ROCK FIREBALL COLUMN by NANATETSU Vol.79

 うむ、わしのこのコーナーも次回で80回か。 継続の機会を下さるTHE-KINGブランドとそのファンの諸君には感謝してもしきれんのお〜。 また継続出来るパワー源として、8鉄先生の存在も大きい。 毎回含蓄とユーモアに富んだオハナシを読ませていただき、わしも大いに刺激を受けておるのじゃ。 あらためて8鉄先生に御礼申し上げる! 
 さて、8鉄先生は前回自らのギター体験をお話しておられたが、わしもその“メモリーなノリ”に今回は便乗させていただこう。 「ショート・スリーブ・シャツ」4連発で気分は爽快!痛快!じゃが、少年時代を振り返って少しだけ冷静にいくとするかのお。 わしの場合はギターではなくてピアノじゃぞ。 驚くなかれ、この七鉄、生まれて初めて弾けるようになったのはピアノだったのじゃ! 思わず吹き出した諸君もおるじゃろうな。 バカモノ!人には皆んな意外な過去ってもんがあるのじゃ。 密かにリカちゃん人形とかを集めていたワケではないんで、いいではないか!
 ではこれから自らのピアノ体験をもとに、わしの愛するロック・キーボード・プレイヤーのオハナシをかましてしんぜよう。 ロックと言えば、いつもいつもシンガーやギタリストばかりに目を奪われておらんか? サウンドをバックサイドから支えておるピアニスト、オルガニストの存在を忘れることなかれ。 楽器の性格上、彼らの中には正規の音楽教育を受けた者が多く、彼らのお陰でダイヤモンドの原石のようなサウンドが、本当のダイヤモンドとなって我々のもとへ送られてきておるのじゃ!


“お上品な鍵盤楽器”をロックな!楽器に変貌させた、忘れがたきロック・ピアニスト、オルガニスト7人衆


●プロローグ〜七鉄少年は天才少年ピアニストだったのか?! ●

 本題に入る前に、今回だけは少しばかりわしのプライベートな思い出話にお付き合い下され。 わしらの子供時代にピアノがある家ってのは裕福な家庭だけだったもんじゃ。 じゃがわしの家庭はフツ〜の庶民だったにもかかわらず、姉貴殿の情操教育(子供の知性、品格を磨く教育)のために両親が清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入したピアノがあったんじゃ。 やがて姉貴殿がお受験で忙しいお年頃になり、「置いとくだけでは勿体ないから、お前もピアノやれ!」ってことになったんじゃな。 七鉄少年はまだわずか7歳であった。 

 やがて七鉄少年は、両親の熱い期待に応えて天才少年ピアニストの名をほしいままにすることとなり、両親は真剣にわしをヨーロッパへ音楽留学させることを検討しておった、ワケネーじゃろう!
 ジョーダンよしこさんじゃよ、まったく、おピアノなんざ! 一日中ノッパラを走りまわっていたかったのに、毎日何時間もピアノの前に座らされるなんざ、拷問じゃよ。 それに「男の子がピアノを弾いてるワ!」なんて近所のオバサンにはからかわれ、学校の先生にまで「何考えてんだオマエ。 男がピアノなんかやって・・・」と冷笑されたもんじゃ。
 (トンデモネーセンコーじゃ!) ピアノ教室の女の子たちからも白〜い目で見られていたし、ピアノに対する当時の日本人の認識はそんなもんだったのじゃ。
 しかもなかなか譜面が読めるようにならんかったわしは、ピアノ教室一のタワケもん。 呆れ果てた先生からベートーベンやモーツァルトの肖像画を見せられてこう諭されたもんじゃ。 「ほら、偉い作曲家はみんなボクと同じ男でしょ! カッコいいでしょっ!」とな。
 「なに〜、アレがカッコイイだとお〜?」 七鉄少年にはまったくワケワカンナイ理屈じゃった。 あの時ジェリー・リー・ルイスのこんな写真(右写真→)を見せてくれたら、七鉄少年は“日本のジェリー・リー”を目指して、ナッソー羽織ってステージに立つ姿を夢見る格調高きロック少年になっていたじゃろう!
(って、まだジェリー・リーはデビューしとらんがな)

 3〜4年はピアノ地獄が続いたが、この苦痛の経験は後々思わぬところで花開く(?)ことになるのじゃ。 ロックにのめり込むようになってから、キーボードプレイヤーにも注目したがるという、わし独自のロック観賞法の確立に大いに貢献してくれたのじゃ。 日本のロック黎明期において、こういう聞き方をするファンは極めて少数派じゃったから、そりゃあもうロックファン仲間から一目も二目もおかれるという優越感を味わえたのじゃ!
 
