8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.185 |
傑作ギャング映画「アイリッシュマン」の音楽 みなさん、家にペンキ塗りますか?えっ?塗るの?マジヤバくね? 本日は映画のご案内。水野晴夫、に耳たぶだけ似ている頑固8鉄です。 『アイリッシュマン』(原題:The Irishman)は2019年に公開されたアメリカ合衆国の伝記映画。監督はマーティン・スコセ ッシ、主演はロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ぺシの3人で、原作はチャールズ・ブラントが2004年に発表 したノンフィクション作品『I Heard You Paint Houses』です。 日本では現在、Netflixで配信中。 アイリッシュマン予告編 やー、面白かった。大傑作であります。 『I Heard You Paint Houses』というのは、「あんた、家にペンキを塗るって聞いたぜ」という意味。家にペンキを塗る= 壁を血まみれにする=殺し屋って意味です。このセリフを言うのがアル・パチーノ。パチーノの役は、歴史上の実在の人物、 ジミー・ホッファ。言われる人=殺し屋がこの伝記の主人公、実在のヒットマン、フランク・シーラン。(ロバート・デ・ ニーロ)。 ホッファはアメリカ大統領の次に権力があると言われた男で、50年代はエルビスより、 60年代はビートルズより人気があったと言われている有名人です。 1957年から1971年まで全米トラック運転手組合「チームスターズ(International Brotherhood of Teamsters(IBT))」 の委員長だった人。労働組合の親分ですね。しかも、トラックとタクシーの運転手すべてを仕切っていた。ホッファがノー といったら、全米の物流がすべてストップする。もちろん、アメリカはエネルギーもすべてトラック運送なんで、電気もガス も水道もすべて止まってしまいますから、たぶん、大統領以上に力があったといっていいでしょう。 実は、映画で描かれていますが、この人、イタリアンマフィアと癒着してました。組合ストや政敵排除でマフィアの協力を得 る見返りに、各支部へのマフィアの強請を容認する関係だったと言われています。このマフィア側のボスだったのが、ラッセ ル・バッファリーノ。(ジョー・ペシ)この3人の関係を主軸に、上映時間3時間半、 歴史にして40数年の物語が展開します。 シーランはふとしたことでバッファリーノと知り合い、その紹介でホッファのボディガードになるのですが、これから話がま るでフィクションみたいに(実話ですからね、驚きです。)よじれていき、ついには1975年のホッファ失踪事件に結びつ いていくのです。この事件、結局、死体も見つからず、行方不明のまま現在に至ってますが、1990年余命いくばくもない シーランが殺害を自白したのです。シーランのインタビューをもとにシーランの弁護士だったチャールズ・ブラントが書いた のが原作『I Heard You Paint Houses』というわけですね。 ちなみに、日本人でもよく知っている関係史実に、ケネディ暗殺事件が出てきます。これも当時の政治(とくに組合関係)と ケネディ家の関係、その間に入ったマフィアとの関係などが描かれますが、なるほど、そうだったのか、と思わずうなづく、 目からうろこでした。また、ホッファは組合の年金資金をマフィアに運用させており、タクシー運転手組合の資金を使った 運用が「砂漠にでかいカジノを作る」というもの。今のラス・ヴェガスを作ったのは、タクシー組合とそれを仕切っていたホ っファなんですね。 さて、スコセッシは、これ以前、1990年にデ・ニーロ、ペシのコンビでギャング伝記映画を撮っています。これが「グッ ド・フェローズ」で、ヘンリー・ヒルという実在したギャングを描きました。また、1995年には、ロバート・デ・ニーロ が実在した天才賭博師フランク・"レフティ"・ローゼンタールを演じて、まだマフィアの支配下にあった1970年代から80年代 のラスベガスを描いています。 どの映画もそうですが、スコセッシ映画はまるでギャング映画版のアメリカン・グラフィティ。映画の時代背景にその時々の ヒット曲がずっと流れています。作法としては音楽PVに近い。 どの作品の音楽監督を務めたのは、かつて60年代にザ・バンドのギタリストだったロビー・ロバートソン。 そして、アイリッシュマンでかなりのパートをしめる1950年代にはその場面場面にふさわしい見事が選曲がされています。 サントラの曲目は以下のとおり。みなさんも知ってる名曲がたくさんあるんではないかしら。 イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト(ファイヴ・サテンズ) タキシード・ジャンクション(グレン・ミラー楽団) アイ・ヒア・ユー・ノッキン(スマイリー・ルイス) ファット・マン(ファッツ・ドミノ) 映画「アンナ」よりエル・ネグロ・スンボン(フロー・サンドンス) グリスビー(ジャン・ウェッツェル) デリカード(パーシー・フェイス楽団) ハヴ・アイ・シンド(ドニー・エルバート) アイリッシュマンのテーマ(ロビー・ロバートソン) 裸足の伯爵夫人より裸足のボレロ(ユーゴー・ウィンターハルター楽団) 白いスポーツ・コート(マーティ・ロビンスwith レイ・コニフ) カナダの夕陽(エディ・ヘイウッド) ホンキー・トンクPt.1 (ビル・ドゲット) メランコリー・セレナーデ(ジャッキー・グリーソン) エル・マンボ(ペレス・プラード楽団) クライ(ジョニー・レイ&フォー・ラッズ) スリープ・ウォーク(サント&ジョニー) タイム・イズ・ナウ(ゴールドディガーズ) アル・ディ・ラ(ジェリー・ベール&ラテン・カジノ・オール・スターズ) 特に、冒頭とラスト、メインテーマとして流れるのは、ファイブ・サテンズの大傑作、 1955年の「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」。I おなじみの曲ですが、とても効果的に使わています。 また、50年代からのアメリカンファッションの変遷も見事に再現されていて、THE KINGのファンもうなる出来ですよ。 まあ、いろいろあったらしく、アカデミー賞に10個もノミネートされていながら、ひとつもとれなかったそうですが、だ からといって面白くないわけがない。netflixの宣伝部長ではありませんが、必見でございます。 |