8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.3



  必殺!ザ・コースターズのお笑いロック天国

THE COASTERS
    頑固8鉄でございます。
最近は、いろいろと世知辛い世の中、THE KINGのNASSAUなど羽織って、一杯飲みにいくなり、イケてる彼女とデートするなり、それなりに愉快な気分で笑って過ごせたら、人生大成功!みたいなもんですぞ。

ところが、愉快な唄は数々あれど、痛快なロックソングとお笑いって、相性がいいようで、意外と例を思いつかないのであります。
一時期、マイケル・ジャクスンのパロディで有名な、アル・ヤンコビックなんて人も有名になりましたが、ベタ甘のピーナッツペーストにジャムを重ねたサンドイッチくらいコテコテ過ぎて、ちょっと笑えない、というあなた!
お笑いといったら、50年代!!我らが、コースターズがいるではありませんか!


歴史を辿ってみると、お笑いは音楽芸能においても、非常に重要な役割を果たしてきており、日本の演芸から、アメリカのミンストレルショウまで、かならずお笑いがついてまわります。
ジョージ・フォーンズビイ(イギリスのヴォードビリアン、歌手、ウクレレ奏者)、牧伸二、玉川カルテット、横山ホットブラザースなどの楽器漫談、エディ・フォイ(歌手、ミンストレルショウのリーダー)のような音楽まじりのコミックショウ、スパイク・ジョーンズ(ジャズバンドリーダー)や我が国のフランキー堺&シティスリッカーズのような冗談音楽など、枚挙にいとまがありません。

しかし、こうした古いスタイルの「演芸系」と比べると、歌詞そのものがオバカな、笑えるロックソングというのは、考えてみてもあまりないような気がします。
そんななかで、必殺爆笑ロックは、ザ・コースターズをおいて他にないのです!

ザ・コースターズは、50年代に活躍したドゥーワップ・グループで、もともとはロビンズという、ジャンプ・ジャイブ系の曲を売り物にしたグループが母体になっています。
ロビンズの最も古い愉快な唄は、1953年の「ライオット・イン・セル・ブロック・ナンバーナイン」(第9号監房の騒乱)という刑務所の脱獄をテーマにしたノベルティソングで、リチャード・ベリーの野太い声のおしゃべりをフューチャアしていました。
鼻にかかったハードボイルドな語りが、当時のギャング映画音楽のパロディめいたリフに乗って、凶悪、かつオバカなノリでだらだら続きます。
後にこの路線を引き継いでいるのは、ブルース・ブラザースでしょう。THE COASTERS

続いて出たのが、最近、同タイトルでミュージカル化され、今、ブロードウェイでロングランになっている「スモーキー・ジョウズ・カフェイ」。
どやどやした、狭い真夏のバーの様子といった感じをよく捉えていて、コメディソングではないものの、カール・パーキンズの名作、「ディキシー・フライド」(場末の酒場の喧嘩を描いたもの)の黒人版とでもいうようなできばえの作品。
また、「ダウン・イン・メキシコ」は、ばかでかい口髭をはやしたメキシコのバーテンを描いた暑苦しいコミックソングで、R&B調の曲調が、途中から急に、メキシコ音楽風になったりするあたりが傑作。カール・ガードナーのうわずった大げさな唄いぶりも可笑しい。これは、最近、タランティーノの映画「デス・プルーフ」に使われて、復活ヒットしているようです。

メンバーが入れ替わり、ザ・コースターズとなってから、すぐにヒットしたのは、「ヤング・ブラッド」と「サーチン」。
1957年最大のR&Bヒットとなった傑作「サーチン」は、「運命の彼女を捜そう!」という唄ですが、全員が、ホームズ、サム・スペードといった名探偵になって捜しまくる、というオバカなノリ。
「ヤング・ブラッド」は、彼女の親父に結婚を反対されても、「彼女しかいない、彼女しかいない・・」と思い続ける「若気の至り」。恋をするのは馬鹿者、っていう名曲もありますが、ザ・コースターズが演じると、ホントに馬鹿みたいですから、大笑いです。

続いて、「チャーリー・ブラウン」、「ヤケティ・ヤック」、「ポイズン・アイヴィ」などなど、大ヒットを連発。
「ポイズン・アイヴィ」(毒うるし)は、「かゆい唄」。「あのオンナに近づくなよ、あいつは、ポイズン・アイヴィ・・」という歌詞で、ホントは何の唄だかわかりますよね?



「アロング・ケイム・ジョーンズ」(そして、ジョーンズがやって来た)は、決まり切った筋立てのテレビ西部劇を、友人達が集まって、げらげら笑いながら見ているような内容のもので、日本で言ったら「水戸黄門」で爆笑しているようなものでしょう。
「ヒロインが悪漢に捕まった!!」
「彼女が線路にくくりつけられた!!」
「おまけにダイナマイトまでくくりつけられた!!」
「汽車がやってきた!!」
「どうしよう! どうしよう! どうなっちゃうんだー!」
「……あ、あ……来た! いつもおなじみのジョーンズだ!」
というわけでヒーローの登場となるのですが、この「……あ、あ……」の間合いが最高。 「また出たよ……いつもおんなじじゃーん(笑)」というニュアンスが微妙に混じっている。
THE COASTERS
「リトル・エジプト」は、場末のストリップ・バー興行の様子を客の立場から描いたもので、ノウミソが溶けきったようなカール・ガードナーのボーカルをフィーチャアーしています。「リトル・エジプト」というのは、ストリッパーの名前ですね。
結局、エロいセクシーなリトル・エジプトを口説いて、幸運なことに結婚したのはいいが、主婦になってみれば、毎日の家事と育児に追われて、亭主にガミガミ文句ばかり言うおっかないおばちゃんになってしまいました・・という、トホホなオチが、やけにリアルという、これは、我が国のクレイジーキャッツソングのような後味の作品。

ヒットがあまり出なくなった後期にも、朝起きるのが大変つらい、寝坊男の苦悩を描いた「ウエイク・ミー、シェイク・ミー」のような隠れた名作があります。
ものすごい日常的な、「朝寝坊」なんてことをテーマにした唄、というのは、後にも先にもこれだけでしょう。

書いたのは、すべてジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのソングライター・コンビで、60年代以降、これらのおかしさを超えるものがないことを考えると、ザ・コースターズの傑作は、時代性というより、リーバー&ストーラーとザ・コースターズ両方の才能によるものだろうと思います。

それに、今でもザ・コースターズはちゃんと現役グループ。唄の内容だけではなく、おしゃれでコミカルな彼らのステージも是非見てみたいものであります。
THE KINGのファッションで渋くキメるのもよし、ですが、渋くキメても人柄は愉快で楽しいのがよろし、そんな気分にさせてくれる、ザ・コースターズのお話でございました。
未聴の方、機会がありましたら、是非歌詞を見ながらどうぞ!





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