ROCK FIREBALL COLUMN by NANATETSU Vol.90

21世紀も2010年代に突入しおった。 ふ〜む、2000年プラス10年か・・・。 ことロックに関してはいまだに1950、60年代のマンマのわしのオツムにとって、2010年なんてアリエナーイ時代じゃ。 なんだかタイムマシンに乗って未来に来たような気分じゃよ。 新年早々発表されたナッソー2着を悪いが速攻でゲットしたんで、なおさら古き良き時代から抜けだせんわい! ハッピー、ハッピーのニューイヤーじゃ。
 しかし待てよお〜。 タイムマシンで過去からやって来た七鉄か・・・まあそれもいいではないか! わしが諸君にして差し上げられることは、「過去から学べ!」じゃ。 しかし、ロックの歴史を紐解くばかりでなく、今年は一丁!ロック界に大きな「うねり」をもたらしたような、社会的な、そしてわしにとっても過激、衝撃的な「事件」をご紹介しながら、その年のロック界の動向をご紹介していこう。
 ロック・ミュージックとは社会的現象を映し出す「鏡」であり、わしらロック・フリークはその「鏡」を見ながら歳月を過ごしてきたのじゃよ。 そして過去の「事件」と「ロックという鏡」を通して、なにやら明るい話題の少ない現代に大沢親分なみに渇!を入れてしんぜよう! なあ〜に、ガッコの教科書のようなお堅いもんではない!笑いも涙もあり(?)、そして何よりもロックあり!のイキのいいノリを心がけるので、どうかお付き合い願いたい!


「ロック的時代解体白書」 第1回〜1973年(昭和48年)
キングの「逆襲」と、知性派の「静かなる反抗」


■まずはじめに・・・
 

 まだお正月気分が抜け切っておらん頃じゃが、やっぱり
「一年の計は元旦にあり!」の静粛なノリでお正月を過ごすってのは至難の業じゃのお〜。 この年になるまで、毎度お正月はノンビリ、グータラじゃな。 ちょいと渇を入れようとスポーツイべントをTV観戦してはみるものの、やっぱりだめじゃな〜。 気が付いてみたら「スター対抗福笑い大会」(あるかそんなもの!)みたいのを見とるしなあ〜。
 しかし、わしは過去にたった1回だけ平和なお正月気分を木っ端微塵にされたことがあるぞ。 いや、わしだけではないじゃろう。 あの壮絶な「事件」をテレビで鑑賞していた何百万、何千万(?)の日本人が熱狂・・・いや絶句したはずじゃ。 その「事件」は1973年1月2日に起こったのじゃ! 本題に入る前に、その「事件」のオハナシからかまそう!


【ザ・事件 1973】 永遠のチャンプ、大場政夫がもたらした衝撃の新春

 この日、今なお日本プロボクシング史上最高の逆転劇と言われる一戦があったんじゃ。 世界フライ級チャンピオンの大場政夫選手が挑戦者チャチャイ・チオノイ(タイ)選手を破って、5度目の防衛に成功したんじゃが、その試合はボクシング漫画でも描き切れないような、あまりにも凄まじい激戦じゃった。
 試合開始直後、大場選手はチャチャイ選手の放った強烈な横殴りの左フックをもろに喰らってダウン。 しかも不自然な倒れ方をした大場選手は左足首を捻挫。 カウント8でかろうじて立ち上がったものの、右足一本でフラフラしながらチャチャイ選手の容赦ない猛攻を浴びる大場選手のKO負けは時間の問題じゃった。
 ところがラウンドが進むにつれて、フットワークもままならない大場選手が捨て身の逆襲に転じたのじゃ。 鬼の形相でチャチャイ選手を待ち構え、天才的といわれたボクシング勘だけで立ち向かっていく姿は、追い詰められた者の最後の悪あがきのようにも見えたが、大場選手のすさまじいまでの勝利への執念にチャチャイ選手が徐々にうろたえ始めた。 そして12ラウンドに大場選手は逆転ノックアウト勝利をもぎ取ってしまうのじゃ。
 「判定なんてしゃらくせえ!倒すか、倒されるかってのがボクシングだ!」という大場選手の獰猛なファイティング・スピリッツ・・・。 「感動」なんてレベルのオハナシではない! 「こんな強気一辺倒な野郎がこの世にいるのか!」とわしは心臓が凍りついたもんじゃった。

