8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.221 |
MANDOM 男の世界とジェリー・ウォレス 愛する喜びを知るということはマンダムの世界に生きるということさ! なんだ、こりゃ? 陳腐の極みみたいな、安い歌詞。でもね、これに血沸き肉躍ったんですよ。 1970年ですから、わたくし、9歳。小学校3年生。 小学校でちょっとしたいたずらが流行りました。 「アゴのところに何か付いてるよ」と言って、相手の指がアゴに触れた瞬間に、すかさず、言うのです。 「ウ~ン、マンダム」。 覚えてますか。還暦過ぎの人はたいていご存じだろうと思います。 そもそも、まんだむ、って何だ? 当時、丹頂という、ポマードなんかで有名な化粧品メーカーがありまして、マンダムは商品名。男性化粧品のシリーズでした。 ネーミングの由来は、造語だそうです。「男の世界」という意味らしい。 男を意味する「Man」と領域を意味する「Domain」を合わせた造語。 結果的に、マンダムシリーズはあまりに売れすぎて、丹頂という会社名をマンダムに変更。今に至っています。 1970年に売りに売れた、マンダムシリーズの人気を爆発させたのは、間違いなく、テレビコマーシャル。 広告の大成功例として非常に有名です。 白馬に乗ったチャールズ・ブロンソンが荒野を駆け、カウボーイハット(当時はテンガロンハットと言ってました) にすくった水を頭から浴び、顎を撫でて「う~ん、マンダム」。 CMを制作した西谷尚雄氏(当時大阪電通)が、ブロンソン起用のいきさつを語っています。 これが、ハリウッド俳優をつかった最初のコマーシャルなんですね。 「周りからは『ハリウッド俳優なんて使えるわけがない』と呆れられましたが、 ビートルズの来日を実現させたプロモーターの永島達司さんを通してオファーを送ると、 『ブロンソン映画の宣伝に好都合』と破格に安い出演料3万ドル(約1000万円)で承諾してくれたのです」 演出を担当したのは、映画監督・大林宣彦で、こんな話もある。 「西部劇の聖地として知られるモニュメントバレーでの撮影を提案すると、 『僕にも憧れの場所だが、家族も一緒で良い?』と。 結婚したばかりのジル・アイアランドと前妻の子どもたちを呼んで、総勢20人のロケに(笑い)。 強面なイメージですが、愛妻家で家族思いなんですよ」」 このブロンソンという人、2003年に81歳で亡くなっていますが、現在は、伝説的なハリウッド俳優。 男気溢れる、という役柄ばかりだったものの、実際にやさしい家族思いのおとうさんだったらしい。 そのあたりの伝説をネタに、日本のサブカルチャーの旗手、 みうらじゅんと田口トモロヲが、「ブロンソンズ」というユニットを結成。 雑誌『STUDIO VOICE』に人生相談コーナー「ブロンソンに聞け」を連載し、 1995年にはこれをまとめた単行本『ブロンソンならこう言うね』を刊行。 同年、マンダムのCMソングとして有名なジェリー・ウォレスの『男の世界』をカバーしたシングル『マン ダム 男の世界』を発表、という、なんとも痛快かつ奇抜な発想で面白いことをしてくれてました。 この本、めちゃめちゃくだらなくて面白い。ふたりでブロンソンになりきって、さまざまな悩みにこたえるという、ものすごく バカなことしながら、結構、そうだよなー、と納得させるところ、さすがだなと思いました。 「女房を愛しつくせ」「ファミリーは命をかけて守れ」など、ブロンソン主義みたいなものをぶち上げて、楽しませてくれまし た。やさしさこそが男気だと、いう主義は、昔ながらのハードボイルド哲学なんですが、ブロンソンを中心にもってきたところ がすごい。これって、「自分を捨てて働く家族を守るおとうさんこそ男の中の男」っていう、サラリーマンこそ、男気だぜ、 みたいなところがあって、笑いながらそうだそうだそのとおり!と思ったものです。 最近は、どうなんだろう。やさしさと裏腹な強面の人とか全然モテないんだろうなあ。 そういう人って今はほんとに流行らない気がする。 そういうところは我々世代とずいぶん違うのだなあ、と思うこと多し。 そして、あのコマソン。タイトルは、そのものずばり、「男の世界」。 なんと、日本で、130万枚の売り上げを記録。ものすごいことですよ。日本でミリオンセラーってありえない。 日本独自シングルとして、オリコンの年間TOP50で最高20位(1970年)。 この曲、実は、今でも作者の正体がわからないんだそうですが、 歌ったのは、ジェリー・ウォレス。1928年生まれの、カントリー歌手で、 1952年デビューですから、すでに大御所。 1960年から1980年にかけてカントリーミュージックのチャートで35曲をランクインさせています。 最大のヒット曲は、1972年、ビルボード第1位を記録した”If You Leave Me Tonight I'll Cry”。 こうして今、聴いてみると、どちらかというと古めかしい王道のカントリー。 ど派手な黄色い当時流行りのパンタロンスーツなところとか、なんとなく、 愛嬌のある丸っこい体型とか、カツラみたいなマッシュルームカットとか、 なにかと70年代ぽさ満開なルックスではありますが、音はまるで50年代のレフティ・フリゼルみたいですよね。 「男の世界」とはなんとなくイメージが合わないですが、 この人の本来の持ち味は他のヒット曲を聴くとわかります。 2008年に心不全で死去。とにかく、圧倒的に歌の上手い、素晴らしいカントリー歌手でした。 それでは、最後に、彼の本懐、カントリーシンガーとしての実力を存分に味わえる、 心にしみる名作、"TO GET TO YOU"でお別れ。 エルビスファンの心もがっちりつかむこと間違いなしです。 |