8鉄風 ROCK COLUM by 8TETSU Vol.42
                                                                                                                                                                                                     
 アマチュア・ミュージシャン生態レポート その1


 こんばん。(は。がないぞ!)とひとりつっこむ相変わらずな禿オヤジ頑固8鉄です。
今回から数回にわけて、生来の浮気性男、アマチュア・ミュージシャンの端くれであるわたくし頑固8鉄が渡り歩いてきた様々な分野の「アマチュア・ミュージシャン界?をご紹介する、自分の体験談を書いてみようと思います。ま、半分冗談みたいなものですが、事実は小説より(笑)なり、であります。

 1 Gランとスクラグスロール〜ブルーグラスな人々

「今年はフェス行きます?」

4,5年くらい前まで、旧いつきあいのブルーグラス・ミュージシャン連中と一緒に、わたくしがウクレレ弾いて歌ったりするバンドをやっていたころには、年に1度、旧友からそんなお誘いの電話があったものです。

「フェス」というのは、ブルーグラス・フェスティバルのこと。アメリカ南部各州(特にケンタッキー)で開催されるフェスティバルまではるばる出かけていく、という風流なヒトもいるようですが、たいていのヒトは時間も金もないので、箱根だの朝霧だの宝塚だので開催される日本のフェスティバルに出かけていき、一晩中、メシ食え、酒飲め、バンジョー弾けといったどんちゃん騒ぎをしているようです。

わたくしが最初に参加したのは、18歳のときで、当時から勘定すると、行ったり行かなかったりしつつも、トータルで30年も顔を出したりしていることになります。ま、行けば行ったで、やっぱり同じような顔ぶれが同じようなことをしてるので、年に1度の同窓会みたいな気分にはなれますが。
最近はご無沙汰なので、人づてに聞いた話ですが、かつてのように、ものすごく過酷な環境、というわけでもないんだそうです。バンガローが綺麗になったり、水洗便所になったり、キャンプ場そのものが快適になってきている。しかし、昔はすごかった。裸電球のぶらさがった、壁を押せば倒れそうなバンガロー、外の共同便所なんか見たこともないキモチワルイムシの大群が、100匹くらいうようよいるし、夜になって、どいつもこいつもグテングテンになってくるころに、ヌメヌメしたりする、インディ・ジョーンズが出てきそうなジャングルの中にあるステージにあがると、ザブトンくらいの大きさの蛾が突進してきたりして、強迫神経症気味のヤワなわたくしなどは、生きた心地がしません。

それに、電気も通してないくせして、あんなにでかい音がするバンジョーが、ガンガラガンガラと何十台もいっぺんに、一晩中鳴っていても平気でグーガー高いびきかいて眠るくらいどうってことたあない、ってくらいのぶっとい神経が必要なんです。 アメちゃん(米軍さん)は毒みたいな酒飲んで大騒ぎしたあげく××××一発ヤってぶったおれてるし、下手をすると死人が出そうな勢い。わたくしなど、まるで、船酔い知らずの漁師の中に放り込まれて沖にひっぱり出された丸の内のヘッポコサラリーマン状態で、気持ち悪くなるわ頭が痛くなるわさんざんな目に遭わされたものです。

知らないヒトのために解説すると、ブルーグラスって、ビル・モンローというケンタッキーのおじさんがはじめたヒルビリー(カントリー)音楽の一種。マンドリン、5弦バンジョー、ギター、ベイス、フィドルなどを使う……と言った感じ。あまり深く表現するといろいろうるさ方から文句が来るので、この辺でやめときます。

フツーのサラリーマンだと、趣味がゴルフだったり、キャバクラだったり、株式投資だったりするんですが、中には「バンジョーです」とか、さっぱりわかんないこという人がいるんですね。

