真っ向から立ち向かうような生々しい歌詞を天性の強烈な歌唱力で歌い上げておったのじゃ。 そのあまりの超個性は、従来のロックでもブルー・アイド・ソウルでもなく、スケールのデカ過ぎる私小説ミュージックじゃった。 実質のデビューコンサートとなったモンタレーポップ・フェスでは、その凄まじいヴォーカルスタイルに大観衆が困惑してしまったと言われており、またアルバムはプレスから大絶賛されるもののセールス的にはまったく振るわなかったんじゃ。

 でもわしはたまらなく好きじゃったよ。 この人のお蔭で、女性シンガーの聞き方が一変してしもうた。 甘ったるい女性ポップスを一切受け付けなくなり、女性シンガーは“こうあるべきだ”という決定的な基盤を作ってくれたお方だった。 黒を基調としたアルバム・ジャケットは彼女の憂いを帯びた容姿を際立たせており、そして突如少女の仮面を剥ぎ取って襲いかかってきてはサッと身を引くようなエネルギッシュで変幻自在のヴォーカルは空前絶後! バックはピアノの伴奏と最低限のアレンジに留められ、ローラ嬢のヴォーカルを邪魔する下種なプロデュースも一切なかったのが堪らんかった! 
 一度、ジャズ界の巨匠マイルス・デイヴィスに参加を熱望したらしいが、マイルスはきっぱりと言ったそうじゃ。 「キミのヴォーカルに入り込む事は出来ない」と。 それほど彼女のヴォーカルは、楽器の共演を拒絶してしまうような絶大な存在力があったんじゃな。 でもあまりに凄過ぎるヴォーカルって、売れないんじゃよな〜。 例えば、同世代のジャニス・ジョプリンの様に、お互いに歩み寄れるようなバンドやプロデューサーとの出会いがローラにはなかったのも悲劇じゃったのかもしれん。

 それでもローラ嬢がシーンで生き延びることが出来たのは、彼女の作品を他者がカヴァーするとヒットしたからじゃ。 黒人の男女混合コーラス・グループの最高峰フィフス・ディメンションをはじめとして、スリードッグナイト、ブラッド・スウェット&ティアーズ、バーブラ・ストライサンドが続々とトップ20ヒットにしてみせた。 その他リンダ・ロンシュタット、フランク・シナトラ、アレサ・フランクリン、シュープリームス、ピーター・ポール&マリーなど、彼女の歌をカバーしたアーティストは、ものすごい数になるのじゃ。 
 でもわしにとっては、ローラ嬢のオリジナルの方が断然いい! 曲の原型を“ずんっ!”とむき出しに出来るヴォーカルは白人女性ではローラ・ニーロが最高!と今も信じておるからのっ! わしのおススメ作品は「ニューヨーク・テンダーベリー」と「イーライと13番目の懺悔」。 この2枚で巨大なローラ嬢の才能が必ず満喫できる。 しかし体調の良い時に聞きなはれ。 そうでないと・・・。
 
 最後に余談をひとつ。 もし諸君のお部屋に酔っ払いのやっかまし〜オンナが居座ってしまったと仮定しよう。 ソイツを黙らせるにはローラ・ニーロの「ニューヨーク・テンダーベリー」じゃ。 わしは何度かコレで成功した! ある絶望的な酔っ払いのアマは、「な、な、なんなのこの人、子宮で唄ってる・・・」って真っ青になっておとなしくなったもんじゃ。 そのアマは今でも大嫌いじゃが、なかなかの名言(迷言)を残してくれよった。 ドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」にも「オカシナな酔い方しそう・・・」って金魚が梅干食ったみたいな顔になっておったよ! 
 
 殿堂入りという表彰制度も、スタートから既に四半世紀が過ぎた。 誰もが知るビッグアーティストはほとんど殿堂入りしたんで、これからはドノヴァンやローラ・ニーロのようなイマイチメジャーに成り切らなかった実力者たちが選出されてもいい時期に差し掛かっておる。 だから「ロックの殿堂入り」というニュースは、今後音楽ファンにとっては今まで知らなかった凄い才能に巡り合う良い機会になってくるに違いない。
 来年あたりは、そろそろブライアン・セッツァー殿がノミネートされる噂もチラホラある! 真の実力者にはいつの日か必ずスポットライトが当てられるのじゃ。 その時が新しいフィフティーズ・ロック復権時代の到来かもしれんな。 諸君、それまで準備を怠らんようにな!The-Kingのごとき、決して歩みを止めることなく、本物をいつでもまとっておくのじゃ、ええなっ!  




