8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.70
                                                                                                                    

       「ブラック&ホワイト・ナイト」    〜ロイ・オービソン アンド フレンズ


 白黒な夜・・・っつても、パンダは何食ってるだろうねえー、パンだあー、じゃないんですよ。全身黒づくめのオービソンっぽいイメージのタイトルなわけです。実際に撮られた画像も白黒で渋い!
実際にライブが行われたのは、千葉の居酒屋「二郎兵衛」。・・んなわけない。ロスのアンバサダーホテルで、1987年9月のことでした。
これは、現在でもDVDが簡単に手に入ります(アメリカから買ってもオール・リージョンなので、問題なし)が、もともとは、1988年、シネマックステレビスペシャルとして放映されたものでした。

ディレクターを務めたのは、T−ボーン・バーネットで、その他の参加ミュージシャンは、全員がオービソンのファン。ボランティアで参加しました。
ずらっと名前だけ挙げても、ブルース・スプリングスティーン、トム・ウエイツ、エルビス・コステロ、ジャクソン・ブラウン、J・D・サウザー、スティーヴン・ソールズ、K.D.ラング、ジェニファー・ワーンズ、ボニー・レイット、と全員がソロ・キャリアで世界中に知られている有名人ばかり。

さらに、バックバンドは、TCBバンドで、1969年から1977年までエルビスのバックだったバンドです。もちろん、中心はギターのジェームズ・バートン。テレキャスターを変幻自在に操る怪しいオヤジモード全開!イケてる禿オヤジ!
あ、バートン先生は、THE KINGのお客さんでもいらっしゃるので、これ以上くだらないことは書けませんが、ロック界で最も影響力を持った、歴史的ギタリストですね。

ざわざわした会場がいきなり波を打ったように静かになると、いつもどおり、ミステリアスな雰囲気全開のオービソンがまるで亡霊のようにステージに登場!
うわ!!顔が真っ白・・・・あ、白黒フィルムだからか・・
しかし、なんか、この人、共演したスプリングスティーンが後日言っていたように、「手を伸ばしてもすっと通り抜けちゃいそうな雰囲気」を持っているのが、映像でもよくわかります。

そして歌い出すのが、1961年、モニュメントレコードから出た革命的ヒット、「オンリー・ザ・ロンリー」。昔から知ってる人はびっくりすると思いますが、まるで61年のレコードそのままなんですよ。口パクじゃねえか?と勘ぐりたくなるくらい、そっくりそのまま歌って見せます。

その唄いっぷりも、東海林太郎(若い人、知ってます?)みたく、じっと直立不動で、まるで腹話術師みたいに、ほとんど唇すら動かしません。
「中になんかべつの人が入ってる人形なんじゃないか?」っていうのが、この人独特の雰囲気ですね。

続いては、シンプルなロック曲ですが、ビートルズ(「ラブ・ミー・ドゥ」だよね)に多大な影響を与えた、「ドリーム・ベイビー」。
ここでは、スプリングスティーンとハモったり、ギターを弾きあったりして、楽しそうです。スプリングスティーンは、かねてから公言しているとおり、オービソンの大ファンで、ある意味、「門下生」といっていいくらい、オービソン独特の音楽の影響から出てきた人。オービソン本人を「ロックの殿堂」に招き入れたりもしています。子供のころからのあこがれの大アーティストと共演する、っていうのは、本人がどんなに有名人でもそれはうれしいものでしょう。

そんな雰囲気のまま、ステージは、3曲目「ブルー・バイユー」。
「青い入り江のふるさとに帰りたいッペヨ!」みたいな、千昌夫の「北国の春」英語版的カントリー・ソングなのですが、オービソンの創った曲というのは、独特の声と相まって、普通のダッさいカントリーとは全然違う品位みたいなものを感じます。

続いて、これまた、オービソンキ○ガイの、エルビス・コステロがオービソンのために書いた曲、「コメディアンズ」。コステロ本人との、最初で最後の共演版であります。曲創りのイメージのベースになっているのは、オービソンの自作ヒット「ラニング・スケアード」でしょうね。

