8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.260

シリーズ 頑固8鉄のOSHIGOTO

OSHIGOTO NO.9 清掃員(2019-2022)「世界最強のヘルシージョブ」



清掃員は、学歴、職歴、年齢、いっさい関係なく、
やりたいといえば、採用してもらえることが多い。特にシニアには強い味方だ。

やりたい人は限られる、というとアレだが、いつも人手不足なのは確かだ。
3Kだと信じられているからだろう。最もひどいいわれようは、「底辺」だ、わたしは、3年やった。
一言でいうと、素直にいって、これほどヘルシーな仕事はない、と思う。世間で言われるほど3k
でもないし、底辺でもない。その辺の誤解を解きたいと思う。

まず、第一に、ストレスがない。
ストレスだ、鬱だ、自殺大国だ、とめちゃくちゃ陰気なニュースであふれる日本社会で、
これくらいストレスが少ない仕事も珍しいのではないか。

単純だから、では決してない。なかなかに難しいのだ。掃除だけではない。
ハウスキーピングというのは、あれこれ消耗品を補充したり、
入れ替えたりといったこともする、いわば、家政婦と同じ職業だ。
主婦は激務だとよく言われるが、清掃員もそうである。知恵も頭も使う。
掃除だけとっても、本格的にあれこれきれいに、
しかも最小限の労力で、と工夫しだすと、相当面白いことができる。
自分で考えるのだ。誰も教えてくれない。単純というなら、
わたしが頭がすっかりはげるまでやった事務仕事なんて、
普段は飽き飽きするほど単純だ。
最も最大の敵は睡魔なんだから。掃除はそうはいかない。
掃除しながら眠ってしまった人なんて見たことがない。

体も使う。4時間掃除をするのは、2時間のジョギングと同じ運動強度だそうである。
思い描いてみておわかるが、あらゆる筋肉をまんべんなく使う。
モップを持っても拭き掃除をしても、あらゆる身体的運動パターンを網羅しているのだ。
たいていのシフトは、4時間なので、
まさに、金をもらって2時間のジョギングをしているようなものなのだ。

で、ヘンテコな人間関係だの、議論のための議論だの、なんのために仕事してんだか、
さっぱりわかんない一般のサラリーマンだの営業だの事務だのと違って、
なにをしてるのかものすごくはっきりしている。
相手がビルだの床だのトイレだの、モノなので、
人間みたいな明日になったら急に言うことが変わったり、
意味もなく不機嫌になったり、クレームつけてきたりもしない。

そもそも、汚れたところを綺麗に保つこと自体、精神的に清潔感を感じる。
実際には、掃除はやってみると達成感が存分にあり、案外、楽しいのである。

実によく動き、頭も適度に回転させつつ、変なストレスから自由、
すがすがしく清潔感あふれる達成感がある、
こんなにいい仕事ないんじゃないか、と思う。

3年やった結果、わたしが得た、もしくは取り戻した最大のものは健康だ。
これは、かかりつけの(もしくは、だった)循環器内科(心臓外科)の医師の所見でもある。
仕事で健康になったという、医師のお墨付きがあるのだ。

わたしがこれより前にり患していたもののリストは大変なもので、
狭心症、うつ病、脂質異常症、高尿酸血症、緑内障、逆流性食道炎という
慢性疾患だけでたくさん薬を飲んでいた。
3年後のわたしは、薬がひとつもない。すべてクリアしてしまったのだ。

帝釈天のゲンちゃん(佐藤蛾次郎)、レレレのおじさん、いろいろあるが、
寺の修行の第一歩が朝の掃除であるのは、ちゃんと理由があるのだ。

長く続けると心身ともに健康になるからである。おまけに、わたしがいた病院では、
入院患者さんたちから、たいへんだね、ありがとうと毎朝声をかけられる。
これはじんわりうれしかった。

わたしは34年も公共系サラリーマンをしたが、
人にありがとうと言われた覚えがほとんどない。
できた当たり前、できなければ怒られるだけである。
誰も感謝なんてしない。給料もらってんだからなんか文句あるか、といった調子であった。

さらに、もうひとつ付け加えると、お掃除マンは、
実は、かなり割のいい仕事だ。
たいてい、シフトが自由に組めて、わたしは朝一で4時間、
フルに5日間だったが、実際には、終わったら帰ってしまう。
無駄に残っていても邪魔になるだけだからかもしれない。
それでも決まった金額はもらえる。
本当のところ、時給は実際の労働から考えると2000円近い。
パソコンマスターがどうしたこうしたと小難しいことばかり言われる事務仕事が
どんなに高い派遣でも1800円もらえたら最高クラスじゃないだろうか。

わたしは、いずれ戻ろうと思っているが、ぜんぜんいやだという感情がわかない。
事務なんてほんとにいやいややっていたので、
やめたら最後、戻りたいと思わなくなるが、これは違う。

やはり、経験者優遇なのは、他の職種と同じだし、年齢制限がなく、
無事戻れる可能性大だ。そう思うだけで、
保険に入っているみたいに、なぜか安心できる。

こればかりは、やはり3年頑張ってよかった、と思うのだ。

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