8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.130


デュアン・エディ〜シンプル・イズ・ザ・ヒット!


みなさん、こんばんわきのした!8鉄です!
これほど、回数を重ねるともうネタがありません。脇の下でもパンツの中でもなんでもいいや!!っていう気になります。
ま、そんなくだらない話はおいておいて、ちょっと、よくあるパターンの「ある人がミュージシャンらしきものになるまで」を考えてみたいと思います。
ロック音楽だったら、こんな感じ。
ロックを聴いて大好きになりました→ロックの花形楽器に興味を持って自分でもやってみたいと思いました→エレキを買いました→バンドを作りました→その後は知らんがな・・
いいですね?すっごく、よくあると思いません?こういうの。ま、ドラムスでもベースでもいいけど、とりあえず、ギター、っていう人多くね?みたいな。今なら誰だろう・・よくわからないけど、昔ならレッド・ツェペリンとか、ジミヘンとかいろいろあったと思う。バタヤンは出てきませんよ、なぜかっていうと、ギターは歌の伴奏だからです。それは後で話します。
とにかく、そういう人って、世界中にどれくらいいるのだろう?と想像してみますが、見当もつきません。「星の数ほど」とアホみたいに言うしかないんじゃないかしら。
現代では当たり前みたいなこのストーリー、ちょっと、ここで、ひとつ、ロック音楽の当初に立ち返って(このコーナーでは立ち返りっぱなしですが)みると、いくつか、疑問が出てきます。
ロックを始めた初期のクリエイターは、自分たちより前にロック、なんてないんだから、何を聴いていたのか?
楽器に興味を持って・・というとき、どんな楽器に興味を持ったのか?
なんで、ロック=エレキなのか?
「ロックとはなんぞや?」という禅問答はとりあえず棚上げにして、フツーに答えらしきものを書いてしまうと、最初のロックミュージシャンたち(50年代前半のアメリカ人)が聴いていた主流は、カントリーとリズム&ブルースとジャズです。もともとその畑のプロだった人もたくさんいます。
カントリーの弾き語りが好きだった人はギターに興味を持ったと思いますが、50年代前半までは、ほとんど、「歌の伴奏」として活躍した楽器です。ロックっぽいリフとかブルージーなメロディーとかが好きで器楽演奏を目指した人は、たぶん、リズム&ブルースの花形楽器だったサックスに目を向けたはずだと思います。ギターはサックスの伴奏楽器でもありました。ギターはどのジャンルでも常に脇役です。
そんな脇役に徹していたギターがメインになったのはいつなのか?なぜロック=エレキ、になってしまったのか?歌手が自分を伴奏する楽器としてではなく、エレキを器楽演奏の花形楽器にしたのは誰なのか?
その答えがデュアン・エディです。

チャック・ベリーでもボ・ディドリーでもないのは、彼らは1曲もインストを演奏したことがないからです。歌の伴奏、歌の間奏、としてであって、ギター演奏そのものがメインではありませんでした。また、ひとりで弾き語りをする生なデルタ・ブルースやそれを電気化したシカゴ・ブルース(エルモア・ジェイムズなど)のような、ギターがかなり主役に近いブルースが世界的に真似されるようになるのは、60年代に入ってから、しかもイギリスのロックがブームになってからなんです。ベリーだってディドリーだって基本的にR&Bの人です。ベリーが受けたのは、歌詞の面白さによるところが大だと言われているし、ディドリーにいたっては、ポップチャート入りした曲はないんです。R&Bでは1位になってますけど。
だから、最初に「ギターだけの演奏で世界一のヒットを出したロックギタリスト」はエディです。
もうひとつ先に結論(と私が思っていること)をざっくり申し上げると、エディが最初の「世界一人気のあるロック器楽奏者」になれたのは、プロデューサーだったリー・ヘイゼルウッドのアイデアのおかげです。それは、シンプルなアイデアで、一言で言うと、「世間では複雑な音楽は売れないから、単純化しよう」という、それだけのことでした。彼が演奏したのは、低音弦で奏でられる単音のメロディだけです。アドリブフレーズなんて1箇所もありません。バリバリ弾きまくるなんてこともありません。速弾きもトリッキーなフレーズもありません。コードトーンも出てきません。こんなに音と音の間の空白が長い器楽演奏というのも、考えてみれば珍しいくらいかもしれません。
エディ本人の言葉で言えば、「ギターは音だ」です。(音質、とか、響き、という意味でしょう。)
「極めて簡単な演奏は非常に込み入った演奏より難しい」とも言っています。(音と音の間が極めて大事だというのは演奏家ならわかると思います。)