では思い出バナシはこれぐらいにして、若き日のわしがエラソーに仲間たちに紹介しておった偉大なるキーボードプレイヤーたちをご紹介しよう。

■ジェリー・リー・ルイス
 まずはこのお方からじゃな。 最初この人のプレイを聞いた時、正直なところ、爆発するロックスピリッツにピアノ・プレイのテンションが追いついていない感じがしてもどかしかったもんじゃ。 ピアノを捨てて、歌とパフォーマンスに集中すりゃあいいのに!ってイライライしながら聞いとったな。
 でもその歌とピアノプレイのテンションのギャップこそ、ジェリー・リー様の重要な持ち味であり、このお方だけの独特のグルーブ感を生み出しておることに気が付くまでには少々の時間がかかったもんじゃ。 分かったら分かったで、そりゃもう聞きまくるようになった!
 このお方のロック史における凄味ってのは、ブルース系の黒人ミュージシャンは別として、アメリカン・ロック史上、ジェリー・リー様以来長らく優れた個性的キーボード・プレイヤーが出現しなかったこと! 安易なフォロワーの出現を許さない、絶対的な存在だったのじゃ。



■イアン・スチュワート
 6人目のローリング・ストーンズとして、常にストーンズと行動を共にしていたピアニストじゃ。 ストーンズが活動25周年を記念して「ロック殿堂」入りを果たした際、その授賞式においてミック・ジャガーが「イアンのお蔭で我々はブルースから外れることがなかった」と讃辞を贈っておったな。
 60年代に日本で発売されるロックのレコードはオリジナル・ジャケ仕様ではなかったので、演奏者クレジットは省かれてしまっておった。 じゃから誰がピアノを演奏しとるか分からんかったが、それでもわしは「このブルース調のピアノを弾いとるヤツはタダモノではない!」と感じておった。 しばらくたって音楽雑誌でイアンの存在を知った時は嬉しかった! その時の記事のタイトルは今でも覚えとる。 「イギリスの音楽界で唯一ブギウギ・ピアノが弾けるピアニスト!」 (右のジャケ写は、60年代末期にハウリン・ウルフをイギリスに招いて行われたレアなブルース・セッション・アルバム。 イアン・スチュワートの素晴らしい腕前を堪能できる!)


■アラン・プライス(アニマルズ)
 オルガン・プレイで最初に衝撃を受けたのは、60年代中期にシブ〜いヒット曲を連発しておったアニマルズのこのお人。 シンガーのエリック・バードンのしわがれ声ばかりが話題になっておったが、わしはアラン殿のプレイ聞きたさにレコードを買ったもんじゃった。
 わしのロック仲間の中には「ロックにオルガンだとお〜? ったく耳障りなんだよ!」ってほざくヤツもおったが、わしは涼しい顔して「今にこの音色がロック界の主流になるんじゃよ。 よ〜く聞いておくようになっ!」とブッテおった。 派手さはないものの、和音を多用した腰のすわった音色は、ロックインストに初めて“味わい深さ”という魅力を体現させてくれたのじゃ。


■レイ・マンザレク(ドアーズ) 
 そしてわしの予言通り! オルガン・サウンドを初めてロック界の主流にした男、そしてジェリー・リー以来約10年ぶりに現れたアメリカン・ロックの超個性派キーボード・プレイヤーがレイ・マンザレクじゃ! ドアーズには永遠のカリスマ・ヴォーカリストのジム・モリソンがおったが、ジムとは別種の圧倒的存在感がレイのプレイにはあったのじゃ。 クラシック・ピアニスト顔負けのピアノプレイも素晴らしかったのお。
 シカゴ・ブルースとバッハという両極端な音楽的バックボーンを併せもつ、音楽的懐が広大なレイの才能により、ドアーズは20世紀最大の孤高的オリジナル・サウンドを確立したのじゃ。 若かりし日より巨匠のような面構えをしていたレイは、まさにジェリー・リーと並ぶ不滅のアメリカン・ロック・キーボードプレイヤーじゃ。


