8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.135


アメリカン・ファッションの真実

こんばんはーげんだーっつ!
 ワンコ8鉄です!ワンッ!
こんばんはーげ!じゃねえよ!あ、言わないほうが良かったか・・。
さて、今回は、珍しく、いや、ホントーは珍しくっちゃいけないんだが、ファッション関係の話。
リアルでロッキンなフィフティーズなファッションはもう、THE KINGしかないに決まっているので、別のファッションの話をします。以前、少しだけ言及したことがあるのですが、今回はこちらでもう少し詳しく説明したいと思います。
よく、アメリカン・ファッションの一部としてとりあげられるのが、カウボーイとかウエスタンとか言われるタイプのもの。
普通、日本人の我々が連想するのは、たぶん、「西部劇」か「カントリー歌手」のものでしょう。
しかし、その西部劇とカントリー歌手の服、って全然違うと想ったことありませんか?ロカビリー系の人もカントリー歌手とかぶっているので、ツートーンだったり、フリンジ(すだれみたいな紐がたくさん垂れ下がったもの)付きだったりします。でも、西部劇、とくに、近年の作品で見られる衣装とは大きな隔たりがあります。
西部劇のファッションは、ごくごくフツーのスーツに近かったり、色使いが黒と茶しかなかったり、ごくフツーの地味なシャツだったりします。非常に「渋い」ですよね?
どちらが、正しい、というわけではありませんが、どちらが、本当に19世紀当時の実際の服装に近いのかといったら、西部劇のほうです。

一見、派手に見える、ツートーンだったり、刺繍が入ったりしているウエスタンシャツというのは、1950年代くらいに、カントリー音楽のステージ用衣装として普及したもので、その大元は、歌うカウボーイといわれたジーン・オートリといったカントリー歌手の先祖(そのまま、西部劇にも出演した)が作り上げたハリウッド由来のもので、明らかに「20世紀の服」です。実は、日本のウエスタンショップでもよく売られている、こういったタイプのものはアメリカでもごく一般的なようで、リーバイス、ラングラーのジーンズ共々、ロックマウント、トニーラマなどの老舗メーカーが今でもポピュラーなウエスタン・ブランドとなっているようです。(
たしかに、現代の「馬ではなく車で移動するカウボーイ」服、ではあります。)
一方、西部劇の衣装は、基本的に時代考証に基づいた19世紀服を再現したものです。最近の作品は、とりわけその点は厳密で、ごく普通に、庶民に着られていた服、着方が、かなりリアルに再現されています。
40〜50年代に作られたアメリカ製西部劇のうち、いわゆる「B級」といわれるチープな西部劇では、派手な衣装を着たカウボーイがピストルをバンバンぶっぱなしていましたが、「駅馬車」、「荒野の決闘」、「シェーン」などなどのリアルな名作に登場する西部劇の登場人物の衣服のほうが、時代考証として正しいのです。
1800年代のカウボーイ・ファッションを史実のとおりに再現・復刻したものを、「オールド・ウエスト・クロージング」というのですが、こういったものを現在でもちゃんと市販しているブランド、メーカーもあります。


これが、日本では一般的なウエスタンもの、とは全く異なる非常に地味なものでありまして、シンプルなシャツ、ジーンズ普及以前の、サスペンダー式フロンティア・パンツ(ガンベルトをするため、ベルトをする習慣がなかった)、なんの模様もないシンプルなブーツ、といった出で立ち。飾りっ気は全く、ぜーんぜんありません。
さまざまな型があるので、説明しきれませんが、最も一般的だったものを片っ端から説明しますね。
まず、19世紀の西部開拓時代(1860年から1900年まで)、シャツは、ごく普通の白いシャツで、前開きではなく、ほとんどがプルオーバーでした。襟は立ち襟、と思っている人が多いですが、今でもごく普通に見られるカラーがついています。色や柄はさまざまですが、基本的には安価なコットンそのままのナチュラルカラーが多い。で、シャツってのは、西洋では、下着、なのですよ。
ここが肝心なところです。シャツは下着だった。いわゆる外出着というのは、ジャケットのことを言うのです。もう少し昔に遡ると、今では当たり前になっている、トランクスとかブリーフとかがありません。どうしていたか、っていうと、シャツの前後だけをながーくして、股間のところで、ふんどしのように結んでいたのです。だから、プルオーバーなのですね。そして、そのなごりとして、現在のシャツも、サイドより前後のほうが長く出来ているのです。
シャツは下着である、ということがわかっていただけたでしょうか?だから、派手な、凝ったシャツなどないのです。
さらに、西部劇で、女郎屋から逃げ出す悪党が着ている(よくあるパターンです)
つなぎみたいな下着ですが、あれは、本当に防寒用のつなぎの下着で、着脱が容易ではなかったために、下半身は前だけでなく、おしりのところも、開いているのです。もちろん、ウンコするときに脱がなくていいようにです。着っぱなしだったのですよ。西洋人はあまり風呂に入らなかったのです。
そのつなぎの上に、シャツを着るという時代が来て、ふんどしの役割はしなくなり、現代のシャツに近づいていったのです。

