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| 8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.326 |
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食の思い出 第7回 「赤坂三河家の三段弁当と麹町秋本のうな重」 ![]() 今回の2店は、これまでと異なり、名だたる高級店である。 どちらも創業100年を超える由緒正しい老舗で、 日本一高級な立地に店を構えている有名店。 要するに、わたしのごとき下層庶民には縁もゆかりも無い店だ。 そんな、数多ある高級店のなかで、 この2店がわたしにとって例外なのは、理由がある。 わたしが永年勤めていた平河町の組織は、政治家、学者、 マスコミ関係者との会議会合が定期的に催されていた。 昼時か夕刻過ぎであれば、仕出し弁当が必要になる。 相手は、高名な客人ばかりであって、粗末なものを供するのは憚られる、 というのが、組織の、その当時の姿勢であったために、 赤坂や麹町の老舗から必要経費で高級仕出し料理が供された。 三河家は、古くからある赤坂の和食料亭で、 仕出しの三段弁当はとても重宝されていた。 というのも、三河家三段弁当は、毎月夜に開催される組織内の 自治制度研究会委員長であり、組織の会長でも あった鈴木俊一都知事の大好物だったからだ。 会長の意を組んだ当時の研究室長は 判で押したように毎回これを人数分注文した。 三段弁当は、細長い器が3段重ねになった幕の内弁当で、 そのうち2つに上品なおかずが、1つにご飯が入っていた。 高級といっても、所詮は仕出し弁当であり、値段も3000円そこそこ。 事務方も同じものを食べるので、 わたしも研究室勤務の通算6年間、月1で毎回食べていた。 わたしは、何も好き好んで、安いものを食べていたわけでも、 よくいうB級グルメなわけでもない。単に分相応な食生活をしていただけだ。 で、この高級料亭の仕出し弁当は、本当に美味かった。 評判も歴史も、知る人ぞ知るその味は高級店の名に恥じないものであった。 普通であれば、なんということもないお惣菜のひとつひとつが不思議なほど美味い。 さくっと食べられてバランスも味付けもよく、健康的で、 ごく普通の食材をこれほどあっさりと美味しく仕立て上げるのは、 出来そうで出来るものではない。 三河家は、赤坂に実店舗があるのだが、いつからか、 3段弁当がランチ限定メニューで食べられることを知り、自腹で食べに行った。 店構えはあらかじめ知った上でないと入れる雰囲気ではないが、 入ってしまえばなんのことはない、普通の店であった。 もともと職場の関係だけであったため、それきり縁がなくなったが、 ネットをみる限り、どうやら今はやっていなさそうである。 会議に料亭弁当をとったりする習慣がなくなったのだろうか。 だとすると、それは不景気の象徴のように感じるが、それは、 わたしがバブル期に組織のおこぼれにあずかっていたサラリーマンだったからなのか、 万人が情報通になった世間が細かいことにうるさくなりすぎたのか、 そのあたりは判然としない。 ![]() 麹町秋本も100年以上の歴史を誇る鰻の名店だとされている。 そして、こちらも三河家と同じように、組織が長く重用した。秋本といえば、うな重である。 実は、秋本の場合、わたし個人にとっては、三河家と多少立場が異なっていた。 というのも、秋本はわたしが成人まで住んでいた二番町から 歩いて5分もかからない、すぐご近所だったからである。 昭和中期から平成にかけて、大変貌を遂げた麹町地区は、 かつては普通の庶民も多く暮らす普通の街であった。 そんな時期、当時の秋本の店主は自治会の会長で、地区のお祭りも仕切っていた。 当時のわたしたち子供にとっては、お祭りになると出てくる近所のおっちゃんである。 わたしの父も当時の、今から遡れば、先々代と仲がよかった。 おかげで、わたしたち家族も、ごく当たり前に、 たまの贅沢には秋本の鰻を食べるのが恒例であった。 美味いと思ってはいたが、わたしは進んで食べたいと思うほど鰻が好物ではない。 しかも、当時の秋本がそれほどの名店だという認識も乏しく、 近所に鰻屋程度にしか思っていなかったことも相まって、 有難みは極めて薄かった。 さて、職場で定期的に秋本のうな重を食べていたのは、 もともとは、確かマスコミ関係者に愛好者がいたためだったと記憶する。 当時の本式の、組織トップを中心にした夜間の接待については、 対マスコミに限らず、自民党、国会議員、高級官僚、学会トップなど多岐にわたる。 わたしが立ち会ったことがない場面も含めると、高級料亭、高級ピアノバーなど、 枚挙に暇がないが、オフィス内での簡単なマスコミ接待の場では秋本が大活躍していた。 仕出しなのだから、職場から近く、持ち運びが簡便な 弁当やうな重が重宝されたのは当然であった。 結局、わたしは、子供のころから知っている秋本のうな重を、 仕事絡みで長年食べ続けた。 その後、秋本は益々有名になり、益々高級になり、 ネットで見る限り、「大事なお客様との接待に」などのうたい文句で、 一番安くても1万7000円ほどのコース中心になっているようだ。 あの古い建物はまったく変わらないが、 なにしろ、日本一地価が高い高級住宅地兼オフィス街の中である。 かつてと違い、住民も金持ちばかりで、 これからも変わらず高級路線を進むのだろう。昭和は遠くなりにけりである。 ![]() |