8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.140


世界を変えたギタリスト 〜 スコティ・ムア
こんにちはみがきしてるかい?
8時です!もとへ、8鉄です!

さて、言うまでもないことですが、世界を変えた曲、といわれるものが存在します。
本当に変えたかどうかなんて関係ありません。
ちなみに、フランク・ザッパの痛烈な名言があります。
インタビュアー「あなたはなぜ、政治について歌わないのですか?」
ザッパ「俺は、デンタルフロスの歌を作って歌ったところなんだけどよ、おまえの歯は綺麗になったか?ん?」
んなこたあ、あるわけない。流石、ザッパです。
音楽が世界を変えたりはしないのです。でも、そう「言われ続ける」くらい多くの人に衝撃を与えた曲はあります。21世紀になって、改めて選ばれた「世界を変えた曲」のナンバーワンは、エルビス・プレスリーが1955年にサン・スタジオで吹き込んだ「ザッツ・オールライト」です。
プロデューサーはサム・フィリップス、歌とアコースティックギターのリズムは、当時、トラック運転手をしていた、辺鄙な田舎出のシャイな青年だったエルビス・プレスリー、サポートミュージシャンは、サン・スタジオのお抱えだったカントリー・ミュージシャン二人、スコティ・ムア(ギター)とビル・ブラック(ベース)でした。ドラムレスです、この曲は。



みなさん、よくご存じだと思いますが、この曲、適当に始まって適当に終わっています。当時ですら、通常は、これは完成品ではありません。しかし、フィリップスは希代の変わり者で、「最もひらめくものがあるテイクを発売テイクとする」という感覚の持ち主でした。メジャー・レーベルではあり得ない話です。
ですから、他のテイクをすべてゴミ箱に捨てても、このテイクを採用したのです。フィリップスは、3人をほったらかしにしておきながら、テープをずっと回しっぱなしにして、録音をしていました。そして、たまたまこの「ザッツ・オールライト」が彼らの中から生まれたとき、テープを回しながら、フィリップスは「これだ!これだ!やったぞ!」と叫んだそうです。そして、発売し、本当に世界を変えてしまったのです。
さて、今回も、エルビスには触れません。あまりに大きすぎる上にみなさんのほうが詳しいでしょうから。今回スポットをあてるのは、ギタリストとして参加したスコティ・ムアです。






ウインフィールド・スコティ・ムア3世が生まれたのは、1931年、テネシー州。8歳から家族にギターを教わったそうです。1948年に、16歳で兵役につき、空母に乗って韓国にも来ていましたが、1952年に退役。1954年、メンフィスでスターライト・ラングラーズをビル・ブラックと結成、カントリー・ミュージシャンとして活動を始めました。このとき、地元の小さなレコード会社だったサン・レコードの専属セッションマンとして雇われます。
その後は、エルビスがサンを辞めてRCAに移籍した後も、非常によく知られている、エルビスの全盛期の大活躍に、ブルームーン・ボーイズ(ドラムズには、D.J.フォンタナが参加)として、ずっとつきあっています。また、サン・レコードのプロダクション・マネージャーとして裏方の仕事もしていました。1968年のエルビスのカムバックショーに参加して以来は、ずっと疎遠になり、エルビスとは結局そこまでとなったようです。
70年代は、リンゴ・スターやカール・パーキンズのレコーディングにつきあったりしていますが、主に、フリーランスのレコーディング・エンジニアとして生計をたてていたようです。その仕事は、裏方とはいえ、かなりすごいもので、ドリー・パートン、アン・マーグレット、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイスといった音楽家からボブ・ホープのテレビショーにまで及びます。



1990年代は、再びサン時代の盟友、カール・パーキンズと仕事をすることが多くなり、1997年には、「オール・ザ・キングスメン」というバンドを、D.J・フォンタナと結成。事実上、かつてのブルームーン・ボーイズ復活をし、キース・リチャーズ、ロン・ウッド、ジェフ・ベック、レボン・ヘルム、リック・ネルソンといった、そうそうたる面々と共演を果たしています。
さらに同年、ハリウッドで、チェット・アトキンス、ハンク・ガーランド、ジェームズ・バートン、デュアン・エディらとともに、ギターセンター・オブ・ウォークに手形を残してもいます。



2000年、ついに、ロックの殿堂入り。2002年、ギブソン社の生涯功労賞を、ブルーグラスバンジョー奏者の神様アール・スクラッグス、ロックのU2と同時に受賞。
2004年、イギリスに呼ばれ、エリック・クラプトン、ロン・ウッド、デビッド・ギルモア、ビル・ワイマン、アルバート・リーとともに、ステージに立ち、これはDVD化されています。
2007年、とうとう引退を表明。レコーディング・エンジニアとして、また、ギタリストとしての華々し大活躍に終止符を打ちました。
2011年、ローリング・ストーンの「世界最高のギタリスト100人」の29位に選ばれました。84歳になるはずですが、まだまだ、お元気で健在です。
さて、わたしも「ザッツ・オールライト」を初めて聴いてから、かれこれ300年・・あ、ケタ間違った、40年近くになります。当然、ギタリストの端くれとして、耳コピしまくりました。スコティ・ムア奏法は高校生時代には、ほとんど出来ていたと思います。
いや、私が天才だとか言うのではないのですよ。実は、ブルームーン・ボーイズ時代の録音というのは、技術的にはそれほど難しいものではないのです。もともと、ムアは、カントリー・ギタリストなので、シンプルに徹したようなサン時代の録音は楽勝だったという話もありますし、実際にそうではなかったか、と推測します。
それでも、それが、まさに「歴史を変えた」んですね。音楽は技術のひけらかしではありません。そんなこと言うまでもないのですが、「ザッツ・オールライト」を聴けば、それこそ、ますます、実感出来ると思います。
あの当時、あんなノリ、あんなリズム、あんなリフ、あんな音色・・すべてが「大革新」だったのです。1955年にサンで起こった奇跡。そんな耳で聴いてみると、改めて感慨深いものがあります。


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