ROCK FIREBALL COLUM by NANATETSU Vol.25


 先月創刊されたローリング・ストーン誌日本語版の巻末に、諸君もお馴染みの布袋寅泰氏の「ロック人生塾〜HOTEI に訊け!」つうコーナーがある。 第2号には「ロックファンなら、喜怒哀楽を出していこうぜ! 映画を観て感動したら素直に涙を流せばいい。 ロックとは精神を解放することだ」という御言葉があった。 さすがじゃ! そうそう、かいほう、カイホウ、解放じゃあ〜! 今夜もおおいに飲むぞお〜!というところじゃが、わしはかつて同じような言葉を、偉大なる大先生から直接聞いたことを突然思い出したんじゃ。 記憶の解放じゃな。 これもまた精神の解放じゃよ!
 そのお方とは、日本のハードボイルド小説界の第一人者、馳星周(はせせいしゅう)氏じゃ。 高校時代にロックバンドのヴォーカルをやったことが最初の表現活動であり、その後もロックを愛し続けながら、ついには大作家先生の座に登りつめたお方じゃ。
 この七鉄は馳氏と約一週間ながら行動をともにしたことがあるんじゃよ。 今から7年前、季節は丁度今頃だったと記憶しておる。 今回はその馳氏と遭遇した時の思い出を少々語ろう。 メジャー街道をひたすら走り続けられる大先生の実態に触れる機会なぞ、そうはないぞ! このコーナーをご覧頂いている諸君だけの特権じゃ。 心して読むように!


男は黙って喜・怒・哀・楽! 〜七鉄、天才作家・馳星周との遭遇を語る


 馳氏が新作の構想のためにアジアの某国を取材で訪れた際、わしがたまたま同じ国、同じ都市におったことが事の発端じゃ。 取材をアテンドする現地日系企業からアテンド補佐という大役がわしに回ってきたんじゃよ。 「まあ七鉄の野郎なら、こっちの一風変わった飲み屋ぐらいはすべて把握しているだろう」ってな類の期待度だったんじゃろう。
 わしは馳氏を一目見た瞬間、「サングラスのかけ方といい、Tシャツとジーンズの着こなし方といい、このお方は間違いなくロック・フリークだ」と感じ、その旨を伝えたところドンピシャの大正解。 そこからは無愛想で寡黙な大先生がわしに対して少々打ち解けてくれるようにはなった。

 ところで馳氏の作品の最大の特徴は、日本のハードボイルド小説の通例のパターンを打破したことじゃ。 このジャンルの最大の魅力は、クールでニヒリスティックな主人公が時折みせる浪花節的な感情や行動によって、ストーリーや結末が劇的な変化を遂げるパターンじゃが、馳氏の作品はそういった読者とのお約束が一切排除されておる。 悪党は徹頭徹尾、悪党。 悲劇的人物は最後まで悲劇。 血も涙もない、神すらも不在の、救いようのない闇の世界が作品の全編を覆っとるんじゃ。
 さらに、登場人物や舞台となる街の描写が異様なまでに濃厚であり、しかもそれをサラリと読ませてしまう圧倒的な小説家としての筆力が馳氏にはあるのじゃ。
「不夜城」
ハードボイルド作家・馳星周氏の名前を永遠にしたデビュー作。本作品を最高傑作にあげるファンは今も後をたたない。


 さてアテンド補佐として馳氏の取材日程の大半に同行したわしじゃが、とにかくこの大先生、初めて接する国、都市に対して冷静沈着、寡黙そのもの。 色の濃いサングラスを一日中かけており、何を感じておられるのかさっぱり分からん・・・。
 メモをとることも、写真を撮ることもなく、質問すらほとんどない。 わしは「ひょっとして、つまらんのかなあ」と心配してしもうた。
 昼も夜も、観光地も歓楽地も、飯も酒もご一緒しているのに、ほとんどコメントがない。
 (こ、これは秘蔵の高級酒か、スペアで保管しているナッソージャケットでも提供してご機嫌を直してもらうしかないのか・・・?)
 
 コメントといえば、2日目の夜の「僕の取材はアバウトですから気にしないで下さい」だけじゃったな。
 
(とりあえず、出しかけのわしの酒やナッソーをそお〜と下げて、わしはほっと一安心!)
 さらに馳氏は予め用意された取材コースにも黙って従い、こんなトコ行いきたい、あんなコトしたいなどの希望も一切ない。 最終日になって「実は行きたい所が一、二箇所あったんですが、もう時間もないので(行かなくて)いいです」といった調子じゃった。
映画「不夜城」
金城武主演で映画
化された同名作品。
冒頭のシーンでは馳
星周氏自身もチラリ
と登場する。


 こんな淡々とした感じで取材日程は終了した。 わしが羽織っていたナッソージャケットの話やTHE-KINGの紹介をはじめとしたロック的世間話をする仲にはなれたものの、初めて訪れた国の感想などはほとんどなし。 わしは「新作はきっとかる〜い作風に変わるかもしれんなあ〜」なんて軽々しく予想しておったが、後日出来上がった新作を読んでビックリ・ギョ〜テンしてしもうた。
 ストーリーの内容はともかく、馳氏の作品独特の、人や街の息遣い、体温まで伝わってくる“コッテリ濃厚”なタッチが旧作をはるかに凌ぐものすごいテンションでサ・ク・レ・ツ!しておったのじゃ。 普通なら長期間滞在しないと絶対に分からない、街の細部、現地人気質、ディープな情報、情景がぎっしりと詰まっておるのじゃ。 出来上がった新作は、現実と真実、その光と陰までを知らなければ絶対に創作できない、限りなくドキュメンタリーに近いフィクションだったのじゃ。
 サングラスの下に隠されていた馳氏の目は、文化人類学者、風俗文化研究者のそれだったんじゃ。 「あんな短期間でここまで異郷の心臓をつかめるものなのか・・・」とわしは半ば信じ難く、 読み終えた後は「こういう人を天才と呼ぶんだな」と思ってしばし絶句してしもうた。

