NANATETSU ROCK FIREBALL COLUMN Vol.141

 最近サプライズがあった! 忘れかけていた注文品が突然届いたんじゃ。 宅配業者さんは「ドイツからのお届け物です!」と。 ドイツだと? どこのどいつだ?ってのはカビの生えたギャグじゃが、いくらビール好きのわしでも、ドイツビールを直で取り寄せるほどマニアじゃないし、本場もんのぶっといフランクフルトを注文した覚えもないぞ。 東京ドームの巨人戦へ連れて行って、ベースボールってスポーツを解説してやったドイツ人のヨハネス君は音信不通だし・・・はて? そういえば、The-Kingも先日ドイツに出荷したというし、そろそろわし宛てにドイツから“おまんじゅう”でも来たか!?
 いやいや受け取ってみたら、それはAmazonを通して二、三か月前にオーダーしておいたある写真集じゃった。 ご丁寧にも何度か「未入荷通知」があったんで半ば諦めておったものの、ついに届きよった!

 この写真集は「Cafe Lehmitz(カフェ・リミット)」と言うてな、ドイツのハンブルクにあるレーパーバーンっつう大歓楽街にうごめく者たちが撮影されておる非常にレア~な写真集なのじゃ。 ハンブルク、レーパーバーンっつう地名に即座にビビッ!と来た輩は、わし同様にかなりの遊び人! いやいやロック通じゃな。 1960年代初頭のブリティッシュロック創生期において、なくてはならないバックストリート的存在だったからじゃ。 
 詳細は後述するとして、このところこの写真集「Cafe Lehmitz」に昼夜問わず釘づけになっとるわしなので、今回は同書のようにロックの誕生や歴史をいわば裏側、別の角度から覗くことのできる写真集を紹介してみたいのじゃ。 20世紀が生んだ最大のカルチャーともいうべきロックン・ロール。 エルヴィスやビートルズがメジャーシーンに登場してきた時は、まるで突然変異した怪獣のような扱われ方をしたもんじゃが、何事にも誕生の背景には原因となる列記とした事実が存在するのじゃ。 チョイとシブメの切り口じゃが、どれもロックが生まれる直前の民衆たちの写真集じゃ。 深く入り込むことができれば、必ずやその時代にタイムスリップしたくなるぞ! 



民衆写真はかく語りき!?
アメリカン/ブリティッシュ・ロック誕生前夜を知るための、
希少な傑作写真集セレクション!


■プロローグ■ ■

 これからご紹介する3冊は、どれも写真集の古典的傑作として時代を越えて絶大な評価を受けておるようじゃ。 しかし被写体の中でロッカーはまったく登場せんので、どうかご了承じゃ。 しかしこの3冊には、ロックンロールが誕生するための時代背景、都市(街)の風土、人々の心情を、名もなき被写体を通して密やかに物語っておるので、わしはどうしても諸君に紹介しておきたいのじゃ。 筋金入りのロックファンならば、鑑賞しておる“ある瞬間”に、「(ロックとは)そういうものだったんだ!」と自らの膝を叩いて納得することが少なくないとわしは思うとる。 数ある書評には「ロック」云々は一切見当たらないので、この際一般論は度外視して、ロックファンの諸君にとっての価値づけ、見どころみたいなもんを書かせていただくのでヨロシクな! 


爆発寸前のエネルギーが充満した、エルヴィス登場前夜のアメリカンたち

■The Americans/ロバート・フランク■


 写真家ロバート・フランク氏が1955~56年にかけてアメリカ中を旅しながら撮影した写真80枚が、1ページに1枚づつ掲載されており、巻末には詳しいキャプションもまとめてられておる。 ほとんどの被写体はビンボーながら必死に毎日を生きておる人々じゃ。
 写真評論家さんに言わせると、そうした人物たちに焦点を絞ることで、独立した国家のようなアメリカの各都市(各州)の特徴を写し出しておる、とか何とか。 そんなことはわしには分からんわい。 わしが諸君に伝えておきたいのは、この写真集の中にはゴールデン・フィフティーズと呼ばれて、今でも「夢の時代」として憧れる者が後を絶たない1950年代の華やかさはどこにも見当たらないってことじゃよ。

 既に巨大化しておった1955~6年当時のアメリカの資本力を裏側から支えておったのは、紛れもなくここに写っておる名もなき人々であり、老若男女すべての被写体からはある種の屈折した、っつうか、持っていき場の無い鬱積したエネルギーを感じ取ることが出来るのじゃ。 彼らがいつまでも“このまま”でいいと思っておったわけがないのじゃ。 こりゃ~必ず何かが起こるな!っ予兆を感じるんじゃな。 そしてそこに核爆弾のように落とされたのエルヴィスのロックンロールだったってわけじゃ。