さて、ベスト、というのが、とても流行ったのが19世紀です。今ではジレ、とか言う人がいますが、アメリカでは今でも昔もウエストコート、といいます。なんだか、ウエストコースト、と紛らわしいので、日本人になじみ深いベスト、という言い方をしますね。(もっと昔はチョッキ、なんて言ってましたね、そういえば。)
ベストは、今でもスリーピースのスーツに付属しているようなベストと、基本的はほとんど変わりません。デザインは襟があるものが多かった、とか、ダブルも多かったとかありますが、基本的には同じ機能、同じデザインです。
アメリカの服装というのは、気温差が激しいために、基本的に「重ね着」であり、寒暖差の大きい地域では、シャツ、ベスト、ジャケット、コート、と重ね着をして、着たり脱いだりして体温調節をしていました。しかし、熱い時間、または地域では、ベストの主な役割は、防寒というより、小物入れ、でした。いわば、「着るポケット」、だったのです。シャツには、ポケットがないんですよ、19世紀は。
パンツ、とか、トラウザース、日本で言うところの「ズボン」というのは、「ウエスタン=ジーンズ」だと思われていますが、違います。ジーンズというのは、鉱山労働者専用に、リーバイ・ストラウスが特別に作った労働着です。ブルージーンズ(藍染め)などというものはありません。当時は、コットンの素地そのままです。さらに、カウボーイや街の人々はジーンズなんかはいていませんでした。コットンで出来た、ごくフツーの、地味なワークパンツだったり、現代のスーツにあるような、ウールのズボンです。しかも、ベルトをする習慣がなく、サスペンダーを使っていました。ベルトループはあるものもあったのですが、それは、ガンベルトを通すためのものです。そのガンベルトも、19世紀の一般的なものは、西部劇に出てくるような、ピストルを入れる部分(ホルスター)とベルト部分が一体化したものではなく、別々のものでした。要するに、ベルトというのは、元来、ピストルを入れるホルスターをぶら下げるための皮の紐、だったのです。現在は、よほどの特殊な人でない限り、アメリカでも、ホルスターを着けて(すなわち、ピストルさげて)歩いている人などいません。ベルトは、パンツが落ちないようにサイズを微調整する道具として、用途が変わったのです。

さて、最も目を引く、ジャケット。19世紀の残された写真を見るとわかりますが、どれも4つボタン段がえり、です。しかも、Vゾーンなど、ほとんど、ないに等しいくらい狭い。シャツは下着だったのですから、見せびらかすものではなかったのです。あとは、現代のアメリカン・スーツがほとんど、変わらずにそのまま、デザインを引き継いでいます。しかし、19世紀は、そういった今でいうところのジャケット丈とは異なる、「フロック・コート」のほうが流行でした。長めのジャケットですね。長さ以外は同じようなものです。

靴、に行きます。当時はウエスタン・ブーツ(カウボーイ・ブーツ)というのが、イメージとして強いかと思いますが、馬車を使っていたタウンに暮らす人々が好んで履いていたのは、長いカウボーイ・ブーツではなくて、ごく普通の今でいうチャッカーブーツのようなものです。長いブーツは、基本的に乗馬用です。で、それは、現代のウエスタンブーツのような長さではなくて、膝上まで来そうなくらい長かったのです。馬に乗ってみるとわかりますが、乗り手の足腰の強さというのが求められるのです。昔の人は今の人とは比べものにならないくらい、運動能力や筋力に優れていました。両脚で、ぐっと、馬の脇腹を押さえつけなくては落馬してしまいます。ずっと乗っていると、ズボンなどすぐにすり切れてしまうのです。だから、チャップスという、ズボンの上に着ける皮の当て布があったり、ブーツが膝まで完全に覆うくらい長かったのです。あれは、脚を痛めないための道具です。
だから、現代のトニーラマのような、ファンシーなブーツなど、あっても無駄です。すぐに、刺繍など、すぐにずたずたになってしまうからです。当時のブーツは、非常にごつい皮で出来た、なんの飾りもない、乗馬ブーツだったといっていいです。

帽子。これがまた、最大の誤解があるところなのです。現在よくある、ストローで出来たカウボーイハットや、皮のカウボーイハット、というのは、ありませんでした。カウボーイハットは、全部、フェルト(ビーバーフェルト)で出来ていました。なぜ、ビーバーかというと、水棲動物であるビーバーの毛は極めて耐水性に優れていたからです。さらに、現代よくイメージする、くるりとサイドブリムをまくりあげたスタイルなどはありませんでした。カウボーイハットは、フラットな、幅の広いブリム(つば)のままで被るものでした。要するに、あれは、頭に乗せる「傘」なんですよ。馬に乗って、傘をさしている人などいません。防水用にオイルをしみこませたリネンを用いたダスターコート、長いブーツ、そして、頭にかぶる傘であるカウボーイハット、で、馬に乗りながら、雨風をしのいだのです。すべては「実用性」に極めてかなっているのですよ。かっこつけ、ファッション、などでは決してありません。命を守るための道具なのです。
なお、「西部を征服した帽子」と言われるステットソン(カウボーイハットメーカーの代表)ですが、それはあくまで、会社の売り文句に過ぎません。実際は、ビーバーを使ったステットソンは、非常に高価で、やむを得ず手に入れる必要があったカウボーイのような特殊な職業以外、そう簡単に庶民が手に出来るものではありませんでした。ほとんどの人が被っていたのは、今で言うところの、「ボーラー・ハット(もしくは、ダービー・ハット)です。素材はウールで、安価でした。


さて、おおざっぱですが、おわかりいただけたでしょうか?
19世紀のアメリカ紳士服、というのは、基本的に、現代の紳士服とあまり変わりありません。へんてこりんな派手シャツでもフリンジひらひらでも、穴が開いたジーンズでもありませんでした。おそらく、一番、当時の伝統を伝えているのは、ごくごく、一般的なサラリーマンが選ぶ、ブルックスブラザースのようなメーカー服です。アメリカ人は、本当に、実用主義、なのです。
なお、かなりマニアックで凝ったアメリカ19世紀服の復刻版(そのときどきのシーズンのテーマによりますが)を扱っている有名ブランドは、ラルフ・ローレンの1レーベル(しかも一番値が張る)の、「RRL(ダブルアールエル)」のみだと思って間違いありません。


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