8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.250

頑固8鉄版「寅さん読本」6 

作品集(中期)



第24作「寅次郎春の夢」

第24作「寅次郎春の夢」は、めったにベスト作には挙がってこないが、間違いなく中期の傑作。
アメリカ人版寅さんこと、マイコさん(マイケル・ジョーダン)役の、エミー賞に2度ノミネートされた
ハリウッドのバイプレイヤー、ハーブ・エデルマンは、錚々たるレギュラー陣、
シリーズにしばしば登場する名優に決して劣らない名演を見せてくれる。

マドンナ(香川京子)とのいつもの失恋エピソードは、オマケ程度で、
寅さんとマイコさんの言葉を超えた、なんともペーソスあふれる友情物語が主題となった作品。
特に、いつもの柴又駅でのさくらとの別れの代わりに、帰国するマイコと寅さんの上野駅での別れは、
面白おかしいようで強く心を打つ、素晴らしい場面だ。

また、さくらに恋したマイコが夢見る場面で、倍賞千恵子が歌うプッチーニの
「蝶々夫人」は、圧倒的な素晴らしさで、松竹歌劇団出身であることを見せつけてくれる。
この場面だけでも見る価値がある。
さらに、この作品は、のちに関敬六が演じることになる、寅さんの相棒ポンシュウ(初代)が登場。
東八郎で有名なトリオスカイラインの小島三児が演じている。
なお、ハーブ・エデルマンは、1996年7月21日、
渥美が亡くなる同年8月4日のわずか2週間前に亡くなっている。



第26作「寅次郎かもめ歌」

「男はつらいよ」は、作品ごとに硬軟があり、
明るい喜劇と少し重めの人情劇が交互に出てくる傾向がある。

第26作「寅次郎かもめ歌」は、どちらかというと硬派の作品。
北海道奥尻島の重量感あふれる自然の風景であるとか、
テキヤ仲間の死であるとか、出だしからして重い。

裏に、貧しい地方と大都市東京の格差社会という
重いテーマが透けて見えもする。
どうしようもないヤクザものだった父ひとりに育てられた無学な娘すみれの
願いである東京の定時制高校入学のために苦闘する寅さんの活躍を描いている。

のちに徐々に多くなり、「満男もの」に移行する「寅さん保護者バージョン」の最初の作品である。
すみれ役の伊藤蘭が、どこからみても朴訥とした田舎娘を見事に演じ切った。
定時制高校、社会格差による教育不均衡がそれとなく取り上げられており、
のちの重要な山田作品「学校」の先駆けである。
定時制高校の暖かな人情あふれる教師役で、2代目おいちゃんだった松村達雄が好演。

しかし、そこは、やはり、喜劇「男はつらいよ」の世界であり、
見事なコメディリリーフとして、米倉斉加年(青山巡査)と、
あき竹城(北海道の漁協のおばさん)が大活躍、ふたりとも楽しそうに演じている。
特に、あき竹城は、重めのストーリーが終わった後のエピローグで、
ぜんぶをかっさらってしまうほどの怪演。
寅さんをおばさんばかりの漁協ツアーバスに引き込んで、
「今夜は男がいるから、おら、ストリップするだよ!けーけけけけ」と、
あの怪鳥のような笑いで爆笑の中、映画は終わる。
これも中期の傑作である。



第28作「寅次郎紙風船」

音無美紀子がマドンナ、というだけで、これは渋い大人の物語だとわかる。
それくらい、華やかさともおしとやかとも無縁の、地味だが影のあるマドンナ。
シリーズ中最もやさぐれた「普通の人」感があり、リアリティという点では格別の作品になった。

病気で亡くなったテキヤ仲間(小沢昭一)の妻である光枝(音無美紀子)の面倒を見ようと、
堅気になる決心をする寅さんの話だが、結局、すれ違う。
光枝は、逆に堅気にならず、テキヤの女房として、
自身もテキヤを続けていく展開を示唆して物語は終わる。