 その昔、キング・オブ・ロックンロールのエルヴィスは、子供の頃から初めて聞いたゴスペルをすぐに歌えるようになったという。 さらに昔、キング・オブ・ブルースのロバート・ジョンソンは、ラジオから流れてきた音楽を、その場ですぐにギターで弾いてみせたという。 そうした天才伝説の系譜の中に馳星周氏も間違いなく存在しておるのじゃ。

 そう言えば、THE-KINGのボスは「ナッソーの“ニューデザインの方から”自分に絡み付いてくる」と言っておったぞ。 これもエライ感性じゃ。 精神を解放しとるのお〜。
マンゴーレイン」
わしが外地取材のアテンド補佐をしたこともあってか、もっとも気に入っている作品。 情景描写の濃厚さと物語展開の敏捷性が奇跡的に同居する「馳文学」の最高峰!
 
 取材の最終日、馳氏は穏やかに語ってくれた。 「僕は感情の起伏は結構激しい方で、それはロックをやっていたからかも知れない。 泣けっていう映画やドラマを観ると、必ず泣きますよ」。 馳氏がロックから受けた恩恵というのは、ロックの真髄を強く求めたことで全身が感性の磁石のようになり、目の前の刺激的事象のすべてを吸い寄せることが可能になったことか? そして、その独特の感性の磁力こそが小説家としての最大の武器になったということかもしれんのお。 
 「ロック人生塾」の布袋氏は、「人生、喜怒哀楽を出していこうぜっ!」と言ったが、それは口や態度で表さなくても、馳氏のように静かに己の魂の中だけでも出来るのかもしれん。 馳氏はわしの横で異郷の街、人間を観察しながら、一人静かに喜び、怒り、笑い、そして涙も流していたに違いない。 そうとも気が付かず、機嫌直しの酒の心配なんざしていたわしは、ったくオメデタイというか、何というか・・・。 まあええではないか。 偉大なる作家のひとつの作品が成立するために、わしのつたないアテンドも何万分の一かぐらいは貢献しとると信じておるからのお〜♪ 
 諸君、人生は「一期一会」(いちごいちえ)じゃ。 その人との出会いは一生に一度しかないんじゃ。 それを大切にして“なにか”を学びとろう。 イカしたロック・アイテムとの出会いもまたしかり。 ロックフリークのために発表され続けるTHE-KINGのアイテムも、今一度しっかりチェックしてゲットしたまえ!




七鉄の酔眼雑記
   

 先日とある場末の居酒屋で飲んだくれていたところ、三人連れの女性の外国人労働者と合席する幸運に恵まれた。 仕事が終わった後の開放感なのか、日頃のストレス解消なのか、彼女たち、飲むわ食うわで大騒ぎ。 母国語で騒いでおるから日本人には余計に耳障りのようで、周囲の客も眉をひそめている。
 そこで正義の味方、七鉄先生は立ち上がった。 「貴様らっ、人の国に来てんだから、ちっとはおとなしゅうせーい」ではなくて、ちょっとトーンダウンしてもらうつもりで、彼女たちの母国語で「お嬢様方、ちょっとお静かに・・・」と。 その昔世界各地をほっつき歩いていたわしは、何ヶ国語かは日常会話レベルOKなのだ!(実は挨拶会話程度じゃ・・・)

 ところがこの「母国語注意作戦」は大失敗。 逆に火に油を注ぐ結果になってしもうた。 
 「キャア〜○◆※@□!※〜×#$%▽〜!!!」 
 母国語で話しかけたのが喜ばれてしまったのか、彼女たちはわしを座敷席にひきづりこむやいなや、電光石火の早業でウイスキーの水割りを作ってわしの目の前にドンッと置いた! 出された酒を断ることは家訓に反する!とばかり、いや酔っ払いの情けない習性ゆえ、わしはこともあろうにソイツを一気飲みしてしもうた。 その後は当初の目的なんざ忘れて飲みまくってしまったのじゃ! 情けないのお〜トホホ・・・。 どこが正義の味方じゃ・・・いや、今回は酒場の親善大使ってことでお許し願おう。

 しかし、彼女たちはエーこと言っとったぞ。 自分たちの職業技術は、絶対に母国の同業者には負けない!と。 異国ではその道で一流にならないと生きていけない。 母国の甘チャン連中とは決意のほど、努力のしかたが違うというわけじゃ。 ふ〜む、見上げた根性じゃのお。 こういう者をプロというんじゃな、とわしは感心してしまった。
 彼女たちの職業とは、ズバリ水商売じゃ。 んで、別れ際に勤め先の店の名刺をいただいたんじゃが、わしが飲んだ分まで払ってもろうたこともあり、わしはすぐさま決意した。 ようし、自他ともに「プロ」と認める連中のところで飲んでやろうじゃないか! 望むところじゃ! とすっかり連中の集客テクニックにハマってしまったオロカなわしであった! プロは怖い、女は怖いのお〜。

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