 大場選手は防衛を重ねる度に明確な達成感を口にしておった。 「これで親兄弟にうまいものを食べさせられる」「これで家を建てられる」「これで住宅ローン完済だ!」 日本全体が貧しかった時代が遠い昔になりつつあったあの頃、大場選手はボクシングというスポーツが「成り上がるための殴り合い」だった血生臭い時代の最後の、そして最強のチャンプじゃった。
 この世紀の激戦から23日後、大場選手は愛車コルベット・ステングレーで凄惨な交通事故を起こして死去。 豊かになった日本人が忘れかけていた「大和魂」の凄まじさを人々の記憶に焼き付けたまま、大場選手は「人生の10カウント」を迎えてしもうたんじゃ


【ロック 1973】  その1 王者エルヴィスの復権!
 
 大場選手の「衝撃の大逆転」で幕を開けた1973年、ロック界では何が起こっていたか。 それは王者エルヴィスの大逆襲じゃった。
 まあこれは日本に限ったことじゃが、こと洋楽ロックに関しては、当時は続々と登場する優秀なルーキーばかりがもてはやされ、エルヴィスがマスコミを賑わすことは稀じゃった。(ったくバカモノ!ってなもんじゃよ)
 ところが当時としては画期的じゃった衛星放送による全世界同時放映の「アロハ・フロム・ハワイ」がそんなヤワな日本の洋楽状況に一撃を喰らわした! エルヴィスは一夜にして日本でもキング・オブ・ロックン・ロールとしての称号を取り戻したと言っていいじゃろう。
 まだお茶の間でロックのライブが観られることは珍しかったこともあるが、あのグレイトな存在感、歌唱力、パフォーマンスに、日本中の音楽ファンがひれ伏したはずじゃ。 まだまだ最新のPAシステムを使いきれていない演奏が多かった当時のロック・ライブの水準を遥かに超越した豪華絢爛たるステージじゃったな。
 


〜その2 ポール・マッカートニーのブレイク?!
 
ロックの大逆転シーンをもうひとつ。 それは1970年12月に解散していたビートルズのメンバーのソロ活動状況じゃ。 ビートルズ解散後、ソロアーティストとして真っ先に輝かしい成果を上げていたのはジョン・レノンとジョージ・ハリスン。 意外や意外、もっとも不調だったのはポール・マッカートニーじゃった。 ビートルズ解散のショックから抜け出せていないような、何だか冴えないソロアルバムを思い出したように発表しておった。
 そんなポールが、自身のバンドであるウイングスを率いてようやく本領を発揮したのも1973年じゃった。 シングル「マイ・ラブ」「007死ぬのは奴らだのテーマ」で珠玉のマッカートニー節を披露し、やがて名盤「バンド・オン・ザ・ラン」を発表! これで弾みのついたポールは、以後1970年代を快走。 反対にジョンは徐々に音楽活動は地味になり、ジョージは長〜いスランプに陥っていくのじゃ。 ビートルたちがソロとしてシーンを引っ張って行く形勢がひっくり返ったのが1973年だったのじゃ。
 


