相変わらず
         ROCK FIREBALL COLUM by NANATETSU Vol.178


 猛り狂った夏も終わって、やっと生気を取り戻しつつある七鉄じゃ。 雷雨や吹雪が通り過ぎるのをじっと耐え忍ぶ旅人のように、無理をせず恐る恐る過ごしていたストレスが溜まる日々ともようやくお別れじゃ! The-Kingより、スンゲーやつ、イタリアンカラー・シャツのストライプ柄やゼブラの波状攻撃を受けたばかりなんで、ここは心身を綱紀粛正するべく、本来のダンディ・フィーリングを取り戻すぞ! 連載「ダンディと呼ばれし男」の第5回目にいかせていただくとしよう。

 今回は左写真のシブ〜イおっさん、イアン・フレミングじゃ。 映画「007(ダブルオーセブン)シリーズ」の原作者であり、イギリス秘密情報部員の007ことジェームズ・ボンドの生みの親である冒険小説家じゃ。 しっかし、スバラシー煙の立て方をするもんじゃなー。 ホント、昔のダンディはタバコの煙が似合う!
 
 ジェームス・ボンドはファッション、所持品、嗜好品、すべてこだわりの逸品で身を固めた「モダン・ダンディー」じゃ。 映画の中の架空の存在とはいえ、「ダンディ史」の中に加えたくなるほどの魅力的な男性であり、そのボンドを描き出した人物は当然のごとくミスター・ダンディ!である。 ところがそのダンディ像は、どこまでが原作者フレミングなのか、どこからがボンドなのか、ちと分からない。 まあそこら辺の事情を踏まえた上で、イアン・フレミングのダンディの実像に追ってみたい。

 今までこのシリーズに登場させた19世紀のダンディたちは、資料が少ないこともあって、彼らの持つ「ダンディたる精神性」を強調してきたが、フレミングは20世紀のダンディであり、エピソードも数多く知られているので、彼が愛したダンディたるアイテム、それもファッションと嗜好品の数々を中心にご紹介してみたい。 



 ダンディと呼ばれし男〜第5回:イアン・フレミング
 007ジェームス・ボンドを生み出した男!
  酒、タバコ、スーツにオリジナリティを追求したモダン・ダンディ

                      

 
略歴@〜ジェームス・ボンドそのものであるスゴ腕のキャリア! 

 イアン・フレミングは1908年スコットランド系の名門一族に生まれた。 父親は政治家、祖父は銀行重役という頭脳明晰な血筋を受け継ぎ、陸軍士官学校を卒業後、第二次世界大戦の戦前、戦中に、ロイター通信社のモスクワ支局長、イギリス秘密情報機関MI6(エムアイシックス)、国家安全保障調整局 (BSC) のスパイ(表向きの役職は、海軍秘密情報部高官の高級秘書)を歴任。 まさにジェームス・ボンドを世に送り出すべき経験を着々と積み重ねてきたキレ者じゃ!
 1945年の世界大戦終戦後に海軍情報局を退職し、ジャマイカの「ゴールデン・アイ」と名付けた別荘に引きこもりながら「007シリーズ」の執筆に勤しみ、1953年に、それまでの経験をもとに「ジェームズ・ボンド」シリーズ第1作となる長編『カジノ・ロワイヤル』を発表。 1964年に遺作となった『黄金の銃をもつ男』まで、合計11話のシリーズを書き上げたのじゃ。


略歴A〜本物のスパイ&道楽モン(!?)

 フレミングの伝記類に目を通すとまず目立つ記述が、秘密情報部員(スパイ)という冷徹なイメージとは裏腹の若い頃から「飲む、打つ、買う」の大変な遊び人であり、またオシャレで美食家であり、大層女性にモテタってことじゃ。 スパイでありながら享楽好きってのは、まさにボンドそのものじゃな。
 しかし残念ながら若き日の写真はあまり公表されておらん。 これはひとえに、己の写真はスパイ活動に支障をきたすという判断により、撮影を極力控えておったからじゃろう。 よって若き日のフレミングのイメージがいまひとつつかめんが、ここら辺もまたフレミングとボンドとのイメージがごっちゃになる要因じゃ。
 フレミングは自分が作り上げたジェームス・ボンド像に対して「ボンドとは私の理想像だ」「ボンドと私は正反対のキャラだ」と相反するコメントを出しておる。 一方フレミングの周囲の者の中には「フレミングこそ、ボンドそのものだ」と言う者も少なくない。 真相は如何に!?