 つまりだ。 エルヴィスのロックンロールは、完成されたフィフティーズ・カルチャーの器の中ではなくて、 いわばこの写真集の被写体たちが生きる世界の中で大爆発したのじゃよ。 いつ、どこで、誰がエルヴィスに衝撃を受けたのか、それがはっきりと分かるって点でわしはこの写真集のフリークと化しておるんじゃ! 
 なお序文を書いておるのは、当時の大ベストセラーであり、若者たちのバイブルじゃった放浪の旅を綴った名著「オン・ザ・ロード」の著者ジャック・ケルアックじゃ。 「オン・ザ・ロード」にも、華やかなフィフティーズ・カルチャーの描写はなく、ビート(うちひしがれた)・ジェレネーションと呼ばれた恵まれない世代の名もなき人々が次々と登場するのじゃ。 この写真集のガイド役としてジャック・ケルアックは最適じゃ!


激写! ニューヨーク・イズ・ロックンロール・シティ!!


■New York 1954.55 /ウイリアム・クレイン■
 

 ご存知の通り、ニューヨークという都市は、ロックンロールという文化が根付くのに少々時間がかかった都市じゃな。 新しい文化の到来を最初は静観しておって、本物かどうか見極めてから取り込んでいくという、ある種の「したたかさ」「慎重さ」があるように思える。  その原因は何じゃ?って疑問に対して、この写真集がはっきりと解答を出してくれとるんじゃ。
 先述の「The Americans」同様、ほとんどが人物写真じゃが、こちらはアップショットばかり。 「いい写真を撮りたければ、被写体に近づけ!」と撮影者のウイリアム・クレイン氏は言っておったらしいが、奇しくも戦場カメラマンとして60~70年代に名を馳せたロバート・キャパ氏も同じセリフを言っておったな。 ウイリアム氏の目には、移民の都市ニューヨークは人生を生き抜くためのもうひとつの戦場に写っておったんじゃろう。

 そしてウイリアム氏の撮影の必殺技「ボケ、ブレ、アレ」が大暴れ。 ピンボケしようか、手ブレしようか、被写体がブレようが、プリントの仕上がりが粗かろうがお構いなし! この偉大なる反則技?ともいうべき手法が被写体の活力をよりリアルにしており、荒々しいロックのノリで映画を鑑賞しとるような写真集じゃ。 写真が、いや被写体が生きておる! 命の炎が燃えておる!!(萌え~ではないぞ) そして子供までも、ある種大人に写っておるのじゃ。

 正直、当書の中で躍動する1954~55年当時のニューヨーカーたちを見ておるとだな、彼らは56年に登場したエルヴィスやロックに驚いておるヒマなんぞなかったんじゃないか?と思えるな。 ニューヨークは時間の流れが早いっつうか激しい! 街全体が休むことなく呼吸をしておる。 爆弾の一個や二個が落ちてきたって意に介さないような筆舌に尽くしがたいエネルギーが充満しておるんじゃな。
 じゃから、実はニューヨークが「したたか」というよりも、新興カルチャーの方がある程度熟成して「したたか」にならないと、時間も人も激しく動き、都市そのものがロックンロールであるニューヨークの中に割り込んでいけないのじゃろう。 初期のロックよりも“ロックしていた“”人たちの素顔がこの写真集の中で見ることができると言えるかもしれん。 ロックが彼らを凌駕するまで、更に10年という歳月が要されるのじゃ。
  
 ニューヨークとロッカーと言えば、ジョン・レノンじゃな。 ジョン・レノンがこの都市に拘ったのは、アーティストという存在が当たり前であり、特別扱いされずに生活できることが要因とされておる。 しかしわしは、それだけではないだろう!とずっと言いたかったんじゃが、この写真集が代弁してくれておる。 ジョン・レノンはロックンロールそのものであるニューヨークの日常性に惚れこんでおったのじゃ。