そして、1956年、オービソンがサンレコードでデビューしたときの、ヒット(?)曲、「ウービ・ドゥービ」。オービソンの他のステージ録画でもわかりますが、有名なバラード曲ばかりのステージにしないための配慮もあるのか、結構これが気に入っているようで、必ず自分のギターソロもフューチャーした形で演奏しています。
無骨でブルージーなスプリングスティーンのソロ、流麗で流れるようなバートンのソロと比較してみると、オービソンがかなり古典的な、オリジナルのロカビリーギタリストでもあるのがよくわかります。

続いては、60年代の「デス・ディスク」(死をテーマにした曲)としても有名な「リーア」。
悲しいテーマを扱っているものの、60年代特有の無邪気な感じを伴っていて、素晴らしい曲調なのですが、わたくし、この曲を聴くと、どうしても昔大好きだった「理亜ちゃん」を思い出してしまい、ぼけーっとだらしない顔になってしまうのです。さらにこの現実のリアは、今では、すっかりオヴァサンになってしまっていて・・・・あ、そんなこと言っている場合じゃなかった、オービソンのロマンティックな歌唱がひときわ光る名バラードです。



さて、次は、いよいよ、独特のオービソンバラードのひとつの山場である名作、「ラニング・スケアード」。
ほとんど、オペラッタに近い内容と歌唱で、「こ、こんなんありか?」(汗)みたいな感じで、ロック音楽界に衝撃と革命をもたらした素晴らしいバラードです。
最後にはるか高音域にせり上がっていくメロディーラインは、3オクターブ半も声域があるオービソンでないと十分には歌いこなせません。だからカヴァー版がいまだに存在しない曲でもあります。

続いて、モニュメントレコードからのデビュー曲、「アップタウン」で、他の共演者と楽しそうに演奏したあと、「イン・ドリームズ」、「クライング」と、オービソン音楽の白眉が続きます。
特に、クライングの、静かでエキサイティングなエンディングは、もう馬鹿ウケ状態。客が全員度を失うほど熱狂している空気がバシバシに伝わってきます。

やー、見事だなあ、というより、いつ観ても聴いても、「アンビリーバボー!」ってのが正直な感想。それくらい、すごい歌手であります。

ステージも大詰め、ロック曲が3曲連続です。「キャンディ・マン」、「ダウン・ザ・ライン」、「ミーン・ウーマン・ブルーズ」。
「ダウン・ザ・ライン」は、ジェリー・リー・ルイス版が有名ですが、オービソンが書いた曲です。
ここでは、比較的ゆったりしたテンポで、重いリズムなところが特徴的。オービソンにはあまりテンポの速い曲がありませんが、たぶん、本人がそういう好みの人なのでしょう。
そして、ほとんど最後の曲は、バーネットがオービソンに書いた新曲「ドリーム・ユー」。なかなかノリのいいロック曲で、これまでのオービソンにはない、新たな顔を見せてくれます。

しかし、もちろん、これで終わるはずもない、白黒の夜!

ラストを飾るのは、オービソンバラードの決定版のひとつ、「イッツ・オーヴァー」。
これでおしまいっ!とラストにふさわしい曲であります。

がしかし!もちろん、これで終わるはずもない、白黒の夜!(2度目)

世界一のヒットになった、例の曲をまだ演奏していないではないか!
というわけで、オヤクソクの「オー!プリティ・ウーマン」になだれ込みます。
しかし、この曲、いつ聴いても不思議なのは、オービソン曲の中では、比較的何のヘンテツもないシンプルなロック曲なのに、なぜか耳に焼き付いて離れなくなるメロディーライン。歴史的にみても、真のスタンダード、というのは、案外、シンプルなものなのですね。そう複雑なものだったら、誰も覚えられませんから。

さてさて、大変ミステリアスで、しかもゴージャスなオービソンのステージ。この数年後に亡くなってしまいましたので、もう二度と観ることはかないませんが、こうして自宅でDVDを観ることが出来る。いい時代になったものです。

THE KING界隈でも、もちろん、オービソンは大人気。
サンのロカビリアン時代は、「サクっとナッソーを羽織ったイケメンさん!!」 THE KINGでも当時のオービソンが愛用していたナッソーの新作を続々と発表中ですよ。



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