■ニッキー・ホプキンス
 60年代後半から70年代中期にかけて、ロック界でもっとも美しいピアノを弾いておったのがこのお人じゃ。 キャリアのほとんどをビッグ・ロッカーのセッション・ピアニストとして活動しておったが、なんつうか、白亜の御屋敷の中でお美しいお嬢様が弾く「乙女の祈り」(クラシックの名曲)のような儚さをまとった音色じゃったな。 
 ルックスもヒョロリとしたヤサオトコであり、「こんなヤワそうでロック界で生きていけるんかいな?」と余計な心配をしたもんじゃ。 ビッグロッカーと渡り合うんだから、THE-KINGのシルバーグレイ・シャツでも着せてシャキッとさせにゃあーと言いたくなる!
(左の写真は唯一といっていいいほど気合の入ったエエお顔じゃが) しかしまあストーンズを始めとして、ジェフ・ベック、ジョージ・ハリスン、アルヴィン・リーら、数多くのビッグ・ロッカーからお声がかかっておったな。 ブリティッシュ・ロック史を陰で支えていた静かなる名ピアニストじゃった。 


■トム・ウェイツ
 “酔いどれ詩人”とのわし好み!の異名をもつこのシンガーソングライターを、ピアニストと呼ぶのは語弊があるかもしれん。じゃが、都会の片隅でひっそりと生きる名もなき人間の日常を、奇想天外な展開でコミカルにシリアスに歌うスタイルを支えているのは、まぎれもなくヒッチャカメッチャカでいてジャジーな美しさも湛えておるピアノプレイじゃ。 ピアノ演奏も相当のモンとわしは見ておる!
 心地よい疲労感に包まれながら飲む酒には最高のBGMでもあり、聞く者を根本的な部分から励ましてくれるようなパワーがあるぞ。 呻くようなしわがれ声のボーカルは特に名高いが、ピアノプレイもまたロック史に残る超個性派じゃ。 (右の写真は、映画「コーヒー&シガレット」に出演した際のワンシーン。 右側がトム、左側はイギー・ポップ)


■キース・エマーソン(EL&P)
 本当の意味での、「ジェリー・リー以来のスター・キーボード・プレイヤー」じゃ。 ロック、ジャズ、クラシックなんでもござれ!の縦横無尽のすさまじいプレイゆえに、所属バンド(ナイス、エマーソン・レイク・アンド・パーマー)はギタリストを必要とせず、キーボード主体でクラシカル・ハード・ロックをやっておったもんじゃ。
 ゼブラのヴィンセント・シャツがキマリそうなワイルドでソリッドな風貌も、レース狂いのアグレッシブな性格もロッカーそのものであり、ロック界におけるキーボード・プレイヤーの地位を一気に押し上げたプレイヤーじゃ。 左の写真で分かるように、機材を山のように積み上げて、多数の鍵盤楽器を阿修羅のごとく弾きまくるステージの迫力は、まさにジェリー・リー以来の迫力じゃった。 72年の日本公演では、興奮のあまり日本刀をキーボードに突き刺すというパフォーマンスを見せたのをよお覚えとる! 
 しかしデビューしてから10年あまりでその豊かな才能を使い果たしてしまったのか、70年代後半からはあんまりパッとせんかったのが惜しまれるのお。


