NANATETSU ROCK FIREBALL COLUM VOL.204


 前回の新作紹介でご紹介したが、イギリスの音楽メディアによる様々な人気投票が実におもしろい! とにかく時代もジャンルも関係なく、オールタイムな大枠の中から投票されとるのがさすがはロックの本場じゃ。 いいね〜こういうの!って、羨ましがってばかりでいられるわしじゃない! わしも自分自身の好みの範疇からひとつやってみた。
 よし! The-Kingの新作はイタリアンカラーシャツとナッソーであり、否応にも秋の到来が感じられる季節じゃ。 やはり情緒的な秋の夜の帳(とばり)が降りたら、ウイスキーのロックグラスをカラリ!と軽く鳴らして、しっとりと心に染み渡るようなアコースティック・ナンバーを聞きたいもんじゃ! イギリスの人気投票に習って、時代やジャンルに拘ることなくセレクトしたんで、お楽しみ頂きたい! エルヴィス以外は順不同です! 名付けて、


秋の夜長にオススメしたい、ロック・アコースティック・ナンバー・ベスト10



アレンジ不要、カバー無用。唯一無比の“絶対曲”
♪ラブ・ミー・テンダー/エルヴィス!

 アコースティック・ナンバーで“心に染み渡る”といえば、このナンバーからスタートさせにゃならんのがロック・ファンじゃろう! ちなみにThe-Kingのボスと夜通しカラオケをやる時に一度は歌ってみたいんじゃが、その後お仕事を頂戴出来なくなる可能性大なんで(笑)、未だにやっとらん! 

 その昔、初めて原宿「ラブテン」の存在を知った時、「なんでハウンド・ドッグとかジェイルハウス・ロックとかの勇ましいナンバーの名前にしないんだろう?」って不思議じゃったが、この曲に宿るふか〜い情緒を感じ入る度に、徐々に「ラブ・ミー・テンダーで正解!」と理解出来るようになったって、ツマンナイお話でした〜。 恋せよ諸君!それがこの世で唯一の“まとも”なことじゃ!なんちゃって!



フォークロック・プリンスのこの世の置き土産
♪〜ラブ・ハーツ/グラム・パーソンズ


 1974年に発表されたカントリー・ロック・シンガー、グラム・パーソンズのテイクが絶品じゃ。 カントリー界の美人歌姫エミリュー・ハリスとの静かなるデュエットが気絶するほど美しい! ロック・ファンの中にはグラム・パーソンズのオリジナル曲だと思っている人も多いのでは? 後にB級ハードロック・バンドのナザレスや80年代のロック・クイーン、ジョン・ジェットも豪快にカヴァーしており、ジャンルを越えてミュージシャンに愛されておるナンバー。 2004年にグラム・パーソンズの追悼コンサートが行われた際には、キース・リチャーズとノラ・ジョーンズのデュエットにより、久々にこの名曲が蘇った!
 なお原題は「Love Hurts」(“愛の痛み”ってな意味)であり、「Love Hearts」ではないので、お間違えのないように。


悲しいオハナシです
♪〜ワイルド・ホーセス/ローリング・ストーンズ

 キース・リチャーズ一世一代の名曲じゃ! キースは70年代初頭、前述のグラム・パーソンズやライ・クーダーらのアメリカのカントリー系のギタリストたちとの交流に積極的であり、アコースティック・ギターの扱い方を根本から学んでいたという伝説が残っておる。 そんなキースのギター修行時代に生まれた曲なんじゃよ。
 「野生の馬たちよ、オマエは俺を引きずってはいけなかった」という歌詞は非常にイミシン。 ヤク中になったテメーの女、アニタ・パレンバーグの事を歌っておると言われておるが、どうもそうじゃなさそう、ってのがわしの意見。 ブライアン・ジョーンズやジミ・ヘンドリックスら、60年代に凄まじい才能を開花させながら生き長らえることのできなかったロッカー仲間たちの事なんじゃないかと。

 鈴が鳴る様な優しいアコギの音色の奏で方は、グラム・パーソンズの影響とも言われておるが、そのグラムもまた1974年に26歳で夭折。 今もしぶとく、したたかに生き延びるキースの若き日の朋友たちへの鎮魂歌じゃ。