〜その3 ベトナム戦争終結。 みんな気楽にいこうぜ〜(?)
 1973年最大のニュースといえば、約10年間も続いたベトナム戦争が終結したことじゃな。 ロックシーンにも様々な影響を与えてきたベトナム戦争。 その終結の影響とは、アメリカ国民が何よりも心の平静を求めていただけに、ハードなサウンドよりも耳に優しいサウンドが好まれるようになったことじゃ。 後に「ウエストコースト・サウンド」とか呼ばれる「ソフト&メロウ路線」の始まりじゃ。 ジャカスカやるのはイギリス勢ばっかりだったという印象があるのお。
 サウンドだけでなく、歌詞も社会的メッセージ色は薄くなり、自分の身の回りを見つめ直す素朴なもんが多くなったもんじゃ。 まあアメリカン・ロックから毒っ気が抜けてしまった時期ともいえるじゃろうな。
 そんな風潮の中から、後に大ブレークするイーグルス、ドゥービー・ブラザース、リンダ・ロンシュタッド、J.Dサウザーらが頭角を現してきおった。 イーグルス最初のヒット曲「テイク・イット・イージー」(気楽にいこうぜー)は、当時のアメリカ人の心情を代表していた(?)
 一方アメリカ国家そのものは、ベトナム戦争に敗北したとはいえ、建国200周年まで残り3年。 「何としてでも強いアメリカ」を取り戻さなければならん!と様々な経済政策を打ち出したが、折からのオイル・ショック(第一次石油危機)でドルは大暴落。 国民的音楽であるはずのロックも、空元気を振りかざす国家に反してサイレント志向。 これはアメリカン・ロックの「静かなる反抗」と言えるじゃろう。 牙を剥くだけが反抗ではないのじゃ。 


〜その4 知性派ロック・プログレの2大傑作の登場
 
瑞々しいフィーリングとゴキゲンなノリ! これがロックをロックたらしめる二大要素!のはずじゃったが、70年代も中盤に差し掛かると、録音期間が何ヶ月とか、多重録音を何千回とかいうフレコミがロック・アルバムのコピーに登場するようになってきおった。 「おいおい、んなもん、ロックって言えるんかいな?」とわしは聞く前から首をひねり過ぎてムチウチになりそうじゃったが、そんな傾向を代表する大傑作アルバムが1973年に2枚も発表されおった。 「狂気/ピンク・フロイド」と「チューブラー・ベルズ/マイク・オールドフィールド」じゃ。
 気の遠くなるような回数の多重録音と練りに練られた楽曲構成により、アルバムは「音楽を聴く」というより「異次元空間を旅する」といった方が相応しいような壮大で深遠な内容じゃった。 
 この2枚の作品はプログレッシブ・ロックの最初の頂点なんじゃろうが、アルバム1枚聞くのは最初はつらかったのお〜。 ウイスキーのボトルが空になる方が早かったもんじゃ! まあ多重録音、シンセサイザー、プログレなんて言葉を定着させ、ロッカーの恐るべきインテリジェンスを世間に知らしめた功績はデカかった。 何せ「狂気」はいまだにリマスター盤が製作され続け、「チューブラー・ベルズ」は改訂版が発表され続けておる! その売り上げは天文学的数字になっておるというハナシじゃ。 これまたロックの「静かなる反抗」じゃ。

 
【にっぽん 1973】 トイレットペーパーが・・・夜のネオンが・・・。そして主食は麦飯?!

 大場選手の「奇跡の大逆転」とエルヴィスの衛星放送で始まったわしにとっての1973年。 こりゃあ〜エキサイティングな一年になる!と期待に胸を膨らませておったんじゃが、世間様においてはとんでもないことがおきよって、違う意味でのエキサイティングな1年になってしまったんじゃ。
 中近東諸国からの石油の価格が暴騰してしもうて(第一次石油危機)、それに伴ってトイレットペーパーやら石鹸、洗剤やらが世界的に不足。 庶民は大量の買占めに走って大パニックが起きてしもうた!
 さらに政府からは電力節減のお達しも出て、夜の街からは早々とネオンが消えてしもうた。 如かして「節約」という言葉が広く普及したのは、石油危機が起きたこの年なんじゃよ。
 夜の飲み屋は減るわ、夜間バイトは減るわで、わしも大打撃・・・。 まあ酒は外で飲めんなら家で飲めば何とかなるが、まいっちんぐ!じゃったのは、我が家の主食が「節約」のために度々麦飯となってしもうたことじゃった。 不味くはなかったが、歯応えがなくてツルリと胃袋の中に消えてしまう麦飯の食感が悲しかったのお〜。


