8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.49 |
懐かしの昭和 2: ヤカン親父の逆襲 引き続き、こんにちは。 昭和36年、東京生まれの頑固8鉄です。 「昭和の子供」だったわたくし頑固8鉄の小学生時代の思い出話をお送りする「懐かしの昭和」、第2回目は、「ヤカン親父の逆襲」。 近頃の大人(もちろんわたくしもそのひとりですが)、他人の子供を叱らなくなった、なとど言われているようです。 たしかに、最近は、「モンスター・ペアレント」というのでしたか、下手に叱ったりすると、逆ギレしたり、逆恨みしたりするおっかない親御さんも結構な数いるそうで。 叱りたくても、おっかなくて叱れない、そんなこともあるような気もします。 さてさて、昔、わたしらが子供だった時分は、自分の親や学校の先生はもちろん、近所にたいてい、すぐに怒る(もちろん理不尽なんではなくて、しっかりと叱る)おっちゃんがいたものです。 もちろん、わたくしも、そんなおっちゃんとのバトルを繰り返した思い出が。 そして、数十年の時を経て、そのおっちゃんとばったり出会ってしまったら・・・。 これは、実際にわたくしの身に起こったちょっと面白いお話です。 1971年。東京。 …… 僕とタカちゃん、ヨウイチはいつも3人一緒。 野球が好きで、漫画「巨人の星」みたいに、「特訓」と称して、いつもボール投げをする仲間だ。 ボール投げをするのは近くの広場。といっても、アパートの駐車場なのだけど、だだっ広いわりには車がほとんど停まっていなかった。 その広場に面したアパートの2階には、いつもおっかないおじさんが住んでいた。 僕らのボールが2階の窓に当たったり、僕らが大騒ぎをして遊んでいると、 「こらあああ!! うるさいぞ!!」 窓から顔を出して、かんかんになって怒る。 そのたびに、僕らは「気をつけますから……ごめんなさい」と謝ってばかり。 だけど、おじさんがひっこむと、 「あのおじさん、なんであんなに怒るんだ!」 「そうだそうだ! 子供が遊んでなにが悪い!」 「ココロが狭いんだ。あのはげ!」 悪口を言いまくった。 そのおじさんは、つるハゲで、窓から顔を出すと、頭が陽光で反射していた。それが怒ると、真っ赤になって、まるで、蒸気を吹き上げるヤカンのようだったので、僕らは、おじさんを「ヤカン親父」と命名することにした。 それから、僕らはおじさんが怒って顔を出すたびに、「うるさい!! ヤカン!!! ひっこんでろ!!!」と怒鳴り返すことにしたのである。 「こら!! もう夕方だぞ!! いつまでもうるさい!!」 「出たな! やかん!!」 「なんだと!! 小生意気な悪ガキどもが!!」 「やーい! やーい! やかん! やかん! はーげ!」 「そこで待ってろ! とっちめてやる!」 おじさんが出てくる前に退散したのは言うまでもない。 それからちょくちょく「ヤカン親父」とのバトルは続いた。僕らは面白がって、おじさんを見ただけで「ヤカンだー!」と言って笑うようになった。 しばらくして、僕は突然、母からひどくしかられた。 「いいかげんにしなさい。あのおじさんはいい人なのよ。」 タカちゃんもヨウイチも同じように、とっちめられたらしい。 そして、3人そろって、「ヤカン親父」に謝りにいくことになってしまった。 僕らはヤカン親父の部屋の前で、呼び鈴をおして、出てくるのを待った。 「どうしよう。きっといつもみたいに、かんかんになって怒鳴るんだろうな。頭から湯気たててさ!」 「ごめんなさい、なんて言ったら、ぜえったい、馬鹿者が!!謝れば済むとでもおもってんのか! なんて説教されんだろうな・・・。」 僕らはシュンとなったけど、3人ともおかあさんに約束してしまったのだから仕方ない。覚悟は決めてきたのだ。 ドアが開いて、ヤカン親父が出てきた。 「お、どうしたんだ。今日は?」 「あ、あの……」 ヤカン親父はなぜかニコニコしている。 「ごめんなさい。ひどいことばかり言って……」 僕が口火を切った。 「すいませんでした!!」 3人そろってペコリと頭を下げた。 「があっはっはっはっ!!」 すると、ヤカン親父は愉快そうに笑いだしたのだ。 「そんなこと言いにきたのか。あははは、ああ、可笑しい。」 僕らはポカンとしてしまった。 「あはははは。面白い子たちだなあ。まあ、あがんなさい。」 そして、僕らは、ヤカン親父と奥さんから、お茶とお菓子をごちそうになってしまったのである。 「遊んでもいいけどな、人様の迷惑も少しは考えなさい。」 もう、いくら禿げていても「ヤカン」でなくなったおじさんは、ニコニコしながら言った。 「はい!」と僕ら。 「それに、おまえらだってな、いつか、ハゲるぞおお!みろおお!!」 頭のてっぺんをこちらに向けたおじさんと僕らは、みんなで腹を抱えて笑った。 …… 1995年、千葉。 子供が生まれたばかりの僕は、かみさんを家において、同居の母と近所のスーパーに買出しにいった。 そのとき、食品売り場で、母が年配の夫妻とばったり会って、 「まあ!! 久しぶりです!」 と懐かしそうに挨拶した。 「ほら、覚えてる? あんたが子供のとき、アパートに住んでた……」 僕は、思わずゲラゲラ笑い出してしまった。と同時に逃げ出したくなった。 「ああああ!! ヤカ……。」 思わず言いそうになって、僕は言葉を呑んだ。 「わははは!! そうだよ! ヤカン親父だ!! 」 おじさんはますますハゲていたけれど、その顔には満面の笑みがあった。 |
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