風は全てを運び去るだけ・・・
♪〜すべては風の中に/カンサス

 70年代の代表的なアコースティック・ヒット曲じゃろう! カンサスとは、70年代中期に爆発的に人気を博したアメリカン・半プログレ・バンド。 “半”としたのは、曲のアレンジやアルバム構成が多少プログレ的であるだけで、メロディはポップスに近かったからじゃ。

 とにかく演奏が大仰であり、ヴォーカルやコーラスがけたたまし過ぎて、わしはどうにも好きになれなかったが、この曲にはノックアウトされた。 原題は「Dust In The Wind(風の塵芥?)」じゃが、日本語のタイトルがええな。 まさに風が全てを運び去っていく、といった美しくも虚無的な世界観がアコースティック・ギターで見事に奏でられており、ヴァイオリン・ソロも涙を誘うような名演じゃ。 ヴォーカルは基本的にはヘタッピーなんじゃが、その下手さ加減まで“アコースティックの風が運び去って”くれているようで問題ない!



知られざるロック・グラスルーツ
♪〜アンドモア・アゲイン/ラブ

 ラブとは1966年にサンフランシスコからデビューした、アメリカのフォーク・ロックの草分け的バンド。 一般的には無名に等しいが、後に同じく西海岸からデビューしたドアーズやジェファーソン・エアプレインらがこぞって「もっとも好きなバンド」としてその存在を讃えておった。 アーサー・リーという黒人ヴォーカリストをメインとし、通常のフォーク・サウンドとは一味違う独特の音階、転調、ブリッジをソフトに展開しておって、聞けばなるほど「同業者を唸らせたバンド」であることがよぉ分かる。
 この曲は彼らの最高傑作であるサードアルバム「フォーエヴァー・チェンジ」(68年発表)に収録。 彼らの個性的なサウンドがもっともソフトでナチュラルに発揮されたアップテンポのバラードであり、美しいメロディの中で「おや?」と思わせるサプライズが何度も挿入されるが、作為的ではなくて単なるアレンジとしてサラリと聞かせてみせるセンスは秀逸じゃ。

 当時の西海岸ロックは「ドラッグ/サイケデリック一色」といったイメージが強いが、正統的なフォークを基盤にしながらもラブの様な個性を発揮出来る純製音楽バンドも少なからずおり、彼らの地道な活動が70年代になって花開く「ウエスト・コースト・サウンド」へとつながっていったのじゃ。


ロンリーナイト・アゲイン
♪〜サッド・メモリー/バッファロー・スプリングフィールド


 前述のラブ同様、1966年にデビューしたやはりフォークロック創成期を代表するバンド。 後に大成するニール・ヤング、リッチー・フューレイ、スティファン・スティルスのスーパートリオが同時に在籍したことでもロック史に名高い。 またファースト・アルバム「アゲイン」は、コンサートの一部始終をフォーマットにしたようなコンセプトアルバムであり、フォークロックの枠を大きく逸脱した隠れた名盤じゃ。 そのスーパートリオが各々のセンスとテクを激しく噴出する流れの中で、突如“繋ぎ”としてささやかに配置されていたのがこの曲。

 陰影を湛えた美しく深みのあるアコギは、まるでお伽話の中にいるよう。コンセプトアルバムの中の1曲として聞くのが正しいのかもしれんが、ジェントルで慈愛に満ちたリッチーの歌唱力は絶品であり、単独でピックアップしても問題なかろう!何だか、成長期に聞いていた深夜のラジオ番組で流されるリクエスト曲の様な胸を締め付けられるような甘酸っぱい香りが漂う・・・。