しかし、実際に、演奏が難しいかどうか、熟達度がどれくらい必要か、芸術性がどうしたこうした、とかではない、ということを彼らは言っています。要は、「別に演奏者でも演奏者になりたいとも思っていないごく普通の人に受け入れられるには、どうすればいいか。」という方法論の問題だということです。簡単そうで、真似出来そうなもののほうが人気が出るんです。世間は素人ばかりなんだから当たり前です。専門の超絶歌手が出てくるオペラ放送よりNHKののど自慢のほうが視聴率高いし、長寿番組なんです。それと同じです。シンプルでわかりやすくないと売れるわけがないんです。
ここが、ネックになって、人気が出なかった、もしくは、人気がなくなった、もしくは、世界的なマーケットという尺度で観た場合、「衰退消滅」した音楽はいくらでもあります。
クラシックやジャズは、凡人には出来ません。少なくとも、そう思われても仕方がないイメージをもたされてきた音楽です。音楽大学を出るくらいでないと無理、というのが一般的なイメージでしょう。ジャズは本来はそうではなかったけれど、いつの間にか高度になりすぎ、一般人の聴き手を失って権威主義になり、マニアのものになっていった音楽だといっていいと思う。同じ演奏家やマニアには受けても、一般の客には愛想を尽かされてしまう。
カントリーは、基本的に歌の世界なので、いいのです。カラオケボックスが全国どこにでもある日本の歌謡曲と同じで、歌なら少なくとも多くの人が歌えますから。バッキングの器楽演奏が難しかろうが簡単だろうが、なんだって別に構いません。ロックでも生ギターじゃかすか鳴らして歌うのなら、出来そうな気がする。
ハワイアンも歌がメインで、実際はさておき、イメージとしては、ウクレレで3コード覚えれば出来そう、というのがあります。だからいつまでも人気がある。
しかし、インストルメンタル(器楽演奏のみ)の場合は、違ってきます。クラシックもジャズも難度が高すぎて、ダメだ。
世界各地に散らばる「民俗音楽」は、楽器が特殊だったり、狭い地域の伝承音楽ってのは基本的に高い純度を保ったまま進化するので、演奏技術的には極めて高度なものが多かったりする。その地域では、子供のころから仕込まれるから、いとも簡単そうにやってみせてくれるけど、地域外の人からみると、とても真似出来そうには思えない。そういうのは、なんとなく想像がつくと思います。アフリカンドラムなんてとても出来ないし、尺八なんて全然鳴らないし、サンバのリズムなんて簡単に身につかないし、バンドネオンなんか音の配列もわからないんです。一言で言って、民俗音楽も「敷居が高い」。
では、器楽演奏でも、そこらのスーパー(アメリカでは)にでもある一般的で安価な楽器を使って、「俺にも出来そうだ」っていうのを出せば、売れるだろうって思いつく人がいるのは当然です。もともと、そういうのは、カントリーでもブルースでも考え方としては古くからあるんですよ。ビル・ヘイリーのロック音楽も、エルビスの初期の録音も、ヘイリーやフィリップスが意図的にそう考えて単純化したから売れたのです。これは歴史的事実です。
インストで単純化を図ろうとすれば、楽器は、当時から通販で、誰でも買えた安価なエレキであり、エディのような単純そうにきこえるロック音楽だった。ヘイゼルウッドの、シンプルだけれど秀逸なアイデアは、実際に大当たりした。そして、デュアン・エディを世界的大スターに押し上げたんですね。

さて、そのエディ本人は、どんな人だったのでしょう?