●エピローグ●
 上記7人衆の他にも、モッズブームの一画を担ったスモール・フェイセスの
イアン・マクレガン。 古き良きニューオリンズ・ミュージックとロックン・ロールをミックスしてみせたドクター・ジョン。 68年にアメリカで300万枚という破天荒なLPセールスを記録したアイアン・バタフライのダグ・イングル。 ハードロックの盟主ディープ・パープルのジョン・ロード。 イギリスでキース・エマーソンと人気を二分したユーライア・ヒープのケン・ヘンズレー。 “あの”「青い影」で超有名なプロコル・ハルムのゲイリー・ブルッカーなどなど、60年代にデビューしたロック・キーボード・プレイヤーはみんな超個性的じゃったのお。 現代のプレイヤーとはちごうて、聞けば一発で「ああ、ヤツの音だな」とすぐに分かったもんじゃった。
 ロックやジャズを聞く楽しみのひとつは、プレイヤー一人一人の個性を楽しむってのがあるはずじゃ。 例えばバンドや楽曲は大して好きでもないが、「ヤツが弾いてるから」って理由でアルバムを買ったりするじゃろう。 60〜70年代のロックには、そのヤツってのにキーボード・プレイヤーもたくさん入っておったのじゃ。
 ピアノ少年じゃったわしも生まれる時代がもう少し遅かったら、彼らの仲間入りを果たせたかもしれんし、野外ステージではこんなド派手なパフォーマンス(右写真→)をやってみたかった、なんてオハナシはもうええな! 少々お歳を召したロック・ファンには、そんなロックが特別だった時代の聞き方を思い出して、あの頃のパワーを取り戻してくれ! また若いロック・ファンにもそんなロックの聞き方を楽しんでほしいぞ!
 まあそれはそれとして、何よりまずロッカーとしての2009年サマーシーズン正装着と呼ぶべき、ショートスリーブ・シャツ4連発!でキメることが先決じゃぞ。 ナリがキマらんと、正しいロック道は歩めんってもんじゃ。






七鉄の酔眼雑記
 〜そのジジイ、凶暴なり(?!)

 i-podを買ったぞ!なんて大袈裟に書くと、「何を今さら・・・」と呆れられてしまうじゃろうが、やっぱりええな、あれは。 フルボリュームにしても音漏れは少ないし、小さくて軽いし、何と言っても携帯用とは思えんほど音質がスバラシイ。 まだトライしておらんが、映像も見られるというではないか。 数年前初めてその名を耳にした時、「デジタルの魔法瓶(ポット)って何じゃ?」と思ったワケねーじゃろう!
 でも入手した当初は、「見て見てあのジジイ、i-podなんかしてるわよ!」と若いお嬢様方から冷やかされるんじゃないかと、操作する手つきもおぼつかくなっていたが、もう大丈夫じゃ。 なんつったって、街中でイヤホンをしておる人が異常に多いことが分かったからじゃ。 特に電車に乗ると、半分以上の乗員がイヤホンをしとるし、「これじゃあ他人のことなんて気にするゆとりはそんなにないじゃろう」と安心したのじゃ。 これでわしもようやく21世紀型音楽リスナーの仲間入りってとこじゃな、わはは!

 しかしここまで携帯用音楽プレーヤーが普及しまくり、音楽を聞くスタイルが“群衆の中の個室”ってことになると、音楽はますます内省的なもんが増えるじゃろうな。 つまり聞く者により直接的に訴えかけるような私小説的な音楽ってことじゃ。 群衆の中で没頭出来る音楽とは、まわりの風景が一切目に入らないようなインパクトが必要じゃ。 そのためには聞く者と一対一でより親密な関係になれる音楽がそれに相応しい。 流行りの音楽が演歌ばりのやたらと「個人的なお願いソング」になっておる理由がやっと分かったような気がするのお。
 逆にじゃ。 遠い昔にエルヴィスがブチかました、全ての若者を強烈に煽動するタイプの曲がこの時代に表れたらとても危険な状態じゃよ。 エルヴィスの音楽が若者に与えたあのえもいわれぬ高揚感、破壊衝動、ばく進願望とやらが、携帯用音楽プレーヤーのお蔭で現在進行中の若者が街中に溢れ返ることになるからのお。 当然、短絡的な欲望に突っ走るヤツも増大することじゃろう。 アブナイ、アブナイ!

 よ〜く観察すると、中年以上でイヤホンをしとるのは男性ばっかりじゃ。 うっとり聞き入っておるのも中年男性が多いのお。 あのお顔はどう見ても演歌か懐メロを聞いておるご様子じゃ。 社会とご家庭の板挟みになってご苦労されとるから、せめて通勤時間ぐらいは癒されたいそのお気持ちはよお分かるが、たまにはその昔血湧き肉躍った懐ロックでもかましてお元気なお顔を取り戻していただきたい。 わしは50年代のエルヴィスの曲のほとんどをi-podにブチ込んでおるぞ! アブナイ、アブナイ!?


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