道なき道に咲いた月見草
♪〜マイ・ハート・ゴーズ・アウト/バッドフィンガー

 ビートルズの弟分としてデビューしながら、レコード会社の不当な扱いの連続によって「ロック史でもっとも不幸なバンド」で終わったバンド。 ギャラは払われないわ、プロモーションはしてもらえないわ、メンバーは次々と自殺するわ・・・そんな悲惨なバンドとは思えない美しい楽曲が数多く残されており、カヴァーも絶え間ないバッド・フィンガー。 彼らの短い活動歴において、マニアからは「あまりにも“美し過ぎる”」と涙ながらに語られ続けておるのがこのナンバー。 曲作りには積極的ではなかったとされる、ドラマーのマイク・ギビンズが突如コンポーザーとしての才能を発揮した美曲でもある。
 ギター奏法の中で“チョーキング”という音を“泣かせる”弾き方があるが、この曲は溢れる涙を必死こらえておる“泣きそう”なアコギじゃ。 サビらしいサビもなく、目立った展開もなく、ひたすら“泣きそう”なアコギが流れる中、虚無感が吐露されていく・・・。


“ケ・セラ・セラ”(明日は明日の風が吹く)

♪〜ユー・キャント・プット・ユア・アームス・アラウンド・ア・メモリー/ジョニー・サンダース

 この人は、70年代中期のアメリカン・パンク・バンド、ニューヨーク・ドールスのギタリスト。 非常にコアなファンが多く、ソロになってからはいわゆる“ドラッグ酔いどれロック路線”を地で行った生粋のジャンキー・ロッカー。 ふざけているのか真面目なのか、リリカルなのかパンクなのか、判断、聞き方が困難!?まともな神経では付き合い切れない楽曲が多いのじゃが、この曲は数少ない楽曲として正当的にまとまった構成のバラードであり、「思い出にあぐらをかくなんてクダラネーよ」と少年の様に朴訥にか細く歌うその姿勢に初めてこの人の本当のセンスを感じったファンも多かったと思う。
 幾つかのテイクが存在するが、わしのオススメはベスト盤「ボーン・トゥー・ルーズ」に収録されたバージョンじゃ。

 またジョニー・サンダースの知名度にしてはカヴァーが多い人気曲でもあり、もっとも有名なのはガンズン・ローゼズのカヴァー。 ただしこれはジョニーが公式ファーストテイクとしてアルバム「ソー・アローン」に収録したテイクのカヴァーであり、ガンズは演奏が上手すぎでキマリすぎでかえってカッコワルイ。 ルーズにラフに、デモテイク・レベルで発表した方が断然クールなナンバーの典型かもしれん。


プログレ・ギタリストの叡智
♪〜世紀の曲り角/イエス


 
ではプログレ界から2曲ほど。イエスとは、ピンク・フロイドと並ぶ70年代に栄華を誇ったプログレ・バンド。 大作主義を縮小して臨んだ初めてのアルバム「究極」(77年発表)に収められた一曲であり、クラシックギターの名手でもあったギタリストのスティーブ・ハウの美旋律がたっぷりと堪能出来る!
 発表当時はタイトルを勝手に拡大解釈して、「21世紀型サウンド」を夢見た未来型ロックの演奏なのかもしれん! なんて思い込んで一人悦にいってたもんじゃったが、21世紀になってもクラシックを絶対基盤にしたロックってのは聞けんなあ〜。 交響曲的じゃなくて、ギター・ソナタでもいいからないもんか?とか無い物ねだりをしてしまうほど、この曲のロックには無い構成と美しさに引き込まれてしまうわな! 後半の一部はエレクトリック・ヴァージョンが挿入されておるが、曲全体の構成力が素晴らしいのでまったく違和感がない!



ブルースの無いロックなんて!
♪〜あなたがここにいてほしい/ピンク・フロイド

 壮大なコンセプトサウンドとシリアスなテーマの超つっこみで常にファンの度肝を抜いてきたピンク・フロイドが75年に突如発表した大ヒットシングル曲。 まるでアメリカ南部のディープ・ブルースのような単調ながら枯れた味わいのあるアコースティッをバックに、「あなたがここにいてほしい/ Wish You Were Here」と歌われるこのブルージーなナンバー。
 発表当時は「これがピンク・フロイドか!」って大騒ぎになったもんじゃ。 大体わしは、なんで彼らがアメリカで大人気なのかも当時は分からなかった。 アメリカン・ルーツ・ミュージックの香りは全然しないし、歌われるテーマもスピリチュアルで難解じゃ。 じゃがそれはわしの耳が悪かっただけであり、彼らの音楽的なルーツにはやはりブルースがあり、アメリカ人の心をも動かすだけのグローバルな情緒性があったのじゃ。それに気が付かされたのがこの曲じゃった。

 10年ほど前に南国タイにおいてリーダーであるロジャー・ウォータースのソロコンサートに行ったが、この曲がスタートするとガタイのいい白人客(アメリカ人?)の大勢が立ち上がって合唱を始めた光景を今でも覚えておる。 その反面、白人客の連れと思われるタイ人女性たちは「こんなのどこがいいのかしら?」ってポカンんとした顔をしており、そのコントラストも笑えたな!