「トワンギー・ギター」と称されることが多い独特のサウンドの、シンプルなギター独奏は、1950年代、「レベル・ラウザー」やテレビ番組主題曲として有名になった「ピーター・ガン」といった世界的大ヒット曲でよく知られています。

ニューヨーク生まれのエディは、5歳からギターを弾き始め、16歳でラジオ番組に出演したりしていたそうです。そこでDJをしていたのが、リー・ヘイゼルウッド。後にエディのプロデューサーになる男でした。相棒のジミー・デルと組んで当時演奏していたのは、カントリー&ウエスタンでした。エディは、チェット・アトキンスやレス・ポール、ジャンゴ・ラインハルトなど、カントリー、ジャズなど様々なギタリストから影響を受けていて、相当多様なスタイルをこなすことが出来る万能選手だったようです。
しかし、それでは「いくらでもいる器用なギタリストのひとり」というだけになってしまうところだったのですが、このころに、エディは、低音弦(4〜6弦)だけで太くリバーブのかかったサウンドでリードを弾くスタイルを自分のアイデアで身につけました。そして、ヘイゼルウッドの助力のもと、1957年にはこのスタイルのインストルメンタル「ムーヴィン・グルーヴィン」をレコードとしてリリースしています。
これが、58年にビルボードチャートの72位に入り、続いて、出した「レベル・ラウザー」が大ヒット。これは、ブンブンうなるエコーが効いたギターの背後にサックスとドゥーワップコーラスをオーヴァーダビングした独特の熱狂的なもので、当時としては斬新なものでした。
結局、「レベル・ラウザー」は、チャートの6位まで上がり、ゴールド・ディスクを獲得。
その後数年間、エディは最も成功した器楽奏者となりました。1959年には、初のアルバム「トワンギー・ギター・ウィル・トラベル」がリリースされ、チャートの5位にまで上がり、その後82週間、チャートにとどまり続けました。1960年には、映画音楽にも進出、「ビコーズ・ゼイ・アー・ヤング」は、4位になり、ヨーロッパでも大ヒット。
その後、60年代には、映画俳優としても活動を始めますが、1962年に、これまた、大ヒットの「ギターマン」で3つめのゴールドディスクを獲得。さらに有名になりました。

70年代、80年代も快進撃が続き、86年には「ピーター・ガン」の新バージョンがグラミーでベスト・ロック・インストルメンタルを受賞して、結局、40年間に渡り、インストの分野でトップ10ヒットを出し続けた唯一無二の器楽奏者となりました。
その後も、ポール・マッカートニー、ライ・クーダー、ジェフ・リンという、ただならぬ人たちが、ジョン・フォガティ、ジェームズ・バートン、デビッド・リンドレイ、スティーブ・クロッパーなど、エディを敬愛する大物ゲスト勢揃いでプロデュースをしたアルバムを出すなど、一度も人気に陰りを見せることなく活躍を続け、ロックの殿堂入り。21世紀に入ってからは、ギター・プレイヤー誌が選んだ「ギター・レジェンド」の第2位(1位はレス・ポール)を獲得、2011年にもヒットアルバムを出すなど、未だに大スターのままなのです。


さて、こうして聴いてみて、「なんだ、つまらない、こんな単純なもの」と思った人は、たぶん、上手に楽器を弾きこなすプレイヤーである可能性が高いと思います。
もっと、音数がたくさんある、トリッキーなところがたくさんある、かっこいいフレーズがたくさんあるギターでないと納得出来ない、と思った時点で、それはすでに「マイノリティ」なんです。よく言えば「専門家」悪く言えば「浮世離れ」です。
嘘だと思ったら、友達のドラマーだの洋楽マニアのバンド仲間だのじゃなくて、普段、朝ドラばかり観てるかみさんだの、パチンコばかりやってるとうちゃんだの、近所のばあさんだのに聴かせてみるといい。
「うるさいねえ、、、なにこれ?ギターなの?(例えばジミヘン)、これは、なんだか、ゴニャゴニャしててどこがメロディなのかもわからないねえ(例えばジョー・パス)おや、こちらは、綺麗で覚えやすくて、うきうきするねえ(エディ)」という反応が返ってくるのが普通だと思います。
なんとなく、「コアなロック・ファン」の間では、無視されている気がするデュアン・エディは、実は、世界一のロック器楽奏者なのですよ。というところで今回はおしまいです。





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