オリジナル・ウォッカ・マティーニ「ヴェスパー」
 イギリス人では異例のジャマイカ産ブルーマウンテン
   

 では、映画「007シリーズ」のボンドを引き合いに出しながら、イアン・フレミングの愛用品、嗜好品を追ってみよう。
 1964年の「プレイボーイ誌」のインタビューでフレミングは「ジェームズ・ボンドは、煙草や酒、車などの嗜好品は僕の趣味がそのまま出ている」と答えておる。 ジェイムス・ボンドの身を飾る小道具の数々は、やはりフレミングの愛用品だったのじゃ。

 まず酒じゃ! その名は「ヴェスパー」。 原作におけるボンドのあまりにも有名な台詞「ウォッカをステアせず(かきまぜるな)、シェイクしてくれ」っつうボンド流ウォッカ・マティーニじゃ。 元々ウォッカ・マティーニは軽くステアされるものじゃが、こいつが大好きだったフレミングはもっと美味しい飲み方を追求した結果、より冷たくて口当たりを柔らかくするために氷を入れてシェイクするという方法を考えたと言われておる。
 「ヴェスパー」とは「二重スパイ」という意味じゃ。 同名のセクシーな女スパイが登場するが、命名の理由は彼女を想起して、「一度味を覚えるとそれしか欲しくなくなる」ってことらしい! いやあ〜タマランな!
 レシピは、ゴードンズのドライ・ジン(94プルーフ・47度)を3オンス(90ml)に、ロシア産ウォッカ「ストリチナヤ」(100プルーフ・50度)もしくはポーランド産ウォッカを1オンス(30ml)、さらにキナ・リレ(フランスはボルドー産の食前酒ワイン)を半オンス(15ml)。 これらを氷と一緒にシェイクし、最後に大きめに薄く削いだレモンの皮を浮かべて出来上がり!

 他には高級シャンパンの「ドン・ぺリニオン」。 こいつは最近ではホストクラブの祝い酒みたいな扱われ方をされとるが、その存在をポピュラーにしたのが「カジノ・ロワイヤル」の原作じゃ。 映画ではテタンジェ(TAITTINGER)も出てくるぞ。

 次にコーヒー。 フレミングはイギリス人じゃが、どういうわけだか紅茶は好まなかった。 紅茶を「泥水みたいな飲み物」と言って口にせず、その代わりにコーヒーをよく飲んだらしい。 豆は「ブルーマウンテン」。 これはフレミングが「007シリーズ」を執筆したジャマイカの特産品だったことも大きく起因しておるじゃろう。
 映画の中でボンドが飲むコーヒーがブルーマウンテンかどうかは不明じゃが、米国ケメックス製のコーヒーメーカーで淹れて、大きなカップでブラックで飲んでおる。

 なおフレミングは、飲み物に関して「冷たい物は徹底して冷たく、熱い物は徹底して熱く」が信条だったらしい。 しかし通の者に言わせれば「それでは味が分からんだろう!」ってことで、一部では実はフレミングは味オンチだったのではないか?とまことしやかに言われてもおる!


「モーランド製」最高級ブレンド・シガレットに、“世界一のマッチ”「ベンライン」

 更にタバコに行ってみよう。 ボンドはロンドンのグローブナー・ストリートにある高級タバコ店「モーランド」に特注した、マケドニア産とトルコ産の葉をブレンドした巻き煙草を愛煙しているとされておる。 これも恐らくフレミング自身が愛煙しておったタバコに違いない。 というのも、タバコや葉巻の個人的なブレンドってのは、年季の入った愛煙者でないとおいそれとは考え付かないものだからじゃ。 酒やコーヒーやお茶よりもずぅ〜と難しい!
 高級タバコ店「モーランド」というのは、調べてもどうも判然としないが、その名は明らかにフレミングのキャリアに縁があるな。 フレミングが愛したジャマイカには、ウエストモーランドというタバコの製造工場のある土地が実在するのじゃ。 またイギリスにも同名のタバコの生産地とブランドがある。 「モーランド」とは、ロンドンで“タバコのメッカ”を自称する店なのじゃろう。 そこにフレミングがオリジナル・ブレンドを依頼したとなれば、何ら不思議はない。
 ちなみにマケドニアもトルコもヨーロッパの高級タバコの有名な生産地であり、マケドニア産は格調高い香りが人気。 トルコ産は味わいの深さが好評じゃ。 出来合いの高級タバコではなく、高級品同士のブレンドを特注する! これもまたフレミングの欠かせないダンディズムだったに違いない。
 
