8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.264

サンチャゴ・タムラのOSHIGOTO NO.13 アルバイト



東京臨海地帯ー東雲の夏

2022年、夏、わたしは、東京臨海地区でえっちらおっちらアルバイトで働いていた。
臨海地区の東雲、豊洲エリアというところである。

どこで働いたか、ってのは、結構大事だと思う。
毎日、通っていると土地に対する愛着みたいなものが湧いてくるからだ。
たいして、好き、とかじゃなくてもいい。長くいれば、それなりに愛着が湧く。
離れたあとで思い起こしてみて、また行ってみたいと思うかどうか、分かれてくる。

旅がよくそうした話にとりあげられるけれども、勤務先でも同じことだろう。
仕事の中身なんてどうでもいい、と言ったら言い過ぎだろうか。

で、思い起こしてみると、古くは、四谷、赤坂、麹町、ちょろちょろ流れるお茶の水、
じゃないが、あのあたりが切り出し地点。特に、平河町には34年も通った。
で、どうか。うーん、いまいちかなあと思う。
というのも、生まれ育ったところでもあるので、あまりに地元意識が強くて、
懐かしいとかいいところ、とかいうのと違うのかもしれない。
むしろ、途中で出向した千葉市とか立川とか懐かしい。
なんだか行ってみたいなあ、と時々思う。
とくに立川。近くの福生に毎晩、ひとりで探索に行った。

そこで見つけた50年代アメリカンアンティークの有名店「ビッグ・ママ」は懐かしい。
それももう20年前のことだ。

派遣仕事で点々としたうちのいくつかも、
後々に懐かしく思い出すのかもしれない。
以前の記事で書いた、デンツーおやじと出会った東銀座もそのひとつ。
東銀座の交差点、プロントのビール、古い洋食屋のおいしいポークソテー、
冬の夕暮れ、銀座の雑踏。
つい、最近のことなのに、なぜかとても懐かしい。

そして、今回の東雲、豊洲もそのひとつだ。
なにか楽しいことがあったわけじゃない。なんせ、えっちらおっちら働いてばかり。
しかし、過ごした季節と、食べたランチの数々は、街の空気感、風景とともに、
深く記憶に刻まれ、いつか、ふとしたことで思い出し、
ちょっと行ってみようかなと思うんじゃないか。

古い東京人から見ると、臨海都心の豊洲は
すっかり様変わりした街のひとつだ。
高層ビルが立ち並ぶ街中を歩いていると、磯の香がする。
東雲橋なんてのがあって、そこから東京湾の一端が見える。
昭和のころには、釣り人でにぎわったらしい近辺には、
高層マンションとオフィスビルが林立し、今でも開発中である。

似たような雰囲気のところが千葉県にもある。
幕張メッセで有名な海浜幕張地区だ。幕張の開発は、もう30年以上前。
豊洲は現在進行形だが、まったく同じような感じだ。
町の雰囲気は、ほんとに悪くない。結構東京のウォーターフロントはいい感じである。
ただ、同じ臨海地区の台場は最近さびれてきていてあまりよくないらしいと聞いたばかり。

かつて、20年前に、よく遊びにいった名物ヴィーナス・フォートがつい先ごろ閉館。
再開発するらしいが、近辺はほとんど廃墟状態とのこと。
観覧車も止まったまま。トヨタパークも停止。
バブルのころから、始まった台場の開発はもうほとんど終わっているのだろうが、
昨今のコロナ、戦争、資源不足、物価高騰などなどによる思ったより深刻な不況下で、
一定の役割を終えたかのように寂れていくのだろうか。
バブル景気時代を、良くも悪くも通り過ぎてきた関東人から見ると、なんとも寂しい感じがする。

さて、東雲近辺は、我が家から通うルートがふたつある。
ひとつは、京成本線ー都営浅草線ルートで、東銀座を通って豊洲に抜ける。
もうひとつは、西船橋から武蔵野線で新木場、東雲へ抜けるルートだ。

東銀座は、以前、派遣で通ったところでもあり、このルートで通ったのだが
、実際は、武蔵野線新木場ルートより25分、10キロも遠回りだ。
後半は、ずっと短縮できる、新木場ルートで通った。豊洲に出ずに、
りんかい線の東雲で降りると、あまり人がいない。
これは、人混みが嫌いなわたしには、いいルートなので、こちらで通うことにした。
夏場の東雲は、がらんとしていながら、都会的な、臨海副都心らしい不思議な街で
、印象深かった。ララポートが君臨していたり、ゆりかもめが通っている豊洲とは趣が異なり、
古い倉庫地帯の雰囲気がなかなか良い。
ここを4か月近く通って、職場に通った。なぜか、もうすでに懐かしい気すらする。
東雲橋からみた東京湾の風景。がらーんとした中、高層マンションばかりが立ち並ぶ東雲、
豊洲間の広い道路を朝歩いていく夏の空気感。
心地よい東京の朝の散歩コースといった趣で、また通ってみたいと思わせる、そんな街であった。

肝心の仕事のほうだが、それは、いつものことながら、
近年の守秘義務とやらで、口外することがかなわない。
一言、これといったことはなかったとだけ言っておく。
キャリアでない、デイリイジョブというのは、どれも似たり寄ったりで、
同じようなものだ。だからこそ、どんな街で過ごしたかが重要になるのではないか。

改めてそんなことを思った東雲の夏であった。

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