下積み時代のビートルズを支えていた?愛すべきアウトローたち

■Cafe Lehmitz/アンデルス・ペーターセン■ 

 さて冒頭でご紹介した「Cafe Lehmitz」じゃ。 ハンブルクは、ドイツの首都ベルリンの北西約350キロに位置する港湾都市。 海には面してないが、ヨーロッパ有数の大河エルベ川の支流や運河の水上交通を中心に発展した都市じゃ。 ここに「レーパーバーン」という名の大歓楽街があり、1960~70年代までは「ヨーロッパでもっとも“いかがわしい街”」「世界でもっとも罪深い1マイル」というありがたくない称号を授かっておった。
 なんせ長い航海を終えた荒くれ者の船員たちがくつろぐ街じゃ。 飲食店、風俗店、淫売宿がひしめき合い、夜な夜な酒、女、ドラッグ、どんちゃん騒ぎが繰り広げられておったわけじゃ。
 世界中どこへ行っても、港湾都市の夜はクレージー! 船上生活でストレスが溜まった船員たちは、ほぼ例外なく酒が強くて気が荒くてタフじゃ。 そして小金持ち! そんな彼らのフトコロを当てにして街が繁栄しとるんじゃからクレージーなのは当たり前じゃが、どうやらその中でもハンブルク・レーパーバーンは特別に悪名高い伝説になるほどの街だったようじゃ。
 「Cafe Lehmitz」っつうのは、レーパーパンの中にあったビール・バーの名称であり、この地で働くいかがわしい女性たち、快楽を貪る野郎どものほとんどが立ち寄って行くバーであり、その人間模様を克明に撮影した写真集が当書じゃ。 撮影はスゥエーデン人カメラマンのアンデルス・ペーターセン。 撮影期間は1967~70年。 「Cafe Lehmitz」、レーパーバーンの最盛期がショットに収められておるのじゃ。 表紙イメージは、1985年にトム・ウェイツのアルバム「RAIN DOGS」のジャケット・カヴァーに使用されとるぞ。


 この時代周辺のハンブルクを描写した書籍も写真集も、何故だか現在入手困難なのじゃ。 長い間探しておるが、いまだにこの「Cafe Lehmitz」以外はたいしたもんは入手できん。 ドイツ政府が国のイメージアップのために、汚らわしい過去として記録を葬り去ろうとしておるのか? あり得ないハナシではないが、それがまたレーパーバーンの闇の深さを、そこで育まれたブリティッシュ・ロックの汲めども尽きぬ奥深さを物語っておるようじゃ。 
 この恐るべき地で腕を磨いたのが無名時代のビートルズじゃ。 ビートルズ以外にもイギリスのセミプロバンドはハンブルクに呼ばれておった。 新しく生まれた狂乱のロックンロールは、ハンブルクのより一層の活性化(どんちゃん化!)のために不可欠だったわけじゃ。 ビートルズは毎晩クラブで10時間前後の演奏を強いられ、ぶっ倒れそうになるとウエイターがビールとドラッグを持ってきて“気付け”したっつうからもう無茶苦茶じゃ。

 ジョン・レノンが語ったハンブルク時代のエピソードは実に興味深い!
「酔っ払いの船員どもを喜ばせるためなら、ズボン脱ごうが便器かぶろうが、もう何でもやったぜ!」
「ハンブルク時代の俺達の演奏こそ、最強のロックンロールだ!」
「パンクが出てきた時、俺は思ったよ。 あんなこと、ビートルズが遥か昔にハンブルクでやっていたことじゃないか!ってね」
 写真集「Cafe Lehmitz」は、ビートルズがレーパーバーンで暴れまくっておった数年後からの撮影写真じゃが、世界制覇する以前のビートルズがどんな環境で、どんな奴らを相手に若き情熱を叩きつけていたのかを物語っておるといっても差支えないじゃろう。
 そして、実際に撮影された時期には無名時代のジミ・ヘンドリックス、ブラック・サバス、ヤードバーズらが暴れ回っておった。 世界中を圧倒した彼らの驚愕のロックンロール・スピリッツの形成には、ハンブルク・レーパーバーンは中継しなければならない最重要地域だったのじゃ! ちなみにビートルズとジーン・ビンセントは、レーパーバーンのライブ・クラブ「スタークラブ」で共演しておる! (なお、ビートルズが写っておる下から2枚の写真は「Cafe Lehmitz」内の写真とは関係ないので、お間違えのないように)


■エピローグ■

 何だか、諸君に紹介しとる間に、わしの方が勝手に写真集の時代にタイムスリップしたようじゃのお。 それだけその時代と環境が放つ魔力、磁力が強烈なのじゃ。 モノクロ写真というのも神秘性を高める一因になっとるが、やはり撮影者の被写体を捉える感性、タイミングが素晴らしいのじゃ。
 古い時代をとらえた写真集ってのは、たとえ知らない国であっても、見たこともない文化であっても、おかしな懐かしさを覚えるものじゃ。 それはその時代、その環境特有の平和が封印されておるからなのかどうなのか、わしはアタマ悪くてよお分からんが、この3冊の写真集は平和でも天国でもなく、人間の普遍的な「生」が活写されておる。 だから観ていて胸が躍り、心の中に食い込んでくるんじゃ。
 
