8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.48
                                                                                                                                                                                                          
 
懐かしの昭和 1: 「僕のヒーロー」

 こんにちは。昭和36年、東京生まれの頑固8鉄です。
今回から数回、「昭和の子供」だったわたくし、頑固8鉄の小学生時代の思い出話をお送りする「懐かしの昭和シリーズ」。

さてさて、第1話は、「僕のヒーロー」。
かつて、風呂がない家庭が多く、街中どこにでも銭湯があって、隣近所の連中や同級生、商店街のおっちゃんたちと、文字通り「裸のつきあい」があった、あの時代、僕の最初のヒーローは、スーパーマンでも、ウルトラマンでもなくて、近所の愉快な名物男「乾物屋のおっちゃん」でありました。

それでは、未だに名前も知らない、かつての「近所のヒーロー」へ捧げます。



・・・・・・・・

昭和44年、夏。
麹町の銭湯で。

「お! 坊主ども! 今日も会ったな!」
「乾物のおっちゃんだあ!」
「どうした? 今日はとうちゃんは一緒じゃねえのか?」
「おかあさんが一緒だよ。おとうさんは仕事で遅くなるんだって。」



僕ら家族の住処は戦後直後に建てられたポンコツのアパートで、風呂がなかった。
今日は、同じアパートに住む同級生のタカちゃんと一緒に来た。
一緒に作ったスティングレーの魚型潜水艦プラモデルで遊ぶつもり。

「お! いいのもってるな! それはなんだ? 魚か?」
乾物のおっちゃんが言う。
「違うよ! これは潜水艦なんだ! ゴムで動くんだ。ほら!」
と僕ら。
「おお! すごいな! よく出来てる! 俺にもかしてみろ!」

おっちゃんになら貸してもいい。友達みたいに喜んでくれるんだもん。



「だけど、坊主たち、おっちゃんはな、ホンモノの潜水艦に乗ったことあるんだぞ。」
まーたはじまった!おっちゃんのホラ話!と僕らは思う。
「そんなん、うっそだーい!」
「ホントさ。ほら、おっちゃん、戦争行った、って話しただろ?」
「えー、ひとりで戦車をやっつけちゃった話だろ! あんなのうっそだーい!」
「馬鹿いえ! おっちゃん嘘つかない! ホントだ!」



おっちゃんはインディアンの真似をしてみせた。

「あははは! ヘンなの! そんなインディアンいないよ!」
「それが違うんだ。おっちゃんはインディアンにも会ったことがあるんだ。
インディアンの兵隊さんと知り合いになってな、そいつがアメリカに帰るとき、一緒についていったんだ。是非来てくれっていうもんで。
あいつらテントで暮らしてるんだ。弓とやりでほーッほーッて叫びながら、狩に行くのよ。
おっちゃんは、弓矢がすげえうまいから、それを見た酋長がな、あるとき、娘を嫁にもらってくんろ、っていうんだ。その娘さんが、すごい美人なんだぞ! 
だけど、俺は国にかあちゃんがいるから、それは勘弁、って言って逃げてきたのさ……」



「潜水艦の話はどうなったんだよー」
「おお、そうだ。潜水艦はな、」

そういって、おっちゃんは湯船の中で盛大に屁をこいた。
ぼんっ! ブクブク……

「うわー! くっせー!」
「わはははは! なんだ、おまえらもやれ! 潜水艦を屁で沈めるんだ!」
「わー! 屁で沈めるぞーー!」

もうのぼせそうだ。潜水艦ごっこも飽きたし。
体を洗いながら、おっちゃんにきいてみた。

「ねえ、おっちゃん。どこに住んでるの?」
「おう、俺はさ、実はお城にすんでるんだ。」



「おしろおお?? うそだーい。お城住んでる人が乾物屋なんてやるわけないやい。」
「おまえ、俺の店によくひとりで来るだろ? おつかいでさ。」
「うん。」
「おっちゃん、いつも面白い話して、御菓子あげるだろ?」
「うん。」
「御菓子は高いんだぞ。おまえが納豆10円で買って、俺は坊主に20円のお菓子をあげる。俺はお金持ちだから出来るのさ。」
「本当? どこにお城があるの?」
「決まってるだろ。ヨーロッパだよ。ヨーロッパ知ってるか……?」



「のぼせちゃうよ。もうあがるね。いこうぜ、タカちゃん。」
「よし、俺もあがるぞ。これからお城に帰らなくちゃ。」

……



コーヒー牛乳を飲んでいると、おっちゃんが言った。

「おい、坊主たち。大人になったら何になりたい? 学校の先生か?」
「えー、そんなのわかんないよ。野球の選手かな……。」
「いいぞ! 王選手みたいのか? 長島か?」
「僕、巨人の城之内投手が好きだ。だけどね、」
「だけどなんだ?」
「僕、おっちゃんみたいな人になるよ。面白い話を一杯できる人。」

コント55号の坂上二郎にちょっと似ていて、いつも高らかに笑っているおっちゃんの顔が、少し真面目になった。

「馬鹿言うんじゃない。俺みたいなのになれるわけねえぞ。お前は勉強して総理大臣になれや。」
「あははは! あんなヘンな顔のジジイになんてなりたいないやい!」

……

「じゃあ、俺はもう行くぜ。おかあちゃんが外で待ってんだろ? 気をつけて帰るんだぞ。」

「うん。また遊ぼうね。」
「もちろんさ。店にお使いに来たら、潜水艦の話を続きを聞かせてやるよ。」
「ばい。」
「ばい。」

早く帰って、テレビ見なくちゃ。行こうぜ、タカちゃん。





 

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