 ところで「007は二度死ぬ」(1963年)の執筆のために、フレミングは来日しており、作品の中でボンドに日本のタバコ「しんせい」を吸わせる設定がある。 「カリフォルニア葉の味」「軽くてすぐ吸い終わってしまう」とコメントされとる。 「しんせい」もそこそこ強いタバコだった記憶があるので、これを「軽い」と感じるとは、フレミングは相当のヘビー・スモーカーだったのじゃろう。
 
 なおマッチは、かつて“世界一のマッチ”と呼ばれた「ベンライン」をフレミングは使用していたという説をどこかで聞いた記憶がある。 「ベンライン」とは、スコットランドと極東地方を行き来する海運業者であり、その名を頂くスウェーデン製のマッチじゃ。
 何が世界一かってえと、擦っても匂いがせず、風にも強く、燃え尽きても頭と軸棒が焼け落ちない特殊なマッチだったからじゃ。 遠の昔に製造中止になっており、極まれにヤフオクでとんでもない価格で出品されとる。 ちなみにボンドは映画の中で「ベンライン」のマッチではなくて、黒イブシのロンソン製ライターを持ち歩いておるぞ。


1950年代後半〜60年代初頭を風靡した 「コンジット・カット」のスーツ
 
 さて小道具はこれぐらいにして、そろそろイアン・フレミングのファッションをご紹介して今回を〆させて頂くことにする。
 ジェームス・ボンドのスーツは時代とともに変化しておるので、実際にフレミングが着用していたのでは?と思わせるスーツは、やはり初代ボンドのショーン・コネリー型のスーツじゃろう。

特徴はざっと下記の通り。
@仕立ては「Anthony Sinclair(アンソニー・シンクレア)」
Aナチュラルショルダー
B2つボタン
C狭いラペル
D控え目なウエストシェイプ
E短めの着丈
Fスリムなトラウザース
Gシャツは「Turnbull & Asser(ターンブル&アッサー)」の白のワイドスプレッドカラー

 この初代ボンド型スーツはスーツ史においては「コンジット・カット」と呼ばれておる。 特に決まりきったスタイルは無いが、従来のオーソドックスなイングランド・スーツにパーツや生地やカッティングにフランス風、イタリア風の独自のビスポーク(オーダーメイド)をほどこすスタイルじゃ。
 「コンジット・カット」に関して実に詳しく論じておる素晴らしい日本語ブログがあるので、細かい部分はそちらを参考にしてくれたまえ。 圧巻の内容じゃ。

 「コンジット・カット」の背景を簡潔に述べると、「アンソニー・シンクレア」の顧客にはイギリス陸軍の士官などの顧客が多く、彼らが好んだ平服スタイルに端を発したデザインだったらしい。 そしてそのスタイルの基本は、シンプルでありながら優雅さをたたえたHacking jacket(乗馬服の上着)だったそうじゃ。
 もっとも上記のブログによると、このスーツをボンド(ショーン・コネリー)に熱心に提案したのはフレミングではなくて、映画の監督テレンス・ヤングじゃったらしい。 実際のフレミングは、「コンジット・カット」を称賛しつつも、普段は何の変哲もない濃紺の背広、水玉のボータイ、半そでのブルーシャツというスタイルで執筆に臨んでおったらしい。 自宅の中ではそれほどナリはキメテおらんかったのか!?

 
“世話をかけたね”

 しかし、わしもこんな風に色々と人様のお口に上ってみたいのお。 「本当の七鉄って“頑固七鉄”そのものだぜ。 うるせージジイだよ」とか、「七鉄さんご本人は頑固七鉄とは正反対よ。 実際とてもクールなオジサマだわ」とかな(笑) 真相を知りたい方は、The-Kingのボスに聞いてくれ! おっとその前にボスにおまんじゅうを渡しておかんとな!?
 「ダンディとはいかなるものか?」って、そのスピリットを探求するのもええが、たまにはこんな感じでカッコ、アイテムから探ってみるのも楽しいもんじゃ。 って、そこで終わってしまっては何もならんから、そのアイテムに宿るスピリットまでしっかり把握してこそ、真の愛用者になるってもんじゃ! まあ諸君の場合は、The-Kingアイテムのスピリットの隅々までしっかりと理解しとるから、今後のダンディへの道は心配なさそうじゃ。 これまでのわしの講釈の賜物じゃな! とかエラソーに言ってたら、結局「うるせージジイ」って言われるから、これぐらいにしておこう!