で、なぜかたいていアウトドアも好きなんです。ブルーグラスは電気を使わなくても演奏できるので、アウトドアが好きなのか、アウトドアが好きだからブルーグラスが好きなのかわかりません。「山男良くきーけよう」なんて口づさんだりするような人が、ヘタに楽器が上手だったりするとなってしまうのかもしれませんし、子供のころにテレビでみた「ローンレンジャー」だの「ララミー牧場」だののキャンプファイヤの場面がトラウマになってるのかもしれません。

ブルーグラスというとバンジョーですが、ネックの途中で途切れてる弦があったりするヘンテコな5弦のものを使うんです。
それで、「アタマどうかしてんじゃないか?」と思うほど難しいロールと換え指オンパレードのフィンガリングで「フォギマン」(フォギーマウンテンブレイクダウン:フラット&スクラグスというバンドの有名なインスト)だの「デイブレイク」(デイ・ブレイク・イン・ディキシー)だの、呪文みたいなこといいながら、平気で数百曲も弾きまくったりするんですから、ビックラ仰天、トコロテンです。

そいでもって、とってもコアな人が多いので、会話が専門用語みたいで部外者には何をコミュニケートしているのか90パーセントはわかりません。
Gランとか、スクラグスロールとか、ハイロンサムなんとかとか。テクニックにうるさいのも特徴で、ライブ出演してもたいてい客は同業者(演奏者)なので、「サウンドホールがもうひとつあくんじゃないか」と思えるほどじっとギターを注視したり、「やはりステリング製バンジョーは音の立ち上がりが……」とか、ブツブツ言われながら、なんだかエラいことしでかしてしまったような顔でにらまれたりすることもあるんです。「他の音楽をいっさい聴きません」とか、「電気楽器は楽器とは認めません」という人すらいそうなのも特徴です。

でも、わたくしも若い頃、そんなブルーグラスバンドの一員だった時期があり、なんだかそんな環境にいても不思議とプライドのようなものがありました。
それはやっぱり、みんな職人気質のプロフェッショナルで、そんな人たちをスナオに尊敬できたこと、そして、内情を知らないお客さんだのからは「すげえな、あいつら」といわれたりしていたからだと思います。

2 熱血!ジャジーな人々

フツーのサラリーマンは、休日「ジャージな人々」だったりしますが、今回は「ジャジーな人々」です。といっても、私はジャズ・ミュージシャンだったことは一度もないんで、ほとんどは想像です。

数少ない体験としては、大学のクラブです。
大学入学と同時に、まっさきに行ったのは「ニューオルリンズ・ジャズ・クラブ」でした。

「君は何がやりたいんだね?」と、仁王のような風貌の部長から尋ねられました。
「あ、あのう、テナーです」。
「テナーバンジョーはもう希望者がいて一杯だから、違う楽器にしてくれ」。
「いえ、違います。テナー・サックスなんですけど……。ど、どうかしたんですか?」
「サックスはダンモの楽器じゃないか! ウチはニューオリだぞ! サックスは入れんのだああ!」

というわけで、なぜかウッド・ベースを割り当てられ、日夜血豆が3回は出来るくらいの特訓をしていたんですが、女の子がひとりもいないんです(ドサッ)。

歓迎コンパではドンブリで日本酒を一気飲みしないと殺す、と脅されるわ、やけに硬派でワイルドだし、5分遅刻しただけでヒトゴロシのように責められるし、ヘンだなあ、ワセダは音楽サークルでもこんなかよ? と思っていたのですが、よくよく聞くと、ここはどうやら大学野球の応援団のブラバンから分かれてスタートしたらしいと。

だいたい、子供の頃から友達の80パーが女の子、以後全部共学で、クラスの60パーは女の子、ついでに親戚一同25人の従兄弟の70パーが女の子というヤワな環境しか知らないわたくしにとって、ここは、毎日、ギッタギタギンギラのオニイサンたちがネトネトネバネバからみついてくる、油地獄のような環境でした。