友達とその妻の関係が微妙で、寅さんとの関係も白黒はっきりつかない、
微妙なすれ違いでふたりの人生が分かれていく。
よほど気を付けて観ていないと、観客も置いて行かれかねない
、シリーズ随一の渋いストーリーである。
そんななか、いつもの通り、明るい喜劇を持ち込んでいるのは、
寅さんと旅先で知り合った家出娘(岸本加世子)と寅さんとの珍道中パートだ。

しかも、保護者寅さんバージョンなので、ほのぼのとした親子的な雰囲気が素晴らしい。
この家出娘の話は、もうひとつのメインストーリーとなっている。
後半、彼女を連れ戻しに来るマグロ漁船の荒くれ漁師の兄を、若き日の地井武男が熱演。
ラストで、ほろりとさせながら、パーッと明るく未来が開けるような素晴らしい
エンディングへつながっていく。船旅に出ていく兄を見送る妹と寅さんのバックに流れる
八代亜紀の「もう一度逢いたい」が抜群の感動を呼ぶ仕上がりで見事というしかない。
なお、前半、寅さんの同窓生役としてトリオスカイラインの東八郎がゲスト出演し、
真に迫った演技で強い印象を残しているのも特筆ものだ。



第30作「花も嵐も寅次郎」

男はつらいよ、全作品の中で、これほど明るく爽やかな作品はない。
輝くばかりである。全編通してさわやかな笑いが絶えないのだ。
まるで、「男はつらいよ」ではない、よくできた青春映画みたいだと言ってもいい。

寅さん恋愛コーチものの一作なのだが、この話には、寅さんが片思いするマドンナが出てこない。
恋する若いふたり(沢田研二と田中裕子)の仲を取り持つキューピッド役に徹しているのだ。
しかも、今回は、あぶなっかしいものの、結局、寅さんの力で、
すれ違う二人を引き合わせ、恋を成功させるのである。
おいちゃん、おばちゃん、さくら、博、社長までも、今回はずっと笑顔と笑いで若いふたりを見守り、
寅さんに徹頭徹尾協力するという、下町情緒溢れる人情喜劇に仕上がっている。
余計なものが一切ないのだが、最後の最後、寅さんはどうやら
田中裕子に惚れてもいたのではないか、と思わせるそぶりだけで話は終わる。

寅さんは、片思いでジタバタする歳ではない。
まして、相手は自分の娘くらいの歳である。
片思いは転じて、相手の幸せを深く思いやるまごころに昇華しているという、
そういう含みがあるストーリーなのだが、それもはっきりとは描かれないところが、
ますます爽やかな輝きを全体のトーンに与えている。
「花も嵐も踏み越えて到達した境地」みたいなものは、
さわやかそのもの、というわけだ。
特に、田中裕子に「惚れた男の気持ち」を切々と説く寅さんの親心は、
思わずほろりとさせる感動的な場面で、作品をひときわ引き締めている。
沢田研二が終始、生真面目すぎて笑いを誘う風変わりな好青年を演じて、楽しい。
ちなみに、このふたりは、この作品がきっかけで夫婦になった。
スキャンダラスな面もあったが、かといって、作品そのものの価値が落ちることはない
中期屈指の楽しい作品となった。



第31作「旅と女と寅次郎」

都はるみの大ファンだった渥美清の発案で実現した第31作は、
都はるみがほぼ、本人役でマドンナを演じた、寅さん版歌謡映画。
都はるみの映画と言っていい。

ストーリーは、傷心の旅にある京はるみ(都はるみ)と偶然出会った寅さんは、
彼女が有名人だと知らずに、佐渡島の片田舎でそっと寄り添って、悩みを聞いてあげる。
寅さんの誠実さに心打たれたはるみがとらやを訪れ、
恩返しをする、という、寅さん版の「ローマの休日」である。

どうしても都はるみありきの映画であるため、シリーズの中では異色作だが、
佐渡の安宿のおばあちゃん(北林谷栄)、大衆食堂のおやじ(人見明)、
はるみの所属事務所社長(藤岡琢也)など、キャラの立った脇役が光っており、
いつものとおりの寅さん映画として安定した作品となった。

この映画の翌年、都はるみ本人が、まるでこの作品のごとく、
「普通のおばさんになりたい」と引退宣言。
しばらくの間、芸能界から姿を消している。

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