 最後にイアン・フレミングの人生の閉じ方について付け加えておこう。 今までダンディな男ってのは悲劇的な状況で最期を迎えたと紹介してきたが、フレミングの最期はほぼ老衰状態。 健康を害しても、酒とタバコを離さなかったらしい。 その死に際においては、栄光の時が走馬灯のように頭の中を駆け巡って「まだ死にたかねー」なんてジタバタしなかった。 「うううう、わ、わしゃーはもうダメじゃ。 さ、酒持ってこんかい!」って我がままをしたわけでもなかった。 最後の言葉は、付き添い看護の者にただ一言「世話をかけたね」じゃった。 ダンディーじゃ! 


 凸凹
七鉄の酔眼雑記 〜女性は初めての“男性”が忘れられない!?
 
 2012年公開の「スカイフォール」で合計23作にもなる映画「007シリーズ」。 わしはとりたててこのシリーズが好きなわけでもなかったが、カノジョとのデートのメニューとか、好きな俳優が出ていたからとか、原作を愛読したからとか、様々な理由で結局20作近くは観ていると思う。 なんだかんだ、ジェームス・ボンド殿とは長い付き合いになっておる。 だから「007シリーズ」のファン同士の語らいにおいて、もっともポピュラーでミーハーな話題が「歴代のボンド役の中で誰が適任だったか?」って事になることを何度も体験しておるのじゃ。

 初代ボンドのショーン・コネリーから6代目のダニエル・クレイグまで、実に甲乙付け難い! ココにファンが熱くなるのも無理はない。 これが女性ファンの場合、わしの姉貴殿や歴代のカノジョさん(ってそんなにおらんが)を含めて、ほぼ全員が「初めて観た007作品のボンド役」がもっともお気に入りじゃった。
 スゲー飛躍した言い方、っつうか、ちょっとエッチな言い方をすれば、ジェームス・ボンドって男は、彼女たちが生まれて初めて“感じた”セクシーな男だったんじゃろう! やっぱ女性は、そういう男をずっと想い続けるものなのかな〜なんて思ったりしちゃうワケじゃ! それを演じておるのが誰とかじゃなくて、初めて目にした「ジェームス・ボンド(演じておる俳優)」に恋しちゃうんだろう。 やはりイアン・フレミングが生み出したジェームス・ボンドってキャラは大したもんだと思うな!

 わしは長らく、断然ティモシー・ダルトン派じゃった。 第15作「リビング・デイライツ」と第16作「消されたライセンス」のボンド役じゃ。 旧き良きダンディーの風情を湛えたちょっと陰りのある雰囲気が、イングリッシュ・ジェントルマンの理想系に思えたな。 何よりも、ダーク・スーツがもっとも似合っったボンドじゃった。 それが、第21作「カジノロワイヤル」のダニエル・クレイグを見て一変した。 彼こそ、原作のジェームス・ボンドにもっとも近い演技をかましてくれた! 

 原作を読まれておる方ならお気づきじゃろうが、小説の中のボンドは、映画に描かれとるボンドとは決定的に違うキャラがある。それはあくまでも任務を忠実に遂行するあまり、情(ある時は痴情)を一切無視する冷淡な側面がクローズアップされるキャラだからじゃ。 
 おかしな言い方かもしれんが、そこに男性読者も女性読者も惹かれておったのじゃ。 仕事に対してあくまでもプロフェッショナルであろうとするために通り越さねばならない人間としての葛藤を、小説の中のボンドは一見サラリと克服してしまう。 その呆気なさに読者は戸惑い、ボンドの胸中を勝手にあれこれ想像する。 そこに原作と読者とを強烈に結びつける「心の架け橋」が生まれておったと思う。

 ダニエル・クレイグがボンドを演じた「カジノ・ロワイヤル」以降の3作品において、ファンとボンドとのマインドゲームが成立しておるのかは分らん。 でもヒーローを追いかけるファンを突き放し、それでもファンが追いかけ続けたくなるような原作同様の“氷の様な冷たい色気”がダニエル演じるボンドには確かに垣間見れるのじゃ。 
 しかしわしではなくて、ダニエル版ボンドをシリーズ中で最初に観た若い女性は、どんな思いが胸に宿ったんじゃろう? 果たしてセクシーと感じておるんじゃろうか? 
 
  

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