8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.37 |
自由という名の男 コンヴァンワーヌ!ボンジュール皆の衆! 頑固8鉄ざーマス! おフランス風に始まりました、いや、髭男爵風に始まりました今回のお話は、ロック野郎どもがばかすか出てくるずっと以前のヨーロッパに現れた怪盗のお話。 といっても、アルセーヌ・ルパンでもないし、ルパン3世でもない。れっきとしたミュージシャンにしてその後のロック音楽以降の20世紀音楽全体に多大な影響を残した偉大なギタリストのお話。 それでは、今回は、頑固8鉄風、紙芝居(絵がないので文芝居?)でお送りしましょう。題して、「自由という名の男」です。 戦前のヨーロッパ大陸のとあるところに、貧しい男がおりました。 男は、ギターを持っていて、夜になると小さなバーや食堂を巡っては演奏し、木戸銭を稼いでいたのです。ねぐらは、馬車。 やがて、彼はバイオリン弾きと出会いました。 バイオリン弾きは、とにかく、驚いた。 これほど見事なギター演奏は聴いたことがなかったのです。 あまりの感動に、自分のバンドに参加してくれるよう、彼はギターの男に頭を下げて頼んだのでありました。しかし、約束の場所に、とうとう男は現れず、バンドに参加とはなりませんでした。 やがて月日が流れ、パリの一角で、二人は偶然、運命の再会したのでありました。 そして、とうとう、男はバイオリン弾きのバンドの一員となりました。 そして、バンドは、あちこちの店で演奏して歩いたが、驚くべきギター演奏は大きな評判になっていったのです。 ある時、ヨーロッパ有数の、クラシック音楽の大家が、とあるコンサート会場で、この男の奏でるギターを聴き、言いました。 「その見事な曲の譜面をわけてくれないか。」 男は答えました。 「ないよ。今思いついた曲だから。それにもう忘れたよ。」 男は譜面なんて読めないし、それ以前に、見たことだってなかったのです。 そして、実は、男には、人知れず、特技がありました。物を盗む名人だったのです。 たくさん金を持っている人間からこっそり少しだけくすねてきて、全然持っていない人間にあげて何が悪い? ギター演奏が評判になり、高いギャラをもらってそれなりに金持ちになっても、物を盗むのはやめようとはしませんでした。 そして、男は盗んだものを、家族や親戚や、仲間たちに与え、稼いだ金もすべて与えてしまいました。 だから、男は自分の財産を、ギター以外何一つ持っていなかったし、それで十分満足だったのです。 しかし、ちょっとした贅沢は男をなごませました。 男は、ホテルに泊まると、水道水を流しっぱなしにして眠ったのです。 子供のころ、生まれた馬車の中で聴いて育った小川のせせらぎが聞こえないと、よく眠れない、からでした。 男のギターを聴いた人々は、みな驚嘆しました。 そこには、脈打つ情熱、小川のせせらぎ、人間の笑い、悲しみ、切なさ、自由、すべてがあったのです。 そうして、驚嘆した人々の数はどんどん増えていきました。 ついに、男の評判は海を渡り、遠く離れた異国からも呼ばれるようになったのです。 男は手ぶらででかけ、彼の地でギターをもらい、演奏旅行が終わると誰かにあげてしまいました。 男は、相手がどんな人物であれ、よく約束をすっぽかしました。 それが、どんな異国の大物だろうと関係ありませんでした。 男はそうした、「自分が一番エライ!」と信じているような人間からは、呆れられ、追い出されるように、自分の国の自分の家に帰りましたが、演奏の素晴らしさは多くの人々の心を打ったのです。 それからかなり年月がたったある日、男の前に現れた資産家が、目の前に大金を積んでみせたこともありました。 「あなたは偉大な音楽家だ。金ならいくらでもやる。だから、また、演奏して欲しい。」 男は答えました。 「金ならある。もういらないよ。興味がないんだ。」 といってこれまでかせいだ印税の支払い小切手をベッドの上に広げてみせたのです。 更に月日は流れ、時代が変わり、男にも、とうとう音楽の仕事がこなくなりました。 しかし、男は大して気にしてはいなかったのです。 男は静かな田舎に小さな古い家を買い、家族とともに移り住みました。 実のところ、都会の喧噪はもううんざりだったのです。 男は、家の裏手にある小さな川で、毎日釣りをし、絵を描いて過ごしました。 なんとか食べていければ、それで十分だったし、男はとても幸せだったのです。 とある、冬の晩、男は近くの友人宅から帰ろうとして外に出たとき、突然、倒れました。 脳卒中を起こしていて、すぐに病院で手当てをしなくてはならなかったのだけれど、村医者がたまたま不在で、手当も出来ずそのまま息を引き取りました。 男は家族の手で、村はずれの小さな墓地に埋葬されました。 粗末な墓標には、簡単な説明と名前だけが刻まれたのです。 「ギタリストにして作曲家、ジャンゴ・ラインハルト 1910〜1953」 さてさて、いかがだったでしょうか。 ジャンゴ・ラインハルトは、20世紀の生んだ世界で最も素晴らしいギタリストのひとりです。 彼は、生粋のジプシーで、その基礎となった音楽は、生まれ持って持っているような、遺伝子に刻み込まれたかのようなジプシー音楽でしたけれど、大好きだったアメリカのジャズをジプシー流で演奏し、それに最も影響を受けたのは、皮肉にもアメリカ本国のジャズ・ギタリストたちでした。そして、その影響力はロックギターにも脈々と生きつづけているのです。 はい頑固8鉄風、紙芝居これにておしまい。紙芝居を観た後はアメ(ブルゾン)を買うように。 |
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