8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.267

頑固8鉄のOSHIGOTO

OSHIGOTO NO.16 アルバイト
東雲の夏 その後




次の仕事も探さずに、有明大規模審査センターを辞め、
ぶらぶらしている間、昨年のアルバイト先から連絡があり、
すぐお隣の東雲に舞い戻ったわたしは、さらに1か月、東京臨海地帯に通うことになった。

ほぼ、1年後の復帰である。東雲の街はほぼ変わらず、懐かしい夏の風景の中、
しばらくの間、通ったが、近くにあったおしゃれなSHIPS CAFEがなくなっていて、
少し残念。

手慣れた仕事の合間、先の職場で知り合った飲み仲間連中と
OSHIGOTOライングループを作り、情報交換する毎日を過ごした後、
同じく先の職場でばったり会った、東雲バイトに昨年来ていた
リーダーと古株のオヤジの3人で、飲み会をした。

さまざまな背景をかかえた人たち、という点は、ここでも同じで、
長く生きているとフシギなつながりというのも発見できる。
わたしが現役時代通った職場とかかわりのあった国家公務員、
編集者時代に通った印刷会社社員、どこかですれちがっていたかもしれないではないか。

街歩きが好きな私は、この機会に、帰りに西船橋に寄り道することにした。
京成本線とJRをターミナル駅の船橋で乗り継ぐのだが、
ターミナルとしては西船橋のほうが大きい。
船橋で乗り換えるのは、京成沿線東京通勤者のみだ。
京成線とJRをつなぐもうひとつの駅は、西船橋なのだが、
京成西船は無人駅に近い小さなひなびた駅で、
各駅停車しか留まらないため、長年使用していなかった。

しかし、JRの車窓から見える、昔と少しも変わらない街の風景に魅かれて、
何十年ぶりかで探索してみることにしたのだ。
夏の西船橋は、驚くほど素晴らしかった。

昭和のころとほとんど変わっていない風景。
車窓から象徴的に見える不思議な巨木軍は、
西船緑地という、小さな自然保護地区だと知った。
商店街も店は変わっていても、街並みが変わっていない。
こういうところというのは、夏が特に良い。
夏の風情がなぜかとてもマッチしているように感じる。

京成西船駅前で、古くから営業しているという居酒屋でビールを飲んでいると、
ときおり京成電車が通る音、踏切の音が聞こえ、「男はつらいよ」の中に入り込んだような、
懐かしい昭和の空気を味わえる。
ちょっとした、タイムスリップである。

まだまだ開発される臨海地帯の土地が値上がりを初め、
東京の資産価値が再び上がって、経済成長と富の象徴となっていくのに比して、
千葉県の古くから変わらない街は、そうした価値観とは違う、
別の良さを味わわせてくれる。

こうした体験は、ものぐさなわたしとしてみれば、
お仕事でもない限りすることがない。自分で物見遊山にでかけていくことがないので、
仕事の寄り道、道草がいろいろな街や風景との出会いにつながっている。
これもまた、わたしにとってのお仕事の一面、という気がするのだ。
職場の中心は、9時から午後4時半まで、週3日(いわゆる扶養枠内)のバートタイマー主婦で、
就業時間が異なるわたしは、ほとんど他人とかかわらなかった。

これはこういうバイトの一面のメリットである。
人間関係がいやになって辞めるということがとても多いこうした職場では
濃密な関係がないのもある意味楽なのだ。
仕事は書籍を扱うのだが、基本的に、モノを扱う仕事というのはストレスが少ない。
ペーパーワークでも、紙切れの向こうに人間がいる仕事は、どうしても負荷がかかる。
相手にしているのは、書類ではなくて、そこに記載された当の本人だ。
しかしながら、モノを扱う仕事は、時給が安い。
そして、管理者でなければ、単純作業の繰り返しである。

途中で離職しないし、プロジェクトが再開すれば復帰する人が多いが、
訊いてみると、やはり、人間関係が穏やかで、ゆったりしているから、と言う。
単純作業も慣れてしまうと楽だからだろう。

しかし、長期案件というのが3ヶ月以上、1ヶ月いたらベテランと言われる非正規で
楽しく渡り歩くコツは、「仕事を辞めるために働く」ことじゃないか。
どんなに真面目にやっても、数か月の契約期間が終れば、自動的に解雇される。
いつまでもあると思うな、仕事と人生。人生なんてあっという間だ。

時給族は、基本的に責任がない。
それは高い給料をとっている正社員なり管理職なりの仕事の一部である。
責任者、というのは、まさしく読んで字のごとしである。
末端で働くと、「仕事できなければ雇用期間満了という名のクビ」になるのに、
仕事ができても昇級もなければ、昇給もない。
ボーナスも出ないし、ほめてすらもらえない。
生真面目で使命感が強い人は、それだけで仕事に苦しめられるのに、
これでは、たまったものではない。奴隷になるくらいなら、流れ者になったほうがいい。
だから、辞めてすっきり、次を楽しく探そうと思ったほうが前向きなのだ。

そして、復帰から1か月後、いろいろ思うところはあったけれど、
わたしは派遣会社から紹介が入った次の仕事に移るべく、バイトを辞めた。
ちなみに、支社長から、「よくやってくれたので、いつでも戻ってきてください。」と言われた。
掃除のときと同じ。
そこまで言って、門前払いということはないだろう。
時給族でも、長くこなせば、
もしかするといざというときの逃げ込み先くらいにはなるのかもしれない。

GO TO TOP