 何だか、諸君に紹介しとる間に、わしの方が勝手に写真集の時代にタイムスリップしたようじゃのお。 それだけその時代と環境が放つ魔力、磁力が強烈なのじゃ。 モノクロ写真というのも神秘性を高める一因になっとるが、やはり撮影者の被写体を捉える感性、タイミングが素晴らしいのじゃ。
 古い時代をとらえた写真集ってのは、たとえ知らない国であっても、見たこともない文化であっても、おかしな懐かしさを覚えるものじゃ。 それはその時代、その環境特有の平和が封印されておるからなのかどうなのか、わしはアタマ悪くてよお分からんが、この3冊の写真集は平和でも天国でもなく、人間の普遍的な「生」が活写されておる。 だから観ていて胸が躍り、心の中に食い込んでくるんじゃ。
 
 いや~ジョーダン抜きに、新作ブルゾン・カルテットを加えたわしのThe-Kingコレクションを持ってマジでタイムスリップしとうなってきたわい。 アメリカでは「これこそ、間もなく来たるべきロックンロール・ファッションであ~る」とか預言者づらしてひと儲け! 忙しく通り過ぎようとするニューヨーカーだって必ず振り返らせてみせる! しかしハンブルク・レーパーバーンでは、オネーサマに大騒ぎされて飲みまくってスター気分じゃ~♪ まあどの時代、どこの国に行ったって、わしゃ~やっとることにたいした変わりはなさそうじゃな!分じゃ~♪ まあどの時代、どこの国に行ったって、わしゃ~やっとることにたいした変わりはなさそうじゃな! 



七鉄の酔眼雑記 ~オリンピックとビッグ・ロッカー

 今年はオリンピック・イヤーじゃったな。 そう、ロンドン・オリンピックじゃ。 7月27日(金)の開会式には、ポール・マッカートニーやローリング・ストーンズが出演するという。 こりゃ、開会式をTV鑑賞する為に仕事を休んでしまおうかの~。 ロンドンまで行ったって構わんが、非合法の闇宿までこの時期に宿泊費を3~5倍にして予約待ちをしておるようじゃし、そんな見え透いたフッカケに屈するのは元バックパッカーのわしとしてはアホらしいな。
 一方8月12日の閉会式にはフェイセズやレッド・ツェッペリン(噂じゃが)が出演するそうじゃ。 ストーンズのロニー・ウッドはフェイセズにも在籍していたから、開会式と閉会式の両方に出演か。 本人にしてみれば名誉なことなんじゃろうが、考えてみればスポーツの祭典とロッカーっつう取り合わせじゃが、なんだか、またまた時代は変わり、自分が歳を取ったことを痛感するのお~。 わしなんか、ストーンズが1990年の初来日の時に、某製薬会社の栄養ドリンクのCMに出演しただけでも、異常に違和感をもったもんじゃ。 本当にロックは、反社会体制な音楽ではなくなってしまったようで、おもしろくない、っつうか、寂しいもんじゃ。 だって、そうじゃろう? 映画俳優や画家や文筆家の大物の中には、死ぬまで「反社会性」を貫ぬくヤツが少なくないのに、ビッグ・ロッカーはみんな最後はポップ・ヒーロー、人間国宝として完結することを望んでおるようではないか。 まあ、エルヴィスの場合は、本人の意志は関係なく、国家を上げて勝手にそうされちゃったがな。
 
 大体だな、ミック・ジャガーはかつては「オマエなんざ昨日の新聞みたいな女だぜ。 昨日の新聞を読みたいヤツなんかいるか!」なんて歌って女性にひんしゅく買ったり、他のロッカーの恋人を横恋慕することに夢中になっておったくせに、今では「サー」付きで呼ばれてご満悦喜(?)なんじゃからの~。 ポール・マッカートニーはオリンピックだろうが何だろうが見事にそつなくこなすじゃろうが、ミック・ジャガーがイギリス代表みたいな顔して出てきたらわしは吹き出すかもしれんな~。 しかし結局キメてみせるじゃろう、ミックなら。 イギリスの偉大なる人間国宝じゃな、ポールもミックも。 彼らにとってオリンピック開会式の出演は、人間国宝認定セレモニーなのかもしれんな。
 しかし、国宝ロッカーまでが呼ばれる折角のロンドン・オリンピックの開会式じゃ。 どーせなら、ヤラセでもいいから、セックス・ピストルズとかクラッシュとかが乱入!なんてサプライズをかましてほしいもんじゃ!? 「イギリスをぶっつぶせ!」「ロンドンを燃やしちまえ!」とかシャウトしてだな、「テロリストかっ!」なんて世界中を驚愕させてもらいたい! まあ、そんなアトラクションが期待できるなら、3~5倍の宿泊代払ってでも滞在してオリンピック会場に駆けつけたるわい! 



GO TO TOP