 わしにとっても世間様にとっても、そしてロックにとっても、果たして良かったんだか悪かったんだか、よく分からん一年。 振り返ってみると1973年はそんな年じゃった。 ただわしは、麦飯の食感以上に(?)、ある種の漠然とした不安を感じておった。 それは1956年のエルヴィス登場以来、常に若者が時代を作り、扇動していた風潮に陰りが出てきて、なんだか時代そのものが成熟してきた寂しさをぬぐい切れんかったからじゃ。 時代が成熟するということは、世の中の価値観や美意識の基準を握る者が、再び大人たちになっていったということじゃ。 大場選手の死闘は、若者の時代の最後の輝きだったのか? ハワイのエルヴィスの雄姿は、ロックの最後のリアリズムだったのか? 
 だからこそ、この年に公開された映画「アメリカン・グラフィティ」はナイスじゃった! 50〜60年代のアメリカン・カルチャー賛歌の映画に、わしらは原点を忘れてはならん!って勇気付けられたもんじゃ。 日本映画のファンは「日本沈没」って縁起でもないタイトルの映画を話題にしておったが、わしらは「アメグラ」じゃあ〜! エルヴィスたちが築いたアメリカン・ヤングカルチャー、そしてそれを現代に伝えてくれるTHE-KINGブランド。 昔も今も、そして21世紀も、わしらに変わらぬパワーを与え続けてくれるのじゃ!
 
 


七鉄の酔眼雑記


 「書籍が売れない」と言われる現代じゃが、テーマを絞り切った分冊百科はお盛んのようじゃな。 定期的に刊行されておるので、マニアは毎号楽しみじゃろうな。 「日本の歴史」、「世界美術」といった少々オカタイもんから、「車」「バイク」「鉄道」といったマニアが多いジャンル、さらに「ウルトラマン」や「仮面ライダー」といった懐かしいテレビヒーローまで、その種類はびっくりするほど豊富じゃ。 先日発見して驚いたんじゃが、「鉱石」「化石」なんてのもある。 笑えたのは「週刊 そーなんだ!」ってやつ。 日常生活の中で何気にスルーしておる科学的クエスチョンを漫画やイラストで分かりやすく解説しとる。 
 まったくもって、至れり尽くせりの時代になったもんじゃのお〜! どれもこれも、掲載写真点数も豊富で、分析角度も多彩。 紙面のレイアウトも優秀でオマケも付いていて、1冊のコストパフォーマンスは概して高いと言えよう。 内容のツッコミ具合の割には初心者でも入り込めそうな視覚効果も追求されているので、こりゃ〜そのうちに巷に多種多様な「なんとか博士」がたくさん出てくるんじゃろうな。 わしも音楽、スポーツをはじめとして数種類を定期購読しとるぞ!

 こうした分冊百科の効果なのかどうだか知らんが、最近は若いお嬢様の間でも「マニア」が増えとるらしい。 それも「神社仏閣マニア」「日本史マニア」「城マニア」とかいう方々が・・・。 多分、男性の同種のマニアとは、視点とか世界観とかが違うんじゃろうな〜なんて他人事のように感じておったが、なんとわりと身近な女性に「神社仏閣マニア」がいらしたわい! 日本全国の神社の祈祷、巫女さんの儀式、お神酒なんかにやたらと詳しいので驚いてしもうた。 とりあえず彼女の進言に従って、近々わしにご利益が強そうな神社にお参りに行くことになった。 わしの2010年やいかに! って気分じゃ。 諸君の周りにも、案外「何々マニア」の女性がいらっしゃるかもしれんぞ。 楽しい知識を頂けたならば、是非わしにも聞かせてくれ〜い!


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