七鉄の酔眼雑記 〜タイムスリップしてもうたぁ〜!?

 諸君はタイムスリップしたことがあるか?ってあるわけねーよな。 実はな、わしはこの前、マジでタイムスリップしてしもうた!? 15年ほど前まで、わしは東京都北区に住んでおった。 そこを引き払ってユーラシア大陸放浪の旅に出たんじゃが、数年前に帰国した直後にヒマつぶしで一度訪ねたところ、既に土地の再開発が終了しておってな。 わしが住んでおったマンション、その隣の大家さんの一軒家も取り壊されており、代わりにでっかいオフィスビルが建てられておった。 かつての住居が無くなったっていたことで若干の寂しさはあったものの、 「あの大家め、結構な立ち退き料をせしめたんじゃろうな〜」程度の思いじゃった。
 先日私用があって、再びその地へ行くことになった。 目的地に行くには取り壊されたマンションがあった敷地の前を通らにゃいかんかったんじゃが、近くまで来たら我が目を疑った!というか心臓が止まりそうになった!! 無くなったはずのマンションが、あ、あ、あるではないか!!!!! もう声も出ないくらいのとんでもない衝撃じゃった。 どういうことだ、これは・・・わしは、タイムスリップしてしまったんじゃ!

 タイムスリップを実感した直後って、人間はどんな心境になると思う? 50メートルほど離れた位置から、かつて住んでいた部屋の窓とベランダを見つめながら、わしの思いはこうじゃった。 「あそこに行けばキュータロウ(当時大切にしていた猫)がいるんだ! あっ、でもお袋はもう死んじゃってたな」と状況判断!?を始めたんじゃ。 次に、放浪する際に全部売却処分した膨大なレコードや本があそこにある!とドキドキしたぞ、マジで。 更に「あの会社(当時の勤め先)にまた行かにゃいかんのか」「あのオネーサマんトコにまた行っちゃったりして〜♪」「おいおい、結局また放浪に出ることになるんかいな?」とか、頭ん中が期待と不安でグッチャグチャ。 タイムスリップした時代が、自分がこの地に住んでいた時代であると決めつけてしまったんじゃな。 なんたる楽観主義、なんたる能天気ぶり! やがて失ったものが戻ってくる感激からなのか、止めどもなく涙が溢れてきた! 

 この日以来、たて続けに「タイムスリップ映画」を観た。 「バック・トゥー・ザ・フューチャー」 「地下鉄に乗って」「ある日どこかで」「タイムライン」「フィラデルフィア・エクスペリメント」等など。 タイムスリップする状況設定は様々じゃが、以前に比べると無条件に面白いとは思えなくなってきた。 そりゃそうじゃ。 自分自身がタイムスリップなんてありえない経験したんじゃからな! 事実は小説、いや、映画より奇成り!!
 
 おっと、タネアカシを忘れとったわい。 あるはずのないかつての住居を眺めて涙溢れるわし・・・。 その涙が頬を伝わって首筋まで流れてきた時、わしはようやく我に返った。 「おいおい、しっかりせんか! これはぜっっっっったいに何かの間違いじゃ」と自分に言い聞かせて、恐る恐るマンションの目の前まで移動して、自分が住んでいた部屋を見上げてみた。 ベランダに置いてあったグレーの洗濯機が無い。 やはりな。 見覚えのないバスタオルが干してある。 そうらみろ。 さらに周辺を散策してみた。 なあ〜んのこたあない! オフィスビルが新築されていたのは、道一本隔てた隣の区画地域だったのじゃ。 数年前に再訪した時は、ただ単にわしが道を1本間違えていただけのオ・ハ・ナ・シ。 本当に人間の記憶ってのはいい加減じゃな〜。 つか、マジでわしはボケが始まったんじゃないか、と苦笑するしかなかったな。
 でもちょっと残念でもあったな。 時間にして数分間ぐらいか? その僅かな時間の中で、自分の中では完全にタイムスリップしておったんじゃからのお。 あの時はシラフじゃったが、もしホロ酔い気分じゃったら、間違いなく近くのコンビニにでも駆け込んで新聞の日付を確認しておったじゃろう。 新聞が無かったら、コンビニの店員に「今日は何年の何月何日でっか?」と聞いておったじゃろう! どうせ勘違いするなら、それぐらいのアクションは起こしておきたかったのお。 後で笑い話ぐらいにはなったはずじゃ!
 

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