そんなある日、「チミは、男ばっかりのニューオリなんかで何しとるのかねえ〜、ウチは女の子多いよう〜、それにみんな優しくて自由で楽だよう〜。こっちにおいでようー。」とうそぶく妙な男と出会いました。そして、彼言うことは半分ウソでしたが、確かに女性は多いし、時間はルーズだし、スケール練習はないし、ステージでどんなにくだらないMCをしゃべっても怒られないし、8年生はごろごろいるし、そのままずるずるとそちらのクラブ(実際は、30年以上の歴史ある由緒正しいアメリカン・ミュージック・ソサエティというブルーグラス・サークル。軟派系音楽サークル?の名門でありました)に移ってしまったのです。
というわけで、ジャズ関係、しかもニューオリ系の一部の人とほんの少しだけ知り合いになっただけで、私のガッチガチ硬派なジャズ人生はあっという間に消えてしまったのでした。

その後、ジャズ好きでなくなってしまったわけではなく、むしろ、デキシーだけでなく、モダン、スイングも含めて、ライブを見に行ったり、レコードをたくさん買ったり、サックスやギターをコピーをしたりするようになりましたが、どうもやっぱりジャズ専門のヒトは違うなと。

何がっていうと、多分、真面目で一途なんですね。ピュアというか、ストイックというか。音楽そのものに対して。でないとあそこまで到達できないんじゃないか。私はどちらかというと、熱中しながらさめていたり、大好きだけれどくっだらねえと思ったり、浮気性なうえ、相反することを同時に感じることが多いんですけど、ジャズのヒトってもっとまっしぐらなヒトが多いんじゃないかと思うんです。先の話のごとく、体育会系と通ずるものがあるのかもしれません。

鬼のようにうまいブルーグラスな人々でさえ、ひとたびステージに上がってしまえば「ぱんだあ何食ってんだろ〜ねえ、ぱ、ぱんだあああ。」くらいくだらないこというショーマンになるヒトはとっても多いんですが、そんなジャズ屋さんって見たこと無いんですもの。 (有名な例外は、クレイジー・キャッツですけども。)

ジャズというといろんなタイプがあるようですが、どれも「理論が難しくて」とか「アドリブをとれるような技術がなくて」とか、「近くに河原がないんだけど、ラッパはどこで練習を?」「岬めぐりの弾き語りではバカにされそうで……」「ジュリアード音楽院どころかブラバンすら出てないんですけど……」「タキシードが似合わなくて……」「コードを5つ以上覚えられないんですけど……」とか途方もなく問題、課題が山積していて、おいそれと近づけませんという印象もあります。
もし、ホントにそうだとすると、もはや、お堅い「クラシック音楽界」に近い。
でも、ホントでしょうか?

以前、私の地元のブラスバンドが商店街のおまつりで演奏するのを見たことがあるんです。いわゆるビッグバンドですよ。でも、定石からいったら滅茶苦茶な編成(アルトが6人にテナーが1人とか)、近所のおばちゃんがクラ吹いてたり、眉毛のないにいちゃんがどたばたドラムズたたいてたりするんです。それでもって「どらえもん」とか「とっとこハム太郎」とかもやれば、「A列車で行こう」だの「サヴォイでストンプ」だのもやるんですね。これがめっぽう楽しい音なんですよ。おもちゃの楽隊みたいな。親分に話を聞くと「楽器を持ってさえいれば誰でも入れてあげるよ。」とのこと。

「それはじゃずでない」とおっしゃるヒトもいるでしょうが、ジャズももともとはきっとこんなんだったに違いないと思うんですね。ルイ・アームストロングが言ったように、「それぞれが好きなようにやっていい。」これがジャズの一番素晴らしい理念のはず。きっと、好きでまっしぐらな苦行の末、まねのできない知識と技術とオリジナリティを手に入れながらも初心を忘れない、素晴らしいジャズ・ミュージシャンが今日も河原でラッパを吹いていたりするはずだ、そう信じて、私のジャズ好きは今日も止まりません。

さてさて、いよいよ、「ラケンロールな人々」を含む第2回にも劫ご期待!
THE KINGの新作にも劫ご期待!であります。
さて、ビールでも飲もっと。

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