8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.183

ハイ・ヌーン ーテックス・リッターのラウンドアップ



1952年に作られたフレッド・ジンネマンが撮った名作西部劇「(*・ω・)/ハーイ 何だこりゃ?あ、変換ミスか。
「ハイ・ヌーン」を知ってますよね。「真昼の決闘」です。こら、そこのおやじ!なに笑ってんだ!アヒルの決闘なんて言
ってねえぞ!ディズニーランドじゃねえんだから。
これは、西部劇の定石を崩した作品として知られてまして、保安官が自分1人で殺し屋4人と立ち向かわざるを得ないという
内容で、ジョン・W・カニンガムの小説『ブリキの星』に基づくお話。
主人公の保安官を演じるのはゲーリー・クーパー。それまでの西部劇では主人公は正義の味方で、強くて、バッタバタと敵
を倒す、周りの人々もみないい人で勇気があって、保安官に協力する、ってのがパターン。明るく勇ましいけどえらくバカ
バカしい話ばかりだったのです。それをこの映画が覆した。フツーのおっさんが保安官で殺されてしまうとおびえて、助け
てくれと街の人々に頼むがみな無視を決め込む、という。かなりリアルだよねえ。
会社に置き換えてみるとすぐにわかります。
めちゃめちゃ怖いいじわるな内部監査が入って、自分は悪くないのに標的にされてクビにされるかもしれない。課長や部長
に頼んでも、体よく知らん顔をされて、ひとりで火の粉をかぶんなきゃならない。かみさんには愛想をつかされそう、とい
うわけ。怖いでしょう?こういう話を西部劇の形ではじめてやったのがこれ。封切り当時のアメリカでは酷評されたそうで
すが、ま、そうだなろうな、と思う。マッチョで単純な話が今でもアメリカ人は大好き。アヴェンジャーズみたいなヒット
映画みてると先祖返りしてるなあ、と思いますもん。



さて、かなり長い前置きになってしまいました。
この真昼の決闘で主題歌(同タイトルのハイ・ヌーン)を歌っていたことで日本でも古くから知られているカントリー歌手
がテックス・リッターという人。
もう52年にはおっさんだったし、日本ではそれより古い時代の活躍が知られていなかったので、リッター=ハイ・ヌーン
の低音オヤジという認識しかありません。しかもそれもわたしより上の世代。それより下は知りもしないんじゃないか。で
もこのおっさん、大変な大物、人気者なんですよね。

high noon

you tubeでたくさん見ることができる昔のカントリー音楽番組、「タウンホール・パーティ」や「テックス・リッターズ・
ランチパーディ」でもおなじみですが、50年代にはすでに大物。というのも活躍したのはとても古く、1928年にはテ
キサス州ヒューストンですでに自分のラジオ番組をもっていて、カウボーイソングを歌っていた。1905年の生まれです
から、1897年生まれのカントリー音楽の父、ジミー・ロジャースより8歳下なだけ。ほぼ同世代なんですよね。ロジャ
ースは結核で若死したので、伝説になってしまいましたが、リッターはテレビ番組の司会者となってかなり長期間大活躍し
ましたから、本国ではたいへんな有名人。日本では放送されなかったので、あまりなじみがないですが、真昼の決闘以外に
も例えば、テレビ西部劇で日本でもたいへんな人気があった「ガンスモーク」の主題歌もこの人です。



もともとはこの人もテキサス人。カントリーの有名人はテキサス人がほんとに多くて、アメリカ=テキサス、という感じ。
農場のカウボーイだったわけではなくて、実はこの人かなりのインテリ。テキサス大学で法学、経済学、政治学を学んでい
ます。テキサスでラジオショーを持った後は、ブロードウエイに乗り込み、たくさんのミュージカルに出演。
1933年には、ラジオで子供向けの番組「カウボーイトムのラウンドアップ」を書いて、出演もします。わかりますか?
ディズニー映画で大ヒットになった「トイ・ストーリー」の主人公ウッディのお話の元ネタっぽいですよね。

1936年、ハリウッド入りしたリッターは、36年の「リオグランデ」をはじめ、グランドナショナルピクチャーズの1
2本のB級西部劇に主演。「トラブル・イン・テキサス」ではリタ・ヘイワースとも共演しています。
40年代になると、もうでずっぱりといっていいくらいでまくってます。その間、レコーディングスターとしても活躍。
まさに「歌うカウボーイ」の代表格のひとりとなりました。
45年には「ゼアズ・ア・ニュームーン・オーヴァー・マイ・ショルダー」がカントリーチャート2位に。これはロック時
代にはいってからもカヴァーされ続け、カントリーの古典のひとつになっています。そして、1953年にとうとう、ハイ
ヌーンが出て、これはアカデミー賞を受賞。
その後、60年代もリッターは息の長い活躍を続けますが、74年に死去。(69歳)。

there'a new moon over my shoulder

特徴的なのは、この人に限らず、当時のシンギングカウボーイ系のカントリースターは、フォーキーなアプローチをしなか
ったことです。そのあたりは、ジミー・ロジャース~ハンク・ウイリアムスといった系列とは異なるのではないかと思いま
す。彼らは結構いい大学を出たり、ブロードウエイで本格的なボーカルレッスンを受けたりしていて、ブルースマンからギ
ターを教わった云々、といった後世のカントリーアーティストとは趣が異なります。
だから、あまり今では受けないのかもしれませんし、案外これまで、あまりにメジャーなためにかえって無視されてきたよ
うな感じがします。しかし、本物のカウボーイじゃないから、南部の農家の出じゃないからホンモノじゃないってのもヘン
な話。子供のころに大好きだった、西部劇やテレビの主題歌のおじさん、っていうだけでわたしなんかはぐっとくるの
ですが、いかがでしょうか。


GO TO TOP