 「アコースティックなら、アンプラグドがあるじゃないか!」って言われてしまいそうじゃが、わし、アレはあんまり好きじゃなかった。 エリック・クラプトンら、ほんの一部の連中は素晴らしい演奏を残しておるが、どうもMTVの策略の匂いが強すぎちゃって、「オメーまでやるのかよ!」ってな感じじゃったな。 みんな大人しく椅子に座って「ロック的サロンミュージックですよ」みたいな姿勢はちょっとな・・・。 だから気がついてみたら、「アンプラグド」が猛威をふるった80年代からの選曲は、1曲だけ(ジョニー・サンダース)になっておった。

 もっとストレートに私感を言わせて頂ければ、「アンプラグド」ってやり方は、ヴォーカリストとギタリストの真の力量が露わになるのは明らかなんで、ガッカリさせられた演奏が結構あった。というか、でかいホール、スタジアムでの演奏に慣れた者にとってはサロンミュージック、室内楽は難しいもんなんだな、ってとこかな。
 だが「アンプラグド」っつう企画そのものは良かったんで、今後もしリバイバルがあったら、既成曲のアレンジばっかりではなくて、新曲をやってくれたら、印象もまた変わると思うが、どんなもんかなあ〜。超個人的な嗜好による第204回目、お読み頂きましてありがとう!



七鉄の酔眼雑記 

 学生時代に結構やっていた、お友達に差し上げる自家製ミュージック・テープの選曲作業みたいで、今回の執筆は楽しかった!お付き合い頂き、ありがとうございます。
 でも脳みそにインプットされておる膨大なロック・データから10曲を選ぶのは大変じゃろうって当初は心配しておったが、数曲まではアッサリ!決まった。それはそれで自分の絶対性を確認出来たことなんで喜ばしいとは思うが、一歩間違うと絶対性は動脈硬化に繋がってしまうので、これからも新しいロックを聞く努力をせないかんなと思う。 でもあんまりやらないような気もするがな(笑)

 実際にトライしておるのは、新しいロックよりも、エレキが出現する以前のアコギによるブルース。最近は音源の発掘作業が随分と進んでおり、キング・オブ・デルタブルースと呼ばれたロバート・ジョンソンよりももっと前の時代、19世紀末期、20世紀の初めなんかのブルースだって聞ける時代になった。1930年代に活躍したロバート・ジョンソンの伝記によると、20世紀初めの頃の黒人は超貧しくてギターが買えなかったから、板の上下部分に釘を何本も打ち付け、そこに針金を張ってギターに見立て、針金の張り具合で音を調整していたという。だからその時代の音源の中には、針金ギターの録音もあるんじゃろうか?なんておかしな聞き方をしとるが、ノイズがバリバリ、針金の弦がピンピン/キンキンみたいな録音から名曲、美曲を探すってのは、古代遺跡の採掘者になったようで楽しいもんじゃ。

 でも酔っ払ってやっとると、その時代に持っていかれそうな恐怖の瞬間が時々やって来るから結構コエ〜。 まさしく、ミイラ取りがミイラになった!?って感じでほどほどにせんといかん。 アレはやはりアコギだからコエ〜のかもしれん。 歌の前面でも背後でもない。 ひっそりと歌に寄り添っておるような奏でられ方じゃ。う〜ん、これがアコギの原点かあ〜なんてエラソーに腕を組みながら一人頷いておるわし自体がコエ〜かもしれん!? 機会があったらそこら辺の名曲も、この七鉄が積もり積もった埃を振り払ってからご紹介するとしよう!



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